表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/13

第12話 営業わいわい


 アスキックが「まあ三日連続でアタリは引かねえだろ?」と言った直後、まだ日が水平線に近い早朝から巨影が跳ねて船団を襲いはじめた。


「勇者フルセットの釣りエサ効果、パねえな!? 呼びこんだやつら責任とってお相手プリーズ!?」


 悪魔鮫だった。初日の個体よりはずっと小さいがウシほどもあり、しかも複数が飛来している。

 ニードレイブは全周囲あちこちでの出没を見渡し、背負っていた重厚なサーベルを二本、両手にかまえる。


「四……いや五匹いるか?」


 ピオンは飛び出た魔物の大きさだけでなく、色合いやヒレの長さ、胴部の長さ太さのバランスも観察していた。


「形からすると、七匹以上かも?」


「我の『耳』では十匹を軽く超える。大きさも動きもずいぶん差があるようだが」


 ルゼルガは海面をのぞきこむふりでこっそり指先を海中までのばし、響いてくる音を拾っていた。


「ヘッ! ビビリの妄想どおりになってくれりゃ、オレちゃんにはバンザイ案件だぜえ!? どっちゃり獲物よこせやああ!?」


 ニードレイブは悪魔鮫の一匹が旗艦の横腹へかじりつくなり小型船から飛びかかり、刃渡りの届く数歩手前で振りぬいて胴を両断する。

 もうひと振りで旗艦へ突き刺した刃は、明らかに身長の何倍も伸びていた。

 刀身が一気に収縮し、その勢いでニードレイブは甲板上まで跳び上がり、次の標的へ駆け出す。

 ロアダリスは騎士部隊へ道を空けるように手振りで示した。


「ニードレイブさんの『如意段平にょいだんびら』は鞭のようにしなった遠心力で切断性能もあれほどに……『十歩の距離』を味方にも強いる迷惑な装備です!」


 しかし最初の一匹に続いて早くも二匹目まで両断すると、騎士団も傭兵団も歓声をあげる。


「ヒャヒーイ! このニードレイブちゃん様が! 真の勇者筆頭を自称したがっている実力を見たかああ!? 如意にょいちゃんの伸縮を自在に連発できる天才的センス! 魔力量! 使いこなしは時間もかかったけど……いやな思い出なんか今はポイ!」


 ニードレイブの全身の傷は、どれも似たような刀傷だった。

 ファンソンは悪魔鮫たちの突進で大きくゆらされている周囲の船を見てまわりつつ、目立つ攻撃にはニードレイブが飛びかかってくれる様子に安心する。

 如意段平は巨大プロペラと化し、さらに二匹を同時に斬りつけていた。


「ニードレイブさんは実際、こういう状況ではピオンさん以上の戦力なのに……攻撃以外がなあ……」


 ファンソンは転覆しかけた小船へ跳び、足りない飛距離は自身の短剣を振って起こした小さな竜巻で落下を遅らせて補う。

 落ちかけた乗員をつかむと、もう片方の手で小さな竜巻を投げて救助者を浮き上がらせ、ついでに起こしていた大波によって咬み裂きに浮上する悪魔鮫の軌道もそらしていた。


「ファンソン様、助かりました! 噂に聞く『旋風の霊剣』がこれほどとは……いえ地味などと思ったことはありませんが!」


 直後、落雷のようにロアダリスが船腹へ着地する。

 悪魔鮫の眼へ突き通した『紫電の魔槍』から電流で焼き殺すなり、ひと跳びで旗艦へもどった。

 ファンソンはマストによじ登って高度を稼ぎながらつぶやく。


「小生はロアダリス様たちと比べたら魔力量でも身体強化でも劣りますから。生き残ること、役に立つことができれば格好なんて気にしていられません。君たちといっしょ」


 そうは言いつつも、助走なしの跳躍だけで常人の倍は出ていたし、その落下を遅らせるために小型の竜巻をひょいひょいと発生させる姿は超人でしかない。


「あの竜巻は常人でも日に一度は撃てるらしいが……刃が暴れやすくて自他を斬ってしまうため、呪詛の剣と思われていたとか。あれほどまで使いこなすにはヘンタイじみた研究量が必要らしい」


 見送る騎士の隊長格が説明くさいつぶやきをもらし、事情通ぶった。


「まして我が『魔力の槍』では勇者部隊の装備、とりわけピオン様の『天光の魔剣』には遠くおよばぬが、渾身の一念は馬上突撃なみの強化となる!」


 自身の装備紹介にまでつなげてきた。

 ニードレイブがとどめを刺しそこねた悪魔鮫が甲板へ転がり落ちてきて、隊長騎士は一気に胴の半ばまで突き通す。


「ふんぬうう! これぞ『魔槍撃』なり! 反動への対処も含めて鍛錬と適性を求められるが……」


 他の兵士たちの槍や剣は厚く硬い鱗にはじかれたり、肉ですぐに止まってしまいがちだった。


「自慢しているヒマあったら刺しなおしてくださいよ隊長!?」


 魔力の槍が深く刺さりすぎて、抜くには足蹴にしてふんばるしかなさそうだったが、怖いからもう少し弱るまで近寄りたくなかった。

 いっぽう傭兵団も大手となれば各団の主力格に魔法の武器を使いこなせる者もいる。


「戦功第一は我ら煉獄傭兵団でかっさらう! 我が『烈火の斧』はたたきつけの強さに応じた炎を噴出して追い討ちする! うおあちいいっ!? 当てる前に噴射してほしいし跳ね返りで火傷しがち! それでも雇えてお得な見映え装備!」


 傭兵たちはより宣伝じみた叫びで戦力を誇示し合った。


「オレ様の『呪術の鎌』は恐怖心を消す反動で夜中にうなされる!」


「それ使うのもうやめてくれよ母ちゃん!?」


 それらへ『視線』を配ってやることも司令官やその副官ファンソンの役割だった。


「かなりまずい数と大きさですが、司令官へ営業アピールできる余裕まであってなによりですね?」


 すでに六匹は討たれていて、各艦の士気は高い。


「レグマさんが不調なぶんは、ニードレイブさんが埋めてしまいましたね? あれで戦闘以外についても少しは努力していただけたら……」


 ロアダリスが苦笑しつつ功労者を探すと、ニードレイブは乗ってきた船へもどってピオンにつかみかかっていた。


「オラどうだよオレちゃんの天才ぶりはよお!? それでノッピちゃんは何匹ぶっ殺せまちたかあああ!?」


「ゼロ! ニードレイブさんすごい!」


「バカヤロー!? わざわざ本土からケンカ売りに来たオレちゃんが恥ずかしいだろ!? せめて一匹は狩って惨敗ということにしろ! 勝負として成立してないなんてズルいだろガンバレよ!? ノッピちゃんならできる!」


 ピオンの笑顔にニードレイブがうろたえてすがりつき、ロアダリスは礼を送っておくつもりだったが背を向ける。

 そして『紫電の魔槍』はファンソンに預け、腰から細身の剣を抜いた。


「急所まで届く厚みの相手なら『白魔の氷剣』のほうが……」


 旗艦船首あたりからの水しぶきを聞きつけ、甲板から乗り出すように突進して串刺しにする。

 悪魔鮫の頭部からは少しずれてしまったが『氷撃!』の鋭い命令で傷口まわりが凍りつき、鮮血の混じった雪を噴かせた。

 内部から頭の一部まで凍結させ、急所を貫通させたようにガクンと動きが弱まる。

 とどめは部下に任せ、ファンソンを呼びよせた。


「マディゲスさんはやはり、自分の艦を守ってばかりですか?」


「援護はほとんどしてませんね。それでも今回はいちおう自分で出て『飛竜の鉄球』を使っています」


 旗艦の前方にある船の甲板で、マディゲスは鎖鉄球をふるっていた。

 穀竿フレイルと呼ぶには鎖部分が長すぎて、ふりまわすことはもちろん、ひきずり運ぶことすら困難な重量に見える。

 しかしマディゲスが柄を振るえば、鎖そのものがその動きを追うように飛んでいった。

 さらには跳んでいる最中ですら、手元を上げれば急に跳ね上がって悪魔鮫を殴りつけ、下げれば急落下し、ふりまわせば滅多打ちにする。


「マディゲスさんは小生くらいの魔力とはいえ……あんな便利な武器を持ちぐされにするなんて」


「どうせなら、この地域の魔物をもっと引きよせて押しつけておきたいくらいですね?」


「これだけみんなで魔力を乱発して、血も大量にばらまいていますからね。もう少しくらい…………げっ。『少し』だけでいいのに……!?」


 初日なみの小船サイズまで現れ、マディゲスの船へかじりついてしまう。

 飛竜の鉄球では乱打されてもひるむ様子すらない。

 ニードレイブも飛びかかっていたが、如意段平は厚い鱗と肉に阻まれて頭骨までは通せなかった。


「ふぎいいっ!? やっぱこのでかさだと、肉にこもった魔力も硬え!? せめて手数を出せる陸に来てくれ!?」


 小型相手のような連続攻撃は慎重に控えるしかない。

 警戒していたとおり、巨大鮫は不意に向きなおって咬みつこうとしてくる。

 如意段平の片方を盾にして、もう片方を伸ばして船体へ打ちこんで自分を一気に引き寄せさせ、どうにか受け流した。

 しかし激突された片腕には肘と手首にズキズキと激痛が残る。


「いってえなバカヤロ~!?」


 さらにはその巨大鮫すら子供に見えるような、倍以上もある『超巨体』が大波を広げて近づいていた。

 ロアダリスは水平線から迫る黒い小山に対し、艦隊の散開を急がせる。


「……あれは、バルシズラント帝国の要塞を半壊させた個体!?」


 全艦隊へいっぱいに舵をきらせ、島へ向かわせた。


「戦功第一は我ら煉獄傭兵団からお譲りする!」


 大波だけで艦隊はゆさぶられて体勢を崩され、とりわけマディゲスの艦は『巨体』に甲板を咬み砕かれながら、最初に『超巨体』と衝突する位置にいる。

 全体が回頭すると次の最後尾は旗艦となり、ファンソンは搭載船を降ろさせると竜巻を推進力にマディゲス艦乗員の救助へ向かった。


「ニードレイブさんたちでは相性が悪い……というかあんなのと合う相性の攻撃なんて……?」


 ファンソンとすれちがいに『飛竜の鉄球』が旗艦へ飛ばされる。

 マディゲスは自艦から最初に逃げ出すが、側近のふたりだけは抱えていた。


「総員撤退! 無茶にはつきあわなくていいよ!」


 残っているニードレイブは甲板で暴れる『巨体』へ意地になったように斬撃を打ちつける。


「ザコの群れ掃除のほうが向いていて悪かったな~!? それでも威力も上げるために鍛えてんだよ!? オレちゃんの魔力じゃ『天光の魔剣』なんかまともに使えないぶん、重量に遠心力と機動力も乗せて! でも打たれ弱さはどうしようもねえから遠慮してくれサメちゃん!?」


 わめきながらも横目に、艦の全乗員がもう少しで脱出できそうな様子も見ていた。

 如意段平で最も威力の出せる一撃を振りつつ、如意段平で身のこなしを補って距離をとりなおす。

 しかしゆれながら壊れつつある甲板では足場が悪すぎて、狙いがそれて浅くなってしまうし、姿勢が崩れたところへ飛びこまれていた。

 あちこち斬られて怒り狂った巨体が、折れた塔のように落下してくる。


「ピオンならこんなものじゃねー! だがオレちゃんしかピオンは超えられねー!」


 ニードレイブは『この重量、かなり死ねる?』とは思いつつも『避けられないし狙わなくていいなら魔力は刃先へ全振り!』と迷わずふりかぶった。

 のどから頚椎まで達する会心の十字斬撃。


「やっぱ残念賞!?」


 致命傷はたたきこめていたが、突進の勢いを止められなかったからには、絶命までに時間のかかる巨体で全身をバラバラにされるしかない。

 代わりにアゴへ飛びこんだ人型の砲弾が落下をずらした。

 さらには船体すら砕けるような咬みつきを閃光ほとばしる斬撃が打ち返し、アゴの半分を斬り飛ばす。

 まるでスポンジかのように。スズメとワニくらいの体格差で。

 毛皮の外套を返り血まみれにした小柄な剣士はバタバタとあわてて逃げようとする。


「うわわ……ニードレイブさんは動けます?」


「お、おう。その剣……?」


 小山のような『超巨体』が迫っていていたので旗艦へ跳び移った。

 ニードレイブが身体強化に如意段平を足してぎりぎりの距離へ、ノッピも跳び移れてしまった。


「機動力までオレより上……というかそれ、どう見たって『天光の魔剣』の模造品レプリカだろ!? 出力のクソ高い光属性まで再現とか、どこのヘンタイ鍛冶屋の仕事だよ!? いやノッピちゃんがピオンマニアすぎてエグい発注書を押しつけたのか!? やるじゃねえの!?」


 ロアダリスは今日の戦場においてニードレイブの言動はなるべく無視するつもりで指揮に専念している。

 とはいえ『そんなこと言っている場合ですか!?』『なぜまだ気づかないのです!?』など言いたいことは多い。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ