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薬師ののんびり旅紀行  作者: ちゅんちゅん
第一部 出発と出会いと
15/84

薬師ののんびり旅紀行 十五話

 カレーを食べ終わって、水の魔法石で後片付けを終えたあと、私とアグニは二人毛布一枚で寄り添っていた。代わり番で起きておくんだけど、最初は私が眠ってていいって言ってくれた。

 料理作ってくれたからだって。その分疲れているからとかなんとか。優しいなあ。

 で、私はこれ幸いにアグニにくっついて眠ることにした。

 他の冒険者グループの女の子の視線が痛かったけど、私がアグニのパートナーなんだもの。役得ってことで許してね。

 それにしても人肌って暖かい。毛布の生地の肌触りの心地よさも相まって、すぐに眠りが訪れてくる。できればもう少しだけアグニの隣を満喫しておきたかったけれど、もう駄目。眠い。

 おやすみなさい。

 そうして数時間後が経ったのか。


「ユーリィ、起きて。時間だよ」

「んぅ? 時間? わかった」


 どうやらユーリィとの交代の時間みたい。私は変わりに周りを警戒して音も聞き漏らさないように神経を研ぎ澄ませる。寝起きだけど、今まで旅をしてきたし、こういう切り替えも大分慣れてきたと思う。

 周りを見てみると、燭台に数箇所火が灯っていて、完全に真っ暗なわけではないから、私は少しだけ安堵した。

 それに、私の他にも起きている冒険者は何人もいるし、女性もいた。だからか余計、初めてのこういった野宿だけどやれそうかな、とは思った。

 でも、急に何が起きるかはわからないから、一応こっそり短剣を忍ばせている位置に手を置いて確認する。それと、異空間から、他の人にはみえないように、数種類の魔法石を出してポケットに入れておいた。どれも攻撃用。あとは、ポーションを二本だけもう片方のポケットに入れておいた。

 多分できる範囲の警戒っていったら、このくらいしかないよね。私には他には思いつかないかな。旅慣れていけばもっといろいろできるんだろうけど。

 あ、そうだ。

 そういえば、おばあちゃんが、昔、こういう時の野宿には、鳴子を仕掛けておくといいって言ってたなあ。でも、今更だよね。音だってたてちゃうから皆を起こしちゃうだろうし。無用に起こしでもしたら、険悪な雰囲気になること間違い無しだよ。

 だけど、こうして夜を過ごすのって、時間経つの長いんだなあ。アグニもそう思って時間が経つのを待ってたのかな。今度聞いてみよう。

 それにしても。

 やることがなにもない。

 だからといって、薬剤をここで調合するわけにもいかないし、お互いに一つの毛布で包まってるから動くのも駄目だし、すごい暇なんだけど。

 私の危機感が足りないだけかなあ?

 だって、アグニのそばにいると、ものすごく安心感があるのだもの。

 こうやって考えてみると、私って、本当にアグニのことが好きなんだなって思う。伝えられない想いだけど、こうして想っているだけで心が満たされる感じがするの。

 なんでだろう?

 こういうのって、恋してる人は皆感じてることなのかな。不思議。

 そういうのも、おばあちゃんに聞いたら答えてくれたかしら?

 そうだ、話は変わるけど。異空間って、時魔法だけど、属性には時なんてのはないのよね。なのになんであるのかしら。火水風土光闇無の七属性。ううん。無属性は属性ではないから六つかな。

 時魔法って謎よね。そしてどうしてそれが使えるのかしら。異空間のアイテムボックス持ちの人って、特に何も考えずに使っているわよね。私もそうだったんだけど、こうして考え出してみるとわけがわからないわ。

 考えないほうがよかったのかしら。

 それとも、時魔法があるんだから、時属性もあって、私たちは皆、時属性を使えるってことなのかな。この世界には時間があるけれど、私たちはそれに組み込まれて生活してるのだし。

 ううん。

 組み込まれてるんじゃなくて、時っていうのを、私たち人間が勝手に作ってそう読んでるだけなのよね。

 本当はどんな名前なのか、そもそも名前なんてないのかもしれない。

 ああ。

 一人でこうしてるのって、余計なことばかり考えちゃうものね。いつもなら、使えればそれでいいじゃんって、それだけで終わっちゃうのに。

 それもこれも、夜空の星を眺めながらいるからなのかな。

 なんだかちょっと感傷的になっちゃったかも。

 もうそろそろ夜も明けてきそう。東の空が少しだけ眩しいから。またこうして今日が始まるんだなあ。


「おはよう、アグニ。朝だよ」

「ん……、おはよう。ユーリィ」


 少しだけ掠れた声で返事を返してくれるアグニがなんだか愛おしくって。ついぎゅっとしてしまいそうになった。理性を総動員して自重したけどね。


「朝ごはんは簡単なのでいいよね」

「うん」


 アグニの瞼を擦ってまだ眠いアピールが可愛い。

 今ので私はきっと、恋するフィルターとかがあるんだなってはっきりわかった。

 おばあちゃんが昔、恋する乙女には、恋するフィルターがかかって、好きな異性が何割増しにも素敵に見えるんだって、言っていたもの。

 きっと、これがそうなんだよね?

 私は手早く簡易焜炉の上でバターをナイフで切って入れてフライパンを動かす。そうして卵を片手で割って目玉焼きを二つ焼きながら、空いた手で火の魔法石を使ってパンをトーストする。

 トーストしたパンに目玉焼きを乗せて塩を振れば、簡単な朝食の出来上がり。

 ついでに、まだ余力のあった火の魔法石を溶き卵を入れた小鍋に投入すればスープもできる。味付けは塩胡椒。

 本当はサラダとか、肉とかもやりたかったけど、あまり凝りすぎるのもよくないしね。

 軽食でいいでしょう。


「美味いね」

「そう? 簡単すぎるけど、私お腹空いてたからちゃちゃっとすませちゃった」

「十分だよ。僕一人だと干し肉で終わりだからね」

「ああ、そっか。スープに干し肉を入れるのもありだったよね。次は入れてみる」

「そう? ならお願いしようかな。朝はそんなに食べないけど、ユーリィが作るものなら食べたいから」


 ……。

 こういうのって天然たらしっていうのかしら。

 おばあちゃん、孫の危機ですよ。というかもうすでに落ちてたんでした。あはは。

 私、こういうたまに言われる褒め言葉というか、なんとなく無意識に言われるものに弱いのよね。だって、それって本心から言ってることでしょ。

 つまり、気に入ってくれてるってことじゃない。こんなに嬉しいことって他にある?

 今の私には嬉しすぎる言葉だよ。


「それじゃあ片付けも終わったし、迷宮(ダンジョン)に向かおうか」

「うん。私、迷宮って初めてだからちょっと楽しみなんだ。罠とかもあるんでしょう? 大丈夫かな」

「ソールダースは地下五階以降から罠が設置されてるんだ。ユーリィは何階まで降りる気なの。というか、なんの目的があって迷宮に?」


 あ、そうだ。それ言ってなかった。


「あのね。ここには他の仲間になってくれそうな人を探しに来たんだよ。仲間が増えれば楽しいでしょ」


 そう言った時、私たちの周りの空気が凍った気がした。

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