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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
第一部 出発と出会いと
4/84

薬師ののんびり旅紀行 四話

誤字修正しました。それとユーリィの容姿は、茶髪の茶目→緑目の間違いです。失礼致しました。

 朝起きて。

 ベッド脇のテーブルに置いてある水桶に、水差しから水を入れて、顔を洗う。口も漱いで水捨て場に流す。こういった、使用済みの水は、各部屋にある、水を捨てる流し場があって、そこに流せばいいのよ。だから、中身の入った水桶を持って行ったり来たりをしなくても済むの。便利よね。


「はふ」


 まだ眠いけど、王都行きの乗合馬車は朝早かったはず。

 朝ごはんを食べたら、出て行く準備も万端にして、私は宿を出た。

 乗り合い馬車の発着場に行くと、すでに何人か並んで待っていた。


「おはようございます」

「おや、おはよう。お穣ちゃんも王都へ行くのかい」

「はい。王都まで行商の旅を」

「その年で偉いねえ。あたしが若い頃は、近所の悪がき共と一緒になって泥ん子になってたよ、あははは」

「ふふ、そうなんですか。でも、そういうのも楽しそう。私あまりそういうのしたことないから」

「そうなのかい」

「はい。おばあちゃんと二人暮らしだったから、することがたくさんあったんです」


 主に薬学だの軽い錬金術だの、少しばかりの魔法を少々ね。

 毎日修行の日々だったのよ。

 あ、別におばさんが羨ましくなんて、ないんだからね!

 修行は新しいことを覚えられるし、知識として吸収すれば、自分の生きていく糧になるわけだし。だから、あまり辛いとか考えたことはなかったかな。わりと楽しんでやれていたと思うわ。うん。


「そうなのかい。うう。これ、お食べ。焼き菓子だよ」

「ありがとうございます」


 あら、少しばかり昔を思い出していたら、変なふうにとられちゃったみたいね。だけど、この焼き菓子は美味しそうだから、遠慮なく頂いておきましょ。

 ガタゴトガタゴト。

 揺らり揺られて。

 ガタゴトガタゴト。

 半日六時間馬車を走らせて、一回目の小休止を終えた後、もう半日六時間経ち、今日はここで野営をすることになった。

 私はおばさんから貰った焼き菓子をぼそぼそを食べて水筒の水を飲む。甘さは控えめだけど、素材の味がわかって、私はこういう味の焼き菓子も好きかな。


「お穣ちゃんは行商の当てはあるのかい」

「はい。商業ギルドに登録しているので、どこででも商品を卸すことはできるんです」

「へええ。その年でもう登録してるのかい。あたしの若い頃は……、てもうこの話はしたさね。あははは」


 二回目になりそうだったおばさんの昔話を聞くことを回避できて、少しだけほっとした私はそんなに悪くないと思う。

 今日はもう十二時間も馬車を休みつつだけど走り続けたから、お尻が大分痛い。一応、着替えをクッション代わりにしていたけれど、あまり効果はなかったみたい。

 私は背嚢から疲れを取る効果のあるハーブティーを、御者さんから私以外のお客さん皆に振舞う。こういうのって大事なのよね。なにかがあった時なんかは、なにかをしておくと先に逃がしてくれたりすることがあったり、優遇してくれたりするものなのよ。

 なにかをしてほしければ、まずは自分からなにかをしましょう、よ。

 そういうえば。

 大蜥蜴を先に時間稼ぎのために退治しに行った男の子、大丈夫だったかしら?

 ちょっと気になってたのよね。ちょっと、というか、けっこうだけど。だって、私が引きとめたかそうでないかで結果が変わるような出来事になっていたりでもしたら、目覚めが悪いじゃない。

 だけど、薄情な言い方かもしれないけど、私は私に出来ることをあの時はしたんだと思うしかないのよね。

 じゃないと、誰がどうこうどうこうして、なにをなになにして、だから大丈夫かしら、なんて、年中誰かの心配をしてるようなお人好しになっちゃうもの。

 お人好しが悪いかっていうと、そうではないけれど、でも、それだって、自分で出来る範囲で考えないと自分まで駄目になってしまうもの。それじゃ本末転倒じゃない。

 なにかをしようとするのなら、きちんと自分の面倒は見ないと手を出しちゃいけないのよ。

 だから、私はあの男の子が、無事にいることを願っている。

 そうじゃないと、私のしたことだって無駄になるし、あの渡した三つのポーションだって、一,五〇〇セルはするのよ。

 一銀貨と五〇〇銅貨があれば、一日は過ごせる額だもの。

 それを無駄にしたってことは、私の労力も水の泡になったってことでしょ。それは嫌。だって、私はお金を稼いでそれで暮らしていくんだもの。

 そりゃ、あの時は急いでたからお金のことにはふれなかったけど、無事にもしまた会えたら代金を貰うつもりなんだからね。

 そのために生き残っててくれないと困るのよ。

 だから。

 けっしてあの赤い髪の毛が綺麗で、顔が少しばかり整ってたからなんて、そんな理由じゃないわよ。

 けっしてね。ここは念押しよ。

 ただ単に、私は茶髪の緑目だから、綺麗な赤毛が羨ましかっただけなんだから。


「どうしたんだい、お穣ちゃん。顔が熱いよ。熱でもあるのかね」

「へっ? いえ! 大丈夫です。焚き火に近寄りすぎたみたいで」

「そうかい。髪の毛が燃えちまうからね。十分に距離には気をつけるんだよ」

「はい」


 この暗闇の中で、焚き火に当てられてるのに、なんでわかったのかしら。女の勘ってやつなのかしらね。私にはまだよくわからないけれども。

 明日のお昼過ぎには、王都カースリドに到着予定なのよね。

 今のうちに少しでも売れるものを増やすために、少しだけ作業をしておこうかしら。女子供は私とあのおばさんしかいないから、馬車は二人で使えるし、先に休んでることにしておけば、中で作業をしていても問題ないでしょう。

 さすがにこの中で硝石をすり潰す作業はできないから、今日は水晶を欠片にして、魔法石でも作ろうかな。

 この魔法石っていうのは、何の魔力も通っていない無属性の水晶の欠片に、例えば、火の魔力を通すと火の魔法石に変化するの。

 この火の魔法石は、投げつけるとファイアボールと同じ効果が発揮されるのよ。

 魔法が仕えない剣士なんかがよく買っていくわね。あとは、魔力切れの時のために、魔法使いが買ったり。まあ、あって困るものではないし、むしろ助かるものだから、資金に余裕があれば、買い足しておくもの、という認識でいいと思うわ。

 ちなみに、私はおばあちゃんに仕込まれて、全属性の魔法石を作れることができるのだけど、私自身が魔法使いなわけじゃないから、ファイアボール! とか言って叫んでも、火の玉すら出てこない。

 つまり、私は属性付きの魔力を練ることだけはできるけど、魔法使いとしてはなんにもできないってことね。でも、自分で作った魔法石では魔法を使うことができるから、ストックは大いにこしたことはないけれど。

 自力では行使できないのに、魔法石を媒介にすれば私でも魔法を行使することができる。不思議ね。まあ、それは皆同じなんだけど。

 さて、やっぱり、ここで魔力を通すのもあれだし、今日は、欠片を作ることだけにしておこうかしらね。

 ちなみに、欠片は大きければ大きいほど効果の高い魔法が使えるのよ。もちろん、その高い効果の魔法を扱えるだけの魔力も必要だけどね。

 私? もちろん持ってるわよ。自力では魔法は出せないけどね!

 こういうのを宝の持ち腐れっていうのよね。だから、少しでも腐らせないために、私は魔法石にするのよ。自力で魔法を使う為にもね。

 そして、たくさん作って、売って、売って、売りまくるのよ!

 老後に楽したいからね。


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