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第6話 王女殿下もぐもぐ


 ピオンは自分の『英雄的な最期』を讃える祭の準備を見物しながら、何日か魔物を狩って暮らした。

 大手の傭兵団の間でも名が知られはじめる。


「またノッピとルルルガのふたりだけで大物をしとめちまったのかよ!? おかげで『地獄谷』のあたりはもう安心して小物だけ狩りやすくて、稼ぎ時だぜえ!?」


 ルゼルガはこそこそとピオンに耳打ちしておく。


「やはりもっとペースを落とさねば、目立ちすぎるようだが?」


「被害が出そうな危ないやつがいると、つい……だけどもう、しばらくは休んで遊ぼう」


「そうそう。すでに魔王すら見逃しているのだから」


 狩場の近くまでは事務員のアスキックも同行することが増えていた。

 迎えにくるなりタオルと手配書の束を渡してくる。


「おつかれっすオレの飼い主サマー! 勇者ちゃん様の命日もカミングスーンなそろそろ、魔王の首とか王宮(オー!キュー!)へぶん投げちゃおうじゃーん!? フィーバータイム!」


「お墓参りに生首ってお供えしていいもの?」


「そりゃもう、勇者ピオン様といや、魔王の悪あがきで自爆に巻きこまれても首だけは奪いとってきたほどの血に餓えた狂犬、魔物を殺すためだけに生まれ育った殺戮機械じゃーん!? それにほら、王女ちゃん殿下もご心配なさっていて……」


「勇者の亡霊が欲しがるようなお供えの好み?」


「そいつもだけど、魔王ルゼルガなら首だけでも胴体へたどりついて復活しちまう可能性まであるらしい。もし這い出てきたらこの街は一晩でジ・エンド!」


「すべての焼きそばが食いつくされる……?」


「命も貯金もあたたかい夢もだよ!? そんなわけでロアダリス王女は当時の司令官として、今の島の領主として、未来の王位継承者として、生首をパスキャッチできるまでは安眠できねえエブリナイツ!」


「睡眠は大事だよね……休みも大事だから、ぼくたちはしばらくのんびりします」


 ルゼルガはこそこそとピオンに耳打ちしておく。


「我は人様のあたたかい夢を食いつくそうなんて思わぬ」


「あたたかい焼きそばを山盛り食べつくしに行こうか」


 ピオンはルゼルガの帽子の後ろから垂れた革材のようなものが延ばした角と知っていてサワサワなでる。


「本日の我は塩やきそばの気分。具だくさん海鮮の五目やきそば」


「どこかで売っていたかな? まあ、ゆっくり見てまわればいいか」


 ピオンは二年ぶりとなる戦いの勘がもどってきて、剣をぬぐってしまうと返り血もなく、ライオンよりひとまわり大きな魔獣五匹を斬りつくした直後には見えない姿だった。

 アスキックはため息まじりに首をふってふたりを見送る。


「オーノー。騎士団の人手不足がやべえから、ここぞとみんなロアダリスの姉御へアピっている営業合戦中に食べ歩き休暇かよ……まあいいか? 凡人どもにも仕事は分けてやらねえと逆恨みされるじゃーん!?」



 ふたりきりになってから、ルゼルガは世間話のように切り出す。


「そういえばピオンくんは、なんで我の首をとりたかったの?」


「えっ、あの…………」


 ピオンが珍しく気まずそうに口ごもり、ルゼルガは自分へ殺意を向けていたことへの罪悪感かと心配になる。


「もらえる景品は『王子』『王女』『女王』の三択だったらしいが」


「志願討伐兵の申請書には『いりません』と……」


「それが埋められた原因では?」


「ええ~? だってネコしか飼ったことないのに、いきなり王族の人をもらっても……」


「人の言葉が通じるだけマシだろう? まあ、それ以外はネコの百倍も大変だろうが」


「そんなに? ネコを百匹も飼うくらい?」


「うむ。十匹までなら我は迷わずネコを選ぶ」


 魔王討伐隊へ志願した理由を探るのは先延ばしにしておいた。



 かつて『魔王の島』と呼ばれた『セントピオン島』は大小の岩山を寄せ集めた迷路じみた地形がほとんどを占める。

 北端の最も大きな岩山にかつては魔王城がそびえ、現在はそれよりずっと小さなセントピオン聖堂が建てられていた。

 聖堂の周囲は掘削工事の現場とその作業員がらみの施設が多い。

 そこから南側の麓にある盆地にかつては廃村、現在は新都市『セントピオンズバーグ』が広がっている。

 その中央には砦が建っていて、商店通りの集まる広場をはさんで聖堂のある高台を見上げるように正門を向けていた。


 砦は屋敷であれば広め高めで石壁も厚めという規模しかない。

 周囲の市街路は広め多めにとられていて、平屋の多さもあいまって日照権を極度に気にしたような光景だったが、実際は『地中からわきでる脅威』を想定していた。

 家屋の数に比べて監視台の数がやたらと多く、兵舎も兼ねている。

 人口に占める軍事関係者の割合も多い。

 軍備の厚い都市というより『都市機能も持たせた基地』だった。


 砦の会議室では各方面の指揮官がせわしなく報告をならべ、王女ロアダリスは人員や物資の調整に追われる。


「まもなく母上……女王陛下もいらっしゃるのです。海路の安全だけは確保して、最悪の場合にも救助だけは急げるように……ほかも厳しい状況ですが、今だけは戦力のしぼりだしをお願いします」


 どうにかさばき終えるなり、側近は横で祭礼式典の予定について報告をならべたてた。


「……それとマディクソン将軍が婚礼の発表を同時に広めたいと……」


 それまで疲れを見せなかったロアダリスが露骨にげんなりとする。


「どなたとの?」


 会議場に居残っている指揮官がひとりだけいた。


「姫! このマディクソンは勇者ピオンと共に魔王城の最も奥深くまで攻め進んだ指揮官であり、いわば魔王ルゼルガの首はこのマディクソンが部下ピオンと共に斬り飛ばしたようなもの! ピオンも亡き今、二年も喪に服したならば、魔王討伐の栄誉はこのマディクソンが責任を持ってお引き受けいたしたく……!」


「却下します。魔王の首を見つけるまでは、その報酬についても検討できません」


「なぜそんな!? このマディクソンの妻となるにふさわしい姿勢をご再考すべきです!」


 斬り殺して性根から別人に生まれ変わったら再考できるかもしれない……という姿勢を見せるべきかロアダリスは剣の柄へ指先を伸ばして迷う。

 しかし側近以外にも人目が、初老の重臣も同席していた。


「王女殿下を困らせてはいけませんよ。とはいえ論功行賞をゆるがせにしては軍規にも差し障ります。このマディクズめは決して甥っ子の肩を持つわけではありませんが、せめてマディクソン君へ何年以内には話を進められそうか、ご提案だけでもいただけませんでしょうか?」


「却下します。軍規を乱すわけにはいきませんので。ご退室を」


 ふたりを追い出して側近とふたりきりになってから、ロアダリスは紅茶をゆったりとかたむけてほほえむ。


「あのマディクソン将軍が魔王城でなにをしていたと?」


 容姿と所作だけは優雅で、声音も側近でなければ抑えている殺意の量を察しがたい。


「最深層まで入れた指揮官ではあります……ただ、ずっと精鋭部隊に囲まれていただけで、最後はピオンさんへ丸投げして自分だけ脱出したようですが」


「マディクズ大臣も甥ともども墓へお急ぎなのでしょうか? 王族でなくとも淑女へあのような押し売りは首を差し出してわびるべき無礼。しかも越権行為で軍規を乱している張本人になんの論拠もなく軍規違反などと決めつけられては……宣戦布告としか……」


「それよりも女王陛下のご安全ですが」


 側近は淡々と報告書の束を選んで渡す。


「使えそうな傭兵の目星はつきましたか? 実力不足は仕方ないにしても、統率を含めて信頼できそうなら数だけでも集めなくては」


「そちらは手配しておりますが、数日前に『猛牛の魔獣』をふたりだけでしとめた新人が入ってきたそうです」


「あの大物を……罠を併用していたとしても、勇者部隊の候補になりうる逸材かもしれませんね? それだけに疑いたくもなりますが……」


「所属している傭兵団は弱小で、経営の信頼性でも最悪ですね」


「……周辺国のまわし者であれば、信頼されやすい大手か目立たない所属を選ぶはず……どういうことでしょう?」


「ともかく補充の目途がつかない以上、声をかけてみたほうがよさそうですね。これからさっそく……」


「いえけっこう。天ぷらそばナポリタン」


 ロアダリスは謎の呪文と共に書類の山を側近へ押しつける。


「ロアダリス様? これはいったい?」


「わたくし自身で探るほうが早そうです。それとハムチーズクレープ」


「わかりました書類はなるべく整理しておきますから……せめてよだれはふいて! 護衛部隊! 王女様から商店街を守れ!」


 側近の号令で廊下に待機していた騎士たちはロアダリスの突進へ追いすがって駆け出す。


「国家の威信にかけて、王女殿下のご暴走をもみ消せ!」


「クズ大臣とクソ将軍が遅れて出てきたから嫌な予感はしていたのだ……ストレスどか喰いは美容の敵でございます殿下!」


「あーっ、王女様!? そこはいけません!? あーっ!? また勇者の能力を無駄づかいして!?」


 ロアダリスは馬車を乗り降りするごとく三階の窓から飛び出て、着地するなり背よりも高い塀まで跳び越えてしまう。



 広場の屋台に用意されているテーブルでロアダリスは目当てだったクレープを手にするが、囲んでいる騎士たちの視線を見まわして恥じらう。


「そこまでしなくとも……王室の風評に関わるほどのことは……」


 しかしまだ息切れしている騎士も多い中で、すでに完食済みの大皿が何枚か重ねられていた。


「殿下、スパゲティは飲み物ではありません。秒で食われる作り手の身にもなってください。というか砦の厨房へご注文していただければ……」


 料理長は国内屈指の技量であり、それ以上に王族の醜態を隠蔽しやすい。


「これは視察ですから。有望な傭兵がこのあたりによく出没すると……」


 報告書へ改めて目を通して『ノッピ』と『ルルルガ』という名前、能力や性格の特徴に眉をしかめる。

 そこへ妙に気の抜けた会話が聞こえてきた。


「ノッピくん、塩やきそばはもう鍋がからっぽで、次までしばらく待つそうだ」


「こんなに早く? ナポリタンも打ち止めみたいだね……ルルルガさんの好みでほかには?」


「うむ~? まあ、我はここへ来ると予定とは別のものに目移りすることも多いからねー?」


「ぼくもそれよくある。歩きまわって目が合うごちそうを探そうか」


 そのふたりはすぐさまジャガバターの屋台へ吸い寄せられ、近くのベンチで食レポ会をはじめる。

 ロアダリスは平静を装ってクレープ(チーズ・ハム・レタス増し増し)を食べきったあと、ついかすかな小声をもらす。


「あれはもしや……ピオンさん…………と魔王ルゼルガ…………?」


 深く頭を抱え、まずはおかわりの注文を指示した。




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