第2話 突然の出来事
聖教国と呼ばれる国のとある町で奇跡が起きた。
夫と妻は至って普通の夫婦であった。
しかし、その間に産まれた子は異質だった。
出産の瞬間には赤ちゃんは必ず泣くものである。
なぜなら呼吸をするための肺に空気を入れたり、神経や筋肉を働かせるために必要な行為だからだ。けれど、その子は泣かなかった。
両親はひどく心配したが、その後は元気にすくすくと育った。
その子の成長速度はすさまじく、一歳になる頃には流暢に喋り、文字もある程度は書けるようになっていた。そして、3歳にもなるとそこらへんの初等部の子供はおろか、中等部ぐらいの学力を持っていた。
異質な子だったとしても、親子にとって愛すべき対象であることは変わらなかった。
しかし、そんな幸せだった家庭は1日で変わってしまった。
"トントン"
家の扉をノックする音が響く。それに気付いた夫は扉を開けた。
すると、豪華な甲冑を着た人たちが立ち並んでいた。そして一番前にいたヒゲを蓄えた人が重々しく口を開いた。
「我々は神託騎士団である。聖女様からの教令を賜っている。その教令によれば、この村で我らの主であられる方が人の身となってご降臨なされたそうだ。そこで我々が御身の保護にきたという訳である!」
「はぁ、そうですか」
いきなりのマシンガントークにこの時の夫は、早くこの長い話が終わってくれないかなと思っていた。
しかし、次の言葉でこの家は凍りついた。
「どうやらこの家のお子さんは成長スピードが異常なようですね。ということは、その子こそが主の器である可能性が高いのですよ。なので、こちらで確認させていただきます」
讃美歌のように言葉を綴る神託騎士団の男。身ぶり手ぶりが異様に大げさで少しウザい。そんな男と対称的に玄関で立つ尽くしている夫とその奥で聞いていた妻は戦慄していた。
意味の分からない理屈で息子が今、連れていかれようとしているのだ。
両親とも止めたい気持ちでいっぱいだが、それをしてしまったら聖女様に逆らったとみなされて捕まってしまうかもしれない。もしかすると、最悪の場合は殺されるかもしれない。
そう思うと膝が震えてしまう。
「じゃあ入らせてもらうぞ」
そう言ってづけづけと入ってきた。
この国のトップは聖女様である。そしてその近衛である神託騎士団を誰も妨げられない。
リビングの方を見る。
そこには3歳にして歴史書を読んでいる我が子がいた。その隣に視線を移すと、妻が涙を流して倒れこんでいた。
近衛は息子に近づくと一斉に膝をついて頭を垂れた。なぜなら、その小さな体から神聖さが溢れ出していたからだ。この場の騎士団の面々は目の前の御方が自分たちの主であることに一瞬で気づいた。中には感動しすぎて涙を流している者もいる。
いい年をした大人が子供にひれ伏している姿は滑稽に映るかもしれない。それでも彼らの中では本気だった。
ごつい格好をした大人が僕を連れて行く。
せっかくの勉強時間を邪魔しやがって。ほんの一瞬暴れてやろうかと思った。しかし、そうすると父さんや母さんに迷惑をかけてしまうので止めた。
なんとなくだが、そうなる気がする
家の外に出ると、あまりにまばゆくて目を閉じてしまう。少し明かりに目が慣れてきたので目を開いた。すると、黄金の馬車があった。これに月の光が反射して眩しかったようだ。
「お手数ですが、こちらに乗っていただけますか」
そう言ってドアを開けてくる。ご丁寧にスロープまでついていて乗りやすくなっている。
「まあ良いけどさ、父さんや母さんに酷いことしないでよね」
「「はい、もちろんでございます」」
騎士の皆が再び地に膝をついた。
若干3歳にしてここまで流暢に喋れるのも凄いのだが、なにより風格がある。
声は歳相応なのだが…。
そこにギャップを感じるが、そんなのはただの主観でしかない。我らはただ聖女様と神様に忠誠を誓うのみなのだから。
馬車の小窓から空を見る。町の近くはどこも似たような景色で面白味がない。
しかし、時が経つにつれ人や建物の様子が徐々に変わってきた。 人が忙しく行き交い、建物が大きく豪華になっている気がする。自分の町とは違う物たちに興味が湧いてくるが、この状態では何もできない。
そのまま馬車に揺られ続けた。体感で3時間ぐらい経つと、ようやく車が停まった。
こんな長い時間乗っていたのに、おしりが全然痛くない。さすが大金を使って作られた見た目をしてるだけはある。
ドアが開けられたので、外に出ろと伝えたいのだろう。
外には家に来た兵士と同じ格好をしている奴らが大量にいた。しかし、その中央にはこの場にそぐわない小さい女の子がぽつんと立っている。
なんであんな場所にいるんだろう?
「 ああ…やっと出会えた」
1000年越しの再会が出きるとは、やはり私の神様は見捨てていなかった。今すぐ走りたい気分でいっぱいだが、そんなはしたない真似は出来ない。高なる胸を抑えて歩く。
以前会った時よりも容姿が随分と若くなっていらっしゃる。それは私も同じなのだが、神様がお相手だとレベルが違う。
本当に再び出会えたことが嬉しい。
これから私と神様だけの世界でも作ってみようかな?
「お久しぶりでございます、神様。私は今も昔も聖女として御身を支えさせて頂きます」
深々と聖女はお辞儀をした。その内心ではお辞儀のおかげで、嬉しさのあまりぐしゃぐしゃになった顔を隠せて良かったと切に思っている。
お辞儀されている当人に至っては、何が何だか分かっていないので現実逃避していた。だから、彼女が隠していることにまったく気付いていなかった。
もう外は夜で暗くなっている。そんな中、自らを聖女と名乗る少女に連れられて城に入る。その際に城の外観が気になり首を上にあげてみる。すると、城壁の一部は重力から解放されたように宙に浮かび、ゆっくりと周回している。しかも光っていて、照明の役割も兼ねているかもしれない。
理屈は良く分からないが面白そうだ。
広い城の中を聖女に先導されて進む。どうやら僕が住むことになる部屋へと連れていってくれるようだ。
高望みはしないが、まともに暮らせる部屋だといいな…。そう思っていると、実際は良い方向で裏切られた。
「これが僕の部屋なのか?」
「ええ、もちろんです。逆にこんな部屋しか用意出来なくてすみません」
僕の部屋は想像を絶する豪華さだった。
自分では価値が分からないが、全ての物が高級感に溢れている。 この部屋の物一個で、以前住んでいた家が余裕で建つのではないだろうか。そう思ってしまうほどだ。
ベッドも信じられないサイズだ。飛び跳ねてみたくなる。
「 今日はお疲れでしょうし、ごゆっくりお休み下さい。何かご不明のことがありましたら、なんなりとお申し付け下さい」
そう言って聖女は静かに扉を閉めた。
どうやらこれからは自由時間のようだ。
この城中を歩き回って探索したいところだが、残念ながらそんな体力はどこにもない。初めて己の体が小さいことを悔んだ。
慣れない移動で疲労が溜まっていたのか、すぐに事切れてしまった。
目を覚ますと、そこには昨日から住むようになった部屋がある。やはり 昨日の出来事は夢ではなかったようだ。
いきなり神託騎士国の面々に頭を下げられたり、両親の元を離れないといけなかったり、聖女とかいう偉い少女に詰められたり。挙げればキリがないぐらいの出来事が1日で起こった。
そして、僕に加わる刺激が格段に増えた。これは好機と考えた方が良さそうだ。
両親が恋しくないと言えば嘘になる。
しかし、メリットの方が遥かに大きそうだ。
正直自分が”神”であると言われても分からない。
「主」もしくは「神」それはこの世界を作り、管理するもの〜。と、前に読んだ文献に長ったらしく書いてあった。
その他の本には「マナ」というものを使って「魔法」とやらの超常現象を引き起こす術がこの世界にあるとも記述されていた。そして、この目で浮いている城の一部も見た。
もしその魔法とやらが存在するのならば、神がいても不思議ではなさそうだ。
それが自分かどうかは未だ不明だが…。
こうしてベッドの中で考え込むのは自分の悪い癖だ。もういい加減寝よう。
頭に浮かび上がってくる思考を無理やり振り払って眠りについた。
なぜかベッドの中で自分のものではない熱源を感じる。
自分の体内時計では朝なのだが、お城では朝になるとベッドが暖かくなるのだろうか?そんな疑問が浮かんでいると、その熱源は動き出した。それで城のシステム仮説は破綻した。
じゃあこの熱源は何なんだ?
寒気が背筋を伝う。鼓動が速くなり、体の血流が活発になっていく。
「あれ…起き………たの……で…か?」
ベッドの中から途切れ途切れの声が聞こえる。布団によって音が遮られているせいで、全文は聞き取れなかった。しかし、この声には不思議と聞き覚えがあった。
それでもかなり怖くて背筋から冷や汗が伝う。
恐る恐る掛け布団をめくると、そこには昨日出会った聖女がいた。
「私の神様、おはようございます。本日も健やかな朝をお迎えのことと存じます」
この状況でも普通に挨拶してくる聖女。もしかして、都会ではこれが普通なのだろうか?だとしたらこれに慣れないといけないのか…
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