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 2.~処刑フラグは即折りで~

ピロリン♪


▼王妃による処刑フラグが立ちました。


 はぁああああ!?

 初めて見るフラグが立った。


 ていうか、一生見たくなかった。

 処刑!?

 処刑てなに!!

 ……いや、意味はわかるけど!


 どうしてそうなった。



***



 八歳になった。

 あれからも色々あった。

 死亡フラグが立ったり、誘拐されたり、事件に巻き込まれたり、その他もろもろ。

 現在もちょいちょい命を狙われるが、何とか生きている。


▼王妃派のサンド伯爵夫人による薬殺フラグが立ちました。

▼王妃による毒殺フラグが立ちました。

▼宰相による暗殺フラグが立ちました。

▼宰相の信奉者による誅殺フラグが立ちました。

▼宰相による暗殺フラグが立ちました。


 あ、そうそう。

 取り巻きって表現のところが、詳細にわかるようになった。

 大抵王妃派の取り巻きだけど。


 稀にいるのが宰相関係。

 ……信奉者ってなに。

 詳細は、まだよくわからない。

 というか、今でも宰相はぶっちぎりで死亡フラグを立てている。

 あのウサギ耳を引っこ抜いてやろうかしら。


 でも徐々にレベルアップしている。

 経験値をいっぱい貰っているからね!

 ……嬉しくないわ。


 あぁ、現実逃避したいよ……。

 でも時間は有限だ。

 ちゃっちゃと死亡フラグを折るために行動しますか。



***



 真夜中の温室薔薇園。

 王族と王族に招かれた者しか入る事が出来ない秘密の花園。


 そこに、私はやって来た。

 中では一人の男が跪いて待っている。


 特徴的な狐の耳と、金色の腰まである真っ直ぐな髪。

 伏せられた瞳は飴色。

 右目には、モノクルを着けている。

 ふわふわの尻尾を持つ、狐の獣人だ。


 一滴の蜜を()らしたような華のある(かんばせ)

 他人の視線を惹き付けてやまない男だ。


 私を見て、跪いた姿勢のまま挨拶をしてくるこの男は、とある事件の時に知り合った情報屋だ。




「情報を知りたい? なら対価を下さいよ」


 温室に備え付けてあるテーブルで、香り高い紅茶を飲みながら本題を切り出す。


「……何が欲しいの」

「貴女のそういう処、好きですよ」


 にっこり。花が綻ぶような、魅了するための笑顔。

 やだやだ、自分の魅せ方を知っているヤツって。


「知っているでしょう? 私はお金では動きません。情報の対価は情報で。

 貴女、贈り物(ギフト)を持っているでしょう? どのような贈り物(ギフト)か私に教えてくれませんか?」


 なんで貴方が知ってるの。

 私は誰にも言った事はないわ。


 最近知ったのだけど、不思議な能力を持っている人ってたまにいるみたい。

 教会はそれを神様からの贈り物(ギフト)と呼んでいる。


「不思議そうですね。そんなに不思議ですか?」

「人の心を読むのやめて」


 本当に読んでるとか……ないよね?


「貴女は、なんだかんだで素直ですから。顔に書いてありますよ」


 え、ホント?

 ポーカーフェイスには自信があったんだけど。

 顔を変えないように力を入れてみる。

 すると、情報屋が口元に手を当ててプルプルし出した。

 ……にゃろう。カラかったわね。


「すみません。本当に貴女は面白い。それで? どうします?」

「……わかった。言うわ」


 時間も限られているし、このキツネさん程に精確な情報屋を私は他に知らない。

 フラグが立っている以上、あんまりモタモタしてる暇はないわ。


 女は度胸!

 スッと息を吸い込む。


「私の贈り物(ギフト)は、死亡フラグがわかること」

「死亡ふらぐ?とは?」


 くぅっ!

 舌っ足らずな感じが可愛いだなんて、絶対に言ってやらないからね!


「対価分は言ったわ。これ以上は無理」

「くくっ。貴女は、本当に飽きませんねぇ。

 わかりました。詳しくは、またの機会に取っておきましょう」


 次とか絶対嫌だ。

 ……でも、また呼ぶことになるんだろうなぁ。


「どうぞ、次も私を御利用下さいね」


 情報屋はスッと立ち上がり、優雅に礼をする。

 情報を聞いた私は、魅惑的な笑みを浮かべる情報屋に背を向ける。

 退出の言葉も再会の言葉もヤツにはいらない。


 さっさと聞いた情報を整理しなければ。



***



 聞いた情報によると、王妃様は私に第二王女暗殺の罪を着せて処刑に持っていこうと思っているらしい。

 つまり自作自演ね。


 第二王女は王妃様の娘で王の第二子だ。

 この国は男でも女でも王位につける。

 王妃様は自分の子を王位につけたいらしい。

 ものすごく迷惑だ。


 情報屋は毒を使ってくると言った。

 王妃様の生国は、農耕地は少ないが鉱山が多い。

 鉱物には毒性のある物が結構ある。

 元々は、毒性を緩和、治療するために毒について研究されていたらしい。

 だが、何代目かの王が逆に利用することを思い付いた。

 治療のために研究する一方、珍しい鉱物毒を暗殺用に裏ルートから販売する……という事をやっていたみたいだ。


 ……情報屋はどうやってこんな情報を手に入れているのよ。

 絶対に超トップシークレットでしょ。

 いやいや、余計な事は考えない。


 長生きする秘訣だ。



***



 今日は王妃様主催のお茶会だ。


ピロリン♪


▼現在、王妃による処刑フラグが進行中です。回避推奨。


 うん。

 間違いないね!

 お茶会の会場に着いた途端、私の贈り物(ギフト)が反応した。


 以前は死亡フラグが立った時にしか反応しなかった。

 でも、最近はフラグ回収の時が近くなると、九割近い確立で教えてくれるようになった。

 随分親切仕様になったなぁ。

 ……これを親切と感じるようになったなんて、私、疲れているのかしら。



 第二王女は、私と三歳離れている。

 王妃様に似た茶色の髪に青い瞳の美幼女だ。

 周囲がデロデロに甘やかしているので、ワガママいっぱいのお姫様に育った。

 この年齢なら可愛いで済むが、将来が心配だね。



 お茶会が始まった。

 情報屋に聞いた話では、お茶に毒が仕込んであるらしい。

 もちろん致死量ではないし、私を排除するためだが、自分の娘に毒を盛るとか徹底し過ぎである。

 確かに被害者の第二王女と王妃様を疑う輩はいないだろう。

 一番に疑われるのは私で、そうでなくても王妃様がそうもっていく。


 私はもう仕込みを終えている。

 王妃様の一世一代プロジェクト(?)が進行中だからか、他の死亡フラグは立っていない。

 あとはお茶会が終わるのを待つだけだ。



***



 夜の薔薇園でお茶を飲む。

 さやかな風が、私の頬をくすぐっていくのが気持ちいい。


 今回も……何とかなったわね。

 ふぅ、とため息が出る。


 お茶会での王妃様の顔は見物(みもの)だったわね。

 第二王女が紅茶を飲んでも何ともないことに、激しく疑問を浮かべていた。

 仕掛けた私だからわかる微かな変化だったけど、ちょっと愉快だった。

 ……宰相の影響とかじゃないよね? 私、いい子だよ?


 まぁ、仕掛けは簡単。

 第二王女が飲む紅茶の方はガッツリ厳戒態勢をしかれていた。

 だけど、紅茶のミルクには特に監視がなかった。

 なので私は、ミルクに毒の中和剤を入れておいた。

 元々第二王女はミルクティー派なのは、狐さんからもらった情報にあった。

 そこで私も一服盛ったというワケだ。

 


 王位継承権は十二歳にならないと放棄出来ない。

 十二歳が第一子の分岐点だ。

 王位を継ぐか、放棄するかの『決意表明の儀』がある。


 継ぐと表明した場合は、十五歳の『成人の儀』で立太子する。

 このシステムは百五十年前の女王様が作った。

 王族にも選択の自由が欲しいからと。

 あまり詳しくは知らないが、女王様は兄弟とゴタゴタしたらしい。

 まぁ、このシステムが出来てからも暗黙の了解で長子が継ぐことになってはいるが、一応建前では選択肢があることになっている。


 しかし、王族には何があるかわからない。

 第二子、第三子までは、王位継承権が上位のため、帝王学を学ぶ義務が生じる。

 多分、王妃様は諦めないだろう。

 私は『決意表明の儀』までに、自分がどうしたいのか、決めなければならない。


 頭が痛いわ。

 紅茶を一口飲む。

 今はこの香り高い紅茶でも私を癒してはくれない。

 もう一口こくりと飲んだ所で、空いている前の席に誰かが座った。


 ん?


「こんばんは王女様。月が綺麗ですね」


 は? はぁぁ!?

 向かいの席には、ウサギさんが座っていた。


 さ、宰相ーーーー!!?


 何でいるの?

 うわ、勝手に座らないでよ!


「今回も楽しませてもらいましたよ」


 うわー、ないわー。

 高みの見物ですか。そうですか。


 月明かりに照らされて、白い髪が白銀に見える。

 二本のウサギ耳もひょこひょこ揺れている。

 ホント、観賞用なら満点なんだけどね……。

 思わず、ため息を吐いてしまった。


「おや、疲れています?」

「疲れていないと思うのですか?」


 質問に質問で返してやった。

 宰相は少し怪訝な顔をする。

 うん。ちょっと投げやりだった自覚はある。


 宰相はふむ、と考えてから────



 ふわり



 手を置くように、私の頭を撫でてきた。


 ……えっ。


「しばらくは、やめておきますね。感謝して下さいよ?」


 宰相は席を立つと、さっさと退出した。

 私はあまりの衝撃に固まったままだった……。


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