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零式魔導設計士 ~全属性適正ゼロ判定の俺、実は世界の設計者候補でした  作者: 白峰アキラ


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第5話 理解者

 その日の午後、特別講義が開かれることになった。


 名目は「魔法制御理論の補講」。


 実際は、王都観測官ミレイアによる公開検証だった。


 講堂には上級生まで詰めかけている。


 壇上には三人。


 ミレイア、ガルド、そしてアルト。


 リシアは最前列に座っていた。


 落ち着かない。


 胸の奥がざわついている。


「昨日の事象について、簡単な再現を行います」


 ミレイアが告げる。


「リシア・フレイムハート。前へ」


 リシアは立ち上がり、壇上へ。


 視線が集まる。


「通常出力で発動を」


「……紅蓮閃」


 炎が立ち上がる。


 安定している。


 昨日とは違う。


「出力を段階的に上げてください」


 炎が膨らむ。


 第二層が揺れ始める。


 アルトは無言で見つめる。


(まだ保てる)


「さらに」


 出力上昇。


 観客席に熱が届く。


 揺れ。


(限界)


「今です」


 アルトが静かに言う。


「第二圧縮を維持。第三位相を遮断」


 リシアは目を閉じ、意識を集中させる。


 教わった通りに。


 増幅を切る。


 炎が小さく震え、安定した。


 講堂がざわめく。


「理論的制御……」


「感覚じゃない」


 ミレイアは炎を見つめる。


「見事です」


 その言葉に、リシアの胸が高鳴る。


 だが次の瞬間。


「では、別の条件で」


 ミレイアが指を鳴らす。


 魔法陣が展開される。


 高度な干渉式。


「外部位相干渉を加えます」


 炎が乱れる。


 リシアの顔が強張る。


「落ち着いて」


 アルトの声。


「第二層を固定。第一層を薄く」


 リシアは従う。


 炎が形を取り戻す。


 数秒の攻防。


 そして完全安定。


 沈黙。


 拍手が起こる。


 だがその中心にいるのは――


 アルトだ。


「理論が先にある」


 ミレイアが言う。


「あなたは、魔法を再構築できる」


 講堂の空気が変わる。


 ゼロと笑われた少年が、


 今、王都観測官に認められている。


 リシアの胸が締め付けられる。


 誇らしい。


 でも。


 遠い。


 講義後。


 廊下。


「おめでとうございます」


 ミレイアがアルトに言う。


「研究院で正式に研究対象とします」


「……対象?」


「あなたの能力は国家資産になり得る」


 言葉は冷静。


 だが重い。


「王都に来なさい」


 即答を促す圧。


 アルトは一瞬黙る。


「……まだ決められません」


「理由は」


 視線が鋭くなる。


「教える約束があります」


 またそれ。


 ミレイアはわずかに目を細める。


「感情に縛られるのは非合理です」


 その言葉が、後ろにいたリシアの胸を刺す。


 思わず前に出る。


「彼は物じゃありません」


 空気が凍る。


 ミレイアが振り向く。


「あなたの感情で彼の未来を縛るつもりですか」


「違う!」


 思わず声が強くなる。


「彼は……」


 言葉が詰まる。


 何と言えばいい?


 師?


 協力者?


 友人?


 胸の奥で答えが渦巻く。


 アルトが口を開く。


「僕は縛られていません」


 静かに。


「自分で選びます」


 リシアは息を呑む。


 ミレイアは数秒見つめ、そして頷く。


「それなら良い」


 踵を返す。


「ですが時間は多くありません」


 去っていく背中。


 残された空気は重い。


 廊下に二人。


 沈黙。


「……ごめん」


 リシアが小さく言う。


「感情的になった」


「構いません」


「あなた、王都に行きたいの?」


 核心。


 アルトは少し考える。


「研究はしたいです」


 正直な答え。


 胸がちくりと痛む。


「でも」


「でも?」


「あなたの炎が、まだ不安定です」


 真顔。


 リシアは一瞬固まる。


「それ、今言う?」


「はい」


 悪気ゼロ。


 だがその言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。


 自分の炎を優先している。


 王都より。


「……馬鹿」


 小さく呟く。


 そして。


「もっと教えなさい」


「分かりました」


 自然な返答。


 距離が少し縮む。


 だがその夜。


 リシアは一人、寮の部屋で炎を出していた。


「もっと……」


 圧縮。


 制御。


 理解したい。


 追いつきたい。


 だが焦りが混じる。


 炎が揺れる。


「っ」


 火花が跳ね、右手をかすめた。


 小さな火傷。


 痛みよりも、悔しさが勝つ。


「なんで……」


 涙が滲む。


 そのとき。


「無理をしていますね」


 背後から声。


 振り向く。


 アルトが立っていた。


「鍵、閉めたはず……」


「窓が開いていました」


 事実を述べるだけ。


 彼は近づき、彼女の手を取る。


「見せてください」


 火傷を見て、眉をわずかに寄せる。


「焦りは圧縮を乱します」


「……分かってる」


 声が震える。


「分かってるけど……」


「僕は逃げません」


 不意に言う。


「あなたが理解するまで」


 心臓が跳ねる。


「王都に行くなら、一緒に考えます」


 その言葉。


 一緒。


 胸の奥が強く鳴る。


 リシアは顔を伏せる。


「……ずるい」


「何がですか」


「なんでもない」


 涙を拭う。


 火傷した手を、彼が優しく冷却魔法で包む。


 炎の天才が、今はただの少女の顔をしていた。


 その表情を、アルトだけが知っている。


 廊下の向こう。


 銀色の瞳が、その光景を静かに見ていた。


「感情は、予測不能ですね」


 ミレイアは小さく呟く。


 興味は、さらに深まっていた。


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