薬師ののんびり旅紀行 十四話
翌日。
私とアグニは元気一杯に朝の挨拶をして、朝食をとって冒険者ギルドへとやってきた。
なぜかというと、昨日私が考えたとおりのことを実行するためだ。
アグニにはまだこのことははなしてはいない。だって、急に仲間を増やすなんて言い出したら反対されるかもしれないもの。
だから、まずは私が誰かと話をしてみて、それで大丈夫そうだったら、仲間に誘ってみるっていうふうにしてみようかと思ったのよね。
それならアグニも受け入れやすそうじゃない?
なんだか人間不信みたいな感じだけど、アグニは決してそうじゃない。じゃなかったら私のこと仲間に誘わなかっただろうしね。
あの時はなんだか少し軽めのお誘いな様子だったけど、どういった心境の変化なのか、まるで私は、私が母親みたいな感じになっている。
今だってアグニは私と俗に言う、恋人繋ぎをして街を歩いているのだし。でももう少し普通の繋ぎ方でいいんだけどな。
だけど、これって私に依存し過ぎていないかしら?
大丈夫かな。
ちょっと心配になったけど、アグニをちらと見ると、実に機嫌良さそうににこっと笑われる。
うん。
大丈夫みたい。
「ところでユーリィ。何か依頼を出しに行くのか? それなら僕がこなすけど」
「ううん。違うわよ。まあ、行ってみればわかるわ」
「そう?」
そうしてたどり着いた早朝の冒険者ギルドは、朝早くから依頼を受けてしまおうという冒険者達で溢れかえっていた。
私とアグニはその人ごみを縫うように中へと入っていく。
そうして私はテーブル席につくと、しばらく人間観察に勤しんだ。
「ユーリィ? なにしてるの」
んー、とくにいないなあ。あっちはどうだろう?
「ねえ、ユーリィ?」
駄目ね。どれもこれもむさいおじさんばっか。……じゃない。とてもじゃないけど私たちとは合いそうのない年代の人たちばかりだ。
これじゃ、せっかくの目的が頓挫しちゃうじゃない。それは駄目よ。だって、これはアグニのためなんだもの。アグニの人生補完計画よ。
その計画をきちんと遂行し、完遂させるためにも、ここで妥協しちゃ駄目。
誰でもいいってわけじゃないの。
年は私たちと同じくらいか、せめて一〇歳上くらいまでかしら。そのほうが、大人に頼るって意味ではアグニにはいいかもしれない。
だって、きっと今までは一人で誰にも頼らずに生きてきたに違いないもの。
でも、なんだか失礼かもしれないけれど、ぱっとしないのよね。ここの人たちって。なんでかしら?
あ。
きっと、迷宮がある街なんかだと頼りがいのある大人の人がいるに違いないわ。
そういうところなら、自立したしっかりと、自分で自分の面倒を見ることのできる大人の人達がいるはずだもの。
そうよ、そうしましょう。
「アグニ。目的変更よ。ソールダースに向かうわよ」
「ソールダースって、あの十二階層の迷宮? そこになんの用が」
「いいからいいから」
私とアグニはまた縫うようにして冒険者ギルドを出て行く。
少しばかり急ぎ足で乗合馬車の発着場に着くと、私は時間を確かめる。
うん。あと一〇分くらいでちょうど発車だわ。さあ、これから出会うであろう仲間。待っていなさいよ。私がふん捕まえて、じゃない。仲間に引き込んでみせるから!
鼻歌を歌いつつ私は乗合馬車の窓から外の景色を眺める。
良いことをしている時の気分って、とってもすがすがしくって晴れやかなのよね。こういう気分や空気って、私大好きだわ。アグニもそうだといいのだけれど。
ちらと隣に座っているアグニを見ると、なぜか私とは正反対? な、なにか思案顔で反対側の景色を眺めていた。どうしたのかしら。
「アグニ、どうしたの?」
「いや、なんでもないさ。それよりも早く迷宮に着くといいな。そこでなにか目的があるんだろ」
「ええ。そうなのよ。アグニも楽しみにしていてね」
私が笑顔でそう言うと、アグニもにこっと笑って返してくれる。きっと、良い方向へ向かっていくはず。私はそう思ってまた微笑を返すのだった。
そうして二日間の行程の中で、私は今度は酔い止めのお茶を振舞っていた。これはとても好評で。甘草をいれたのがよかったらしい。
代金はもちろんとらないわよ。人間関係を円滑にするためには、そのくらいはただでしないとね。
やっぱり私の船酔いの時みたいに、馬車にも酔う人はけっこういたみたいで、このお茶を飲んでからは大分楽になったってお礼をたくさん言われたの。
私が一緒に乗ってる時にはタダでもいいけど、それ以外の時でも飲みたいって人がいれば、茶葉を売るのもありよねえ。考えてみようかしら。
そうこうして、二日間が過ぎた。
私とアグニはソールへと着いて、そこからは二日ほど野宿をしながら迷宮へと向かうことになっているの。
でも、街道は整えられているし、休憩所はあるしで、野宿っていっても街の外の公園で寝泊りをする感じかしら。
だけど、外は、街以上に素行の悪い人もいるから、その辺は注意ね。
まあ、とはいっても。迷宮へと向かう冒険者たちは多いから、お互いがお互いを監視するって感じでなかなかのギスギス感を味わいつつも、さほど危険はなく過ごせる。
でも、絶世の美女とかがいたり、金目の物を見せびらかしているような人たちは、狙われたりすることもあるみたい。
不干渉を貫いて、手助け無しの時もあれば、正義感をだして助けてくれることもあるらしい。
私はまだそういったことに一度しか出会っていないから、よくわからないけれど、でもなるべくなら、そういうことに巻き込まれたりはしたくないわよね。
「さ、食べましょう。アグニ」
「ああ。あ、これ、変わった香辛料使ってるね。舌への刺激が良い感じにぴりぴりしてて美味しいよ」
「うん。何種類もの香辛料を混ぜて作った特製シチューよ。おばあちゃん直伝のカレーっていう料理なの。私の得意料理でもあるのよ。おかわりはあるからね」
ふふん。カレーは私の作る料理の中でもかなりの得意分野なのよ。カレーにもいろいろ種類があってね。今日のはひき肉カレー。
牛ひき肉を入れて混ぜ込んだカレーで、そぼろ状になったお肉がまんべんなくカレーのルーと混ぜ合わさっているのが特徴なのよ。
具は他には玉葱と人参を微塵切りにしていれてある。今回のに馬鈴薯を入れるのは駄目ね。ぼろぼろそぼろ感を味わうためのものだから、大きくごろごろしたものを入れたい時に馬鈴薯はおすすめ。
周りの冒険者達にもこの美味しそうな匂いが風に乗って伝わったのか、食べたそうな顔をした男性や男の子がけっこういた。
だけど残念。今回は、私の一皿分と、アグニのおかわり分しか作ってないんだよね。
材料代を払ってくれるっていうのなら、また作っても構わないけれど、私は料理人じゃないから、そこまでする義理もないけど。




