第1話 零式鑑定
「魔法適性ゼロ」
そう言われた瞬間、すべてが終わったと思った。
でも俺には、誰にも見えない“別のもの”が視えていた。
これは、才能社会で最底辺とされた少年が、魔法の構造を武器に世界の中枢へ挑む物語です。
俺TUEEEではありません。
理論で殴ります。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価よろしくお願いします。
魔導学園アルセイドの講堂は、いつもよりわずかにざわついていた。
新入生一斉鑑定式。
この世界では、人生の価値は十六歳でほぼ決まる。
属性適性――それは生まれ持った魔法の資質を数値化する儀式。火、水、風、土、光、闇。六大属性のどれにどれだけ適性があるかで、将来は決まる。
高位貴族は高適性を誇り、平民はそこそこ、そして稀に“無能”が出る。
壇上中央に巨大な水晶環が浮かび、幾何学紋様がゆっくりと回転している。魔法式が幾層にも重なり、淡い光を帯びていた。
アルト・ゼインは列の最後尾でそれを見上げていた。
(……第二層の接続、甘いな)
誰にも聞こえないほど小さく、心の中で呟く。
水晶環の内側、位相制御式がわずかに歪んでいる。第三演算層の圧縮率も不安定だ。こんな構造で正確な鑑定ができるのか――。
「次、アルト・ゼイン」
呼ばれた。
周囲の視線が刺さる。
平民出身。家系に魔導師はいない。事前試験でも目立つ成績はなかった。期待など、誰もしていない。
壇上に上がると、教師ガルドが無表情に告げた。
「水晶環に触れろ。魔力を流せ」
「はい」
手を伸ばす。
水晶が冷たい。
アルトは目を閉じ、わずかに魔力を流した。
――その瞬間。
環の紋様が高速回転し、光が一瞬だけ強く瞬いた。
講堂に静寂が落ちる。
数秒後、空中に六つの数値が表示された。
火:0
水:0
風:0
土:0
光:0
闇:0
一拍。
そして、爆笑が起きた。
「ぜ、ゼロ!?」
「全部ゼロって何だよ!」
「史上初じゃないか?」
嘲笑が波のように広がる。
教師ガルドでさえ、眉をひそめた。
「……全属性適性、ゼロ。魔力反応、基準値以下」
淡々と宣告する。
「残念だが、君に魔導の才能はない」
言葉は冷たく、決定的だった。
壇上の端、紅い髪の少女が腕を組んで立っている。リシア・フレイムハート。名門フレイムハート家の令嬢にして、今年の首席候補。
彼女の瞳が、ほんの一瞬だけこちらを見た。
感情はない。
ただの評価。
“無価値”。
アルトは笑わなかった。怒りもしない。
ただ、ゆっくりと水晶環を見上げる。
(……やっぱり)
数値表示の裏側、演算層がわずかに揺れている。
鑑定式の第三位相が、彼の魔力を正常に拾えていない。
違う。
拾えていないのではない。
――構造が合っていない。
(この式、古い)
第一層は属性分離。第二層で波長判定。第三層で増幅補正。
だが、第三層の補正係数が固定値だ。魔力の質が通常と異なる場合、すべて“ゼロ”に丸め込まれる。
アルトは、静かに息を吐いた。
「何か言いたいことがあるのか?」
ガルドが問いかける。
講堂の視線が集まる。
一瞬だけ迷う。
言えば、嘲笑はさらに強まるだろう。
だが。
「……この鑑定式、第三位相の補正係数が固定です」
ざわ、と空気が揺れた。
「何?」
「魔力の振幅が基準波形と一致しない場合、すべてゼロに収束します。僕の魔力は、基準外なんだと思います」
沈黙。
そして、再び笑いが起きる。
「無能の言い訳か?」
「ゼロはゼロだろ」
ガルドの表情が険しくなる。
「鑑定式は王国認可だ。欠陥などない」
断言。
それ以上の議論は許されない。
アルトは、ゆっくりと壇上を降りた。
通り過ぎざま、リシアが低く言った。
「見苦しいわよ」
声は小さいが、鋭い。
「才能がないなら、せめて潔く受け入れなさい」
その横顔は美しく、誇り高い。
アルトは一瞬だけ彼女を見る。
「……あなたの火属性、出力は高いけど制御効率が悪い」
「は?」
「第二圧縮で熱が逃げてる。あのままだと、いずれ暴走します」
言ってしまった。
自分でも驚くほど、自然に。
リシアの瞳が、初めて感情を宿す。
怒り。
「無能が、何を偉そうに」
「事実です」
アルトはそれ以上言わず、歩き去った。
背中に突き刺さる視線。
嘲笑と怒声。
だがその奥で、たった一人だけ。
リシアは、わずかに眉をひそめていた。
(第二圧縮……?)
聞いたことのない言葉。
だが、胸の奥に小さな棘のように引っかかる。
講堂を出たアルトは、空を見上げた。
青い。
静かだ。
「……ゼロ、か」
小さく呟く。
悔しくないわけではない。
だが、それ以上に。
(やっぱり、この世界の魔法は未完成だ)
確信に近い感覚があった。
あの鑑定式も、学園で教えられている基礎理論も、どこかが足りない。
才能で片付けているだけだ。
もし――。
もし魔法が、構造として再設計できるなら。
そのとき、この“ゼロ”は、別の意味を持つのではないか。
背後で講堂の扉が開く音がした。
「待ちなさい」
振り返る。
紅い髪が風に揺れる。
リシア・フレイムハートが立っていた。
「さっきの話、どういう意味?」
怒っている。
だがそれだけではない。
ほんのわずかに、知りたいという色が混じっている。
アルトは、彼女の瞳を見る。
燃えるような赤。
強い。
だが、どこか不安定だ。
「……明日の模擬戦、気をつけてください」
「答えになってないわ」
「第二圧縮が崩れると、第三位相が跳ねます。あなたの出力だと、制御できない」
リシアの眉がさらに寄る。
「暴走するって言いたいの?」
「はい」
一拍の沈黙。
そして彼女は吐き捨てる。
「馬鹿にしないで。私は首席よ」
「知っています」
「なら――」
言葉を失う。
アルトの瞳に、嘲りはない。
本気だ。
ただ、事実を言っているだけ。
そのことが、妙に腹立たしい。
「……もし暴走したら」
アルトは静かに言う。
「第三位相を切ってください」
「は?」
「増幅を止めれば、崩壊は防げます」
それだけ言って、彼は歩き出した。
リシアはその背中を睨みつける。
だが胸の奥で、小さな違和感が広がる。
もし。
本当に、もし。
明日、何かが起きたら――?
青空の下。
“全属性適性ゼロ”の少年と、
“炎の天才”と呼ばれる少女。
二人の視線は、まだ交差したばかりだった。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
当面の間は、1日に3話を投稿予定です。
ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。




