薬師ののんびり旅紀行 二十一話
そんな話をしつつ。
夕飯時になったから私とアグニは、下の階の食堂で軽く済ませてから早々に部屋に戻った。これからもうしばらくすると食堂が酒場みたくなるから、私を長居させたくないんだって。
この守られてる感がたまらなく嬉しくて、愛おしい。ありがとう。アグニ。
明日は効き目の強すぎる解呪水は卸さずに、マーカーだけを売ろうかと思ってる。他にも商品はあるけどね。
何を売ろうかしら?
「在庫の確認をしないとね」
剣の手入れをしているアグニ。私はその少し離れた場所で、邪魔にならないように明日の準備をする。
在庫は。私はごそごそ時魔法の指輪を使って異空間の中を覗き込んでみる。
「えーと、売値と在庫が……」
ポーションが五〇〇セルで、在庫が一〇〇瓶。
ハイポーションが一,〇〇〇セルで、在庫が一〇〇瓶。
エクスポーションが三〇,〇〇〇セルで、在庫が五〇瓶。
エーテルが一,〇〇〇セルで、在庫が一〇〇瓶。
ハイエーテルが二,〇〇〇セルで、在庫が一〇〇瓶。
エクスエーテルが五〇,〇〇〇セルで、在庫が五〇瓶。
解毒剤が五〇〇セルで、在庫が一回分が一〇〇瓶。
麻痺解除剤が五〇〇セルで、在庫が一回分が一〇〇瓶。
止血剤(軟膏)が五〇〇セルで、在庫が約一〇回分が一〇〇個。
化膿止め(軟膏)が五〇〇セルで、在庫が約一〇回分が一〇〇個。
酔い止め(茶葉)が五〇〇セルで、在庫が五回分入りのが一〇〇袋。
酔い止め(丸薬)が五〇〇セルで、在庫が五粒入りのが一〇〇瓶。
解呪水が二,〇〇〇セルで、在庫が二〇〇瓶。
万能薬が五〇〇,〇〇〇セルで、在庫が一一二粒。
はちみつ飴が五〇〇セルで、在庫が五個入りのが一〇〇袋。
風邪薬が五〇〇セルで、在庫が一回分が一〇〇包み。
エリクサーが一,〇〇〇,〇〇〇セルで、在庫が五〇瓶。
マーカーが五〇〇セルで、在庫が二〇個入りのが五〇瓶。
癇癪玉が一,〇〇〇セルで、在庫が二〇個入りのが一〇〇瓶。
魔法石(火水風土光闇)の各属性が一,〇〇〇セルで、在庫が一回分が各一〇〇個。
かあ。
もちろん、それぞれ、解呪水以外は倍の在庫を自分用として確保してあるのよ。何かがあった時のためにね。
それと、この中で売れないものもある。
エクスポーションとエクスエーテル、万能薬とエリクサーよ。この四つは普通のお店には卸すことができない。万能薬はまだ数粒くらいなら大丈夫かもしれないけど。
高価で効果も高く、奇跡に近いものだから、あまり出回らせちゃいけないんだって。おばあちゃんが言ってた。
こういうのは、王侯貴族が少しだけ持ってるくらいだから、私がほいほい作って売りさばいたりすると、出所がわかった時に、ただの製造するだけの人形扱いにされて、監禁されちゃうんだって。
じゃあなんでそんな危ない物を私に教えたのって聞いたら、何かが起きた時、一人で乗り切れる力がないと駄目だからなんだって言ってた。
おばあちゃんが、私ももうそんなに若くないから、いつまでも守れたらいいんだけどねえって言ってたから、その時は悲しくなって、そんなこと言わないでって、しがみついたっけ。優しく私の頭を撫でてくれたけど。
ちなみに、その高価な薬たちは、作るのに必要な材料も貴重なものばかりだったりする。
なんで私がそれを持っているかと言うと、それはおばあちゃんからの餞別でもらったの。
だから、万能薬以外は自分で作ったんじゃなくて、おばあちゃんが作ったものなのよ。私も作り方はきっちりと教わったから、自分でも作れるけどね。
例えばエリクサー。これは、万年亀の生き血が必要で、エクスポーションは女神の涙が必要なんだって。
一体どこで、どうしたらそんなのが手に入れられるのよって、思うわよね。だけど、それを聞いてもおばあちゃんはふふふ、と笑うだけではぐらかされてしまった。不思議だわね。
「こんなものかな。とりあえずは個袋に別けて入れて、背嚢に入れておこう」
「準備は終わったの?」
「うん。待たせちゃったね、ごめん」
「いや、それはかまわないよ。じゃあ、背嚢貸して。俺が持つから」
「いいの? でもこれは一応私の行商だから、自分で持とうと思ってたんだけど……」
そう言って私はよいしょと背嚢を背負おうとしてよたついた。
あわわ。
これは重い。素直にアグニに頼んだ方がよさそう。一体何キログラムあるのかしら。
だけどさすが男の人。アグニはなんともないように、軽く背負ってしまった。すごいなあ。かっこいいななあ。
じーっと見つめてると、ん? ってアグニが首を傾げる。そんな仕草もかっこいい。って、いけない。私ったらなにをしてるのかしら。
「ありがとう。じゃあ、最初は道具屋さんに行ってみようか。そのあと雑貨屋さんにしよ」
「そうだな。冒険者は雑貨屋より道具屋へ向かうだろうし」
私とアグニは連れ立ってソールの街中を歩く。歩いている時もアグニは紳士的で、私を馬車道側を歩かせないように配慮してくれる。
着いた先の道具屋の扉だって、アグニが開けてくれて、私を先に通してくれるのよ。
こういうのってレディファーストっていうのよね。これができる男を探しなさいっておばあちゃんがよく言ってたなあ。私、見つけられたよ! というか、付けられてた、の間違いかな。あはは。
「こんにちは。在庫の買取をお願いしたいんですが」
「あいよ、品はなんだい」
「これがリストです。希望買い取り価格はできれば半値じゃ駄目ですか?」
「半値かい? 品の出来がよければ考えないこともないけど、あんたが作ったのかい?」
「はい。私は旅の薬師なので。配合もオリジナルを少ししているので、普通のよりもよく効きますよ。あとは、このマーカーは昨日作ったばかりなので、色の付きも良いと思います。何かに当ててみますか?」
「そうさねえ。じゃあ、板を持ってくるからちょいとお待ち」
道具屋のおばちゃんはそう言うと、奥へ行ってしまった。
店の中は綺麗に陳列されていて、商品が埃をかぶっていることもないみたい。いつも綺麗にしてるんだ。私もいつか自分の店を持つことができたら、こんなふうに清潔にしておきたいな。
お客さんだって手に取る商品に埃がかぶっていたら、買いたくなくなるし、古く思えて効果の期待もされなくなっちゃうだろうしね。
そういえば、一箇所空いてるなあ。陳列されてるはずだった商品の名前は……。
確認しようとしたらおばちゃんが戻ってきた。私は自分用のマーカーを一つ取り出すと、その板に向かって投げつける。
すると、パアンッと音がした後に、日中でもわかるくらいの緑色の光が板を包み込んだ。そして、当てた場所にもきちんと緑の塗料があって、文句なしの出来栄えをおばちゃんに見せることができたの。
「へえ。こりゃすごい。いいね。マーカーだけおくれ。実はねえ、ちょうどさっき、冒険者の一団が全部買っていってしまったのさ。なんでもソールダースの北西にあるハイツリーブ国最北西の村が、アンデッドにやられたんだってさ。それで冒険者ギルドからの派遣で、うちの商品は買い取られてね。うちは売上があがってよかったけど、隣の家の娘は向こうに嫁いでたから、あたしゃ心配でねえ。無事だといいんだけど」
「アンデッドが……。じゃあ村は」
「まだわからないけれど、早馬を飛ばしてもう二日が経っているからねえ。なんともいえないさね。ああ、お代だね。はい、一二,五〇〇セルだよ。確認しておくれ」
「はい。確かに受け取りました。これ、納品書です。受領書にサインをお願いします」
「はいよ。これで取引成立だね。おかげで助かったよ。マーカーは、うちの商品の中でも売れ筋だからね」
お礼を言って私とアグニは道具屋さんを出る。中ではずっと黙ったままだったアグニだったけど、店をお出ると私の方を向いて口を開く。
「行くんだろ?」
「もちろん」
なんでわかったのかしら。以心伝心ってやつかな。
目指すはコルト。まだ助けられる人がいるといいんだけど……。
私とアグニは馬を借りに馬屋さんに向かうことにした。