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安心と信頼


「……このまま、まっすぐ」


 次の日も同じように進む方向を示し、あとは船室に引き込もる。ザジからの連絡を何をするでもなくただじっと待ち続ける。ここには私の味方はいないようなものだから、早くザジに会いたい。



「レイラちゃーん」

「キリカ、また泳ぎに行くの?」


 船室のドアをばん、と大きな音をたててずかずかと入ってくるキリカに溜息を吐く。毎日のようにキリカは船の傍を泳いでいる。相当キリカが泳ぐ速さが速いのか、船に遅れをとることはないのだけれど、それでも危ないのだからやめてほしい。船にぶつかってしまうと命を落としかねない。


「だって退屈なんだもん。ね、レイラちゃんも泳ごうよ」

「私はいいよ。……連絡くるかもしれないしね」


 ふ、と手のひらの中にすっぽりと収まっているコム石に視線を落とす。未だに声の聞こえないそれは窓から入る光に反射してきらきらと輝いていた。


「そう? 今日はカーシュも泳ぐからどうかなって思ったのに」

「おにーさんがいるなら尚更いいよ……」


 どうしてキリカは察してくれないのだろう。大体、好きな人と二人きりになれるいい機会だというのに何故わざわざそれを無駄にしようとするのか。よくわからない。


「……ん? なんか鳴ってるけど、その石から?」

「鳴ってる?」

『おいレイラバカ返事しろよ! 何回呼んでると思ってんだ!』


 キリカの言うなんか鳴ってるは間違いではなかった。慌てて応答すると懐かしい感じで怒鳴られた。あの数年を考えればそんなに長いこと離れていたわけではないのに、やたらと懐かしく思えた。


「ごめん、気づかなかった」

『お前な……。まあいい。とにかく、こっちの用事は済んだから至急そっちに向かう。今どの辺だ?』

「わかんない」


 はっきりそう告げるとふざけんなと返されてしまった。ふざけてないよ私真面目。

 だって地図の見方とかわかんないんだもん。何でお前ってそう残念なんだよ!

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ私を苦笑しながら見ていたキリカが無言で退散していくのが視界の端で見えた。入りようがないもんね。仕方ない。


『……もういい。航海してる船を適当に見て回りゃいいんだろ』

「それ大変だよ?」

『お前のせいでな』


 ごめんってば、と軽い感じでいつものように話していると、ふいにザジの声音が真面目なものに変わった。何かあったのだろうか。


『無理すんなよ』

「……なんだ、そんなことか」

『そんなことじゃねえよ。今回のことだって、俺に会えなかったら勝手に一人で実行してただろ』

「それはそうだけどさ」


 でもザジだって勝手に行動するくせに。不貞腐れたように言うと俺はいいんだよ、強いから。なんて言ってくるものだから少し腹が立つ。けれど事実だから言い返すことができない。

 私の行動力については褒めてくれるらしい。上から目線が腹立たしい。でも後先考えずに行動してしまう時があるからそこは注意しろと言われた。

 ザジは本当にいい兄貴分である。


「ザジこそ無茶しないでね」

『俺は無茶なんかしたことねえよ。まあ強いて言うならお前の計画に乗った段階で無茶だとは思う』

「みんな現状に不満を持ってたんだからいいじゃない」

『そりゃそうだ。でもレイラ、忘れんなよ。俺たちがしようとしてることはお前の考えに賛同しない奴らにとってはただの迷惑な話なんだからな』

「…………わかってる」


 今のままで満足しているという下っ端は当然いるだろうし、それこそ幹部連中にとっては迷惑どころではない話だ。この計画を知られてしまえば躍起になって阻止しようとするだろう。幹部が本気を出せば私たち下っ端はひとたまりもない。その時はここにいる勇者一行だけが頼りだ。

 できれば悪魔の問題だから人間を巻き込むようなことはしたくなかったのだけれど、勇者だから大丈夫だろう。


『じゃあ俺はその辺の船しらみつぶしに回るから』

「わかった。なるべく早くしてね」

『だからお前がちゃんとしてれば……』


 お小言は聞き飽きたので強制終了。久しぶりにザジと話すことができたので少しほっとしている。彼と話しているとどこか安心できて、自分が安定する気がするのだ。


「仲間はなんて言ってた?」

「うえあ!」


 コム石をじっと眺めていた私にいきなり声をかけたのは、勇者その人だった。この際なんで勝手に部屋に入ってきてるのかはどうでもいい。

 これはおにーさんにも言えることだが、突然話しかけるのは心臓に悪いからやめてほしい。キリカのわかりやすさを見習いなさい。


「女らしくねえな……」

「うっさい! 本当にびっくりした時にきゃーなんて声が出るはずないでしょ!」

「そこを頑張るのが女だろ」

「あんたは女をなんだと……!」


 で、なんて? 平然と話を元に戻す勇者に肩の力が抜ける。

 こうして勇者一行の船に乗って、一行(一人除く)と仲良く喋っているだなんて誰が想像しただろう。私は本格的に悪魔ではないのかもしれないと疑うべきである。


「船が今いる場所わかんないって言ったら航海してる船をしらみつぶしに回っていくって」

「それでそいつ大丈夫なのかよ」

「さあ……。でもザジのことだから要領よくやるでしょ」


 ザジが大丈夫だと言ったら大丈夫なのだ。なんとかならなかった試しがない。

 まあ大体原因は私なのだけれど。


「ま、それなら直に合流できるだろ」

「何もないといいんだけどね」

「そういう不吉なことを言ってやるなよ」


 でも本当に、心配ではある。ザジの言っていた心当たりのところへ行って、計画を知った相手がザジをどうにかしようとする。なんてありえない話ではない。幹部連中は現状に満足こそすれど不満なんかあるわけがない。もし幹部の耳に入ったなら、単身行動しているザジが狙われないわけがないんだ。

 何もなさないまま死ぬはずがないだろうと、言ってくれたけれど。


「……そんなあからさまに心配そうな顔すんな」


 ぽん、と軽く私の頭に手を置いた勇者の意図がわからなくて戸惑ったが、その手がエディを思い出させて、とても暖かくて。その優しさに甘えることにした。


「そいつは大丈夫だっつったんだろ? だったら大丈夫だ」

「…………うん」


 ザジは大丈夫。

 だったら、私もちゃんと私の仕事をしなくては。


タイトルを考えるのが苦手です。

一話書いてからタイトルを考えるんですがこの作業に時間がかかります。時間をかけたわりには毎回雑です。


誤字・脱字やここの言葉の意味とか使い方間違ってるなどがあれば報告してください。気をつけてはいるのですが、スルーしていることが多々あるので。

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