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零式魔導設計士 ~全属性適正ゼロ判定の俺、実は世界の設計者候補でした  作者: 白峰アキラ


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第10話 選択の夜

 南区画の鎮火から数時間後。


 研究院の塔は慌ただしさを取り戻していた。


 被害は最小限。死傷者なし。


 公式記録には「迅速な構造解析と現場制御による鎮圧」と記されることになる。


 だが。


 塔の最上階、円形会議室。


「――危険です」


 年配の研究員が低く言った。


「構造を即座に見抜き、改変する。あの能力は制御不能になり得る」


「資産にもなり得る」


 ミレイアが返す。


「王国の均衡を保つには、彼の理論が必要です」


「均衡を崩すのも彼だ」


 沈黙。


 そして結論。


「監視対象とする」


 静かな決定。


 同じ頃。


 塔の中庭。


 夜風が涼しい。


 アルトは一人、噴水の縁に座っていた。


 水面に映る月。


(都市全体が巨大な魔法陣だ)


 今日見た構造が頭の中で再構築される。


 学園とは桁違いの規模。


 だが同時に、歪みも大きい。


「考え込んでる顔」


 振り向く。


 リシアが歩いてくる。


「疲れてないの?」


「少し」


「嘘」


 隣に座る。


 距離は自然。


「怖かった?」


「はい」


 素直な答え。


 リシアは少し笑う。


「私も」


 沈黙。


 水音だけが響く。


「ねえ」


「はい」


「今日、私ちゃんと戦えてた?」


 不安が滲む。


 炎の天才ではなく、


 隣に立つ存在として。


「完璧でした」


「本当?」


「はい」


 即答。


「炎の制御が安定していました。増幅も適切でした」


 具体的な評価。


 胸が温かくなる。


「あなたがいたからよ」


「違います」


「違わない」


 強めに言う。


「一人だったら、焦ってた」


 小さな告白。


 アルトは少しだけ視線を逸らす。


「……僕も」


「え?」


「あなたがいなければ、装置まで辿り着けなかった」


 事実。


 だがリシアの心臓が跳ねる。


「だから」


 少しだけ言葉を選ぶ。


「効率が良いです」


 一瞬の沈黙。


 そして。


「それ、もっと他に言い方あるでしょ!」


 思わず笑いながら拳で軽く叩く。


 緊張がほどける。


 だが次の瞬間。


「アルト・ゼイン」


 低い声。


 振り向くと、数名の研究員が立っていた。


「理事会から通達だ」


 空気が変わる。


「あなたは本日より正式研究員補佐として登録される」


「条件付きで」


 別の研究員が続ける。


「研究内容は全て開示。無断改変禁止」


 監視。


 暗にそう言っている。


「受けます」


 アルトは迷わない。


「良い判断だ」


 去っていく研究員たち。


 リシアが小さく呟く。


「信用してないわね」


「合理的です」


「怒らないの?」


「怒る理由がありません」


 少し間。


「でも」


「でも?」


「あなたが疑われるのは、嫌」


 ぽつり。


 アルトは静かに見る。


「慣れています」


「私は慣れない」


 真っ直ぐな目。


 胸の奥が、わずかに痛む。


「……ありがとう」


 小さな声。


「だから敬語やめなさいって」


 笑う。


 だがその笑顔の奥には、別の不安がある。


「ねえ」


「はい」


「もし」


 言い淀む。


「もし王都があなたを利用しようとしたら?」


 核心。


 アルトは少し考える。


「利用される価値があるなら、悪くないです」


「そういうことじゃない」


 苛立ちと焦り。


「あなたは、自分を大事にしてない」


 胸を掴まれたような感覚。


 アルトは言葉を探す。


「……僕は」


 初めて、少し迷う。


「ゼロです」


「違う!」


 即座に否定。


「私は見た。あなたがいなきゃ、今日何人怪我してたか」


 瞳が揺れる。


「あなたはゼロじゃない」


 近い。


 息が触れそう。


「私にとっては、ゼロじゃない」


 沈黙。


 心臓の音がうるさい。


 アルトは初めて、視線を逸らさなかった。


「……なら」


「なら?」


「あなたの隣では、ゼロではありません」


 一瞬、意味が追いつかない。


 そして。


 顔が熱くなる。


「それ、ずるいって何回言わせるの」


 小さく笑う。


 でも胸はいっぱいだ。


 そのとき。


 塔の上階。


 黒衣の人物が窓越しに二人を見下ろしていた。


「観測対象、感情的結合を確認」


 低い声。


「構造変化の予兆あり」


 王都の闇は静かに動き始めている。


 ゼロの少年と炎の少女。


 二人の関係は、やがて王国全体の構造を揺らす。


 それはまだ、誰も知らない。


 夜は静かに更けていった。


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