第15話 新たなる権能
《ちなみに言っておくと、あんたは今の状態じゃ魔法は使えないわよ。魔法を行使するには誰だって練習がいるから》
そう妖精が簡単に言ってのける。じゃあ僕はどうなるのだろうか。今は化け物が警戒しているのか硬直状態になっている。僕はマナがあっても何もできないのか…。
《そんなことはないわよ。魔法が今使えないだけで、権能は使えるでしょ》
権能…僕の神眼のことだろうか?
《そうよ。それに加えて今のマナの量ならもう一つ使えるわよ、 その名も使徒降臨。あんたのマナを依代として使徒を現世に呼びだせるのよ》
何だかすごそうなことが出来るんだな。自分の事ながら他人事のように捉えていた。現実離れというか…まぁ、この窮地を抜け出せるならなんでもいい。
それでどうやったら出来るんだ?
《まず、伝承に出てくる鵺をイメージしなさい。それから自分の赴くままに印を結んでマナを流すの。そうしたら完璧よ》
随分アバウトな説明だが、やってみるしかない。今にも異形の化け物は襲いかかってきそうだ。
【使徒降臨】
急ピッチでイメージをし、適当に印を結ぶ。すると、空に不思議な紋様が浮かび上がった。それは徐々に大きくなり、やがて5m程まで広がった。
その中から鳴き声が響く。それは風に裂かれた笛のように細く、遠くで誰かが泣いているようにも聞こえる。それを耳にした者は、胸の奥を冷たい指で撫でられたような感覚に襲われるそうだ。
ついにお出ましだ。僕の第三の使徒たる鵺よ。
その姿は猿の顔、狸の胴、虎の手足、蛇の尾ーー
まるで悪夢を寄せ集めたような動物。しかし、ゼノンのマナを依代としたそれは金色を纏っている。そのせいで不気味さより神聖さが出てきていた。
鵺は異形の化け物に対して鋭い爪を突き立てる。すると空気が裂け、衝撃波が地面を走る。
ダメージが入ったのか、異形の化け物は声にならない叫び声のようなものをあげる。抵抗として鵺の顔に拳のようなものを叩きつける。その際に大きい音がしたが、鵺は何の変哲もない様子だ。
つかさず蛇の尻尾を巻き付けて体を締め上げる。
化け物同士の戦いなのにあまりに一方的な展開が続いた。
一矢報いようとしているのか、異形の化け物はマナを一点に集中させている。それを察知して鵺が全速力で止めにかかる。しかし、間に合わなかった。一点に集まったマナは形を成し、剣となった。神のマナとは正反対のそれは、互いに反発しあう。
それでも両者は死闘を繰り広げる。
激しい戦いに僕もセシルも何もできていなかった。
「セシル、僕たちはどうする?」
「私は一度鵺の膂力やスピードを高めようと魔法を行使しましたが、変化はありませんでした。ゼノン様と私のマナは親和性が高いですからいけると思ったんですけど…」
セシルも打つ手がないようだ。このままでは僕のマナが尽きるかもしれない。ああやって機敏に動けているのは僕からマナを吸い取っているからだ。だから、速攻を仕掛けたい。
どう介入すればいいか話し合っていると、走って来たのか息が切れた状態の見知った顔がやって来た。
「…私も戦います。母の危機を前にして何も出来ないなんて嫌です!」
エルフィナが恐怖心にムチを打って強く言い放つ。腰を抜かしていた時とは違い、覚悟の決まった表情をしている。
「分かった。僕が隙を作るから、全力の一撃を叩きこんでくれ。あの猿顔の化け物は僕が召喚したやつだけど、それも巻き込んでいいから」
僕が言った通りにエルフィナは大気中のマナを集めだした。それに異形が反応を示したが、鵺の猛攻を防ぐのに手一杯な様子だ。防戦一方な状態だが、鵺の方も決め手にかけていた。だからこそ、僕たちは攻撃されずにいるし、際を作って叩き込むチャンスでもある。
「セシル、エルフィナの魔法の威力を上がる魔法を何でもいいから使って」
セシルは聖女であって回復のエキスパートだが、バフに関しても一級品らしい。本人からそう聞いた。実際ミリアにも使っていたしね。
これでようやく倒すための最後のピースが揃った。 まずは僕の出番だ。僕がしくじると根本から瓦解してしまう。ベストなタイミングで魔法破綻を使い異形の持っている剣を消す。
まだだめだ…………ここだ!
【魔法破綻】
異形を振り上げて反撃に出ようとしたタイミングで行使する。 全身が無防備な状態になった。その胸に鵺は噛みつく。そしてエルフィナは溜めていた魔法を解放した。
すると魔法陣が現れて、周囲の風が一点に吸い寄せられた。
砂塵、葉、石片すべてが巻き上げられ、やがて天を突く白い螺旋が誕生する。轟々と唸るその竜巻は、化け物2匹を余裕で飲み込んだ。
その影響で異形はドス黒いマナに戻り、消えていった。ミリアの時も圧巻だったけど、エルフィナの魔法もあれに並ぶくらいすごい。
「すごい威力の魔法だったね」
そうエルフィナに声をかける。すると、エルフィナは恥ずかしそうにして答える。
「…セシル様のおかげですよ。私も自分で驚きましたもん…」
エルフィナはマナを使いすぎたようでフラフラしている。だから僕が支えようとすると、セシルが間に入ってきて自分がやると言ってくれた。正直僕の体躯だと支えるだけでも大変なので助かった。それでも将来はたくさんの人を支えられるように大きくなろう。
「…お母さんただいま…」
家に入る前に返ってこないと分かっていながらエルフィナは挨拶をする。そして一緒に母の眠る寝室へと向かう。
神眼で辺りを確認するが、 あのマナは見えない。これで一安心だ。
そう思っているとエルフィナは母の容態を確認する。素人からしても、以前より良くなっていることは明白だった。
「念の為回復魔法をかけてあげて、疲労とかは残ってると思うから」
セシルは静かに頷いて、回復魔法をかけてくれた。これで僕らのお詫びは終わったかな。セシルと目を見合わせる。よし、帰ろうか。 これからは家族の時間だ、僕らはお邪魔になってしまうからね。
帰ろうとしたその時だった。いつのまにか泣いていたエルフィナがこちらに視線を移した。そして涙を服の袖で拭って頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました」
エルフィナからは開いたことがないような声量で言ってくれる。その言葉を開けただけで十分嬉しかったのでそのまま帰った。
「聖都ってこんなに物騒なの?」
自分の元いた町ではこんな戦いがあっただとか、魔物が現れたなどという話は聞いてこなかった。もしかして平和すぎただけだろうが ?
「日常茶飯事とは言いませんが、珍しくはないですね。人がたくさん集まると、良い物も悪り物も増えますから。それでもゼノン様が遭遇した二件は稀有な例だと思いますよ。神のマナで強化された魔物だとか、人に取り憑く実体も持った異形の化け物だとか」
確かにそう聞くと、すごいシーンばかり出会っている。一件目は自らが原因の部分もあるが、エルフィナの件は偶然に過ぎない。
それにしても、なぜあのドス黒いマナを持った化け物がエルフィナのお母さんに取り憑いていたんだろう?その関係は分からないが、裏があるとすると怖いな。
「今回のようにいきなり襲われる可能性もありますから、私も自衛の手段を持たないといけませんね」
セシルが思い詰めたように言う。それには非常に同意見だ。僕も魔法を使えるようになろう。使徒を召喚しながら魔法で攻撃出来るようになると数的有利がとれる。
それと同時並行で権能も使いこなせるようにならないと。鵺を召喚させる時に勝手に"第三の使徒"という言葉が出てきた。ということは他にもいるはずだから呼び出せるようになりたいな。
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