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懸念と約束


 みんなが寝静まったことを確認して、一人で外に出る。夜風が心地よく私の頬を撫でていった。


 悪魔だということがバレる前にここを出る。

 まだ一週間ほどしか経っていないからと考えないようにしていたことだけれど、真面目に考えておかなければならないかもしれない。お金の都合上今すぐにというのは無理だから先の話だと思うけど。

 懸念されるのは勇者の存在である。


(神出鬼没ってとこは悪魔と一緒だなあ……)


 ふむ、と過去の対戦を思い出す。魔法で移動しているのかなんなのか知らないが、昨日までこの大陸にいたのに次の日にはもう向こうの大陸で目撃情報があがってる、なんてことはざらだ。

 つまり、明日にでもこの町にくるかもしれないのだ。


(それはないと思いたい。この間きたところだと言ってたし。ああ、もう、嫌になるな。本当に)


 憎たらしい勇者のしたり顔が頭に浮かぶ。いつもいつも私の力が及ばず逃げるはめになるのだが、その時の「逃げるのか?」という言葉がとても頭にくる。しかし私は弱い。今までよく生きてこられたなと言われてもおかしくない程度に弱い。ただし逃げ足だけはずば抜けて速いのだ。力の分とか全部逃げ足に振り分けられたのではと言われている。私もそう思う。


「レイラ……?」


 呼ばれた名前に反応して振り向くと、少し焦りの浮かんだ表情のエディと、細い目を更に細めているアーロン神父がいた。


「二人そろって、どうかしたの?」

「い、いや、なんでもない」

「私たちは少し外の風に当たりにきたんだよ。レイラもかい?」

「まあそんなところです」


 エディの動揺が少し気になったけれど、アーロン神父が話をそらそうとしているのがわかったので触れないでおく。何かあったのかもしれない。でも言いたくないのなら仕方がない。


「そうだ。レイラ、今度町に買い物に行こう。ここに来てから一度も行ってないだろ?」

「あー……」

「二人で気分転換に行っておいで。ゆっくり羽を伸ばしてくるといい」

「羽を伸ばさなきゃいけないほど私仕事してないと思うんだけど」

「いいや。少し働きすぎと言ってもいいくらいだよ。エディ、お前も明日はゆっくりしてなさい」


 アーロン神父に負担がかかると反論したのだけれど、子供たちなら大丈夫だといつもの優しい笑顔で言われてしまった。二人がかりでもアーロン神父には叶わないのか。まあ当然といえば当然だ。勝てるわけがなかった。


「……じゃあ、お言葉に甘えることにしようかな」

「レイラはもっと外に出て行くべきだよ」

「息抜きはせんとな」

「だから私息抜きってほど仕事してない」


 仕事といえば家事と子供たちの遊び相手くらいで、こんなことでお金をもらっていいのだろうかという程度の量だ。申し訳なさすぎる。しかも三食つき。

 そうだ、今回の外出でみんなに何かお礼をしようか。いや、待て、私の給料は今後のための貯金……いや、でもなあ。色々とお世話になっているのだ、恩返しはしなくてはならないだろう。


(何がいいかな。こういうことってしたことないからわかんないや)


 誰かに何かを贈るという行為は経験がない。自分のお金は自分のためだけに使うのが当たり前だったから、今こうして誰かのために悩んでいる自分がいるのに驚いた。

 ああ、私って本当に悪魔らしくないな。誰かのために、なんて考えたこともなかった。



「さあ、もう私たちも寝なくてはね。明日も子供たちを守れるように」

「? どうして寝ることが守ることにつながるの?」

「ただ単に疲れをとって体力を蓄えるってことだと思ってるんだけど」


 実際のところはどうなのか、と言った本人であるアーロン神父の方を見る。神父はふああと大きなあくびをして、私たちの頭を撫でて中へ入っていった。

 ……逃げた、のかな?


「夜はとにかく休むんだよ。悪魔も夜は活動していないらしいから。でも何でだろうね、夜の方が襲うにもいいのに」


 確かに夜の方が襲撃にはいい。なのに、悪魔の規定で夜は活動をしてはいけないことになっているのだ。なんでも月の光を浴びることがよくないらしい。今の今まで忘れていた。浴びちゃってるよ私。

 忘れていたとはいえこれはダメだろう。規定を破ったらどうなってしまうのだろう。


(…………大丈夫だよね?)


 自分の身体を見て触って確認する。その動作にエディは不思議そうな目をしてこっちを見てきたけれどそんなことを気にしている場合ではない。

 もし月の光を浴びることで悪魔の力が暴走、とかそんなことがあったら。どういうことにつながるのか伝えられていないというのは困ったものである。


「あ、そうだエディ。明日子供たちとアーロン神父に何か買いたいから付き合ってくれない?」

「ん。わかった。それが終わったらちょっと自由時間を取ろうか。僕も見たいものがあるし」

「じゃあそういうことで。おやすみ」

「おやすみ。明日は朝から出るからね」

「はーい」


 エディが一緒に考えてくれるのなら、変な物を買ってしまうことはないだろう。エディの分はその自由時間の時に買えばいい。

 明日の外出が思いのほか楽しみで、今から寝つけるか心配になったが別に問題はなかった。私の神経は案外太いようだ。

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