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第11話 同窓会ぞろぞろ


 二日目は野犬ほどに大きい『咬みつき魚』の群れに襲われる。

 しかし数十匹が船団の甲板上を飛び交っても、初日の悪夢に比べれば拍子抜けするほど楽な仕事だった。


「今日は何人かの軽傷だけで済んでなによりです。決して弱い相手だったわけではなく、この規模で連携もうまくいってこその勝利でした」


 実際は何匹か、異常に速く飛ぶ個体も混じっていた。

 目の追いつかなかった兵士が無防備に首をえぐられかけ、ファンソンがとっさに剣でさえぎって浅い裂傷に抑える。

 ロアダリスでも追って斬ることは困難で、向かってきた一匹だけ刺し貫くことができた。

 残りはすべて『オガクズ傭兵団』の船へ近づくと『目立たないように』両断されるか、ヒレを削りとられて動きが鈍った。


「昨日の悪魔鮫に近い『大物』が少なくともあと二体は近海に潜んでいると分析されています。女王陛下の来航までにもう一体……できれば二体を倒しておけると助かります。どうか今しばらくのご助力を」


 ロアダリスと共に砦の執務室へもどったファンソンは書類の整理を手伝いながらつぶやく。


「結局、使ってしまうのですか?『死んだ勇者』だけでなく『殺したはずの魔王』まで……」


「そう、あのふたりは存在自体も含めて、あまりにも危険すぎる…………のに便利すぎて誘惑に逆らえません……」


「魔王に屈しないでください。現在の勇者筆頭はくりあげでロアダリス様なのですから……といえば女王陛下を護衛している『序列三位』まで呼んでしまってよいのですか?」


「ピオンさんだけであれば、ファンソンとわたくしだけでも対処しうるかもしれませんが。魔王もいるとなれば、勇者がもうひとりはいなくては……」


「それがマディゲスさんでは、実力以外もいろいろ問題ありますからねえ? でもそうなると、勇者六人のうち五人もこの島へ集結ですか」


「残りのひとりは遠ざけておくように陛下へ頼んでありますので、次からは陣容もだいぶ安定するはず……」


 しかし翌日の砂浜で、ロアダリスは浮かない顔をしていた。


「今日は良いしらせと悪いしらせがいくつかあります。まずは国内の勇者全員が合流し……墓碑に眠る勇者ピオンさんも含め、六人ともがこの島にそろいました」


 騎士団は「ご一緒できるとは光栄な!」と感嘆の声をもらし、傭兵団は「手を抜ける!?」と期待の歓声をもらす。

 ロアダリスの隣にうっそりと、頭ひとつ大きないかつい巨体が立っていた。

 そして無言でうずくまる。


「序列三位のレグマさんは本土での魔物討伐でも、女王陛下の親衛隊としても多くの功績を挙げていますが……今日は船酔いによる体調不良のため、なるべく動かないで済むようにご配慮を」


「もうしわけな……よろしくたの…………うぐっ……」


 あちこちから「陸で寝かせておいてやれよ」と同情の声がもれても、ロアダリスは低調に淡々と話を進める。


「そして悪いしらせは……」


「ほっぺたに米つぶついています」


 ピオンが手を上げて勇敢すぎる注進を挟んでしまい、ロアダリスは会釈して米つぶを口へ消す。


「ご親切に、ノッピさん……さて、勝手に来航した序列四位のニードレイブさんにつきましては後日の軍法会議で吊るし上げますが、作戦終了までは皆様へご迷惑をかけ続けることになりそうです」


 レグマのさらに隣にいたやせぎすな軽装の騎士は全身が傷だらけで、ギラギラした目で不機嫌そうにしていたが、整列していた部隊をズカズカと押しのけて分け入り、凶暴な笑顔でオガクズ傭兵団へ迫る。


「てめえがノッピかあ!? 勇者ピオンの後継者を名乗るにはずいぶんちゃちい見てくれしてんなあ!? オレちゃんはこいつらの船にお邪魔するぜえ!? かまわねえよなあ姫ちゃんよお!?」


「そもそもこの島への来航から許可しておりません」


「よろしくなあザコ傭兵ども!? オレちゃんてば戦闘に関しちゃ、ピオンにも負けてねえからよお!? つうかすでにピオンを越えている証明をできるなら、ニセピオンも大歓迎だぜえ!? 見せてくれや勇者なみの実力ってやつをよお!?」


 ピオンは『ニードレイブさんも元気そうでよかったです』とあいさつしたかったが、正体を隠すために「どうも」と会釈しかできない。

 ロアダリスは強硬に業務連絡を続ける。


「それと、初日の悪魔鮫は対岸のバルシズラント帝国にある漁村を全滅させた個体である可能性が高いそうで、早くも大きな対外アピールを得られました。しかしさらに大きな魔物が先日に沿岸要塞を半壊させていたそうで……依然として、この作戦は気をゆるめられない状況です」


 肝心な標的についての情報はついでのように伝えられ、出航を急がされた。



 船長室へ入ったロアダリスはレグマをすぐにソファーへ寝かせて、ファンソンに人払いをさせる。


「レグマさんの不調は、本当に船酔いだけなのですか?」


「揺れで急に体調を崩しましたが、ここのところ『魔力障害』がじわじわ悪化しているようでして。勇者養成所のころから兆候のあった耳鳴りや視界のゆがみがひどく……」


「魔王の島からは離れていたほうが楽になりそうですか?」


「船酔いといい勝負で、なんとも……それよりもあの、ノッピという傭兵は、ピオン殿にしか思えないのですが?」


「ですよね」


 兜とフードは深くかぶっていた。

 しかしニードレイブに鼻先でがなられて、平然としているどころかうれしそうにニコニコしている異様さは見覚えがありすぎた。


「ロアダリス様が『直接でないと伝えられない重大事態』については、女王陛下もとまどっておられましたが。そのような事情であれば納得できました。しかしそれにしても……」


「なにも魔王ルゼルガまで隣にいなくても」


「ぐぶふぉあっ!? なんですと!? どゆこ……おぐあ……胃袋があ……」


 レグマは豪壮な顔だちを華奢にゆがめてのたうつ。


「失礼、いきなりすぎました。わたくしはルゼルガの声や容姿に手がかりもあったので……しかしふたりは今のところ、魔物討伐と食べ歩き、チェスとダーツとトランプをしているだけで地位や資産には興味がないようです」


「しかしもし正体が広まったら、それもどうなるか……ニードレイブ殿を念入りに足止めさせたのも、うっとうしさだけではなかったと?」


「マディゲスさんやマディクソン将軍、同じ部隊にいた者などはできる限り遠ざけています。しかし最も会わせたくなかったニードレイブさんが気づいていないのは、どう考えればよいのか……?」


「亡きピオン殿を意識するあまり『灯台下暗し』ということ……などありうるのか?」


 ロアダリスは話していてレグマの貴重さを痛感する。

 自身に匹敵する実力や洞察力もだが、発想が常識的で安心できた。

 ファンソンは冷えたタルを抱えてくる。


「ロアダリス様、プリンはいつにします?」


「今、ひとつ入れておきましょう。今日は空振りだったとしても頭を酷使しそうですから」


 ロアダリスが『タルひとつ』に詰まったプリンを流しこみはじめるとレグマがうめいた。


「殿下……申しわけありませんが、できましたら自分には見えない場所で凶行におよんでいただきたく……そのお姿だけで胸焼けが……」


 ロアダリスは常識的な指摘に赤面してそそくさと退室する。


「失礼。最近の多忙で無作法に慣れてしまったようで……お母様の前では気を張らねば……」


 ファンソンも退室しながら、気づかいともとどめともつかない一言を残していく。


「あの運動量にストレスまで重なると、限界でのケダモノぶりが『魔犬』をも越えます」


「さすがは序列二位ということでありますか……おいたわしや……」


 旗艦で隠すようにすぐ後方へ配置されているオガクズ傭兵団の小型船では、さっそく盛んな交流がはじまっていた。


「てめえが事務員か!? オレちゃんの個人情報を教えてやるよ!」


「んだテメー? って乗員名簿に追記が必要なのか。フツーに言えよフツーに。勇者ってのはみんな厚かましいのか? 神に選ばれても神ではないって自覚はできねえのかよ?」


「へッ! よく事務仕事なんかやってられんなあ!? オレちゃんなんか勇者養成所でもマニュアル消化だけは苦手すぎて吐きもどしまくりの少食で……素質は天才なのに序列は四位……なんでみんな当然みたいに半日も文章ばかりとつきあえるんだ……すごすぎて萎える……」


 ニードレイブが突如として勝手に落ちこみはじめ、アスキックはうろたえてキョロキョロする。


「おいっ!? 下げるのか上げるのかつかみやすくしろよ!? すねるか調子こくかで迷うじゃーん!?」


「長文は最初と最後しか読みたくねー。小説とか読めるやつ頭おかしいだろ……」


「あー、それは少しわかる。なるべく冒頭からアホかましているアホ向けのやつ読むといいぞ? こいつが読んでいるような」


 アスキックは読者を指しそうになってルルルガへ向けなおす。


「これおもしろいよー。勇者ピオンの魔王討伐が書かれていて……」


 ニードレイブはルルルガの頭をわしづかみに、頭突きのような勢いでくっついて本をのぞきこむ。


「なんてこった!? オレちゃんは書籍化でもピオンに出遅れちまったのか!? どこの出版社だよ許せねええ!? なんで魔王はオレちゃんの前に来てくれねえんだよおおお!?」


 アスキックは勇者序列四位の肩をポンポンとなれなれしくたたく。


「天才ちゃんは今日これから伝説級の活躍すりゃいいじゃ~ん? 庶民に楽させてくれやノイジー勇者! それで舞台化はアンタがジャック! マネージメント料はオレがゲッチュー!」


「我も魔王役とかになれるかなー? 変装とかは得意だよー?」


「はあっ!? てめえみたいなショボいドサンピンが、顔だけいいからって高望みしてんじゃねえぞ!? ……背も高いな……あとは演技力だがよ……オレちゃんより向いてるからってあまり自慢すんなよ……いじめかよ……」


 ピオンは正体を隠すためになるべく離れていた。

 しかし今の同僚とかつての同僚が仲良くしている様子は少し妬ましく、ぜんぶばらして混じりたくもなるので、目をそらしておく。




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