第8話 マナを見る特別な眼
2時間日はとうとう魔法の実技の授業らしい。それに外の運動場で行うらしく、外に出てきていた。セシルによると、Sクラスは第1運動場という場所を使うようだ。少し疑問に思うのだが、第1ということは他にもあるのだろうか。
なんてことを考えているとすぐに運動場に着いた。そこには朝のショートホームルームの時にいた先生が立っている。そして、その周りにクラスメイトが集っている。急いだ方が良さそうなので早足で向かう。
「これで全員揃いましたね。じゃあまずゼノン君がいることだし、先生の自己紹介をさせてください。だって朝は時間が取れませんでしたから」
確かにそうだった。自然と受け入れていたが、先生の名前すら知らなかった。朝の時点では気になっていたと思う。それでも、歴史の授業のインパクトに潰されてしまっていた。
「先生の名前はサヤカと言います。Sクラスの担任兼魔法の授業を担当しています。なので、魔法関連で聞きたいことがあれば遠慮しなくて良いですからね」
先生は気持ちの良いぐらいにまっすぐ言ってのける。魔法は現在では使えないけど、使えるようになったら頼らさせてもらおう。でも、マナすら感じられない自分が魔法を使えるのだろうか?
「僕はまだ魔力すら感じられないんですけど、必要な時に頼らせていただきます」
「ゼノン君はまだ3歳ですから当然です。それと、魔力は早ければ今日にでも感じられるようになりますよ。生まれや才能などにも左右されますけど」
そんなに早く出来るようになるものなんだ。もっと長くなると思っていたが、杞憂に終わってくれて良かった。
これで僕も魔法が使えたり、記憶の場所が分かったりするのかな。
「この学校にはマナの濃度が限界まで高まっている場所が校内にありますから行きましょう。そこならマナを感じられるはずですから。他の皆さんは自由に自己研鑽しておいてください」
サヤカ先生がそう言うと各自で動き出した。彼らはこういったことに慣れているようにテキパキとしている。その動き出しに感心していると、セシルがこちらへ走ってきた。
「私も同行します。ゼノン様の行く末を見届けるのも私の役目なので」
セシルも一緒に行くことになったので、魔力の濃度が高い場所へと向かう。校内にそんな場所があるとは驚きだ。
サヤカ先生の後ろを歩いていると、周りはただの自然豊かな森が広がっていた。運動場からも見えていたが、こんなに深かったんだ。この敷地内にある森は進めば進むほど雰囲気が出てきた。喧騒に包まれた校舎とはあまりにも隔絶されている。
「世界中には魔力が集まる領域"マナ・レギオン"が複数個所あります。これから行く場所はそのうちの一つです。有り余るほどのマナに囲まれると逆に自身の内にあるマナが分かりやすくなるんです。一般生徒の中にゼノン様がいると一瞬で分かるように」
セシルの例えがイマイチ分からないが、身長という面で見たら確かにそうだろう。環境と体内で差異が生まれることで自分のマナが強調される。だから、感じ取れるようになる。という理解で良いのだろうか。
分かりづらい例えを噛み砕いて歩みを進めていると、目には見えないが異様な場所があった。なんとなくだがあそこがマナ・レギオンな気がする。確信はないが。
「ゼノン君着きました。あれがマナ・レギオンです
。ここからは私たちがいても邪魔なので、ここで見守っています。ですから、いってらっしゃい」
「危ない訳ではありませんが、お気をつけて」
2人に背中を押されて前に進む。草が生い茂っていて歩きづらい。それでもマナ・レギオンに向けて歩き続ける。すると、すぐに様子が一変した。よくわからない光の粒が漂っている。
これがマナなのだろうか?なんかたくさんあるし。
これで本当に自分のマナを感じられるようになるのだろうか?
まぁサヤカ先生いわくマナを感じられるようになるには個人差があるらしいので、ただ才能が無いだけかもしれないけど。
風が吹く度に木が揺れる。それらが作用し合って複雑な音色を奏でている。
けれどマナを眺めるしか現状出来ないので、早くも暇になっていた。小鳥のさえずりすら聞こえないこの場では手持ち無沙汰だ。そんな時に再びあの声が聞こえた。教室に入る前にも聞こえたあの声だ。
《やっとここに来たわね。こうやってまともに話せるのを待っていたんだから》
その声はマナから聞こえている。気のせいかと思って辺りを見回してみると、特に人の影は見当たらない。
そうやって困惑していると、マナが集まって形を成した。その姿は童話で読んだ妖精のような姿になっている。その体躯は小さくて吹いたら飛んでしまいそうだ。
《なにジロジロ見てるのよ…恥ずかしいじゃない》
「あっ…ごめん」
謎に謝ってしまったが、見てしまうのは仕方のないことだと思う。今までの人生でこんな生き物とは出会ったことがない。これもマナ・レギオンだからだと推察できる。
《え〜ゴホン、私がきちんと見えているだけで十分よ。今から私があんたの中のマナを引き立ててあげるから》
そう言ってから妖精は僕の体に入り込んできた。目の前で消えただけかも、という淡い期待は自分の中からの声で潰えた。これは完全に入られている。それでもなぜだか不快感はなく、胸のざわめきも収まってきたような気がする。
その感覚と同時に、体内で何かが主張し始めている。これが僕のマナなのだろうか?
《それがあんたのマナよ。あんた自身を存在証明するためのものでもあるから大切にするのよ》
段々と自らの中で聞こえていた声は小さくなっていった。それは眠るようにゆっくりと。その変化に戸惑っていると、辺りの景色の様相も変わっていた。
この森に来た時に見えていた光の粒の色や強弱などの情報が分かるようになった。これがセシルやサヤカ先生が見ていた世界なのだろう。
初めて見たはずの経験なのに既視感がある。自分が神だった頃の記憶の残滓でもあるのかな。
そんなことを考えても今の自分では何も分からない。だけど、マナが見えるようになったのでとりあえず戻ろうか。
行きの時よりも足は軽く、足元の草木をかき分けながら進む。すると、すぐに待ってくれていた2人の姿が見えてきた。
その2人の表情は芳しく無く、僕がマナを感じられるようになる前に帰って来たと思っているのだろうか?それでも近づくにつれ、僕の雰囲気が変わったことを嗅ぎ取ってくれたみたいで、表情が驚き一色に方向転換した。
「もしかして、もう終わられたのですか?」
ゼノン様といえども、マナを感じられるにはもう少し時間が必要だと思っていた。しかし、送り出した時と比べて覇気が出ていらっしゃる。これには流石と思わざるおえない。
「うん、終わったよ。この場に満ちているマナはくっきりと見える、色の違いさえも」
その発言を受けて空気が凍った。それに伴って体積が膨張し、今にも破裂しそうだ。この空気に耐えられずサヤカ先生が言葉を発した。
「い、色が見えたのですか?先生にはマナは全て無色透明に見えますけど…。セシルさんはどう見えますか?」
「私にもそう見えます」
おや…?もしかして僕が見えているこれらはマナでは無いのか…。どうやっても無色透明には見えない。多種多様な色の粒が自由に動き回っているようにしか見えない。
あの妖精が僕に何かしたのかもしれない。悪いことをするようには見えなかったが、イタズラ好きが災いした可能性も否定しきれない。
妖精に疑念を募らせていると、セシルが何かを思い出したかのように手を叩いた。
「そういえば聖典にマナの色に対しての記述がありました。それはおそらく"神眼"と呼ばれる特殊な眼だと思われます」
神眼はその名の通り神しか持っておらず、マナを色で知覚できる。その色が見えるようになると、相手が行使する魔法の種類も事前に知覚できる。
例え設置型の魔法だとしてもマナは残ってしまうが普通はマナの違いなど分からないので、目の前のマナが相手の物なのか自然の物なのか判別出来ない。このような場面では神眼なら判別できるので、非常に有効となる。
確かデメリットもあったはずだけど、そこまでは思い出せない…。
「神眼ですか…世の中には魔眼と呼ばれる特異な眼があるらしいので信じざるおえないですね。ゼノン君は嘘をつくタイプでもないでしょうし」
サヤカ先生は理解し難い部分も感じていた。しかし、教師としての経験上ゼノン君が帰ってきた時の雰囲気はマナを感じられるようになった子達と似ている。それに嘘を吐いている気も一切しない。
こうなると、ゼノン君とセシルさんを信じるのが正しい姿だろう。
「先生は神眼について信じます。ですが、あまり公言するような内容ではないですね…。最悪の場合はその情報を嗅ぎつけた秘密結社なんかに誘拐されて、細かくバラされる可能性すらありますから」
自分が細かくバラされる…。想像するだけでゾッとする。 なるべく秘密にしておこう。そう固く決心した。
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