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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
第三部 逃亡とモルストの迷宮と
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薬師ののんびり旅紀行 四〇話

 お母さん達を火あぶりの刑にってなってたくらいだから、その子供の私も同じように火あぶりにされてしまうのかもしれない。

 私はなんで反応しちゃったんだろう。何ごともないようにすれ違っていれば、こんなことにはならなかったのに。

 だけど、後悔ばかりしていられない。まずは東門を無事に抜けて、カーツまで逃げないといけないんだから。

 私達は馬で駆ける。貴族街を抜けて、中央通りからは外れて東門へと抜けていく通りを行く。

 あまりにも馬上で揺さぶられるから、私はとにかく必死でしがみついた。もっと遅くしてなんて言えないもの。

 私の為に一緒に逃げてくれてるアグニに、私は嬉しさと、不安と罪悪感で一杯だった。

 ごめんなさい。わたしのせいでこんなことになってしまって。

 馬上では話せる状態ではないから、心の中でそう一人謝る。

 そうしてしばらく馬で駆けて行くと、ようやく東門へとついた。門兵が、すごい勢いで駆けてくる私たちを見て、何ごとが起きたのかと止まれと両手を挙げて制止してくる。

 だけど、止まるわけにはいかない。

 門兵の脇をすり抜けていくと、詰め所へ走って入っていく門兵が見えた。


「怪しい奴らだっ、追え!」


 何人もの兵士が詰め所から出てくると、私達を捕まえる為に勢いよく走ってくる。だけど、早駆けの馬と人の足とでは比べられるはずもなく、兵士達はみるみるうちに小さくなっていった。

 よかった。

 第一関門は抜けられたみたい。私とアグニは互いに少しだけほっとする。ほんの少しだけ馬の足を緩めて、アグニが私に話しかけてくる。


「大丈夫か。(たてがみ)ではなく、俺に抱きついておくといいよ。俺はユーリィを絶対離さないから」

「うん。ありがとう。私もアグニを離さないよ」


 ぎゅうっと抱きつけば左腕で抱きしめ返してくれる。そして私の腰に手を当てて、その手に力がこもった。

 私はアグニの背中越しに後ろを見る。まだこちらには神殿騎士は来ていないようで、私達の他には街道には誰もいなかった。

 だけど、ここでお尻が痛いから、少し速度を緩めてほしいなんて、さすがに言えないよね。実はさっきからじんじんしてるんだけど、逃げる方が先だから、あとで痛みを和らげる軟膏でも作って塗っておこう……。

 

「ここから早駆けで、カーツまで何日くらいかかるの」

「……そうだな。だいたい四日か五日くらいかな。四日で行きたいところだけど、そうするには俺たちや馬の体力が持たないからね。とりあえずはしばらくはこのまま街道に沿って行こう。乗合馬車の通る時間帯になったら森の中を行くから馬を引いて行くよ」

「わかった。だけど食料があまりないから、できればどこかの街で補充したいんだけど……。小猪の肉ならら沢山あるんだけどね。あとはシナモンクッキーとか……。ケバブも野菜の串焼きもあと各七つずつしかないし。これだと持たないと思うの」

「……そうだな。なら、イクロに寄ってから向かおう。その後一度西側から出て行って、街が見えなくなったら森の中を通って東に引き返して進むよ。俺たちの進んでいる方向を勘付かれたくないからね」

「たぶん、大丈夫だよね。イクロには私たちの方が早く着くだろうし」

「伝書鳥で伝わっていないことを祈るしかないね。俺たちの情報を知らされてると、買い足しもできないしね。せめてもう一つ違う色のウィッグがあれば、変装に使えたんだけど」

「金髪は見られちゃってるしね。あ、でも。アグニが女装すれば女の二人旅って間違われるかも。私の服、ロングワンピースもあるの。それ着て、金髪のウィッグを着ければいけるかもよ」

「俺が女装? ……う。そのときになれば少し考えてみるよ」


 アグニの女装、様になってそうだよね。かっこいいお姉さん系って感じになる気がする。で、姉妹ってことにすれば、案外いけるかもしれない。一応化粧品もリップと頬紅もあるから、それで化粧をすれば大丈夫かも。アグニ、どっちかっていうと、中世的な顔立ちだし。


「ねえ、アグニ。そろそろ乗合馬車が通るんじゃないかな」

「ああ。じゃあ、あそこの森に行こう。一〇〇メートルも中を進めばそうそう見つからないと思うしさ」

「うん」


 私とアグニは森の手前まで馬で行って、そこでいったん馬から下りて森の中を歩いていく。

 もう大分歩いたし、時間も経ったから、乗合馬車ももう通り過ぎてしまったかしらね。だけど、定期的に走っているから、あまり人目につきたくない私達は、そのまま森の中を進むことにした。


「もう日が傾いてきてるね。どうするの? 夜通し歩いていく?」

「そうだな。……一応、仮眠を取りつつ進んだ方がいいかもしれない。街に先回りされていると困る」

「そうよね……。じゃあ、もう少し進んだら休む所を探して、食事しよ」

「ああ。もう少しだけ頑張ろう」


 そうしてそのあとは無言で歩く。後方への気配と、休める場所探しをしながら。

 一〇キロメートルほど歩いた所で、大木に(うろ)があるのを見つけた。あそこ、いいんじゃないかな。私がアグニを見ると、彼も気づいていたみたいで、うんと頷いてくる。私も頷き返して、今日はそこで仮眠をとることにした。

 交代で見張りをしながら仮眠をそれぞれ二回ずつとって、明け方頃にケバブと野菜の串焼きで軽食をとり、今日も先へと進む。

 また乗合馬車が通りそうな時間帯になるまで、早駆けでいく。ただし、街道ではなくて、森のすぐそばを。なにかあったらすぐに森の中に逃げ込めるようにするためよ。


「明日か明後日は雨かな。私は空を見上げてそう呟く」

「明日ふるかもしれないね。また洞のようなちょうどいい場所が見つかればいいけど。もう少し先に進んだところで森と山が近くなってきているから、洞窟があるかもしれないね」

「洞窟かあ。あったらすごく助かるわよね」

「ああ。この辺りは昔、鉱山でもあったみたいだから、いくつかはありそうなんだけど。雨の時は体力の消耗が激しくなるから、進むのは避けよう。今日のうちにできるだけ進んでおくよ」

「うん」


 そうして、昨日より休憩を少なめにして私達は、森の中を歩く。山がほんとに近くなってきたからか、緩やかに右側が高くなっているわ。もう少ししたら山にもっと近づいて、雨をしのげるような廃坑を見つけないといけないかも。

 アグニもそう考えていたみたいで、私がそろそろかなって思い、言おうとしたら先に「山に近づいて廃坑を探そう」って言われた。見つかるといいな。

 そうして探したけど、結局、洞窟も廃坑も見つけることができなかった。もう、その辺りは通り過ぎちゃったのかしら?

 仮眠を早めにとってから、今日は早めに出発することにした。月明かりも見えないから雲に覆われているのかも。

 空を気にしつつ、私達は慎重に夜の森を進む。

 やがて日が昇り始めてからしばらくすると、ポツポツと雨が降ってきた。私とアグニはフード付きの外套を羽織って雨から少しでも身を守る。森のそばを早駆けするのもやめておいた。森の中のほうが、まだましだしね。

 王都クレスメンから逃げてきて今日で三日目。そろそろイクロの街が近いかもってアグニが言ってた。伝書鳥飛ばされてないといいな。そんなわけがないとわかりつつも、淡い期待をしつつ、私達は雨の中を歩いて行った。


「寒いし、疲れてきたね」

「ああ。少し洞を探して休もうか」

「うん」


 次第に本降りになってきたから、森の中でも葉が傘の役割をしなくなってきた。私達は洞を探しながら、二時間ほどしてようやく休める場所を見つけることができた。

 もう夕方。今日も早めに休んで、雨が上がっていたら、夜でも森のそばまで出て行って、早駆けをしたほうがいいかもしれない。

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