第7話 初の授業
校長先生と話していたので始業時間からすこし遅れてしまった、アウェイな場所なのに。これはクラスメイトの自分への印象が悪くなってしまったかもしれない。
良くない思考が頭の中で渦巻く。初めての環境というのは慣れていない。だからこそこうなってしまう。
「心配なさらなくても大丈夫ですよ。Sクラスは変わった人たちが多いですけど、私が力で黙らせますから」
そう言われても全然安心出来ない。逆にさらに心配になってきた。自分一人でなんとか出来るように頑張ろう。そう強く思った。
時間的にはショートホームルームが始まっているぐらいなので廊下に人の姿は見えない。しかし、隣にある教室の窓からは僕たちの姿は見える。なので、知らない教室がざわめいている。恐らく頭のてっぺんが丁度見えるほどの高さに窓があるので、なぜ小さい子がいるのだろう?という、話が聞こえてくる。
それに関心を示さず、セシルは歩き続ける。まだ教室には着かないのだろうか?
「Sクラスの教室までは遠いのです。なぜならSに入るような者は魔法の素質に富んだ者しかおりません。そんな者の魔法が暴走した場合は多くの被害が出てしまうので、普通のクラスから離しているのです」
魔法は暴走することもあるのか…。文献ではその偉大さや素晴らしさのみ書かれていた。けれど、実際は良い面だけでは無さそうだ。それを理解して魔法を使えるようになろう。
思考を回している間にセシルは歩みを止めた。
「ここがSクラスです」
そう言われて目の前に意識を戻すと、先程見た教室より華やかさに溢れた教室があった。これがSクラスか。
中の様子は窓から少し窺える。どの生徒も特徴
に富んでいるように見える。こんな中に入ると自分の個性が消えそうだ。
「私が先に入りますからゼノン様もついて入ってきてくださいね」
セシルが扉を開けて教室に入る。それでも中々足が動かない。早く進まないといけないのに。自分の中で葛藤していると、どこからか声が聞こえてきた。
《もう、そんな態度じゃ神なのに舐められちゃうでしょ。胸を張って行きなさい》
その言葉と共に背中を押された気がした。
一歩踏み出すと足は軽く、胸に抱いていたわだかまりもいつのまにか消えていた。そして、自分も教室に入る。
「やっとお二人とも来ましたね」
「すみません。校長先生とお話していたので遅れていました。その内容はもちろんこの御方についてです」
そうセシルが言うと、視線が一斉にこちらに向いた。子供だからという理由ではなく、セシルが他人に尊敬語を使っていることに驚いていた。彼女は丁寧な言葉遣いを使っているが、"御方"などと言っている
「この御方は我らが聖教国が長年待ちわびていた神様が現世で受肉した姿です」
そうセシルが説明してくれたのはありがたい。しかし、クラスメイトたちの反応はまばらだ。興味深そうに見てくる人や逆に鋭い目つきで睨んでくる人、半信半疑といった反応の人もいる。
こんな状態でもまずは挨拶をしなくては。
「ご招介に賜りましたゼノンです。どうやら僕は神らしいですが、今はこの体躯からも分かるようにただの子どもです。なので一緒に学んでいけたら良いなと思っています」
言い終わると同時に頭を下げる。セシルから礼をする時は威厳を保つために深くしないでと言われている。
そして頭を戻すと拍手してくれている人がほとんどだ。ある程度は歓迎してくれているみたいで良かった。しかし、そんな中でもセシルが一際大きい拍手を送ってくれた。だから他の音がかき消されてしまっている。
「では、ゼノン君の席はセシルさんの隣に用意したので座ってくださいね」
先生に促されるままにセシルの後ろをついていく。その時、僕のことを睨んでいた子の隣を通ると足を突き出してきた。足を引っかけて転ばそうとしてきているのだろう。それでも引っかかってやる訳にはいけない。
タイミング良くジャンプする。すると、きれいに避けれた。そのせいか、 その人から舌打ちが聞こえてきた。何もしていないのに嫌われすぎではないか?
そう思いながら席につく。そのタイミングでちょうどチャイムが鳴った。 その音と同時に先生は教室から出ていく。これからの時間は自由時間と捉えて良いのだろうか。
少しあたふたしていると、廊下から大量の足音が聞こえた。それからひそひそ声が積み重なって、かなりの大音量になっている。
その内容が気になって耳を傾ける。
すると、「なにあの超可愛い子は?」「あの子が今朝聖女様と一緒にいたと噂の」などという声が聞こえてくる。やっぱり登校時目立ちすぎたようだ。
中には身を乗り出して僕のことを見ようとしている生徒もいる。そんなことを気にも留めず、僕に舌打ちしてきた生徒は勢い良く立ち上がり、教室の扉へ向かう。 そのことを廊下にいる生徒たちは気付いていない。
そのせいで通行の邪魔になってしまっている。
それにイラついたのか彼は語気を強めて吐き捨てる。
「邪魔だどけ、ゴミども」
そう言われてようやく気付いたのか、生徒の塊は道を空けていった。しかも、よく見ると生徒の顔は青ざめている。それだけ彼が怖がられているということだろう。
結局その後は生徒たちは自然と解散していった。
そのおかげもあってクラスは静かになった。この光景はクラスメイトの面々は慣れているのか、特に反応は見せていない。
僕も慣れるように頑張ろう。
休暇時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。すると、先程の先生とは違う方が入ってきた。何の授業を担当する人なのだろう。
「 先日の続きから始めたいのですが、編入して入ってきた生徒がいるのですよね。どうしましょう」
僕は教科書も未だにもらっていない。いきなりすぎて手配が間に合わなかったようなので仕方ないのだが。
「私がゼノン様にお教えするので大丈夫です。それにゼノン様は教科書がまだ届いていないので、席をくっつけて見せても良いですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
セシルが色々してくれるらしいので席をくっつける。こういう時のセシルは本当に頼りになる。
「私がたっぷりとお教えしますので任かせてください」
セシルが耳元で囁き声で話す。むず痒いから止めてほしい。もう席を離してしまおうかな。
「それでは歴史の授業を行います。悪魔たちが跋扈していた時代まで遡りましょう」
先生はそう言って指を鳴らした。すると、目の前の景色が変わった。いや、場所が変わった。先程まで座っていた椅子は無くなり、足で土を踏んでいる感覚がある。
これが魔法というものなのか。
この不思議な感覚に浸っていると、隣にいるセシルが説明してくれる。
「これはヒスリー先生の魔法です。教科書を魔力でコピーして、その世界をこうやって具現化できるのです。コピー出来る範囲は本なら何でも出来る、汎用性の高い魔法なんですよ」
ほぇ〜。それはすごい便利な魔法だ。何かしらの制限はあるのだろうが、自由度がすごい。流石Sクラスの歴史を担当する先生だ。こんな授業ならただ読書するよりも断然楽しい。
「あれがこの世界を危機に陥れた悪魔の王、魔王です」
そう先生が指をさした場所は空間が歪んでいた。その魔王の姿は人の形を模しているが、人ではない。恐怖の象徴とも形容出来るそれを前に足がすくんでしまう。
あれを僕が倒したのか…にわかには信じにくい。
それでも記憶を取り戻せば全てが分かるはずだ。だから、それまでは頑張ろう。
ゼノンがきちんと前を向いていた時、気弱そうな女生徒は彼に視線を向けていた。それは単純に自分の波長と合うような気がしていたからだ。自分の中で唯一自信があるのはこの勘だけだ。
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