第6話 初の登校と魔女
朝に目が覚めてから胸のざわめきを感じていた。いつもと同じ窓から差し込む光なのに、今日だけは世界がおかしく感じる。これはただ単に緊張故なのだが、非常に不思議だ。
他の子達もこのような感覚に陥るのだろうか?
与えられた自室を出て朝食を食べに行く。すると、ホクホク顔のセシルが現れた。その手には立派な服が持たれてある。あれはもしかして僕の制服なのかな。
「ゼノン様の制服持ってきましたよ!」
やはり制服だったのか。それにしては派手な気もするが、都会とはそういうものなのだろう。
「しかもデザインは私とお揃いです」
同じ学校に通うのだから、当たり前だと思うのだが…。まあ気にしなくていいか。それに制服はわざわざ学校の方から送ってくれたようで、やっと今日届いたようだ。
「持ってきてくれてありがとうね。ご飯を食べたら早速着てみるよ」
「楽しみにしておきます!」
その後は速く制服を着たかったので、急ぎ目で朝食を済ませた。一瞬喉に詰まりかけたがなんとか耐えた。そのせいでセシルに心配をかけてしまったから気をつけないと。
朝食をメイドさんに片付けてもらって自室に戻る。そして先程もらった制服に着替える。部屋には大きな姿鏡があったので、それから自分の姿を見る。
着るときから分かっていたが袖が余りすぎている。制服はオーダーメイドではなく、規定の物を着ないといけない。だから、サイズが全然合っていない。それに関してはもう諦めている。なのでこのまま部屋から出る。
どうやらセシルはいつも登校は馬車を使っているらしい。この城から学校まで徒歩で行ける距離らしいのだが、安全面を考慮した結果こうなったそうだ。
なので僕も便乗させてもらえるらしい。歩いて自分の足で街並みを見てみたかったが、この体の一歩が小さすぎて時間がかかってしまう。それがこの体の不自由なところだ。
「ゼノン様。そろそろ出発しますよ!」
呼ばれたので向かうとしますか。
転校初日なのだから張り切っていこう。どこかで読んだ本でファーストインプレッションは重要だと書いてあったからね。
胸のざわめきを少し感じながらも、期待感も膨れ上がってきた。そんな心持ちで馬車に乗っていると学校の校門が見えてきた。学校までの道のりは本当に短く、約10分程で大きな校門が見えてきた。
校門の付近には同じ制服を着ている子たちが複数いる。あの人たちと今後は一緒に学ぶことになるんだろう。そんな風に思っていると、その生徒たちから視線が向けられていることに気がついた。
「やっぱり目立っちゃうか〜」
少しぐらいは皆も馬車で登校しているんじゃないかという希望的観測をもっていた。しかし、周りには徒歩の生徒ばかり…そんな気はしていたが、さすがに気まずい。
大量の視線を浴びながら学校へと入る。馬車だけでも目立つのに、隣にセシルがいるのでさらに目立っている。
周りからは「聖女様の弟君なのかな?」や「いや、聖女様には妹君しかいなかったはずでは?」なんてことも聞こえてくる。憶測が飛びかってるみたいだが、それはセシルに説明してもらおう。その方が説得力があるだろうしね。
その後はセシルに教員室を書かれた部屋に連れられた。中には大人が大量に忙しく動いている。その中でも一際雰囲気のある女性がこちらを見ている。その人は若い容姿に反して風格のある女性だ。
その教員らしき女性は入口の方にやって来た。
「そんな所に突っ立っていないで内に入ったらどうです」
聖女相手に少しフランクすぎる気もするが、誰も咎めようとしない。 それだけこの人が偉いのか仲が良いのかは知らないが。
「では入らせていただきます」
セシルが教員室に入ると同時に女性はついてこいと言わんばかりの様子で歩き出す。
教員らしき人は教員室の奥にどんどん進んでいく。それに2人でついていくがどこまで進むのだろう。そもそもこんなに奥行きがあるのが驚きなのだが、さらに人の気配がしなくなっていった。
その日光も全然入らないような場所に一つの部屋があった。そこには "校長室"と書いてあった。
「今使える部屋がここしかなくてね。応接室が使えれば良かったのだが、あちらはあちらで取り込んでいてね」
部屋の中に入らせてもらうと、驚きの光景が広がっていた。辺りには毒々しい謎の物体や刃物など危険そうな物のバーゲンセールのようだった。これら全ては目の前の人の所有物なのだろうか。
「可愛い君も好きな所に座っていいよ。でも危ない物もあるから気をつけてね」
そう言われると怖くなるからやめてほしい。
僕たちに合わせて校長室の豪華な椅子に座る女性。そして、少し前のめりにになって言葉を発した。
「ここは私しかいないのだから本心を聞かせてもらえるかな」
僕を横目に見ながらいきなり本題に入る校長先生。(もし目の前のこの人が校長先生でないのなら、この状況にセシルがツッコむはずだから本物だろう)その表情は至って真剣で仮に嘘をついたとしても、すぐ見破られそうだ。 それに対してセシルはまっすぐと見据えていた。
「それでは真実をお話します。ですが、信じられない内容かもしれません。それでも私は神様に誓います。この後一切嘘偽りなく本心を話すと」
セシルの覚悟に校長先生は少し意外に思っていた。この子が神に誓うと言うとは…。この子は神に傾倒している。崇拝している。 狂信している。
1000年前に降臨した神が本当に存在しているか疑う生徒がいただけで罰するぐらいのイカれた子だ。
そんな子がここまで言っている。だから、真実だと分かるが正直怖い。
校長先生の顔色は少し悪くなっていったが、セシルは気にせず話し始める。
「まず重要なことを簡潔に言います。この御方は神様です」
そう言って僕の方にいきなり振ってくる。それに対して校長先生は口が開きまくっている。それほど衝撃的だったのだろうか?
少し時間が経つと、その開いた口がゆっくり閉じてきた。反応が面白くて笑ってしまいそうだ。けど真面目な場面なので我慢しよう。
「私は気にせず続けて。この調子で止まっていたら時間の無駄だから」
「分かりました。この御方は神様ですが、記憶を失ってしまっています。そしてその記憶を取り戻すためにはマナを扱えるようにならないといけないのです。ですので、この学校に通ってもらうことにしました」
先生の脳は信じられない情報の波でキャパシティを完全に超えてしまった。それでもこの場所の長は自分であるという自負のみで脳を無理やり動かす。
これでも彼女は長年生きてきた魔法使いである。その中でも特殊な家系の出自故に容姿の老化も遅いだけで、実年齢はもっと高い。だからこそ彼女は魔女と呼ばれる特殊な称号を与えられている。
「ひとまずその説明で納得しておくよ」
頭を抑えながら苦しげに言う先生。普通の人の反応はやはりこうなるのか。
僕は当事者だけど実感はあまりないのだが…。
「それにしても、ちゃっかり自分と同じSクラスに編入させて…。それだけのめり込んでるってことなら聖女様の自由にしてください」
校長先生は力が抜けたように背もたれにもたれかかる。
それになんか勝手に同じクラスにされているらしい。まあその方が自分としてもありがたいけど。
けれどSクラスとは凄いクラスに入れられそうだ。セシルがSクラスに在籍していているのだし、そのクラスメイトも同格ぐらいの偉さの人や、魔法の素質のある人が集まるんだろうな。
「先生の許可もとれたので早速教室に行きましょう」
「そうだね、行こう」
ソファから立ち上がって校長室から出る。そして、扉を閉める時に校長先生が僕に口パクで何か伝えようとしているみたいだ。それから話し終わった後にウインクされた。
謎の波動を感じたのか音速を超えた速度でセシルが振り向いた
「今あの魔女に何かされませんでしたか!?」
語気を強めて僕に聞いてくる。絶対口パクやウインクをしていたが、答える訳にはいかない。なぜなら、教えてしまうとこのまま校長先生に殴りかかりに行きそうなぐらいの圧を感じるからだ。
「別に何もされてないよ。それより教室に行こうよ。クラスメイトがどんな人たちか気になるし」
無理やりセシルの手を取って歩き出す。注意をできるだけ逸らさなくてはいけない。
暗い一本道をただひたすら歩いた。自分の教室に向かうために。ただこの暗闇とゼノンの後ろにいることで事なき終えた者がいた。
ゼノン様が自らの意思で手を繋いでくださった!私から繋ぐことはあっても、少し嫌そうな顔をされていた。それを受けて悲しかったが、今は自主的に繋いでくれている。
それが嬉しすぎて顔が緩んでしまう。もしこの顔をゼノン様に見られてしまうと嫌われるかもしれないですから。こんな場所に校長室を作った先生に感謝しなくては。
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