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 9.それは魅惑の……

 これはある日のこと。

 私とキツネさんはいつも通り情報の交換をしていた。

 しかし、この日はいつもと違うことが一つだけあった……。



「──この情報では対価が釣り合いませんね」

「え?」


 マジで?

 対価が釣り合わないなんて言われたのは初めてなのでびっくりした。

 どのくらい釣り合っていないんだろう。今回はあんまり目新しい情報を持っていないんだけど……。

 ちょっと不安になりながらキツネさんに視線を向ける。


「……どのくらい足りないのかしら?」

「あぁ、すみません。王女様の方が足りないんじゃなく、私の方の対価が足りないのです」


 おや? それは珍しいわね。

 キツネさんは情報を対価にしているだけあって、いつも私にとって釣り合いの取れた情報を渡してくるのだけど。


「それは珍しいわね。あなたの方が足りないなんて」

「今回の王女様の情報は価値が高いですからね」


 ふむ。そうなんだ。

 こちらの予想より高くキツネさんに評価されているわね~。

 でもそうするとどうすればいいんだろうね? どのくらい足りないのかとか私にはわからないんだけど。


「では、足りない分はどうするの? 私は別に構わないけど……」

「いえ、それはダメです。情報を扱う者として、対価は対等にしたいですから。しかし、どうしましょうか……現在王女様にお渡しできる情報は先程すべて話しましたし、ね」


 キツネさんがうーんと考えている。

 今適当な情報がないのね……次回にまわせばいいかな? それとも何か聞きたいことってあったっけ?

 私の方でも色々考えてみるけど、今のところ何も思い浮かばない。キツネさんの方を見てみると腕を組んで考え込んでいた。無意識なのか、尻尾がゆらゆら揺れている。

 ……んあああっ!! あるよ。情報じゃないけど、一回は叶えたい願い。

 キツネさんを見ていたらいいことを思い付いた。そう。これしかない。これしかないね!

 断られるかも知れないけど、言うだけならタダだしね。

 早速思いついた素晴らしい考えをキツネさんに言うことにする。


「それならば、一つだけお願いがあります。ダメなら断ってくれていいわ」


 私の真剣な言葉と表情にキツネさんも居住まいを正す。そしてキツネさんの動きにあわせて尻尾が揺れる。


「何か知りたい情報でも?」

「いいえ。足りない対価分、尻尾を(もふ)らせて下さい!!」


「……はぃ?」


 珍しくポカンとしたキツネさんの顔に理解不能と書いてあった。




「本当に尻尾を触るのでいいのですか? 対価として釣り合っていない気がするのですが」


 キツネさんはまだ納得しかねるような顔をしている。情報至上主義のキツネさんはもふもふの素晴らしさを理解出来ないらしい。

 価値観の相違は残念だ。キツネさんはこんなにも素晴らしい尻尾(もの)を持っているのに。「本当にいいんですね?」という確認の言葉に私は思いきり頷いた。これ以上の対価はない。


「ええ! それがいいのです!」


 私の熱意にキツネさんが若干引きぎみだけど、そんなことは気にならない。こんな機会は滅多にないからね! もふるよ!

 キツネさんは椅子を移動させて私の横に座った。

 いつもならその美しいお顔を観賞するのだが、今の私の目には尻尾(もふもふ)しか映っていなかった。


「わかりました。……では、どうぞ」


 目の前にいつか一回は触ってみたいと思っていた魅惑の尻尾を差し出された。

 キツネさんの髪の毛が金髪だからか、尻尾も金色だった。ソッとさわってみると、思っていたよりさらに毛がやわらかい。

 もふっとした尻尾は私の両腕で抱えようとしても抱えきれないくらいにふぁさっとしている。


 やっふぅー! 一度はやってみたかったんだ!


 尻尾を思いきりぎゅっと抱き締めてみる。

 見た目通りのふさふさの尻尾。

 手入れが行き届いているのか、つやつやでサラサラの尻尾はとても肌触りが良かった。


 ヤバいヤバいヤバい!! 超気持ちいい~!!!


 顔を埋めてぐりぐりする。キツネさんが「ちょ、王女様!?」と焦った声で言っているがやめる気は全くない。むしろ始まったばかりだ。

 毛にそって撫でてみたりワザと逆立ててみたり。


 楽しい! 楽しすぎるよもふもふ最高!!


 世の中にこんな楽しいことがあるなんて、素晴らしい。

 私は夢中になってキツネさんの尻尾をもふった。




「……なんだか、今更ですが情報を渡すよりも高くついた気がします」


 数十分後……キツネさんがぐったりとしながら口を開く。

 反対に私は艶々している。ずっと触っていたくなるような最高の尻尾(もふもふ)でした!


「あら、そうかしら?」

「まぁ、いいですけどね。それでは本日はこの辺でお(いとま)いたします。次回もどうぞご贔屓に」


 キツネさんが椅子から立って優雅に礼をする。


「えぇ。次回もお願いするわ。あ、また情報が足りなかったときは尻尾を触らせてくれればいいからね?」

「今回のようなことは二度とありませんよ。……失礼いたします」


 心なしかヨロヨロとキツネさんは退出した。


 それにしても、今日はとてもいい取引だったね。やっぱり情報って大事だわ。

 私は満足して新たにいれたお茶を飲み干した。


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