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第14話 休日つれづれ


 船室のピオンとルゼルガは、たがいの惨状を不満そうにながめていた。


「うむう……君はやはり、勇者なのだよなあ~?」


 ピオンはきょとんと首をかしげる。


「どのあたりで?」


「我の中に潜んでいた『人の心』まで守ろうとするあたり」


「ルゼルガさんは人間だったの?」


「しまった。……プライバシーに関わる情報です。今のは聞かなかったということでお願いします」


「なんでそういう話になると、うさんくさい敬語に……? いつも以上にふざけられている気がする」


「待って。我の普段の言葉づかいはふざけておらぬよー?」 


 言い合いも語気はゆるやかで、踏みこみすぎないクセが両者には強い。


「…………しばらくは徹底して遊ぼうか?」


「うむ。労働など三日も連続してやるものではない」


 おたがいに考えないようにしている大きな問題を放置したがっていた。



 旗艦の甲板ではレグマがふたたびうずくまり、巨大鉄槌を握りしめたまま救護班すら寄せつけなかった。


「問題ない。しばし、このまま……」


 顔だちが豪壮でも普段の表情は穏やかだったが、今は鬼神のような含み笑いを抑えきれなくて伏せている。

 ロアダリスは人払いをして耳打ちした。


「魔力障害が進行していますね?」


「重くなるとむしろ、破壊衝動が心地よくなる恐ろしさが……自分は元来、臆病者でありますから」


「その衝動を抑えきれるだけの優しさや責任感もあります」


「それは序列二位の持つ強さです。勇者養成所でも自分はロアダリス様にかばわれ、マディゲス殿たちからの誹謗中傷にも耐えきることができました……自分は臆病者ゆえに、頼られることで自分を頼もしいと思いたいだけで……」


「頼もしかったです」


 そっと背に触れられ、年齢では四歳上になるレグマのほうが母から慰められたように泣きそうな表情になり、ようやく鉄槌から手を放す。


「……はい。自分は臆病者ゆえに、自分の頼もしさを誇りとする……それが序列三位の勇者たる強さ……」


 やがてすっきりと穏やかな顔で立ち上がるが、足どりはふらふらと船酔いでもつれはじめた。



 帰島するなりロアダリスは大勢の部下を連れてオガクズ傭兵団の船へ向かう。

 ニードレイブがピオンとルゼルガに肩を組んでからんでいた。


「さすがは姫ちゃんだよなあ!? オレちゃんも気に入ったぜこいつら! 特にノッピちゃんはうまく鍛えりゃ、ピオンの次くらいにはなれるんじゃねえの!? こんな弱小傭兵団で持ち腐れさせて、待遇ケチってんじゃねえぞお!? それと今日のダントツMVPなオレちゃんも盛大にオモテナシなあ!?」


「もちろんです。宿泊先はすぐに用意させますので」


 盛大な警備と鉄格子つきの個室に閉じこめられた。


「なんでっ!?」


「いくつ軍規違反をしたと思っているのですか?」


「姫公だってオレちゃんを使ってただろ!?」


「わたくしはニードレイブさんに対して、いっさい指示も許可もしていません」


 ニードレイブがすべて勝手に動いていた上『黙認されていた』と主張しようにも、素行の最悪ぶりを証言できる者が全部隊のほとんどを占めていた。


「謀ったな腹黒バカ食い殿下!?」


「せめて戦果で情状酌量しやすいように、わたくしの信頼を落としてでも作戦終了までは拘束を避けた特例措置がそれほど不服でしたか?」


「えっ!? ……やっぱ姫ちゃんいいやつ!? 頭クソ固いけど気に入ってるぜ!?」


「ではそこでおとなしくしていてください」


「いつまで!?」


「無期限」


「おいっ!? 拘留期限は守れよ頼みますよ!? ピオン祭りまでハブるなって!? ファンちゃんからも言ってやってね!?」


 ファンソンはぞんざいな笑顔で手をふるだけで、ロアダリスに続いて立ち去る。

 書類が山積みで待っている執務室へ急いだ。


「まあ実際、ニードレイブさんはいろいろ難があっても、戦闘に関しては天才ですからねー」


「活用次第では、ピオンさんや魔王を相手にした時の勝率をかなり上げられます」


「なのにわりと自滅も得意ですからねー。痛めた腕を完治させるための入院も兼ねています?」


「わたくしの精神的な療養も兼ねていますネギ間つくね」


「ただでさえ頭痛の種がよりどりみどりですからねー。でもやきとりの盛り合わせは準備させていますので、今晩はロアダリス様も閉じこめられてくださいねー。小生もいやいやつきあいます」


「買い食いはなぜあれほどおいしく感じるのでしょう?」


「だめですからね?」


 執務室につめこまれていた護衛騎士や事務官たちも一斉にうなずく。

 窓へ即席の換気口をつなげた炭火焼き台とやきとり職人までセットされていて、状況がよくわからないまま量産に追われていた。



 翌日のピオンとルゼルガは朝からだらだらと商店街に入りびたる。

 予備の衣服などを注文しながら、まだ入っていない店や食べたことのないメニューを探しまわった。


「そろそろ正午だけど……もういろいろ食べたから、ぼくの昼ごはんはオレンジシャーベットだけでいいかな?」


「我は紅茶のシフォンケーキで。午後はどうするかね?」


 広場のベンチに持ちこんだ甘味をつつきながら、ピオンは天高く呆ける。


「おなかは満足したし、買い物とか遊びもそれほど……なんか剣を振らないでいると落ち着かないような?」


「労働中毒はよくない。もっと堕落に専念するとよい。君をほぐす導きならば任せてもらおうか」


 魔王は勇者を引っぱりこんで書店で立ち読みをはじめる。

 おすすめの絵本について店員まで巻きこんで話し合っていると、見知った顔の中年が店をのぞきこんでいた。


「所長さん? おすすめの絵本ってあります?」


「わたしの専門は大人向けのひわいな絵本だけで……いやそれより、ちょっと助けてもらえるとうれしい仕事があるのだけど」


「海の掃討作戦ですごいの釣れちゃったんですか?」


「それはまだ。昨日までに標的はかなり狩れてそうだし、船の修理も追いついてないとかで、規模を半分以下にして陸からの砲撃が届く範囲しかまわっていないから……それでうちが仕事にあぶれたのだけど……」


 所長は話しながらノッピとルルルガの顔色だけでなく、なぜか背後の大通りにも視線を向けて気にする。


「……それで騎士団時代の先輩にたかって仕事をまわしてもらったのだけど、どうもノッピくん目当てだったらしくて…………ごめん今のウソ」


「え」


「口止めされているのだけど、いつもわたしがたかっていた先輩のほうから持ちかけてきた怪しい案件なんだよ。ほら君たち、勇者部隊なみに強いのにうちなんかでぶらついているから、探りたいとかでは?」


 ピオンとルゼルガは所長につきあって魔王城のあった高台へ向かった。


「断りやすくしたのに、いいの? ルルルガさんも……」


「我やノッピくんがのこのこ協力したほうが安心されそうである」


「噂では聞いたことあるんだけどね。勇者養成所では訓練生のほとんどが肉体や心を壊されて途中退所になっているらしいけど、中には勇者部隊と同じかそれ以上の実力者たちが『壊されたふり』で抜け出て王国軍以外で働いているとか」


 所長の心配そうなつぶやきで、ピオンは盛大に口をすべらせる。


「それはおおげさかも? 退所した人の半分以上は『適性が不十分』なだけで、勇者部隊やほかの卒業生ほどではないけど、ほとんどは王国軍で待遇高めの配属をもらえているから……仕事も難しそうな病院送りとかは数十人くらい?」


「こわっ!?」


 所長と魔王が声をそろえて後ずさった。


「今の勇者部隊と同じかそれ以上の人たちもいたけど、マディクズ大臣の屋敷で雇われている人が多いみたい。軍での勤務が難しい持病とか体質が残っていても、働きかたを選べる仕事場なら実力を発揮できるから」


「……えっ? それってつまり、使いかたでは勇者部隊なみになる戦力を一家臣が抱えているの? ……ノッピくんが詳しすぎる上に出し惜しみなさすぎてこわい……」


 所長のとなりで魔王も深くうなずく。


「だよねー? でも所長くんこそ口止めをやぶってだいじょうぶなのかい?」


「君たちには稼がせてもらっているし……というのもウソかな。稼げる以上にやばいことへ巻きこまれそうなら知っておきたい感じ」


「うむ。節操なさすぎて奇妙な信頼感のある御仁である。とても騎士だったとは思えぬ」


「騎士団に義理はないし……というか、後輩だったマディクソンくんの新人いびりを注意したら、翌日から誹謗中傷と濡れ衣の嵐で、隊長への昇進が立ち消えどころか懲戒免職にされて今のザマだから」


「怨みしかなさそうだね。復讐を考えたことは?」


「不幸になれとは願っていたし、わたしの顔すら忘れている様子で『くたばれ』とも思ったけど、サメに手足をつぶされた姿には意外となにも思わなかったね……あのまま死んでも治ってもどうでもいいと感じている自分に気がついた」


「気がつけたぶんは悪魔鮫くんへ感謝かね?」


 所長は乾いた笑いをもらし、魔王のほうがいたたまれないような苦笑をそらしていた。




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