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お仕事探し


「…………うわあ……」


 初めて、というわけではないのだが、そこそこ久しぶりに入る人間の町はかなり賑わっていて、私の気分を盛り上げるには十分だった。今の私は完全におのぼりさんである。

 どうやら今の時期はバザー? かな。それが行われているらしく、いつもより人が多いようだ。あちこちの飾りもそのためなのだろう。

 さて、この町に決めたわけではないけれども、見て回るくらいはいいだろう。自分の生活費を稼ぐための仕事だから、割のいいものを探したい。住み込みとかすごく理想的。

 ……さすがに望みすぎだとは思っている。


「仕事、仕事を探すにはーっと」


 適当に歌を歌いながら歩く。求人情報なんかは掲示板にまとめて貼られているのでは、というのが私の考えだ。だから人が集まるところに行けば自ずと見つかる、はず。





「あ、あった」


 しばらく歩いてたどり着いた広場のようなところに、予想通り求人情報の集まった掲示板があった。何年か前に貼られたのであろう古びた紙から、最近のものらしいカラーの紙まで様々だ。何年か前のものはもう人がいるかもしれないので、新しそうな紙からよさそうな仕事を探す。

 じっくりと紙を眺めていってわかったのは、求人を出すだけあって仕事内容は過酷なものばかりだということだ。条件はよくても力仕事だったり、危険だったり。この町にはこれだけなのだろうか、と溜息を吐きたくなっているところに、新たな紙が貼られた。


「教会の手伝い……? 住み込みの三食つき、給料は日給制、三百ガル……!」


 日給三百ガルというと、単純計算で月九千ガルだ。魔王様から支払われる給料と合わせると一万四千ガルになる。三食ついてしかもこの給料、逃すわけにはいかない。

 その紙をべりっと剥がして、所定の場所へ向かう。こんなに早く好条件の仕事が見つかるなんて思ってもみなかった。気づけばスキップをしてしまっていそうなテンションを、落ち着け自分と言い聞かせて深呼吸。しかしこのなんとも言えない高揚感はそんなことでは落ち着かなかった。


(教会の手伝いってのがどんなものかはわからないけど、生活のためなら頑張れる!)


 どんな過酷なものだとしてもやってやる、と心に誓っている間に、地図が指し示す場所に着いた。まあ、教会だよね。大きな鐘が印象的な立派な教会だ。

 仮にも悪魔が教会に入るというのはいかがなものだろう。そんなことを考えながら門を開ける。何故こう、門というものはどれもこれも大きいのか。微妙に重くて疲れる。


「すみません、求人情報を見て来たんですけど」


 扉に向かって少し大きめの声で言うと、中でどたばたという音と男性の怒鳴り声が聞こえてきた。何事か。

 人がいることには間違いないので扉が開くまで待つこと五分。静寂がようやくおとずれたところで扉は開いた。


「申し訳ありません、お待たせしました。どうぞ中へ」

「はい」


 金髪碧眼の男性が少し疲れたような表情を見せながら中へ誘導してきたので恐る恐る入る。彼は不思議に思っただろうが、悪魔が教会に入って何事もない保証はなかったので、仕方がないと思う。天罰とか。何もしてないけど。勇者にはしてるけど。


「アーロン神父。早速求人情報を見た方がいらっしゃいました」


 通された部屋は少し広く、客人用の部屋なのだろうか、イスとテーブル以外の家具はなかった。

 白髪にふさふさの白ひげをたくわえたおじいさんはこちらを見て、目を細めてどこか嬉しそうな声音で喋り始めた。


「おうおう。ありがたいことじゃて。初めましてお嬢さん、神父のアーロンと申します」

「レイラと申します。あの、仕事内容をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「せっかちじゃのう。お茶を淹れますので少々お待ちくだされ。エディ」


 エディと呼ばれたさっきの男性は一礼してからどこかへ行ってしまった。アーロン神父が立つ様子はないから、お茶を淹れに行ったのだろう。お気を使わず、と言っても聞いてくれなかった。



「お待たせしました」

「あ、ありがとうございます」

「すまんな、エディ。……さて、仕事の話ですが、お嬢さんに頼みたいのはこの教会で預かっている子供たちのお世話なのです」

「……預かってる、とは」


 幼い子供が預けられる保育所のようなものの代わりをしているのだろうか。それとも、その子たちにはなんらかの理由で親がいないのだろうか。

 どういう意味なのかを知りたくて尋ねると、どうやら後者だったようで。


「あの子たちはね、可哀想な子たちなんですよ。生まれてすぐに捨てられた子もいれば目の前で親を殺された子もいます。そんな子を預かっているのですが、この教会には私とエディしかおりませんので、どんどん数の増える子供たちの相手をしきれんのです」

「それで求人を……」


 さっきのエディ神父の表情を思い出す。疲れのたまっていそうな笑顔だった。扉が開く前の怒鳴り声は彼のものだったに違いない。いつもあんな調子なら、疲れはたまっていく一方だろう。


「雇っていただけるのでしょうか」

「それは勿論、こちらからお願いしているのですから。人が一人増えるだけで大分違うでしょう」

「じゃあ今日からでも働かせてほしいのですが、大丈夫ですか?」

「よろしいのですか? 是非、よろしくお願いします」


 アーロン神父と握手を交わした後、エディ神父に連れられて子供たちに挨拶をしにいく。

 これは確かに、二人では手こずる人数かもしれない。いち、にい、さん……二十人ほどのいたずら盛りの子供たちがそこにはいた。これはもしかすると、一番過酷な仕事なのかもしれない。

 ひきつる口元をきゅっと引き締め、子供たちに向かって一礼し、自己紹介をした。


「今日からこの教会でお世話になります、レイラです。よろしくお願いします」

「……子供相手ですから、そんなに固くなくていいんですよ」


 そうか、あんまり固いととっつきにくいのか。子供たちの方を見ると、何この人、という表情から変わっていなかった。

 子供たちが懐いてくれないと職務怠慢だかなんだかで追い出されてしまうかもしれない。焦った私は無理矢理笑顔を作り、よろしくね、と言ってみた。今度は反応よく、よろしくねー! と大きな声で返された。よし、当面はこれで大丈夫。だと思う。


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