お出かけ
エディ視点です
次の日、レイラはお気に入りらしい最初に来た時に着ていた服を身に纏って部屋から出てきた。
わくわくしていつもより早く目が覚めてしまったと笑うレイラは、遠足に行くと言った次の日の子供たちの反応と一緒で、ああ、可愛いなあと思う。
年が近いはずなのに幼い妹を持ったような気分になる。子供扱いをするなと言われるけれど、こういうところが子供っぽいのだと彼女は気づかないから尚更。
「朝ごはんの準備はしないの? ていうかここで食べていくんじゃないの?」
「準備はしてきた。朝ごはんは町で食べるよ」
「……なんで?」
「おいしいところを見つけたからレイラに食べてもらいたくて」
そう説明をしてもレイラはもったいない、とぶつぶつ言っている。そう言われるとは思っていたので苦笑で返す。
まだ会ってあまり日は経っていないのにもかかわらず結構言動の想像がつくようになった。レイラがわかりやすいせいだろう。
「レイラも気に入ると思うよ。子供たちを連れて行くわけにはいかないけど、レイラなら」
「あの人数だしね。それに、お店でじっとしていられるとは思えない」
多分日頃のあの子たちの行動を思い出して言ってるんだと思う。遠い目をしてるし。お店側に迷惑になるからという理由で連れて行ってもらえないとわかったら彼らは少しは大人しくなるのだろうか。ならないだろうな。
「さ、行こうか。子供たちが起きる前に行かないと。捕まると厄介だ」
いつものように腕を引き、町へ向かう。教会は町の外れの森の中に建っているので少し距離はあるがそこまで時間はかからないだろう。店の開店時間ぴったりくらいに着けるはずだ。
町への道中レイラはずっと物珍しそうにあちこちに目を向けていた。教会に来る時に通ったきりだから見慣れない風景が少し楽しいとか。だから町に行く用事があるたびに誘ってるのに、全く出ようとしないんだから。
引きこもり体質というと必ず否定するのが不思議だ。
朝ごはんはサンドイッチと紅茶のセットを頼んだ。お気に召したようで、とても幸せそうに食べていた。
ぽつりと呟かれた食に不自由しないって素晴らしい、という言葉は聞かなかったことにした。僕は何も聞いてない。
「ねえ、子供たちと神父には何がいいかな。私じゃ全くわかんなくて」
「そういえば言ってたね。とりあえず色んなお店を見てまわろうか」
子供たちもアーロン神父もみんな何をあげても喜ぶと思うんだけど、きっとレイラはそれじゃ納得しないだろうから気が済むまで悩ませてあげようと思う。
自分の用事よりレイラがこうして悩んでる傍にいた方がいい。僕のはまあ、今日じゃなくても大丈夫だし。
「わあ……。こんなのも売ってるんだ」
レイラが手に取ったのは、この辺りの名産品になっているガラス細工だった。
しばらくそれを眺めて目をキラキラとさせていたけれど、値段を見て顔をしかめてしまった。名産品ともなるとやはり高くなる。
すぐに顔に出るレイラに思わず苦笑する。こんなにわかりやすくてよく今まで生きてこれたなと思わずにはいられない。
「神父にいいかなって思ったけど、予算オーバーだ。もうちょっと安いのを探さないと」
「子供たちにはお菓子でいいかなっていうことになったんだろ? だったら先にそっち見ない?」
「んー、悩む方から先につぶしていこうと思ったんだけどな……」
「つぶすって……」
口が悪いよ、レイラ。そう言ってたしなめると、エディは細かいと返される。
僕が細かいんじゃなくてレイラが気にしなさすぎなんだと思うんだけどな。子供たちまで口が悪くなったら困る。
「どうしてそう気にしないかなあ」
「子供たちは口が悪くなろうとなかろうといい子に育ってくれてるからいいんじゃない?」
「そういうことじゃないってば」
礼儀とかにうるさいくせに、どうしてそうなるのか。むしろそれでよく礼儀正しくとか言えたものだ。
……あれ? もしかして礼儀が一番なってないのレイラなんじゃないか?
頭を抱えたくなっているといつの間にか後ろにいたレイラに頭突きをされた。何故。
「ねえねえお菓子ってこんくらいでいいかなー?」
「多いよ! そんなにいらないよ!」
両手一杯にお菓子を抱えてこんくらい、とはどういうことだろう。子供たちはそんなに食べられない。いくら人数が多いからといっても、それはない。そして手が使えないからといって頭突きはやめよう。口があるだろ口が。
レイラの腕の中にあるお菓子を戻していって、一度落ち着いてくれという意味をこめて肩に手を置く。買い物が終わる気がしない。
「予算がどうとか言ってたのに結構遠慮なくいくんだね……」
「あ、忘れてた」
わかった、レイラはバカだ。今までもなんとなくそういう考えはあったけれど、はっきりわかった。レイラはバカだ。
「…………とりあえず予算を教えてくれないかな? そうしないとらちがあかない気がする」
「それもそうだ」
日が沈みかけて空が赤と紺の半々くらいになった頃、ようやく僕たちは自分の買い物を済ませることができた。予定より大分遅くなってしまったけれど大丈夫だろう。アーロン神父には一応遅くなるかもしれないことは伝えてある。
隣に並んで歩くレイラの荷物は多い。でもお金に関して厳しいところがある、というかかなり厳しいレイラのことだから多分そんなに使っていないだろう。
値段交渉をする姿を思い出してつい笑ってしまう。最終的にお店の人に疲れきった顔で「もうお嬢ちゃんの好きにしな」と言わせてしまったのだ。次からは目を離さないようにしようと思った瞬間だった。
「帰ってごはん食べたらみんなに渡そっと。早く帰らないと寝ちゃうよ」
「誰のせいだと……。まあ楽しんでくれたみたいでなにより」
「そうだ、今日はありがとうねエディ! えーっと、ちょっと待ってね……」
歩くのを止めて荷物をごそごそと漁り始めたレイラに首を傾げる。早く帰ろうと言ったばかりなのに何をしているんだろう。
少ししてからあった、と呟いて僕の方にずいっと小箱を差し出してきた。これは、どうすれば。
「……レイラ、これ」
「エディの分。何をあげたらいいのかわかんなかったからちょっと不安だけど」
お互いが一人で買い物をしている間にレイラは僕に渡す物を考えて、買ってくれたらしい。正直自分のことは頭にないと思っていただけにすごく嬉しい。
ただ、本当に申し訳ないのだけれど、開けるのが怖い。
「ありがとう。帰ってから開けるよ」
「うん。変なものだったらごめんね?」
今日一日でレイラのセンスがどういうものかがよくわかった。決して悪いわけではない。ただ、多分常識とかが少し足りてないだけなんだと思う。たまに子供たちでも知っていることを知らなかったりするから間違いではない、はず。
よっぽど人から離れて暮らしていたんだな。だからお金に厳しいのだろうか。なんか違う気がする。
とりあえず子供たちもアーロン神父も喜んでいたのでよしとする。その内レイラから話してくれるだろう。別に話してもらえなくてもいいけど。
ちなみにレイラがくれた小箱の中身は数珠だった。
…………うん。