第11話 均衡を壊す者
翌朝、研究院の空気は明らかに変わっていた。
アルトに向けられる視線は、好奇と警戒が半々。
「使えるかもしれない」から、
「制御できるのか」に変わっている。
塔の中央演算室。
都市魔力流の再計測が行われていた。
「昨夜の暴走は偶発ではありません」
ミレイアが言う。
「外部から干渉があった形跡があります」
ざわめき。
「外部……?」
「意図的に第四層を歪ませた可能性が高い」
アルトは水晶球を見つめる。
波形の奥。
微細な“痕跡”。
「残留干渉、あります」
静かに言う。
「方向は北西」
研究員が息を呑む。
「王都内部だぞ」
「内部の誰かが、均衡を揺らした」
均衡。
その言葉が重く響く。
「目的は?」
ミレイアが問う。
アルトは少し考える。
「確認」
「何を」
「僕の能力」
沈黙。
空気が凍る。
リシアの指がぎゅっと握られる。
「つまり」
ミレイアが低く言う。
「あなたを試した?」
「可能性が高いです」
その瞬間。
室内の視線が一斉に変わる。
“資産”から“火種”へ。
「監視強化だ」
理事の一人が言う。
「彼の周囲を常時観測」
リシアが一歩前に出る。
「本人の前で言うこと?」
「フレイムハート嬢、これは国家案件だ」
「だから何?」
炎のような声。
「彼は物じゃない」
室内が静まり返る。
アルトは横目でリシアを見る。
怒っている。
自分のために。
「落ち着きなさい」
ミレイアが制する。
「感情は敵です」
「感情がなければ、人はただの部品よ」
鋭い返答。
ミレイアは数秒、彼女を見つめた。
「……興味深い」
そのとき。
水晶球の波形が急に乱れた。
塔全体が微かに震える。
「第二波!」
研究員が叫ぶ。
「今度は中枢層!」
都市全体ではない。
研究院内部。
「目的は明確ですね」
アルトが言う。
「僕を外へ出さない」
閉じ込める。
塔が結界で封鎖される。
「内部犯です」
ミレイアの声が低くなる。
「アルト、構造を」
水晶球に手を触れる。
(第三層が反転している)
「演算補助層が逆位相に」
「止められる?」
リシアが問う。
「可能です」
だが時間がない。
「第四層を物理的に切る必要があります」
「場所は?」
「塔最上階」
ミレイアが即座に指示を出す。
「鎮圧班、同行」
「私も行く」
リシアが言う。
「当然です」
アルトが頷く。
階段を駆け上がる。
最上階。
黒衣の男が立っていた。
「来たか」
低い声。
「観測者、排除対象アルト・ゼイン」
感情のない瞳。
「均衡を壊す者は、早期排除が最善」
リシアが炎を纏う。
「あなたが干渉したのね」
「確認しただけだ」
男が手をかざす。
黒い魔法式が展開。
「理論は危険だ」
「危険なのは無知です」
アルトが返す。
黒式が放たれる。
リシアが炎で弾く。
「アルト!」
「干渉源は後方装置です!」
男の背後、黒い結晶。
歪んだ第四層。
「抑えます!」
リシアが前へ。
炎が男を包む。
だが黒式が炎を侵食する。
「理論は均衡を崩す!」
男が叫ぶ。
「才能で支配する方が、よほど歪んでいます」
アルトが結晶に手を伸ばす。
熱と魔力の圧。
(第四層、切断)
干渉線を見つける。
切る。
瞬間、黒式が消える。
男が崩れ落ちる。
塔の揺れが止まる。
静寂。
鎮圧成功。
ミレイアが遅れて到着する。
「……内部監査を開始します」
男は拘束される。
去り際、低く笑った。
「均衡は、壊れる」
その言葉が残る。
塔の屋上。
夜風。
リシアが深く息を吐く。
「無事?」
「はい」
アルトは結晶の残骸を見る。
「理論を恐れている勢力がいる」
「あなたを殺そうとした」
怒りが滲む。
「怖くないの?」
「怖いです」
正直。
「でも」
「でも?」
「止めません」
静かな決意。
「構造は変えられます」
リシアはじっと見つめる。
「なら」
一歩近づく。
「私も止まらない」
炎が揺れる。
「あなたの隣で」
距離が近い。
今度はどちらも逸らさない。
「均衡が壊れるなら」
「はい」
「一緒に壊しましょう」
挑戦的な笑み。
アルトは小さく頷く。
「設計します」
遠く、王都の空に黒雲が広がる。
均衡。
才能。
理論。
ゼロと炎。
物語は、学園を越え、
王国の中枢へと踏み込んだ。
そして。
本当の敵は、まだ姿を現していない。




