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第5話 鉄兜ぐりぐり


 ふたりを見送った監視兵の中年たちは肩を落としていた。


「まだずいぶん若そうなやつと、格好は妙でも顔はいいやつだったのにな……」


「若さゆえに命を軽んじ、美しさゆえに散りたがり、かねえ?」


「この二年、谷にいる『大物の魔獣』は何度か見かけたが、あの魔王城で部隊仲間ごとオレを天井まではねとばしたやつだった……槍や斧でも皮しか裂けなかったんだ。何十人で囲んだところで無駄なことさ」


「あれだけの体格になれるやつは『闇の魔力』もぶ厚いからな。落とし穴を少しずつ増やして、いずれどれかにはまるまで待つ定法が結局は早道だろうに……あれ? もうもどってきた? トイレか遺言でも忘れたか?」


 しかし大タルのような巨獣の生首を引きずっていた。


「とったよー。においがエグいけど、ここに置いてもだいじょうぶ?」


 監視兵たちはバタバタと動いて半鐘を打ち鳴らす。


「ふざけたやつらがどえらいことやらかしたぞー!? オレもなに言ってんのかわからねえから、みんな来ていっしょに騒げー!」


 ぞくぞくと大勢の兵士と野次馬が集まり、ツッコミや賞賛を投げかける。


「剣であんなデカブツを!? 無理だろ……って切り口からすると本当ぽいな!? ていうかひとりは丸腰かよ!? どこの所属なんだアンタら!?」


「オガクズ傭兵団の手配だよー」


「弱小のいかれた傭兵団と見くびっていたが、まさかこれほどの大物新人たちを育てていたとは……!?」


 そうつぶやいた野次馬の肩をつかんで深くうなずく者がいた。


「まったく、いかれすぎだぜ新人ども。よくやったウレションサプライズ! あとのクソめんどくせー手続きはこのアスキック様が押しつけられてやるじゃーん!? 仲介料かじりつかせてもらいまヤフウウウウッ! あ、事務所のほうでおシャワーご利用になられますか?」


「宿屋のほうへもどるよ。宿代は借りられる?」


 事務員アスキックはサイフをひっくり返して中身を握らせる。


「最低でもこの十倍は払えるから遠慮すんな。日暮れ前に事務所へ来な! 遅れたら難癖つけてガンガンうわまえはねさせていただきますヨロ! ……おっと、アンタらはなんて呼べば……ほほう『ノッピ』と『ルルルガ』ちゃんね? そんじゃほかはテキトーにでっちあげ……はっ!? インスピレーション来た!? マイハウスに居候する親戚シンセキーズってことにしてやるから、マネージメント料に一割もらっていい!? ありがとうございまチャオー! ハッピーじゃーん! うさんくさいやつらにカンパーイ!」


 いっしょに来ていたオガクズ傭兵団の所長は見かねてアスキックを衆目から引き離した。


「こらアスキックくん! わたしにも焼肉で口止めしたまえよ!?」


 目立ちすぎていたルゼルガとピオンはいそいそと逃げ去る。



 その日の夕方には兵士の月給なみにまとまった金額を『とりあえずのぶん。残りはこっちでいろいろ抜いてから』と渡された。

 日が暮れる前には再び市場をまわり、さらなる替えの衣装をそろえる。

 ピオンは鎧と兜の上にかぶれる頭巾フードつき外套コートを毛皮でそろえて着ぐるみじみた見た目になった。

 ルゼルガは外套も帽子と同じ黒革のゆるやかなサイズにする。

 羽や尻尾がまぎれやすいように、近い色合いと質感を選んでおいた。

 それ以外の衣服はすべて、聖堂へ忍びこんで床をこじ開けて放りこんでおく。


「あとは斧でも買っておこうか。我も傭兵なのに手ぶらではツッコミがきつい」


 それから中心部の広場で『まったいら』ではないホットドッグをほおばったところで、ふたりはようやく脳を使いはじめた顔になる。


「買い食いとチェスとピクニックに夢中で疑問を持てなかったが……あんな大きい魔獣を放置するほど王国軍は人手不足なのか?」


「勇者だけでもほかに五人いるから、あれくらいはどうにかできるはずなんだけど……?」


「だよねえ? そうでないと都市の急造とかもできないはずだし。ほかでもっと大変な事態になっているのかな……なってそうだな……」


「魔王は埋めても這い出ても遊んでばかりで、魔王城は消えたのに?」


「むしろ我の城を崩してしまったから。あの地下からわきでる魔力は我が工夫をこらして抑えていたが、代わりの対策をできていないようだ」


「……抑える側なんだ? たしか『自らの封印しかやってない』みたいにも言ってたし……ルゼルガさんはなんで魔王を名乗ってんの?」


 ルゼルガはそっと目をそらし、ホットドッグをちまちまついばむようにかじった。


「いえ誤解です。ちゃんと魔物を密造してばらまく迷惑行為に従事していた時期もありました。なので討伐されるのは仕方なくて……しかし諸事情から、何年か前に運営方針を『全力のひきこもり』に変えまして……」


「魔物の抑えにまわってくれたなら、ルゼルガさんには刑罰の代わりに、駆除に協力してもらったほうがいいはずなのに…………それだと王宮にとって都合が悪いってことは…………?」


「待ってくださいピオンさん。それ以上はいけません」


「……うん。王宮のややこしいことは苦手。頭が重くなる~」


「とりあえずは買い食いと魔物狩りだけして気楽に暮らしましょう。そうしましょう」


 ピオンはココアのカップを押しつけられ、ルゼルガの変にしおれた態度が気になり、しかたなしに口をつけて見せる。



 市場にもつながる中央広場は屋台が多く、なにかの土台の建設と、飾りつけらしき準備をはじめていた。

 日が暮れて作業員が帰りはじめ、ピオンはフライドポテトを勧めながら尋ねる。


「なにかお祭りでもあるんですか?」


「おいおい、剣士のくせにそんなことも知らないでこの『セントピオン島』に来たのか? もうすぐ勇者ピオン様の二周忌で、銅像が建てられるんだよ。国を救った英雄で、あのかたが魔王ルゼルガをみじん切りにしてくれたおかげでこの『聖ピオンのセントピオンズバーグ』もできたんだ」


「いろいろ初耳です」


 作業員は「これは勉強代だ!」とフライドポテトを半分ほども口へ流しこんで去った。


「うわっ、やけど……してそうだけどがまんしてる……お仕事お疲れです」


「ピオン……いやノッピくん、国の英雄の慰霊祭ということは、もしや……ワタアメも売られたりしないかな? 我はまだ絵本でしか見たことがなくて」


「ルルルガさんは食べたことないんだ? あれは……食感に夢がつまっているから、体験しておかないと」


「うぬうっ、砂糖のかたまりでしかないとはわかっているが。どうにか手にするまでは心安らかに朽ち果てられぬ気がしてきた……」


「それならとりあえず、お祭りまでは生きていようか」


「うむ……うん? なんだか君まで我と共に最期を迎えそうな口ぶりだね?」


 ふたりは街の通りをのんびりと帰る。

 夜でも大通りは街灯や人通りが多くてにぎわっていた。


「ぼくが生きていたら困る人は王宮のほかにも増えているみたいだし……おばさんにもたぶん、遺族年金とかが入っている」


「君は我と違って悪いことはしていないだろう? ノッピくんとして好きなように生きればいいではないか」


「それを言ったらルルルガさんだって……あっ、王女殿下だ?」


 ピオンはガチャガチャとした鉄靴の足音で耳をそばだてる。


「ロアダリス王女……我への討伐軍で総司令官をしていた者か」


 曲がったばかりの大通りで、鎧姿の騎士たちが足早に広場へ向かっていた。

 その先頭を切る少女の鎧はスカートドレス風のデザインで、きらびやかにも颯爽とした顔つきと居ずまいにあつらえている。


「閉じたばかりのホットドッグ屋さんをこじ開けた!? キャベツの増量までねだっている!? ……本物のロアダリス様だ……よかったあ……」


「いや店のおじいさんには迷惑この上ないが……というか君と我を生き埋めにした元凶では?」


 ルゼルガとピオンはフードを深めにかぶりなおして歩きはじめる。


「今まで知っている人に会えなかったから。もしかしたらこの街ごとぜんぶ、ルゼルガさんが見せている幻覚なのかと思う時もあったんで」


「こわっ!? 我はそこまで壮大な謀略など思いつかぬよ!?」


「だってこんな暮らしかた、楽しすぎるから」


 ピオンの笑顔にルゼルガは赤面し、兜ごしになでくって苦笑する。

 どれだけ続けられる関係なのかは忘れたくなる。




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