第12話 神だった頃の記憶
魔物が倒された後、そいつの体から大量のマナが湧き出てきた。あれは僕のマナだ。この近くにあると分かっていたが、まさかあの魔物が取り込んでいたのか。
その証拠に空気が抜けたように倒れた体は始めより大幅に小さくなっている。今のサイズならば大型犬ぐらいだろうか?
それよりもマナが僕の体に流れ込んでくる。それ自体は驚くほど馴染むので問題ない。しかし、強制的に記憶の再生が始まった。
その光景を見ていた側からすると、感嘆するほどきれいだった。神のマナは特別で無色透明ではなく、煌々と輝く金色だった。そう、これがゼノンの見えている世界だと初めて知った。
その結果、ゼノンは力なく倒れてしまった。 その姿を見ていたセシルたちは急いで駆け寄ったが、ゼノンは自らの記憶に飲み込まれた…。
ここはどこだろうか?
何も分からず空を見上げてみる。すると、色は青ではなかった。それは光そのものでできていて、色という概念を拒むように揺らめいている。見る角度によって金にも銀にも、あるいは名もなき色にも変わる。
そんな不思議な場所だった。
「君にはこの世界を任せたい。今は平和だが、いずれ戦火に見舞われるだろう……」
突如話し声が耳に入ってきた。気になって声のした方向を見やる、すると、僕が成長した姿のような男性と滑らかな金髪を靡かた女性が話し合っている。
「承知いたしました」
そう言って自分が頭を垂れている。これが僕の記憶なのか。やはり、星を任せたいとか言われてるし僕は神だったのだろう。直々の上司らしい人がいるっぽいがそれはこの超常な場所での関係であって、実体のある世界を管理していた事実は変わらない。
自分の記憶を見ていると、なんだろう心が洗われているというよりも、漂白されている気分だ。
そんな気持ちで自分を見ていると、興味深いシーンが流れ出す。それは生命の誕生だった。最初はすごく小さかった命はやがて大きくなり、火を扱い言葉を操ったりする高等生物まで現れた。
これからどうやって文化や文明を発達させるのか楽しみだったのに、そこでぷつりと意識が消えた。これだけしか記憶は取り戻せなかった。いや、マナに組み込めれる記憶はこれぐらいが限界なんだ。だから、もっと取り戻せるように頑張ろう。
目が覚めると地面がなぜか揺れていた。しかし、頭は硬めのクッションのような物の上にある。スベスベしていて気持ちがいいので、もう1回寝てしまおうか………。
「ゼノン様!ゼノン様!」
たゆたう世界で誰かが僕を呼んでいるようだ。寝ようとしていた頭をきり替えて目を開ける。すると、セシルが僕を覗き込んでいる。やはり声の正体はセシルだったようだ。他にも状況を理解しようと辺りを見回すともう一つの顔があった。
しかも僕の真上に。ピントを合わせるために目を細めるとはっきり見えた。
「何か私の顔についてる?」
そう言ってミリアはコクッときれいに首をかしげている。これはいわゆる膝枕というものだろうか。なぜこうなっているのか分からないから聞いてみよう。
「なんで僕は同い年のミリアに膝枕されていたのか
な?」
真上の顔へと問い掛ける。すると、ミリアはやれやれといった感じで首を振った。
「私はそこのセシルさんと同じ6歳だ。だから、君のお姉ちゃんなんだよ」
えっ……セシルと同い年なんだ。これは失礼なことを言ってしまったな。僕という例があったから、ミリアも飛び級だと勝手に思っていた。
「そうなんだ…ごめん」
この体勢のまま気合で頭を下げるがセシルが無理やり止めてきた。
「ゼノン様は謝らなくて良いですよ。だって、私がゼノン様に膝枕をしてあげようとしたところミリアが私がやる、と言って開かなかったんです。そんなご褒美を賜ったのですから、謝罪など不要です」
セシルがまくし立てるように言う。僕に膝枕をするのは全然ご褒美ではないと思うけど…。
ずっと膝枕をされているわけにはいかないので体をゆっくりと起こす。この馬車は豪華でお城のものとあまり変わらないほどだった。
僕がキョロキョロしていたからか、ミリアが説明してくれる。
「この馬車は私の家が所持しているもの。湿地帯の外に待機してもらっていた。 だから、セシルさんと私でここまで運んだ。そもそも私の弟を置いていくなんてありえない」
Sクラスにいるだけあって立派な家出身なんだな。それにしても、なぜあの魔物と戦っていたのだろう。自分の記憶を追ってきたわけだが、ミリアは違うはずだ。これは理由を聞いておいた方が良いと直感が告げる。
「純粋な質問なんだけど、ミリアは何であいつと戦っていたの?」
触れづらい話題かもしれないが、こんな自分のような子供だからこそ話せることもあるはずだ。だからこそ聞くしかない。
その気持ちが伝わったのか分からないが、ミリアは話し出してくれた。
「私は生まれつき魔法が強かった。しかも、一族の中でも特異な能力も持っていた。そのせいで恐れられて遠ざけられた。それが私には納得できなかった。今よりも小さい頃からずっと"強くなれ""悪魔や魔物に負けるな"と言われてきた結果私は強くなった。余裕で魔法学校のSクラスに入れるぐらいには。これほど頑張ったのに誰からも認められなかった」
ミリアの声は落ち着いていて、自分の中では呑み込めているようだ。それでも、内容が内容なので反応しづらい。正面のセシルも苦い顔をしている。
ミリアはそれを察して困ったような笑みを浮かべる。
「大丈夫、もう気にしてないから。それで私がなぜあそこにいたかというと、魔物を倒したという実績がほしかったの。父から一人で魔物を倒せたなら独立して良いと言付けをもらえたから。あんな居心地の悪い場所から離れたかった」
ということは、これでミリアは家から独立できて、自由に過ごせるのか。そんな理由でミリアが戦っていることを知らなかったが、あのマナの塊を防げれて良かったと思う。
「あれっ………私なんで泣いて?」
達成感を抱いて満足していると、隣のミリアの頬に雫が垂れる。その理由を本人もよく分かっていないのか困惑している。
こういう時は何をすればいいのだろう?どんな表情をしていればよいのだろう?経験したことがないから分からない。少しあたふたしていると、ミリアが目を強くこすった。
「私はお姉ちゃんなんだから、こんなことじゃだめ」
涙を拭った後のミリアはキリッとしていて、心配は必要なさそうだ。その代わりにミリアとの距離が近くなった気がする。この馬車は広いんだから、寄ってこないでほしい。
ミリアの話を聞いた後、城の近くまで送ってもらった。それからは徒歩で城へと帰った。帰りのことまで考えていなかったので助かった。お礼を言うと「お姉ちゃんだから当然!」などと自慢げに返してきた。 ミリアは僕と身長が変わらないからお姉ちゃん感がしない。そもそも姉だと認めたつもりはないのだけれど。
意識を彼方に飛ばしていると、気がついたらセシルの顔が目の前にあった。 互いの息が感じられるほど近い。
「ゼノン様、あの自らを姉だと自称している女は断罪して良いですか?あの場面では我慢しましたが、もう無理です。膝枕は泣く泣く許してあげましたが、ゼノン様の姉を自称するなど不敬すぎます。そこまでは看過できません」
瞳のコントラストが失われ、ものすごい圧でセシルが言ってくる。またこのモードになってしまった。できるだけ落ち着いてもらわないと、本当にミリアを断罪しにいくかもしれない。
「セシル落ち着いて。ミリアは今、心理的に複雑なんだよ。だから、「姉」という自負で精神を安定させてるんじゃないかな?それに碌な家族もいなかったようだし。だから、新しい家族がほしかったということかもしれないし…。セシルもミリアの事情を聞いたでしょ。僕も迷惑なわけじゃないから許してあげてよ」
そう言うとセシルも納得できる部分があったのか、何も言えなくなっている。セシルをなんとか止められて良かった。ミリアがいなかったら僕たちはあの魔物に殺されていたかもしれないのだから。
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