三歩必殺
私は倒れ込んだ鬼雅を見た、この人間はあまりにも強すぎた、だけどその強さの秘密が分かった、この人間は半妖だ。
妖力が感じられないが恐らくまだ体にいる自身の妖怪の部分が目覚めていないからだろう。
萃香が鬼雅に会いたがっていた理由はこれか、わたしの予想が正しければ鬼雅は半妖でそれも鬼と人のハーフだ。
でなければ只の半妖に萃香が興味を持つ筈がないのだから。
しかし所詮は半妖、実力はたかが知れているものでしかなかったか。
真っ白な空間で鬼雅は目をさました、辺りを見回すが所在がまるで掴めない。
まるで夢のなかに居るような感覚、鬼雅はゆっくりと体を起こした、体の痛みは……無い?
何かおかしい。
「勇義に負けたって事か……」
しかし、此処は何処だ?
何処を見ても同じような景色だ、畳に襖、一見すると和室だが襖の向こうの景色がおかしい、どこまでも和室が続いている、外の景色が見えない。
その時
『お前が鬼雅か』
妙な気配を感じる、少なくともただ者では無いだろう。
しかし気配が異常過ぎる、まるで何百何千何億と言う化物が側に居るような気配だ。
「誰だお前は」
そこには黒い角を持った人影があった、奇妙な事にそいつの腕から枝のような物が生えていた、まるで木のような。
そしてそいつは鬼雅に向けて凄まじい威圧をしている、否、殺気だ。
『私が何者かなんてどうだって良い、要はお前の弱さが原因なだけだ』
鬼雅には目の前の化物が何を言っているのか分からなかった、弱いのが原因?
なんの原因なのかすら鬼雅には分からなかった。
「なんだ?お前は何を言っている?」
正直訳が分からなかった、いきなり現れた黒い影、そして突然の殺害予告、頭の回転が追い付かった。
『所詮人間、妖怪との戦いの場には合わなかった』
殺気!?
横に大きく跳ぶと鬼雅がいた場所には真っ黒な剣が生えていた。
剣の出所を見ると化物の腕の付け根だった、つまりは腕から剣が隆起している形だ。
「よく分からないがつまりはお前は敵ってことか」
何はともあれこの化物が敵ならばやることは一つ、殺すか倒すかして無力化する。
『今のを避けるのか、これは食べごたえがありそうだ』
化物は剣を腕に戻すと地面から薙刀らしき物を取り出した、薙刀と言っても真っ黒でどこが刃でどこが柄の部分なのかすら分からないが。
「お前は随分と滅茶苦茶な事をするな」
鬼雅は体の調子を確かめながら攻撃を警戒する、呼吸も落ち着いている、不思議と疲れがない。
『さっきの攻撃を人間が避ける事の方が滅茶苦茶だよ』
化物は武器を降り下ろしてくる、綺麗なフォームだ、だが綺麗すぎて動きが読みやすい、所謂、型にはまった者の戦い方だ。
鬼雅は攻撃を紙一重で避けてカウンターの拳を浴びせる、化物は簡単によろめいた、一瞬誘っているのかと思ったが本気で痛いらしく殴られた場所を気にしてまったく攻撃をしてこない。
鬼雅はそれをチャンスと受け取り追撃の連打を食らわせた、すると相手は吹き飛んでいく。
言ってしまえば弱い、あの化物はさっきから無茶な行動ばかりして何がしたいのか分からない。
『ぐう……』
受け身をとる事すら出来ず地面に倒れ伏す影、鬼雅は警戒しつつそれに近付く。
「俺を殺すんじゃ無かったのか?このままじゃ何年掛かるか分からんな」
鬼雅は相手を挑発する、面白いほど容易く誘いに掛かる、弱すぎる。
『貴様!!』
人影の奴は立ち上がり向かってきた、だが愚直に突っ込んでくる人影の動きはあまりにも単純で読みやすかった。
相手の拳を片手で受け止める、が流石に相手の力は強く受け止めた手のひらごと殴り抜けようとしてきた、鬼雅はその勢いを利用して逆に体をずらしてそのままの勢いで投げ飛ばす。
「こんなものか?」
鬼雅は落胆した、この戦いには何もない得るものも独特の緊張感も無い、はっきりと言えば面白くなかった。
鬼雅は近くの壁に寄りかかった、一応警戒はしていたが攻撃はしてこなかった、恐らくもう何もしてこないだろう。
『…………』
影は鬼雅を見ている、目があるのかも分からないが鬼雅にはそんな気がした。
鬼雅はさっきまでの戦闘を反芻して影に聞こえる様に話し出した。
「最初の一撃を見た感じ力は強いのかもしれないが動きが単純だ、いちいち型に嵌まったような攻撃をするから挙動が大きい、速さがあっても軌道が見えると何の意味も無い、ついでに言えば動きに独自性が無くつまらない」
黒い人影はもう立ち上がらなかった、そのかわりにうずくまってしまった、時々嗚咽とか泣き声とか鼻水を啜る音が聞こえるだけになる、恐らく泣いてるのだろう。
『……そうだよね……私は妖力ばっかり大きい、でも実力は普通の鬼にも劣る…………どれだけ頑張っても全然勝てない…………』
鬼雅は思った、鏡のようだと、実力はあるが地力が無い、所詮は人間でしかなかった。
「…………」
鬼雅が何も言わないにも関わらず影は話すことを止めない、色んな声が聞こえる、部屋中至る所に泣き声が聞こえる。
『長い間生きるために……精神を自分の子供に……移す事が出来るようになった、妖力の扱いも上手くなったよ、でもまったく勝てないんだ、体となる子供の最も身体能力が高い時に乗っ取れば相乗効果で力が強くなる、そこにさらに記憶と経験の共有をすればいつか誰よりも強くなれると思ってたのに……私はその子供にすら負けた……』
鬼雅は直感的に理解した、この化物が幾つもの妖力を備えている理由を、そしてこの空間の意味を、泣き声の正体を。
鬼雅は影に言った。
「力だけで圧したところで勝てる者は少ない、要は技を磨かなければ弱い」
化物は涙を流す、鬼雅が言いたい事が直感で分かったのだろう。
しばらくすると漸く落ち着いたようだった。
泣き止むまでの間、鬼雅は自分が人を宥めるのは得意では無い事を知った。
『……ねえ』
影は鬼雅の方に向かって歩いてきた、鬼雅は何も言わずにその行動をじっと見詰めていた。
「なんだ?」
『私の力……あげるよ……分かってたんだよ、私には戦闘のセンスが無いことくらい……でも認めたくなかった、それで気づいたら私は弱いものいじめになってた』
強い者になるには多少の努力では成れない、戦闘のセンスが無いものが強者になるなんて事は天地が引っくり返っても有り得ない。
「……」
『だから私は力を本当に必要としている君に全てをあげる、私はもうどうしようもない……消えるだけ……』
老兵はただ死なず、消え行くのみ
余計な弱さは要らないと判断した上での結論なのだろう、鬼雅には影がどこか悲しそうな表情している様な気がした。
「……そうか」
鬼雅がそう言うと影は何かを割りきったように顔を上げた、鬼雅はそれを横目で眺めながら周りの景色を眺めた、相変わらずの和室だがどこか心が休まる、そんな空間だ。
『私はいなくなる、この力を使う者が君に変わる、それだけの事』
影は段々と薄れていく、そんな中に誰かの顔が見えた、涙を堪えようとして逆に涙を流してしまっている必死な表情、鬼雅はそれを見なかったことにした。
『私はもう強くなる事がどうでも良くなってしまってね、ひょっとしたら私が今日まで生きてきた理由は君に私の全ての力をあげる為だったのかもしれないな』
鬼雅は影が言っている事を理解出来なかった、だが何故だか影からは優しげな感情を読み取れる、そんな感覚だった。
彼女の影は段々と薄れていく、そして俺の頭の中には彼女の何百年もの
経験
記憶
能力
妖力
を詰め込まれていく。
「俺はお前の名前を聞いて無かった、最後に教えてくれよ」
『ああ、いいよ、よく聞いてね私の名前は…………』
途中でその言葉は声にならなかった、しかし鬼雅はその名前を覚えた、そして何度も何度も頭に擦り付けるようにして反芻した。
鬼雅一人だけになると彼がいる和室はゆっくりと崩壊を始めた、恐らくは元の所に戻るのだろう。
ならやることは一つ。
怪力乱神
死んでも一発は当ててやる。
…………
……
勇義は冷や汗を垂らす。
彼女はこれ程の威圧感を一人の敵から感じた事など無かったこの感覚、この緊張感……まるで何十人もの強敵を前にしているようだった。
辺りの空気が生温く感じる、そして次の瞬間には元の冷たい風に背筋を冷やされる。
勇義の前で倒れていた筈の鬼雅は今、しっかりと二本足で地を踏みしめて立っていた。
「勇義、久しぶりだな」
滅茶苦茶な男だ、これまで纏っていた空気が、殺気がまるで玩具の様だ。
最早彼は人間ではないだろう、今の鬼雅はまさに、本物の妖怪だ。
「確か俺はあんたに名前を名乗って無かったな……名前は知っているから無用かと思ったが、今此所で名乗らせてもらう」
目の前にいる鬼、彼の話す一言一言に凄まじい重圧がか
かる、今、この瞬間に一瞬でも気を緩めれば……確実に負ける。
「俺の名前は……雅やかな鬼、で鬼雅だ」
雅やかさなど欠片ほども無い筈なのにその名乗りにはどこか清々しさが感じられ、どこか雅やかさを持っているように感じた。
「来い……怪力乱神」
「妖怪の力があるからといっても怪力乱神の力に勝てると思ってるのかい?」
鬼雅は勇義の言葉を聞いて不敵な笑みを浮かべた、そして自分の体に流れる妖力を練り上げ全身に纏わせた。
すると、体を包んだ妖力は装飾も何も無い武骨な武者鎧へと変化した。
「"大百足の鎧"」
すると勇義は取り乱した様に動揺した、自分の予想とは違う物があることが彼女の動揺を誘ったのだろう。
「大百足だと?鬼と人の子じゃ無かったのか!?」
鬼雅は全身に流れる力の流れを感じとる、そして力と共に受け継がれた経験と記憶を頼りにその力を少しずつ操っていく。
それが勇義の問い掛けに対する答えだった。
「……戦えば戦う程に強くなっていくだなんて……面白い奴だ…………いざ!尋常に!」
勇義は素早く鬼雅の前に一歩を踏み出し一気に間合いを詰めて拳を放った、しかし今の鬼雅にはそれを見切るだけの目も力も有った。
「速い!?」
俺はその拳をたやすく避けてカウンターの薙刀を振った、薙刀は勇義の肩を豆腐の様に切り裂く、勇義はこれまでとはまるで違う戦い方に警戒し、一度後ろに退いた。
「その速さ、天狗の力か?」
勇義は今の鬼雅の実力がまるで分からなかった、捉えられない強さ、つかみ所が無い不気味な存在。
「さてね」
鬼雅は勇義に向かって走り出す、まずは薙刀を縦に降り下ろす、勇義は回し蹴りを薙刀に放って狙いを逸らせ、続く一撃に右ストレートを繰り出す。
すると鬼雅は咄嗟に薙刀を捨てて左手で右ストレートを掴み取り足を払った、勇義がバランスを崩した所に強烈な頭突きを喰らわせた。
ズドン!!
勇義は一瞬地面にめり込みその叩き付けられた時に起きた反動で起き上がり、鬼雅の頭に膝蹴りを返した。
二人はお互いに傷を負いながらも隙を見せずに間合いをとった、再び睨み合いだ。
「動きは既に人を超えているね」
「だからと言って仲間の無念を晴らすための心まで失う気は無い、まだまだ行くぞ」
鬼雅の体から凄まじい妖力が放出している、鬼の力を解放したのかもしれない。
勇義は自分がいつになく興奮していることに気が付いた、嗚呼、私はこれから殺し合いをするのだ一方的な虐殺などではない、本当の殺し合いを。
鬼雅は興奮する勇義とは裏腹に冷静に構えをとった。
「行くぞ、勇義」
「見せてみな!お前さんの本当の力!!」
勇義は今までとは違ってその場で構えた、今まではこちらに向かってただ殴るという事しかしなかった事を考えると今までが手抜きだったという事だろう。
しかし不思議とこれまで手を抜かれていた事に怒りがわく事は無かった、むしろこれからお互いに本気を見せ合えるという喜びが体を支配していた。
向こうがこちらの出方を伺うのならそれに甘えさせてもらおう、鬼雅は妖力を固めた槍を作り出して同じように構える。
片足を踏み出し全身の筋肉が軋むほどの力で思いきり投げた、槍は空気を引き裂きガクガクと暴れる。
「なっ!?」
槍の形状に細工が施されていたのだ、わざと空気の抵抗を受ける形になっていたために一直線の筈の槍は複雑な軌道を描いて飛んでいく、勇義は槍の軌道を読めなかった。
しかし、咄嗟に地面に伏せる事で槍の軌道から大きく体をずらして回避した。
「槍に気をとられるな」
勇義は声のする方である上に首を向けた、そこには拳を構えながら勇義に向かって落ちてくる鬼雅がいた。
勇義はそれに気付き避けようとする、しかし伏せた状態から立ち上がる時に足を縺れた時の事を考え、逆に向かえ打つために拳を構えた。
「来い!!」
「喰らえ!」
勇義は鬼雅の拳に向かって同じく拳を突き出した、御互いに拳をぶつけ合わせる、しかし拳が触れ合ったのはほんの一瞬、今度は蹴りを繰り出す。
御互いに繰り出す技が同じ、その為御互いに違う技を出したときと先に音を上げた時に勝負が決まる。
そして技の応酬の最中鬼雅の体が地面に触れた、そして体勢を整える為に無意識に体を捻った、それを勇義は見逃さなかった。
「吹き飛べ!」
勇義は手刀を鬼雅の脳天に向けて降り下ろす、鬼雅はそれに素早く反応を見せたものの避けることは出来ず腕でガードを行った、しかし咄嗟の反応で腕を高く上げてしまった事で胴体ががら空きになった。
勇義は手刀から回し蹴りに素早く切り替えて鬼雅の鳩尾に脚を叩き込んだ。
「ガハッ!」
鬼雅の体は一瞬宙に浮いたものの何とか体勢を整えて着地を行った。
勇義は今の一撃を当てた事で今を勝機と捉えた。
「次は此方からいかせてもらうよ!」
勇義は再び構えをとる、しかしさっきの構えとは僅かに違う、俺は警戒して様子見をしようとした、その瞬間だった。
いつの間にか勇義は俺の目の前にきていた、勇義の目は笑っていない、それは確実に鬼雅を殺すための人殺しの目だった。
「……三歩必殺…………」
勇義は一言そう言うと攻撃を始めた。
一歩目、
こちらの足を狙うような下段攻撃、とっさに鬼雅は上に跳んで避けた、恐らくはこの時点で全てが決まったのかもしれない。
二歩目
左右の腕からの同時攻撃、腕と腕の間にある隙間に入り込んでやり過ごした。
「この程度の攻撃、大したこと無いな」
鬼雅は相手を挑発するが勇義が怒るような事はなかった、むしろ勇義は笑っていた、それは勝利の笑みだった。
鬼雅はそこで漸く理解した、今までの攻撃は囮だったのだと、必殺の一撃を当てるための逃げ道を塞ぐための布石だったのだと。
三歩目
逃げ道のない俺の体の正中線上にある鳩尾に勇義は渾身の一撃を放った。
「グハッ!」
だが、鬼雅は痛みに顔をしかめながらも体制を崩さずに着地しようとする、しかし三歩必殺の名は伊達じゃなかった。
勇義の拳は鬼雅の喉元を撃ち抜いた、鬼雅の体は着地の為に意識を飛ばしていた為に完全にノーガードだったのだ。
「やはり硬いね、大百足の鎧は……でもこれで終わりだ」
喉元に強烈なアッパーを喰らった事で鬼雅の体は再び空中に戻された、そして勇義は拳を強く握り締め、鬼雅の両方の横腹に連続して拳を叩き込む。
ズドドドッ!!
「ぬうう……!」
鬼雅は衝撃をひたすらに耐え続ける、しかし無情にも勇義の連撃は未だ始まったばかりだった。
そもそも鬼雅は今大百足の甲殻を鎧として纏っているために、三歩必殺の威力が抑えられているのだ、しかし三歩必殺は一度でも入れば文字通り必ず死ぬ大技、生半可な防御では痛みを長く感じるだけの拷問でしかない。
このまま連撃の終わりを待っているだけでは確実に負ける、鬼雅はそれを悟った、そして一か八かの賭けに出た。
「ぬおおお!!」
痛みに耐えつつ勇義の顔に触れようとする、だが勇義は片手でその手を払った。
しかし鬼雅は笑った、片手の連撃を止めたことで攻撃に隙が出来たのだ、鬼雅は地面に一瞬脚を付けて再び跳躍した、そして膝蹴りを勇義の顎に叩き込んだ。
勇義の体が揺れる、怯んでいるのかも知れない、しかし鬼雅は攻撃を続ける、今度は落下の勢いを利用して勇義の後頭部に頭突きを喰らわせる。
「ぐああっ!」
下と上の両方に強烈な一撃を喰らった事で勇義は頭を押さえて呻く、その隙に鬼雅は勇義に一切の容赦無く右ストレートを叩き込んだ。
「ぐっ!」
勇義の体が後ろに大きく飛ばされる。
しかし鬼雅もまた地面に膝を付けた、勇義の渾身の一撃を受けて大百足の鎧は使い物にならなくなった上にあれだけの連撃、流石の鬼雅も体が上手く動かない。
「……中々効いたよ"三歩必殺"」
鬼雅は余裕を見せようと強がったものの口の端からは血が垂れ、息が上がっている。
勇義の方も鬼の異常なまでの頑丈さを見せ付けているもののやはりお互いに満身創痍だった。
「"三歩必殺"というからには必殺するつもりだったんだけどね・・・、まだ全然ピンピンしてるね」
勇義の額には汗が滲み、体が忙しなく右に左にふらついている。
「……そっちが必殺技を出した以上此方も出さないと失礼と言う物だ、次はこちらの番だ」
鬼雅はふらつく体に鞭打って構えをとる、すると勇義は力無く笑いながら強がった。
「なら精々避けさせてもらうさ」
俺は武器を只の妖力に戻し身体中の妖力を腕に集めた、すると妖力は鎖となって腕に絡まっていく、これは一撃に全ての力を込める事で威力を重たい物にしているのだ。
「"鬼骨鎖腕"」
腕に絡まった鎖は今度は地面に向かって伸びていき、次々と突き刺さっていく。
「?何の技か知らないけどこれがお前さんの必殺技かい?言っちゃ悪いけど期待はずれだね」
勇義はこれのどこが必殺技なのか分からず眉を潜めていた、鬼雅はそんな勇義に笑いかける。
「まあそう言うな、此処からが面白い」
すると、勇義の近くの地面から無数の鎖が飛び出し勇義の体に絡みつき勇義の動きを封じた。
鬼雅はその間に一つの棒を作り出す、するとその棒に鎖が巻きついて棍棒の様な形に作り上げられていく。
「金棒……まさに鬼だろう?」
鬼雅は金棒を肩に担ぐと一歩を踏み出した、ズシンと音を立てて地面に足跡が付いた。
凄まじい重量を鬼雅はものともせずに勇義に向かって少しずつ、そして段々と速度を上げて走り出す。
「……耐えて……見せる」
鬼雅は金棒を構え、静かに持ち上げた。
「鬼の金棒喰らっとけ!!」
そして勇義に向かって思いきり降り下ろした、欠片ほども容赦は無い。
バグォォォォン!!!
凄まじい音と衝撃が起こり勇義のいた場所の一帯はまるで隕石が落ちたかのようなクレーターが出来ている。
その中心に勇義は居た、それも両の脚を地面に立たせて、しかし鬼雅はそんな勇義を見て呟いた。
「……立ったまま気絶してるのか」
どうやら勇義は完全に意識を失ったようだった、しかし息はしていたのでまだ生きているだろう。
金棒を妖力に戻しながら俺は意識のない勇義に言った。
「俺の勝ちだ」
心なしか勇義は笑みを浮かべているように見えた、気のせいかもしれないが。
さて、怪力乱神の勇義は倒せた、だが勇義並の奴等がどんどん出てきたら次こそ本当に死ぬだろうな、皆を助けられるかは運に頼る他は無さそうだ。
とにかく今気になる事は。
「次の相手は誰だ?」
そういう事だ。
改稿