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予定外


 翌日。早朝から勇者が泊まっている宿屋の元へ駆けていく。予定が早まったので私たちの計画を教えておくためだ。







「――こんな感じかな。大分大雑把に説明したけどわかった?」

「わたしはわかったよー」


 勇者が額に手を当てながら本気か、と聞いてきたので勿論と笑顔で返した。

 本気でなければこんな計画立てないし、ザジだって手伝ってくれなかっただろう。つまりはそういうことだ。


「じゃあまた明日、返事を聞きにくるから」

「はいはーい。じゃあまたね、レイラちゃん」


 ぶんぶんと大きく手を振るキリカに軽く振り返して教会への道を行く。彼女は見たところ十七くらいなのに、精神年齢が幼い。気が抜ける相手ではある。

 それにしても、取引だというのに「少し考えさせてくれ」だなんて。もしかしたら決裂、なんてこともありうるのかもしれない。

 勘弁していただきたいところである。まあ無理強いはできないのだけれども。




「お帰り、レイラ。どこに行ってたんだい?」

「ちょっと散歩にね。おなかすいたー」


 ぐでんとテーブルに突っ伏し、子供たちはまだ起きてないのー? と間の抜けた声で尋ねる。

 うん、私はまだ頭が覚醒しきっていないんだ。あれだけ会話したのに。


「もうすぐ準備できるから起こしてきて」

「ふあーい」

「……レイラ、目が半開きだぞ」


 くすくすとアーロン神父が笑っているのがわかったけれど、眠いものは眠いのだから仕方がない。

 あ、さっき真面目な話をしたから余計に眠いのかもしれない。




「ほらほら、みんな起きてよー……?」


 扉を開けると、数人の悪魔が窓から侵入しようとしているところだった。

 え? 昨日の今日でもう別の悪魔がここに来るの? ここにめぼしいものはないよ?


「……あ、お前レイラじゃねえの? 羽も尻尾もねーからわかんなかったぜ!」

「うるさい黙れ帰れ」

「な、なんだよ。金目のもんとったらすぐ帰るって」


 金目のものなんかないからさっさと失せろ。

 精一杯の低い声で言うと、ひっ、わかったよ、と雑魚らしく慌てて窓を越えて外へ飛び出していった。そんなことで出て行くなら最初から来ないで欲しい。

 それにしても、この子たち起きてないだろうな。今の話を聞かれているとまずい。


「レ、レイラ……」


 その声に反応して窓から視線を外し、ゆっくりと見渡すと、何人かの子がむくりと起き上がって怯えた表情でこちらを見ていた。

 ああ、もう駄目なんだな。

 近くにいた子の傍に座り込み、そっと手を伸ばす。近づいてくる手にびくりと反応したその子に、触れようとしていた手の動きを止める。

 怖がらせちゃったね、ごめんね。

 苦笑してゆっくりと立ち上がり、朝ごはんだからみんなを起こしてあげてねと伝えて部屋を出る。

 こんな形で出て行くことになるとは思いもしなかった。


(ごめんなさい、みんな)


 いきなり何も言わずいなくなった私にエディとアーロン神父は疑問を持つだろう。

 そして、子供たちの口から聞くのだ。

 私が悪魔であると。


「……町に行こう」


 一刻も早くここを離れなければならない。お別れなんて言ってる場合じゃないし、荷物を持ち出している暇もない。

 持っているものといえば、今まで貯めた貯金とコム石、エディから渡された十字架、それとずっと愛用している短刀くらいだ。

 旅をなめるなと言われそうだがずっと短刀と少しのお金だけで旅をしていたんだ。旅をしてたっていうか行き倒れてたっていうか。

 まあ、とにかく、行き当たりばったりはよくあることだ。なんとかなるだろう。


 行ってきますと誰に言うでもなく呟いて窓の桟に足をかけて飛び出る。

 困ったなあ。明日まで待ってくれと言われているのに、今から行って大丈夫だろうか。

 先のことを考えて気が重くなりながらもコム石を取り出す。


「…………あ、ザジ?」




***




「時間がないだあ? なんだよいきなり」

「ごめん、ホントごめん。」


 さっき訪れたばかりの宿をまた訪問して、今度は何をしにきたんだと言わんばかりの視線をめいっぱいに浴びせられながら平謝りする。

 私の事情でいろいろと変更しちゃってごめんって。反省してる。全力で。


「なにかあったの? いきなり時間がない、なーんてさ」

「……別に何もないよ。とにかく悪いけどすぐに返事を聞かせてほしい。受けてもらえないなら、悪魔連中だけでどうにかできるところまでやるから」


 数十分前に話したばかりのものをすぐに結論を出せというのは無茶だと思ってる。

 できればここに寄らずに脇目もくれずこの大陸から離れたかったんだけどね。そうもいかなかったもので。


「俺たちにとっちゃお前の言う計画は好都合だ。だから、協力する」

「わたしたちはレイラちゃんの味方だよー」

「味方じゃない。あくまでこれは取引だ」


 三者三様。

 キリカは私を悪魔だと理解しているのだろうかと疑問が浮かんでしまう。

 長髪お兄さんは物事を冷静に見ていると思う。私がどういう性格をしていようと悪魔は悪魔と割り切っている。

 勇者は勇者で少し悩んでいるように見える。悪魔も十人十色だと知って思うところがあったのだろうか。

 なんていうか、面白い人たちだ。


「もう出るのか? 俺たちはそれでも構わねえけど」

「うん。……もう、いいんだ」


 十字架を握り締めながら言う。

 完全に知られてしまったのだから、私はもうあそこに戻るわけにはいかない。

 ……エディのこの十字架、私の手から返してって言われてたのにな。


「私の仲間とはもう連絡がついてる。すぐにこの大陸を出よう」


 旅に出ている間にザジと合流できる。逐一現在地なんかを報告するつもりではあるけれど、そううまくはいかないだろう。

 だから多分、うまく行けば三日、遅ければ最低でも一週間はかかる。

 あ、そういえば大陸間の移動ってどうするんだろう。






「…………なにこれ」


 私はあんぐりと大きな口を開けて目の前の巨大な物体を見上げた。

 町からは全然見えなかった。ていうか海ってこんなに近かったっけ。空からしか見たことがなかったから距離感が全く掴めなかった。

 もしかして、この物体で移動するのだろうか。


「船に乗ったことないのか?」

「ないよ。だって、飛べるんだもの」


 わざわざ海を渡る必要はない。人間にも空を飛ぶ道具的なものがあるんだと思っていたのだけれど、そんなことはなかったようだ。

 これは想像してたよりも大変な旅になるかもしれない。

 先が思いやられた私は、はああと深く溜息を溢した。


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