いつもの野宿
「さーて野宿だ」
「何でお前らそんな手慣れてんだよ」
何でと言われても。と首を傾げながら簡易テントを広げる。別にテントなんかなくても私たちは寝れるけれど、どうやら野宿を経験したことがないらしい勇者たちにはテントが必要だと判断した。
全くこれだから温室育ちは。
「野宿くらいしたことあるわ! お前らがあまりにもテキパキ動くから驚いてんだよ!」
「キリカはこっち、勇者たちはこっちね」
「話を聞け!」
どこに驚く要素があったのか。私たちからすれば野宿なんて当たり前で、ちゃんと布団を使って寝れる日の方が少ない。基本的に飛び回って寮に帰ることもあまりない……いや、私は人間を襲いに行かなかったから他の悪魔よりは帰ってきてたけども。
まあ要するに、悪魔としては生きていくのにサバイバル術が必須だということだ。
「前も思ったけどレイラちゃんたちってかなりギリギリの生活してるよね」
「食べ物がないときは狩りに出るしかないんだよ。最悪その辺りに生えてる草とか」
「…………これを食うのか」
三人とも絶句していた。ザジの「お前一時草しか食ってなくて死にかけてたよな」という言葉にますます言葉を失ったようだった。私の生活を考えたら、人間ってかなりいい生活してるよね。子供は働かなくても養ってもらえるし。
「それでよく生きてるな」
「こんなのは慣れだよ慣れ。ずっとそんな生活してれば嫌でも慣れる」
苦笑しながら言うと、キリカが口元をひくつかせながら慣れたくないなあ、と言った。人間ならこんな経験をする人は少ないだろうし、そう思うのも無理はない。
教会での暮らしを思い出して、そういえばあそこも結構いい暮らしをしていたよなと思う。
あ、教会で思い出した。
テントを張り終えて焚き火の準備を始めたザジに駆け寄って私の仕事だった資金調達の話題を持ちかける。
「ザジ、お金なんだけど」
「資金ならオリエ様が出してくれたから問題ない」
「なんだ……。まあオリエ様が出したお金と比べたら私が持ってきたお金ははした金だよね」
わずかに足りない分だけでよかったのに、その何倍も出してくれたそうだ。計画に協力してくれるというだけで十分なのに資金まで出してくれるなんて。それだけこの計画にかける思いが強いということなのだろうか。そんなにされると逆に怖い気もする。
「その資金って何に使うやつなの?」
「今、仲間たちが武器と防具の調達に行ってる。レベルが違うんだ、装備くらい整えとかないと」
「お金さえ払えばお客として扱ってくれるもんね」
商売人という生き物はえてしてそういうものだ。こちらが呆れるくらい貪欲な人間もいる。客であれば相手が悪魔だろうが人間だろうが動物だろうが一向に構わないという姿勢はこちらとしては助かるものだけれど、軽く引いてしまいそうになる。
見上げた根性と言えばいいのか、その貪欲さには尊敬すら覚えるものだ。
「ご飯どうする? 狩ってこようか?」
「買ってくるの?」
「その辺に食えそうな動物いるだろうから頼むわ」
「……ん?」
「じゃあ行ってきまーす」
ナイフ片手に狩りに出かけようとすると、キリカが私の腕を引いて待って! と叫んだ。
どうかしたのかな、もしかして一緒に行きたいとか? そう思いながら首を傾げていると、「買い物に行くんじゃないの?」と尋ねられた。あれ? さっき話さなかったっけ?
「狩りに行くんだよ?」
「あれ……レイラちゃんってばワイルド……」
「こんな森に食べられる生き物がいるのか?」
「なんなら一緒に狩りに行きます? お二人さん」
私の腕を掴んで離さないキリカと食用の生物がいるのかと疑問を口にしたおにーさんを狩りに誘う。私は火起こしが下手だから狩りに行くのだけれど、この二人がここにいてもザジを手伝うことはないだろう。だから暇だろうから狩りに誘ってみた。
おにーさんが行く、と決めればキリカもついてくることを決めた。さて、晩ご飯は何ができるかな。
「おにーさん、そっち行った!」
「きゃああああカーシュ何あれデカいよ!」
「……何故来た」
人間の世界でも生息している猪が運よく見つかったので、早速狩りにかかる。
おにーさんの鼻めがけて一直線の拳がきいたらしく、くらくらと覚束無い足取りで木に体当たりして、そのまま気を失った。
気絶している間に完全に殺しておかなければ目が覚めた時に暴走してしまう。おにーさんは猪に近寄っていって、持っていた斧を振り下ろして首と胴体を分けた。私はというと肉を包み焼きするために香草を摘んでいた。おにーさんがいれば狩りすごく楽じゃないか……。
「さすがおにーさん。キリカ、大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃないよ! レイラちゃんたちっていっつもこんなことしてるの!?」
おにーさんにしがみついたまま涙目になっているキリカの頭をよしよしと撫でる。初めての狩りで獲物があの大きい猪だったならトラウマものだろう。可哀想に。私は慣れてるからどうということはないけれど。
「皮剥がないと。でも猪の皮はあんまり高く売れないんだよね」
「これも稼ぎになるんだね。いくらくらい?」
「このサイズで大体百ガル」
「安くない!?」
猪はありふれた生き物だから皮も肉も高く買い取ってもらえないのだ。肉は美味しいから売られずにそのまま食卓に並ぶことが多いけれど。安くて美味しい、下っ端の味方である。
「さ、ザジと勇者が待ってるよ。戻ろう」
猪の巨体をおにーさんが軽々と担ぐ。いつもキリカを運んでいるような俵担ぎだ。もしかして同列……いや、何も言うまい。
「猪じゃん。香草は? 採ってきたか?」
「忘れるわけないでしょ!」
「うし。じゃあ焼くか。勇者も手伝えよ」
「へいへい」
渋々といった感じで切った猪の肉を香草に巻いていく勇者とそれを次々に並べていくザジ。狩りをしてきた私たちはそれを眺めているだけ。仕事は分担制だ。
狩りのついでに汲んできた水を葉で作った入れ物に注いでいき、全員に行き渡るように準備する。
いつも大体一人で野宿だったから、こうして何人かで火を囲んでいるというのが新鮮だ。しばらくして焼けた肉を全員に配り、余った分は周辺に住む動物におすそ分け。骨は小動物の遊び場となるので放置。全部何かの役に立っているのだ、この猪も本望だろう。
「飯食ったら寝るぞ。男どもはそっちのテントな」
それじゃあ、と先に食べ終えた私とザジはいつものように木の枝のところで寝るために手頃な木を探しに行こうとした。
「え、待って待って、ザジとレイラちゃんはどこで寝るの? どこに行こうとしてるの?」
「え? 木の上だけど」
愕然としたようなキリカは、食べかけの肉を香草の上に置いて、行こうとしていた私の腕を引きテントの近くにぽすんと座らせた。
「……こっちで一緒に寝ようよレイラちゃん…………」
女の子なんだからさ、と言った時のキリカのなんとも言えない表情に反論することができず、大人しくテントの中で横になった。




