第4話 セシルの一面
馬車に揺られ続けると、意外にも早く目的地についた。この通りは聖国で一番のショッピングストリートだそうだ。車に乗っていて暇な時間に教えてもらった。
降りる時にセシルが手を差し出してくれたのでその手をとる。地味にこの車の段差がきつかったからありがたい。
この行動は至って普通の出来事だが、セシルの内心は揺れ動いていた。
やばい、ゼノン様のお手を触ってしまった。もうこの手を洗いたくない。 けれど、そのせいで嫌われたらどうしよう。もしそんなことになったら生きれる気がしない。死にたくなる。
「どうしたの一人でそんなに暴れ回って?」
まずい、まずい。自分の中だけで完結させようとしていたのに、外に漏れてしまっていたみたいだ。恥ずかしくて顔が爆発しそうだ。だけど、それでも聖女として取り誘わないと。
「少し馬車で体が硬くなっていたのでほぐしたかったのです。ですからお気になさらないでください。それではご案内至します」
ガラス越しのショーウィンドウが煌びやかに並んでいる。その周りにいる人たちもこの雰囲気に合っていて、この空間を作り上げている。
そんな場所でもセシルは人気がある。
こうして歩いているもセシルは本当に聖女だったんだなと実感できる。歩く人々がみな「聖女様」と呼んで挨拶したり礼をしたりしている。すごく国民に人気のあるトップのようだ。
しかも、人が勝手にはけてくれるので進みやすい。
そこで曲がり角を曲がろうとすると、女の子がいきなり飛びだしてきた。なんとかとっさに避けることが出来て良かった。ぶつかると互いに痛いだろうからね。
「ご…ごめんなさい」
小さい女の子が申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。しかし、結局避けれたのだから別に謝ってもらわなくても大丈夫なのに。
「全然気にしてna…」
「あなた何をしているのですか!」
セシルが言葉を荒げて被せてくる。僕は気にしていないのだが、セシルの方は相当お怒りのようだ。女の子もその圧に怯えて萎縮してしまっている。元からおとなしそうな子なのに。
「セシル、それぐらいにしてあげて。僕は気にしていないから」
そう言うと、セシルは圧を引っこめてくれた。顔はまだ不服そうだが言うことを聞いてくれたようだ。
僕は完全に萎縮して座りこんでしまっている女の子と目線を合わせる。この状態だとちょうど目線が同じぐらいの高さになった。
「君、大丈夫。ごめんね、怖かったでしょ。君にも少し落ち度はあるけど、これはやりすぎだ。それにこの子も謝ってくれたのだから、セシルも謝ったら」
今度は後ろにいるセシルに目線を合わせる。すると、セシルも前に出てきて頭を下げた。
「こちらもごめんなさい。少し感情的になっていました」
これには女の子も驚いていた。なぜなら一国の元首がたかだか一般市民に謝罪するなど滅多にないからだ。しかも聖女様にこんなことを言えるこの子って何?と、周りから思われて視線が異様に集まる。
女の子の頭の中はパンクしそうだった。死んだかと思ったら謝罪されてもう何も分からない。そんな錯乱状態の時に大事なことを思い出した。
なぜ自分が急いでいたのかを。
「ごめんなさい、私急いでいるので」
そう言って走っていく女の子を見送る。何だかあの子を学校で見た記憶がある。もしかしたら同じ魔法学校に通っているのかもしれない。だとしたら、そのときに改めて何かしましょう。
その方がゼノン様からの心象が良くなるでしょうし。
「何をあんなに急いでいるんだろうね。まぁ気にせずに買い物を続けようよ。どれも僕の興味を引いてくるんだ」
ゼノン様は大変喜ばれているようだ。その姿を見るだけで私も嬉しくなる。
この後も学校で必要な物以外の物も含めて色々買った。その度にゼノン様が無邪気に喜んでくれる。それだけで、自分のポケットマネーを全て使っても良いと思ってしまう。
城に帰って来たのは結局遅い時間になってしまった。それでもすごく楽しかった。でも未だに一つだけ疑問がある。それは昼間でのセシルの反応だ。あんなに怒る性格とは過ごしていて思っていなかったが、実際に怒っていた。
これは理由を聞かないといけない。
そのためにセシルを呼んでおいた。何か事情があるだろうし、それに僕も絡んでいると思う。それに明後日には学校に通うらしいので、できればスッキリした状態で通いたい。
これから向かうのはゼノン様のお部屋だ。何か私に聞きたいことがあるようだ。お部屋にお呼ばれするなんて、以前では絶対考えられなかった出来事だ。
その事実を前にして少し張り切り過ぎたかもしれない。だいたいお化粧に1時間ぐらいはかけてしまったぐらいには。
なんてことを考えているとすぐに部屋の前についた。そして、ドアを一呼吸置いてからノックする。すると中からゼノン様の声がした。許可を出してくれたみたいだ。
なので、胸を抑えながら部屋に入らせてもらう。
部屋の中ではゼノン様が窓から外を眺めていらっしゃる。
細く柔らかい純白の髪は、月の光を受けるたびにふわりと揺れて、額と目元に影を落とす。見た目だけならただの可愛らしい子供だが、その横顔からは汲み取れない感情が浮かんでいる。
「どうかいたしましたか、ゼノン様」
そう簡素に問い掛ける。すると、ゼノン様はゆっくりとこちらに振り向いた。それから落ち着いた雰囲気で口を開いた。
「それは今日のセシルの反応の理由を聞きたくてね。勝手な感想だけど、それには僕も関わっているでしょ」
恐らくゼノン様が言っているのは、ショッピングストリートで私が感情的になってしまった時のことだろう。確かに理由を教えておいた方が今後も過ごしやすいかもしれない。そもそも神様に隠し事など出来ない…したくない。
「もちろんお教えいたしますよ、なぜ私があんな風になってしまったのかを。その全貌を語るには私の前世と前前世の話も交えさせていただきますので、長くなると思いますがよろしいですか?」
ゼノン様は私の方を振り向いて頷いてくださった。
前世のことを打ち明けると少しは驚かれると思っていたが、全然そんなことはなかった。残念な気持ちが強いが仕方ない。
「私が聖女になるより遥かに昔のことです。この星とはまったく違った世界で私は暮らしていました」
私の独語にゼノン様は耳を傾けてくださる。ただ長いだけの何の面白味のない話だというのに。でも、今の私は過去の私の延長線上にあるのは間違いないことだ。
だからこそ知って欲しいと思う。
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