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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
第三部 逃亡とモルストの迷宮と
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薬師ののんびり旅紀行 四十六話

 モルストの迷宮(ダンジョン)は、街から西に三キロメートル程離れた場所にあるんだって。アグニが冒険者ギルドで聞いてきてくれてた。

 三〇分程歩いて迷宮に着くと、既に何人もの冒険者の人たちが入り待ちをしてた。

 私は入り口近くで屋台をしてる道具屋さんをちょっとだけ覗いてみる。それを見れば、この迷宮で必要なものもわかるしね。迷宮の系統もわかるってわけ。

 えーと、あれはなにかしら。あ、ランタンね。暗いのかしら。でもランタンは持ってるからいいか。じゃああれは。

 わ、軟膏だ。ヒル用の……。出るの、この迷宮にも。はあ、うんざりだわもう。

 また厚着をしないといけないかしら。アグニの持ってたのはもう使い切っちゃったし、念のために一つ買っておこうかな。そうしたら厚着しなくても済むし。

 あとは……。解毒剤がある。それと麻痺解除剤かあ。

 ということは。ここの迷宮は外的状態異常系の魔物が多いってわけね。それなら、状態異常にかかりにくくなるものが必要かな。

 薬も十分すぎるくらいいあるから、それを使えばいいんだけど、かかりにくくなるならそれに越したことはないからね。

 久々に錬金術でもやろうかしら。パワーストーンがいいわよね。

 そういった身に付けられるものっていったらアクセサリーかな。手軽に身に着けるっていったら、うーん。イヤリングとか?

 石は、マカライトとセラフィナイトに効果を高める為にクリスタル。この三つでいいかな。

 マカライトには解毒作用があるし、セラフィナイトは神経系にいいし、この二つの効果を高めるのにはクリスタルを入れるのがいい。それにクリスタルには止血効果もあるしね。

 マカライト、クリスタル、セラフィナイトの順番で繋げていけばいかな。

 よし、迷宮の順番待ちの間に作っちゃおう。同じ者を着けても効果の重複はないし、片方の耳につけるだけでいいよね。てことは、私とアグニの分で二つ作ればいいわけで。


「アグニ、ここの迷宮って、外的な状態異常系の魔物がいるみたいだから、ちょっとアクウセサリー作るわね」

「わかった」


 さてと。

 私はとりあえず、時魔法の指輪を使って、小袋を取り出す。その中から天蚕糸(てんさんし)を出して、その後に別の小袋からパワーストーンを出す。

 そうして、まずは止め具を通して、パワーストーンを順番に穴に通していく。で、イヤリング金具に通して繋げれば……。はい、まずは一つ目完成。

 もう一つも同じようにして、即席、外的状態異常にかかりにくくなる装飾の完成!

 もちろん魔力を籠めながらの作業だから、少し精神的に疲れるけど、このくらいなら問題ないでしょ。順番が来るまでには回復するわ。


「アグニ、これを左耳に身に着けておいてね」

「わかった。ありがとう、ユーリィ。こういったものまで作れるんだね」

「まあ、気休め程度だけど、ないよりはマシだと思うから。じゃ、私は右耳に着けておこう」


 ちなみに、男性が右耳につけると、ゲイであるという意味になってしまうのよ。女性の場合は左耳ね。そっちに身に着けるとレズだと思われてしまうから、方耳だけに身に着ける時は気をつけないといけないのよ。

 でも、同じアクセサリーを着けるのっていいかも。ペアイヤリング。恋人同士っぽくて、いいわね。

 他の人に気づかれるとちょっと恥ずかしいけど、絆が深まる感じで私は好きだな。

 あれ、そんなことを考えてたらもう私達の番ね。


「じゃあ行こうか。俺から離れないでね」

「うん」


 薄暗い迷宮の中の通路には、等間隔で松明が設置されてる。これならランタンを持って進まなくても大丈夫かも。

 どんな魔物がいて、どんな素材が入手できるのかしら。すごくわくわくする。

 少しずつ気配に注意しながら進むと、前方になにかが(うごめ)く感じがした。魔物ね。


「ユーリィ、グリーンスライムだ。こいつは毒持ちで、粘液を飛ばしてくるから気をつけて」

「わかったわ。魔法石で援護するわね」


 私はポケットに忍ばせていた魔法石をいつでも取り出せるように、手をポケットの中に突っ込んでおく。

 スライムって目がないのよね。何でも、学者さんが言うには、対象の動く振動で居場所を特定しているんだって。

 で、半透明なグリーンの中心に心臓の役割の核があって、そこを攻撃しないといつまで経っても倒せないと。

 だから、こういう時は、レイピアや槍に弓矢で一転突破して核を攻撃するか、魔法で攻撃するのが有効だって魔物事典には書かれてたけど、アグニはどうするつもりかしら? 帯剣以外でなにか武器持ってるのかな。

 そんなことを考えていたら、アグニは背中の腰ベルトに差していた、赤い短剣を抜くと切りかかった。外套でわからなかったけど、そういえば、前に買った後に差してたっけ。


「こういう時のために、買ったんだよ……って、よし。こんなもんだろ」

「すごい。その短剣って、あの怪しい店で買った赤いやつよね」

「そ。こういった敵にも有効なんだ。火属性の短剣だからね。これならスライムを切った後でも治りが悪くなるからね。その隙に……。こんな感じで核を突き刺せば、終了ってこと」

「私の出る幕じゃないわね。アグニ一人でも大丈夫だわ。でも多く出たら私も魔法石で攻撃するね」

「ああ、よろしく頼むよ」


 そう言いつつも、迫り来るスライム達を的確に核を突いて倒していくアグニ。身のこなし方も軽やかで、まるで曲芸でも見ているかのよう。


「ユーリィ!」

「え、あっ」


 一匹だけ洩らしたスライムが私の方へ向かってきた。いけない、ぼーっとしてたわ。

 私は急いでポケットから魔法石を取り出して、魔力を籠めながらスライム目掛けて投げる。すると、ザシュッという風を切る音がして、見事、核は真っ二つ。よかった、倒せたみたい。

 ちなみに今のは風属性の魔法石ね。当たった後にはただの水晶に戻ってしまったけど、再度魔力を籠めればまた使えるのよ。だから、拾える時は取っておいたほうがいいの。ということで、私は水晶を拾う。


「気を抜かないで。ヒヤッとしたよ」

「ごめん」


 まさかあなたに見惚れてました、なんて言えないしね。今は迷宮の中にいるのだから、こんな色ボケたことは追い出さないと。でも、真剣に戦ってるアグニがかっこよ過ぎて、どきどきする。

 ああ、いけないいけない。

 私は頭をぶんぶん振ってピンク色の妄想なんかを追い出す。アグニはそんな私を見て首を傾げていた。

 そうして私達は少しずつ魔物を倒しながら、羊皮紙にマッピングしつつ、迷宮を進むのだった。


「このフロアは一応、網羅できたね。じゃあ、次は地下二階へ降りよう」

「うん」


 地下一階には結局グリーンスライムしか出なかったから、薬や蓮金で使えそうな素材の入手はできなかったわ。次の地下二階で何かあればいいんだけど。

 ここの迷宮には薬草になるようなのって自生してないのかな。ソールダースではヒカリゴケがあったけど、ここでは見かけてないし。

 一応、薬草事典も持ち歩いてるから、見覚えのあるものがあったら調べてみよう。

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