満月
あの話から数日が経った、輝夜は翁達にも月に帰らされるかもしれないと話をしたらしく帝から大量の兵士が送られてきた。
邪魔にならなきゃ良いが。
俺は俺で月の使者を殺す方法を考えていた。
そして、満月の夜がやってきた。
「いよいよだな」
「そうね、私はコイツら兵士には期待してないけど貴方には少し期待してるのよ、だから頑張って頂戴な」
「はははは、都一の美人の期待されたのなら応えてやらないと罰が当たりそうだ」
そんな事を話していると雲の間から満月が見えてきた。
兵士達は月を見て口々に
『綺麗な月だ』
と言っている、まあ、リラックスしているのなら良いけどな。
と考えていると輝夜が突然叫んだ。
「来るわよ!!」
何!?
天を仰ぐと月から怪しげな牛車が飛んできた。
まじかよ!?あんなので普通飛べねえよ!?
そのまま牛車を見ていると牛車は突然眩しい光を放った。
すると兵士達は口々に
『手に・・・手に力が入らん!?』
何!?良く見ると光は兵士達の体の中に食い込んでいた、さらに目を凝らすと兵士の体を流れる微量の霊力が吸いとられていた。
まさか、あの光で霊力の流れを途切れさせて四肢の動きを封じたのか!?
幸い光は一定以上の霊力には逆に消されてしまうらしく俺の体には影響は無かった。
「鬼雅!?無事?」
「大丈夫だ」
成程な、この程度だったらいけそうだな。
牛車にかかっている簾が開いた、中には赤と青の変な服を着た女がいた。
「永林!?」
「知り合いか?」
「ええ、ちょっと待ってて!」
輝夜は永林とか言う女の元に走っていく。
ふうむ、あの女が敵で無いとしても周りの使者どもは分からんしな、一応保険はかけておくかな。
輝夜が戻ってくる、嬉しそうな顔だった。
交渉は成功か。
「永林は何とかなったわ、ただ周りの人はどうにもならないみたい、独自で命令を聞かされているみたいで永林の説得に応じないそうよ」
「理解した、すると周りの兵士どもを殺せと言う事だな?」
「ええ、構わないわ、思いっきりぶちかましなさい!」
了解した。
俺は手に持っている呪符の一部に霊力を込める。
その途端兵士達の半数が爆散した。
「この呪符は貼り付けられた者の憎しみの大きさによって威力が上がる」
「すごい・・・」
輝夜は感嘆の声を洩らした。
しかし、兵士の何人かは無事に出てくる。
その手にはゴツい武器が握られていた。
牛車の中にいる女がこちらに叫ぶ
「その武器から放たれる光に当たらないようにしなさい!!」
ふむ、あたらないようにしろ・・・か。
中々にハードルの高い事を言ってくれるな。
そう考えつつ、俺は着実に光を避ける、しかし、軽く指に当たってしまった。
光を避け終わると指が抉りとられていた。
「な、なにあれ!?あんなの私知らないわよ!!」
「あれはマテリアルイーターと言って光に当たった部分を強制的に無にする原子変換光波を放つ銃なのよ」
いつの間にか輝夜のとなりにいる女、こいつかなり出来るな、あとでけえ。
「説明どうも」
「礼を言われる程の事は言ってないわ、結局光を避ける人は貴方なのだから」
言うねぇ。
そんなことを考えていると兵士達はゴツい装甲に身を包み始めた。
あれはなんだ?
「あれは霊波反射鎧よあれを着られたら霊力による攻撃は不可能になるわ!!」
へぇ、けどあいにく俺には意味が無いね。
「"がしゃどくろ"」
俺の体はみるみる巨大になり骨が剥き出しになる。
「何やってんのよ!!妖怪を出したって原子変換光波で消されちゃうわよ!!」
その声と共に光が俺に向かって放たれる。
俺の体は只でさえ骨だけなのに穴だらけになる、しかし、すぐに再生した。
『何!?』
兵士達は一斉に慌て出す、当たり前だ当たりさえすれば相手は消え去るのにも関わらず消えないのだから。
「残念だったな、霊波反射鎧だっけか?悪いが俺は妖怪なんでなそんなもの何の役にも立たんよ」
俺は一人ずつ殴ったり蹴飛ばしたり踏み潰したりして兵士を殺していく。
全員を殺す頃には相手の兵士はぐちゃぐちゃの肉塊になっていて原形が分からなくなっていた。
輝夜の方に向き直ると輝夜は良く分からないと言った顔をしていた。
「あ、貴方妖怪だったの?それに何であの光の当たっても何も起こらなかったの?何の能力なの?」
「質問が多い、俺は一人しかいないんだよ?それを考えて質問してくれ」
それを聞いて輝夜は何をまず聞こうか考え始めた。
すると、横から永林が現れて俺に質問をした。
「光に当たった時に一瞬だけ穴が開いてたわね、その後すぐに再生したけど、あれは何をしたの?」
「あれはな、がしゃどくろって妖怪知ってるか?」
永林は首を横に振る。
「がしゃどくろって妖怪はな死んだ武士達の思いの塊なんだよ、まだ生きたい、死にたくない、そういった思いががしゃどくろの体を作っているんだよ」
「つまり、思いが消えない限り即ち即死しない限りは再生し続けるのね」
「ああ、そういうことだ」
「それからもう1つ、貴方、最初に見たときは霊力を持った陰陽師に見えたのに今は妖怪になってる、どういうこと?」
「最初に人間に見えたのは犬神だからだよ、犬神は人間が作った特殊な妖怪だからな、霊力を扱える代わりに妖力が扱えないんだよ」
「成る程、それを利用して人間に化けてたのね」
「よーし、まとまったわよ!早速質問よ!」
輝夜は漸く質問の内容がまとまったらしい。
「輝夜、質問はもう終わったわよ」
「え!?まだ質問してないわよ?」
「そろそろここに誰かがくるだろう、幸いがしゃどくろになったときに帝の兵士は気絶したらしいからまだ誰にもバレていない、雲隠れするなら今のうちだろうな」
「そうね、姫様、彼もそう言っているようですし質問はまた今度にしましょう、とにかく今は逃げる事が先決です」
「う、うええ?」
「それじゃあ縁があればまた会おう」
「待って!」
「なんだ?」
「いや、お礼してなかったからさ、その・・・ありがとう」
「礼を言われる程の事はしてないさ、ああ、ついでに聞かせてくれ、永林さん、あんたが蓬来の薬を作ったのか?」
「ええ、そうよ」
「蓬来の薬を作ろうと思ったのは何でだ?」
「それは・・・ に作って欲しいと依頼されたからよ、決して私が作りたくて作ったわけじゃないわ」
「そうか、それだけ聞けば十分だ、じゃあな」
三人はそれぞれの道を歩きだした。
二人はあてのない未来の無い逃亡の道
一人は一つの怒りを土産に家族の待つ家への帰還の道を
歩きだした。
月面戦争に続きます。
因みにこの戦いでの月の使者の敗因は装備品の相性の悪さと武器の少なさ及び戦闘における精神力の弱さです。
月面戦争では今回の数倍の強さを持つ化物で構成されています。