とある神父の推測
エディ神父視点で進みます。
レイラの印象は「よくわからない人」その一言につきた。
服を買おうといえば「もったいない」と言って自分で作ってしまう。子供たちの分まで作るものだから驚いた。料理は上手いし、洗濯物だってとても綺麗にたたまれている。なんでもかんでも自分でこなしてしまうからすごい。
話の端々から彼女が今まで相当ぎりぎりの生活を送ってきたのだろうことが想像できる。何があったのか、どうしてそんな生活を送っていたのかなんて僕には想像もつかないけれど、とにかくそれだけは間違いない。
「エディ、転んでけがをした子がいるから救急箱出して」
「わかった」
堅苦しい敬語をとっぱらってみると、彼女の人柄がよくわかる、気がする。最初は首をかしげたり目が死んでたりすることが多かったけど、子供たちの相手をしている時の表情は柔らかいものになってきた。
食事をとる時の表情は最初と変わらず、いつも輝いている。同じくらいの年齢のはずなのにとてもおいしそうに料理を頬張る彼女はとても幼く見えて、つい頭をなでたくなってしまうのは仕方がないことだと思う。頭をなでる度に少しむっとされるけど。
今だってけがをして痛みに涙を流しそうになっている子の頭を優しくなでるレイラの目はとても優しい。時々彼女の考え方に冷たいものを感じるけれど、こういう目や表情を見てしまうとやっぱり根は善人なのだと思わずにはいられない。
自分のことを語ろうとしないレイラとみんなが本当に家族になれるのはいつのことだろうか。自分の心の中に溜めておかずに話してしまえばいいのに、と思ってしまうけど、きっと話したくないことなのだろう。ただひたすら待つしかなさそうだ。
「ユリ、泣かなかった!」
「よく我慢したね、えらいぞ」
「もうこけないように気をつけてね」
手当てを終えたユリは元気よく返事をして、心配そうに眺めていた子供たちとまた森の中へ駆けていった。
親のいない生活にも彼らは明るく毎日を暮らしてくれている。それだけで十分だ、と思いつつも心の中にはいつも不安がある。
大きくなったらここを出て行く。それは構わない。寂しくなるけれど、いつかそうなるに違いないからだ。一番怖いのは悪魔に襲われることだ。
大抵の悪魔は金品を持ち去るだけで人を殺すことがないそうだが、いつでもそうとは限らない。現に子供たちの中には両親を悪魔に殺されたという子が少なからずいる。いつ命を落とすかわからない、その状況がたまらなく怖かった。
「……ああ、悪魔ね…………」
レイラにその不安を話してみると、わかりやすく動揺していた。目を泳がせて、決してこちらを見ようとしない。
その反応に、もしかしたらレイラも悪魔に両親を殺された一人なのだろうか、と思い当たった。そうだとすれば、ここに来る以前の生活に説明がつく。自分のことを話したがらないのもそれが原因なのかもしれない。
「早く勇者様が魔王を倒してくれないかな。そうすればこの世に存在する悪魔は全部消えるんじゃないかって言われてるし」
「…………子供たちが襲われるのは確かに怖いね」
どこか重たくなってしまった雰囲気に少し戸惑う。レイラはよくわからない感情を表に出した、変な顔をしている。
しまった、この話題は触れるべきではなかったか。そう考えて慌てて話題を変える。
「そういえばさ、レイラが作った服、みんな喜んでたよ」
「今日お礼言われた。ありがとうって」
「ちゃんとお礼を言いなさいってアーロン神父に言われてたからね。まあその言葉がなくてもちゃんと言ってたと思うんだけど」
今日も町に出かけているアーロン神父を思い出しながら言う。自分がアーロン神父に拾われた身だから、彼の言うことには逆らえないし逆らうつもりもない。子供たちと自分が同じなのはそういうところだ。相手がどれだけ警戒心を持っていても、それを緩和させてしまうアーロン神父はすごい。
自分の過去を思い出して、ふといつかここを出て行く子供たちが、アーロン神父のように親を失った子供たちの世話をしてくれたらと思う。本当はそんな悲しい子がいなくなることが一番嬉しいけれど。悪魔が世界からいなくなる日はいつ来るのだろうか。
そんなことを考えてしまった僕は、また悪魔の話題にしてしまいそうだったので、子供たちの様子を見てくる、と言って一人外に出る。いけない、彼女にまた変な顔をさせてしまうところだった。
(僕はダメだな。相手の気持ちを考えることくらいできるようにならないと。そうでないと、僕が誰かを傷つけることになってしまう)
頬をぺしんと叩いて頭を左右に振る。自分の頭の中を一度真っ白にしないと、またレイラの過去に触れるようなことを言ってしまうかもしれない。
さて、子供たちの様子を見に行くと言った手前、行かないわけにはいかない。とりあえず適当に子供たちが遊んでいそうな方へと進んでいく。
どこにいるのかな、と少し進んだところで、そう遠くない場所から悲鳴が聞こえた。
「! 今のは……!? まさか、」
嫌な予感がして、悲鳴があがった方向へと急ぐ。不安が的中してしまった、なんてことはないと願いたい。
走る自分の頬に冷や汗がつうっとつたって落ちた。