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14.~王女様と休日。一日目~


 目の前に広がる自然が美しい侯爵領。

 空気が綺麗で水も豊富な“森と水に愛された地”。侯爵領の森には妖精が出ると噂されるだけあって、生命力に溢れた木々や花がたくさん生えている。

 そして、この時期になると暑くなる王都とは違い、涼しくて爽やかな空気が快適だ。


「んー、気持ちいい風」


 今は最後の休憩中だった。馬車から降りて、綺麗な空気を胸いっぱいに吸い込む。ひんやりとした風が吹き、周囲の草花を揺らした。

 風に髪の毛を弄ばれながらポツリと呟くと、すっごく小声だったのに……犬には聞こえてしまったようだ。「わん」と同意するように鳴いた。

 お母様の故郷、フェアリアータ侯爵領に到着した。


 フェアリアータ侯爵領はお母様のお兄様であるフェアリアータ侯爵様が治めている土地だ。特に林業が盛んであることで知られているが、一年を通して快適な気候は避暑地や保養地としても有名だ。

 体の弱いお母様は、一年の大半を実家のあるこの地で過ごしている。


 ……お母様に会えるかしら? 体調を崩していないといいんだけど。


 侯爵家まであと少し。今回変なフラグは立っていないが、気をつけて行こうと思う。



***



 無事に侯爵家にたどり着いた。

 侯爵家は優美な印象を受ける白亜のお城である。今まで何度か来たことはあるが、何度見てもため息が出るほど美しい。お城には繊細な彫刻が施され、自然との調和を一番に考えられているのか、空と森に映えるおとぎ話に出てきそうなお城だ。

 心の中でうっとりしつつも、出迎えてくれた伯父様たちへ簡単に到着の挨拶をする。


「お出迎えありがとうございます」

「ようこそおいでくださいました、王女様。我がフェアリアータ侯爵家一同、心より歓迎いたします」


 伯父様がにこりと笑って歓迎してくれた。

 お母様と伯父様は男女の違いはあれど顔立ちがよく似ている。人間ではなく妖精だ、と言われても信じてしまいそうな美貌だ。

 蜜色の濃い金髪に深緑色の瞳は従兄殿と同じ色で、従兄殿が成長したら伯父様みたいな顔になると思う。遺伝子ぱない。


「伯父様、皆様、お久しぶりです。お変わりありませんか?」

「そうですね……相変わらずです」


 伯父様が頷き、新緑色のリボンで緩く結ばれている蜜色の金髪がさらりと揺れた。声音には、少し疲れが混じっているように感じる。ちらりと従兄殿の方を見たってことは、そういうことなのだろう。私と視線の合った従兄殿は、にっこりと笑みを深めた。


 ……伯父様大丈夫? 遠い目してるよ?


 肩でも揉んであげた方がいいだろうか。一つ頭をふった伯父様に促されて、私も城内に入った。





 “緑の応接間”に案内された。

 その名前の通り、緑色を中心に落ち着きのある上品な家具で揃えられている部屋だ。他にも趣向を凝らした応接間があるが、私はこの“緑の応接間”が一番気に入っている。


「それにしても、今回は急な訪問になってしまい申し訳なく思っています。伯父様、短い間ですがどうぞよろしくお願いしますね」

「王女様ならいつでも歓迎ですよ。どうか心行くまでおくつろぎになってください」


 伯父様が深緑色の瞳を細めて微笑する。

 瞳の色は違うけど、その微笑みはお母様にそっくりだ。

 私は気になっていたことを伯父様に訊いてみた。


「あの……伯父様。お母様にご挨拶は出来るでしょうか?」

「それが……大変申し訳ないのですが、妹は昨日から発熱が続いていまして、本日も熱が高いままのようです。誠に申し訳なく思いますが、見舞いは熱が下がってからにしていただく方がよろしいかと」


 ……そっか。お母様熱があるんだ。会えなくて残念だな。


「そうですか……お母様にご挨拶だけでも、と考えていましたが、体調を崩されているのなら会うのは控えますね」

「はい。……どうやら王女様に会えるのを楽しみにするあまり、少しはしゃいでしまったようで……」


 伯父様が困ったように笑う。

 それを聞いて落ち込んでいた気分が浮上した。会いたくて、楽しみにしていたのは自分だけではなかったのだ。


「ふふ、お母様ったら」


 ……お母様……会えるのを楽しみにしていますから、早くよくなってくださいね。



***



 少しの間お喋りを楽しんだが、伯父様も仕事があるので従兄弟たちと一緒に退出することになった。


「王女様、僕の部屋へ行きましょう?」

「……えぇ、そうですね」


 にこにこ笑う従兄殿に一瞬行くのを躊躇ったが、弟のフィーユが「ぜひ一緒に行きましょう」と言うので大人しく着いていくことにした。


 ……なんか、やな予感が。





「さて、王女様。僕の部屋へようこそ」

「王女様、お久しぶりです」


 扉を閉めると、従兄殿がくだけた口調で言った。

 そしてフィーユが涙目で抱きついて来たのでグリグリと頭をなでてあげた。


「本当にフィーユとは久しぶりよね。体は大丈夫? 従兄殿に監禁されてない?」


 従弟のフィーユは体が弱い。

 お母様程ではないが、体調を崩すことも多い。

 そんなフィーユのことを従兄殿が過保護に心配するのはわからなくもないのだが、物事には限度というものがあると思うんだよね。

 冗談っぽく言ってみたら、フィーユが抱きつく腕に力を込めた。


 ……おっと、まさか? まさかなの?


 不憫に思い、さらに頭をなでてあげた。薄い金色の髪の毛がふわふわしてて触り心地がいい。


「ちょっと王女様? 可愛いフィーユの頭をそんなに強くなでたらダメだよ。フィーユは繊細なんだから」

「王女様聞いてくださいよ! 僕このままじゃ本当に兄様に監禁されそうで怖いんですけど!」


 二人が同時に口を開いた。

 私はもちろんフィーユの味方だ。


「大丈夫よフィーユ。私に任せておいて。……ちょっと従兄殿、ダメじゃないの。フィーユが可愛いのはわかるけど、監禁なんてしたら嫌われちゃうわよ?」

「軽っ!? 軽いですよ王女様」

「やだなぁ、まだしてないよ? ……それに、僕はフィーユが心配なだけなんだ」

「う……兄様……」


 ……まだって言い方が怖いんですけど。


 でも、悲しそうな表情をし声を震わせる従兄殿につられて、私もお母様のことを考えてしまう。

 心配……なのはわかる。私もお母様が苦しんでいるのを見ると代わってあげたくなる。だけど、見ていることしかできない。医者でもない私にはお見舞いに行って笑顔を見せることくらいしかできない……。


 ……本当はもっと、何かしてあげたいのに。


 ヤバい気分が落ち込んできた。しょんぼりしていると「だからね」と従兄殿が明るい声を出す。


「僕はフィーユのことが大好きだから、もっと真綿で包むように大事に大事にしてあげたいなって思うんだ。兄としてできることを何でもしてあげたい。それはもう、いっっぱい甘やかして、僕なしでは生きられないってなると最高だなって──」

「ダメだからね!?」

「兄様やめて!?」


 キラキラした笑顔で、ブラコンが重いことを言い出した。

 従兄殿の発言に落ち込んだ気分は吹き飛んだが、今度は頭痛がしてきたわ。

 この溺愛系ブラコンをどうにかしないと……。


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