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報告、決意


 ザジから連絡があって、三日が経った。

 やはり何の目標もなしに飛び回るというのは疲れるのだろう。申し訳ないことをした。

 心の中でザジに懺悔していると、甲板の方から慌ただしい声が聞こえてきた。


「あ、悪魔が降ってきたぞー!」

「レイラさんを呼べ、味方か敵かわかんねえ!」


 ちなみにこの船の船員は私のことを知っている。知ったうえで、受け入れてくれている。それは勇者一行の存在が大きいだろう。普通の一般人に悪魔の私が味方ですと言ったところで聞きはしないだろう。


「レ、レイラさん! 悪魔が空から!」

「今行きます」


 船室にどたばたと音を立てて入ってきた船員に落ち着いてください、と言ってから甲板に出る。敵か味方かわからない、とは言うが、わざわざ航海している船を襲う物好きな悪魔はそういない。というのも、当たり外れが大きいからである。豪華な財宝なんかを積み込んでいる船もあれば、金品もなければ食料もない船だってある。確実に稼ぎたいのならば船は不向きなのだ。

 従って、今船を目指すのは私の仲間、ザジくらいだ。


「おー……。レイラか……」

「ザジ、どうしたの? どうして落ちてきたの?」

「勇者っぽいのが見えたし、進路考えたらこの船だろうなって思って、お前がいるって考えたら安心してな……」


 腹減った。

 よろよろと私にしがみつくザジは精一杯振り絞ったような声でそう言った。溜息を吐きつつ、ごめんなさい、お疲れ様。今にも死にそうなザジの頭を撫で、近くにいた船員に何か食べ物を用意してくださいと頼む。


「疲れてるだろうけど、ここで寝るのもなんだから部屋まで行こうか。歩ける?」

「歩けないことは、ない。肩貸してくれ……」


 ここまで疲れているザジは初めて見た。こんなになるまで飛び回ったのは間違いなく私のせいだ。腕をぐいっと引っ張って立ち上がらせ、ザジの腕を肩に回そうとすると、突然ザジが消えた。

 ……おや?


「お前が肩を貸すより俺が運んだ方が早い」

「あ……。ありがとうございます」


 そう言ってひょいっとザジを俵担ぎにして男連中の部屋まで運ぶおにーさんの後ろ姿をぼんやりと眺めていることしかできなかった。

 一体なんだったんだ、今のは。


「あの、食事を……」

「あ、すみません、私が持っていきます」


 慌てておにーさんの後を追う私の後ろをぱたぱたと足音がついてきていた。多分、いや、絶対キリカだ。


「失礼しまーす」


 初めて入る男部屋だけど、キリカの話していた通り、狭い。

 部屋の隅っこの方に佇むおにーさんを確認して、傍に駆け寄った。この際嫌われてるとかどうでもいい。ザジが心配だ。


「ザジ、大丈夫?」

「……おー」

「ご飯準備してくれたんだけど、食べれる?」

「食べる」


 ゆっくりと起き上がって、私の手にあるトレイを奪って一心不乱に食べ始める。その様子におにーさんとキリカは呆気にとられてたけれど、私はほっとしていた。

 食欲があるのなら大丈夫だ。

 あんなに死にそうだったのもただの疲労と空腹だろう。ただの、とは言ったがなめてはいけないこの二つである。


「ねえザジ、少し休んだら話聞かせてね」


 なおも食べ続けるザジだったけれど、ちゃんとこくりと頷いてくれたので、おにーさんとキリカと一緒に部屋を出る。この分だと話を聞くのは明日になりそうだ。


「仲間は大丈夫なのか?」

「うん。今日はゆっくり休んでもらって、明日成果を聞くよ」

「そうか」




***





「あー、よく寝た」

「本当だよ! いくら疲れてたからって、丸一日寝る!?」


 疲れているからと起こさずにいたのだが、放っておいたら彼は丸一日寝ていたのだ。一回食事を摂っただけで、あとは爆睡だ。よほど疲れていたのだろうが、話を聞きたい私からすれば早く起きろと起こしたかった気分である。


「俺だって疲れてんだよ……。で、成果だっけ」

「うん。どんな感じ?」


 ザジは前の通信では「結構な人数が集まった」とかなんとか言っていた。期待できるかもしれない。そう思って聞くと、ザジはにやりと笑って聞いて驚け、と言ってきた。

 そんなによかったのだろうか。


「オリエ様の軍勢をこっちに引き入れることができた」

「……え? 嘘、幹部を!?」


 オリエ様は、前魔王の代からこの世に存在する唯一の女性幹部だ。正直そこまでしているとは思ってもみなかった。ザジの言っていた心当たりとはこのことだったのか。


「あの人は悪魔にも人間にもつかないっていう立場を貫いてるからな。それに、一部では有名な話なんだが、どうも悪魔が嫌いらしいんだ」

「自分が悪魔なのに? なんだか矛盾してる」


 悪魔が嫌いな悪魔、なんて聞いたことがない。私以上に浮いた存在なのではないだろうか。

 そんな考えが顔に出ていたのか、「お前も十分変だから安心しろ」と言われてしまった。安心できる要素がどこにあるっていうの、それ。


「オリエ様の下についてる奴はオリエ様に逆らうなんてことを考えない奴ばかりだ。だから、オリエ様さえこっちに引き入れてしまえば……」

「その軍勢は全部こっちの味方、か。よく味方についてくれたわね」

「それが俺にもよくわかんねーんだけどな。ま、魔王様の方につくことは絶対ないって誓ってもらったから何の心配もねーよ」


 幹部がこっちの考えに賛同するなんて思っていなかった。でも、悪魔が嫌いだという話が本当ならば当然といえば当然なのかもしれない。

 オリエ様の軍勢は女性悪魔が多く、結束が強いらしい。そしてかなりの人数がいるそうだから、強大な味方を手に入れたのではないだろうか。


「油断は禁物。幹部はまだ五人いるし、魔王様だっている。俺たち下っ端が束になっても勝てない確率の方が高い」

「油断なんてしない。でも、勝率は上がったと考えていい。オリエ様が、みんなが、……勇者一行が。私たちにはついてるんだ」


 この作戦の肝はそこだ。本来ならば味方につくはずのない人たちがこちらについていて、尚且つ下っ端悪魔の約半数が一斉に奇襲をかける。この作戦を考えた私とザジは勇者一行について魔王様の眼前まで行かなければならないのだけれど、それすらも、後ろにみんながいるのだと思うと怖くない。

 みんなが幹部を相手にしている間に魔王様を倒すのだ。一度決起した私たちに助かる道なんてないのだから。

 私とザジはもう一度決意を新たにした。


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