迷宮への備え
翌朝。
館の清掃などはアリスが代わってくれるとの事でありギルバートは朝食の準備だけ済ませてアリスを起こしに向かう。
部屋に入るとアリスは天蓋付きの豪勢なベッドに埋もれるように眠っていた。
「お嬢様、おはようございます。朝食の準備が出来ました」
ギルバートの声掛けがあるとゆっくりと身体を起こしキョロキョロするアリス。
「……。ギルバートも、一緒に寝よ?」
「寝ぼけているんですか?こちらの都合ではありますがレーンとの合わせがしたいのでお嬢様には結界もお願いをしたいのですが」
「……そうだった。じゃあ……はい」
そう言って指をピンと鳴らすと一瞬空が暗くなり再び明るさを戻した。
「……結界張ったから、好きにして良いよ?私はもうちょっと寝てから、ご飯食べるね?」
そう言って再び布団に潜り込むアリス。
普段のアリスはボーッとしているようで生活リズムは整っている健康優良児と言えるような生活を送っている。それはギルバートが使える以前から何百年と続けてきたとアリス本人から聞かされている。
だがアリスには年に何度かある、朝に異常に弱い日があるとの事でどうやらは今日はその日を引いてしまったようだ。
しかし結界があるなら心置きなく出来ると言うもの。
「ありがとうございますお嬢様。朝食を食べる気になったら声をかけてください」
それだけ言い残すと中庭に出てレーンを顕現させる。
「おはようレーン。早速だけど昨日話した合わせをしたい」
『おはようございます主様。そうしましたらまずは何から致しましょうか。……失礼ながら主様はエンチャントのご経験はございますか?』
「単純に魔力を込める程度なら。所謂属性の付与とかってのはしたことがないな」
『でしたらその感覚を覚えてもよいかと。と、申しましてもおおよそ主様が使われるような【魔力を込める】と言うものと大差はないと思います。しかしながら合わせる武具の性質なども考えながらエンチャントはしていく必要がございます。ですので主様が使われる武具をご確認させていただけますか?』
「一応今回はこの剣と短剣、あと投擲系を幾つかと考えているが」
そう言いながら1種類ずつレーンに見せて鑑定して貰う。
『ふむふむ……これは中々どうして優れた武具でございますね。よほど腕の良い鍛冶師がいるのですね』
「いや、これは迷宮報酬だ。それも迷宮主を倒して手に入れたからグレードは高いはずだ」
迷宮報酬とはその名の通り迷宮で手に入る物であり武具や防具、財宝など多種多様である。
迷宮内に点在する宝箱に入っていたり、迷宮主というその迷宮で一番強い存在を倒した際に手に入れることが出来る。
ちなみに迷宮主が倒された迷宮は崩壊し消滅するが、別地点に新たな迷宮が入れ替わるように誕生するとされている。
『主様お一人で迷宮主を?』
「この剣を手に入れた時はそうだな。でもこっちの短剣の時は知り合いと一緒に行って手に入れたんだ」
『そうでございましたか。迷宮製の武具でしたら魔法との相性もよいので十分なエンチャント効果が得られるかと。まずは軽い出力で慣らしからしていきましょう』
「頼む」
少し離れたところに丸太で作った的を設置する。
『主様、どちらから試しますか?』
「じゃあこの剣で頼む」
『かしこまりました。
━━━【我が祖よ、今こそ生来の契りの元、我が神秘をこの剣に授けたまえ】』
詠唱を始めるとレーンから放出される魔力が剣に纏い付き魔力が注ぎ込まれる。
明らかに今までにはなかった質の魔力をその手に感じとる。
『━━━【エンチャント】』
一瞬目映い光のごとく魔力が爆ぜて収束する。
するとギルバートが手にしている剣は群青色のある種オーラのようなモノが刀身から柄までしっかりと纏っている。
『これでエンチャント完了でございます。今回は私の得意系統である【水】のエンチャントでございます。主様が念じて心の中で命じることで多様な使い方が出来ますのでまずは自由に試してください』
「じゃあ……まずはシンプルに斬ってみるか」
立て掛けた丸太の前に立ち、袈裟斬りの要領で剣を振り下ろす。
元々迷宮報酬であり切れ味は素晴らしい代物だった。
しかし今回はそれを大幅に凌ぐほどスムーズに丸太を斬れた。
「うぉぉ、スゴい切れ味」
思わず声をあげて驚く。
それを見てレーンは少し自慢そうに笑顔を見せて近づいてくる。
『当然でございます。水というのは硬い鉱石なども断つことが出来ます故。遠距離で使うことの多い【アクアカッター】という術があるのですが、その性質が剣に宿ったという感じですね。その為通常の【アクアカッター】と異なり得物を介すことで斬る側の腕力や技量が加味されたためより鋭い切れ味になったのだと考えられますね』
「既に凄すぎるな。ちなみに時間の制限とかは?」
『基本的に発動者の魔力量に応じて異なりますし、どのような技を使うかで変わってきます。大技であればある程使用魔力は膨大となり枯渇するでしょう』
「じゃあ不用意に頼りすぎて多用すると危ないな」
『いえ、私の場合主従契約は主様と結んでおりますが我らの一族とアリス様はさらに特殊な契約を結んでおりますので魔力提供はアリス様を介しても可能でございます。自分の意志で周囲の魔素から魔力に変換も出来ますが、一定ラインを下回る魔力量が続く場合はアリス様から魔力が供給される仕組みとなっております。勿論私からアリス様の魔力を頂くことも可能です。故にあまりその辺りは気になさらずとも良いと思われます』
「じゃあ……お嬢様の魔力量を加味すれば実質無限?」
『一旦そう考えて頂いても結構ですが、そもそも私は上位精霊でございますから人間の魔法使いの魔力量とは正直比較にならないです』
フフンと胸を張り自慢そうなレーン。
『もう少し試し斬りをしてから今度は放出を伴う攻撃も試してみましょう。主様なら問題なく使用できるとは思いますが念には念をということで』
「そうだな。そう言う油断は命取りだからな。念入りにしようか」
それから十数分分、丸太だけでなく岩やレーンに頼んで攻撃魔法も出して貰いながらそれらを斬り続けた。
大分感覚としては慣れてきたというのが正直な感想だ。
それを察知したのかレーンは次の提案を持ちかける。
『ではそろそろ良いでしょう。その剣を介して【アクアカッター】を出してみたいのですが、主様は斬撃を飛ばす類いの攻撃手段はお持ちでしょうか?』
「使えないことはないけどあんまり使い勝手が良いと思ったことないからほとんど使わないな。投げるとかは得意だけど得物を振って狙いを定めるとかは正直苦手だし、俺が使うと威力高すぎて迷宮の壁とか天井破壊しちゃうし」
『なるほど。高出力かつ狙いが定められない、と』
「だし、普通に近接戦闘する方が楽だから使う魔法とかもあんまり遠距離攻撃系じゃなく身体強化や近い間合いで有効なものが多いな。まぁ逃げてきた分野ではあるから勉強し直すのに良い機会かな」
『そうでございますよ。まずは出来る範囲でそこを克服しましょう。主様はユニウルブス最高位の冒険者でいらっしゃいますし私もついていますのでご心配はいりません。寧ろ主様ほどの実力者でもまだまだ伸び代があるということは喜ばしいことですよ』
レーンはどうも人を乗せるのが上手いようで、苦手と感じる分野でも頑張ろうと思わせてくれる。
『まずは感覚を養いましょう。主様は魔法使い達が何を認識して攻防を繰り広げているかご存知ですか?』
「確か魔力の動きとかじゃなかったか?」
『その通りでございます。こちらについては一定以上の魔力量があり魔法を修練することで自ずと身に付く能力です。主様の魔力量は十分それを習得し得るのですが魔法の修練が足りずそこに至らぬという感じですね。と言うか本当に今までどうやって一人で迷宮を攻略していたんですか?』
「うーん、身体能力と身体強化の術で大概どうにか出来たからな。魔法も発動したのが見えれば対応できるし当たりさえしなければ問題ないから鍛練をしてこなかっただけなんだが」
『なるほど、意外と主様はクレバーなようで妙なところが脳筋ですね』
「随分ストレートに言ってくれるな。しかしまぁその通りだよ。じゃあ当て方のコツを教えてくれ」
『要領は投擲とさほど差はないです。ターゲットを認識して意識をすることで自ずと狙えるはずです。故に正しいものとかはハッキリ言えばないです。その人が一番やり易いやり方が正解です』
「なるほど。まぁ数をこなしてみるか」
それから約30分、動かない的から始めてレーンに的を動かして貰ったりしながら放出を伴う攻撃について練習を重ねた。
動かない的についてはすぐに当てられるようにはなったがやはりと言うか動く的には苦戦を強いられた。
しかし持ち前の動体視力やセンスを活かして急所を当てるのは難しいが、攻撃自体を当てることはコンスタントに行えるようになっていた。
やや汗だくになりながら鍛練を続けていると館の窓が開いてアリスがひょっこりと顔を覗かせた。
「……ギルバート、お腹空いたよ」
『主様ちょうど良いですしご休憩をなさってはいかがでしょうか?そろそろエネルギー補給をしておくのが望ましいですし』
「それもそうか。
━━お嬢様、少しお待ちを。汗だけ流してから配膳しますので」
「……分かった。私も着替えてから降りるね?」
窓を閉めてカーテンをかけるアリス。
それを確認しギルバートはシャワーを浴びに向かった。
レーンは一度姿を眩まして休憩する。
5分ほどで手早くシャワーと着替えを済ませ準備済みの朝食をアリスのもとへ配膳する。
今さらではあるがアリスの命令で食事はギルバートも一緒に取ることになっている。
「……ギルバート、調子はどう?」
「エンチャントはほぼ初めてですが何とかなりそうです。まぁそもそもそれなしでも十分戦えるんですが折角お嬢様からレーンを譲り受けたからには無駄には出来ませんよ」
「……なら良かった。明日の朝イチで向かうからほどほどにね?」
「勿論です。もう後は1時間くらい合わせたら今日の分は終わろうかと思ってますのでご心配なく」
食事を終えると洗い物だけ手早く行い約1時間先程の復習を行う。
ギルバートからすればこういう類いの魔法などは今まで教えを乞う機会もなければ教えてくれる人もいなかったので新鮮な気持ちで取り組めた。
身体能力を伸ばし活かす方向で独学にて鍛練をしてきたのだが、元々の戦闘センスはずば抜けて高いこともあり慣れるのにはさほど時間は要さなかった。
またそれを教えるのが上位精霊であるというのも大きかったのだろう、と後々ギルバートは思うのだった。
『お疲れ様です主様。大分慣れてきましたね。これで実戦でも十分使えると思いますよ』
「ありがとう。レーンの教え方が上手いからスッと飲み込めたよ」
『フフ、もっと褒めてくださって良いのですよ主様』
「流石は上位精霊のレーンだ。迷宮でも頼りにしてるからな」
そう言って頭を優しく撫でてあげる。
『エヘヘ……いつでも私は主様のためにお力添えいたしますのでどんどん頼ってください』
まだ丸1日と経過はしていないものの既にギルバートとレーンの絆はかなり深まった。
『時に主様。本日はアリス様を襲撃はなさらないのですか?』
「うーん、まぁいつでも油断はしてくれてるんだけど今の俺の手持ちの攻撃手段じゃ殺せないからな。結局はお嬢様のワガママに付き合うのが一番の近道だと思っている」
『確かにアリス様の呪いは我ら精霊からしても解呪困難な代物。であれば今回の噂のような【不死殺し】の類いに頼るのも良いでしょうね』
「そう言うことだな。理解が早くて助かる。所でそう言う魔剣とかの特性ってレーンなら解析とかコピーは出来ないのか?」
『物によります、としか言えないですね。しかしながらある程度時間を戴けるのであれば解析して既存の術式に組み込んでオリジナルを作ることも出来ましょう』
「ってことはお嬢様の呪いに対してイレギュラーを発生させることも出来る?」
『可能性は十分かと。しかし留意するべき点として一度アリス様はオリジナルの効果を受けますのである程度その特性に対しては耐性が出来ると考えるのが自然かと。ですのでアリス様に何がどう有効かを見定めて一回のチャンスにかけるしかないです』
「まぁそうだよな」
『それについては今考えても仕方がないと思いますので明日への準備を十分にしましょう。水分については私がいるので無限に提供可能です』
「それは本当に助かるな。じゃあ食べ物を持っていけば良いか。あとポーションも幾つか」
『私も治癒魔法が可能ですがポーションも持っていかれるのですね?』
「まぁ何があるか分かんないし。こう言うのは備えておいて損はないからな」
『流石主様でございます』
片付けをし自室に戻ると、手放しに褒めるレーンと一緒に十数時間後の迷宮探索に向けた準備を進める。
その晩。
夕食を食べながら明日のスケジュールを確認する。
「……ギルバート迷宮までは馬車で行くんでしょ?」
「はい、馬達を預ける場所も手配済みです。休憩を挟んで片道3時間ほどですので夜明けより前に屋敷を出ますがお嬢様大丈夫ですか?」
「……幸い、寝起きが悪い日を今日消化したから大丈夫」
少しドヤ顔で誇らしげに言うアリス。
「まぁ馬車で寝てて良いですし寝てても担いで乗せるので大丈夫です。荷物だけ分かるように纏めていただければ問題ないですよ」
そんな表情はスルーして淡々と続けるギルバート。
それに少しだけ不満そうなアリスは頬を膨らませて忠告をする。
「……ギルバート寝坊しちゃダメ、だよ?」
「しませんよ。今日のお嬢様じゃないんですから。あと最悪レーンに俺が起きてなかったら起こすようにお願いしてるんで大丈夫です」
「……面白くない」
「何がですか?て言うか出来るなら明日早いんで早く寝てください。馭者は俺がしますし、万全の体調で臨みたいのでお願いします」
「……ギルバートお母さんみたい。でも、事故されたら嫌だし今日は早寝する、よ?」
「ありがとうございます。後でホットミルクを持っていきますね」
食事を終えるとアリスは入浴を済ませて自室に戻った。
意外とすぐに眠くなったのか私室を確認するとギルバートがホットミルクを持っていくまでもなく穏やかな寝息を立てていた。
起こさぬよう静かに部屋を出てギルバートも眠りについた。
まだ月が夜空を支配している時間だがギルバートは目を覚ました。
予定より1時間程度早い起床だが二度寝が出来ないギルバートは大人しく活動を始める。
厩舎に赴き少し早いが出発前の食事を与える。
次に道中馬車で食べられる簡易的な朝食を用意する。
ギルバート自身は馬車を制御しながら食事という器用すぎることは出来ないので今のうちに作ったものを食べてしまう。
月が傾き始めたところでギルバートはアリスを起こしに向かう。
扉を開けるとアリスはまだ夢心地のようであり穏やかな寝息が依然部屋に響く。
チラッとテーブルを見るとおそらくアリスが纏めたであろう荷物が置いてある。
と言ってもボストンバッグ1つ分程度。
おそらく着替えの類いなどだろうと推測する。
「お嬢様、おはようございます」
「…………あと、5時間……」
「それは寝すぎです。相場は5分と決まっております……っとそんなことはどうでもいいです。このまま馬車までお連れしましょうか?」
「………………いや、起きる」
やや葛藤が見えたが、プライドがあるのか眠い目を擦りながらモゾモゾとゆっくり時間をかけてベッドから起き上がる。
少しキョロキョロしてからギルバートに視線を向ける。
「……ギルバート、レーン貸して」
「?いいですけど、何かありました?」
「……顔を洗って髪を整えたい」
「レーンをそう言う使い方してたんですね。
━━レーン、起きてるか?」
呼び掛けをするとレーンが顕現する。
『おはようございます主様』
「悪いけどお嬢様が整容したいらしいから手伝ってくれ」
『承知いたしました。アリス様、いつも通りでよろしいですか?』
「……うん、頼んだよ?」
「じゃあ俺は下で待ってますので準備が出来たら声をかけてください。今のうちに馬車を前に回しておきますので」
そう声掛けをし部屋から出るギルバート。
厩舎に向かい今回遠征に付き合って貰う馬を連れて手綱など付けて車体と連結させる。
準備運動もかねて館の周辺を軽く走らせてから正面玄関前に馬車を着ける。
そうこうしていると着替え及び整容を追えたアリスがレーンを肩に乗せボストンバッグを浮遊させながら階段を降りてきていた。
ちなみにアリスの装いとしては普段と変わらぬ赤いドレスであった。
「お嬢様、荷物はそれだけですか?」
「……うん、これで十分だしギルバートなら大抵必要なものは用意してくれてるでしょ?」
「頼ってくれるのはありがたいですが迷宮では自力で身を守る術が……ってお嬢様に言っても意味ないですね」
「……ふふん、私結構強いからね?」
ドヤ顔されるのは少し腹が立つが事実ギルバートを遥かに凌ぐ実力であり何も言い返せない。
『主様、何かあれば私やサラがどうにか致しますゆえあまり心配しすぎずともよろしいですよ?』
アリスの肩から飛び立ちギルバートの周囲をグルグル回るレーン。
「ありがとうレーン。勿論君達の事も頼りにしてるからな?」
「……それよりギルバート。いつも通りの格好だけどそれで行くの?」
「いや、俺の装備とか着替えは馬車に積んでます。あの格好で馭者するといやに目立つので」
「……なるほどね?」
「では向かいましょうか。2~3時間ほどかかりますので馬車のなかでお好きに過ごしてて下さい。朝食は簡易的ですがバスケットにサンドイッチを入れてますのでお食べください」
「……至れり尽くせり。ありがとうギルバート。じゃあ安全運転でよろしくね?」
「承知しました。ではどうぞお入りを」
アリスが乗り込むのを確認して扉を閉め、馬車を出発させた。
幸いにも現状天候にも恵まれ目立ったトラブルもなく順調に進んでいく。
少しずつ正面から日が昇るのを感じる。
途中休息を挟みつつ予定どおり目的の迷宮があるイーストウルブス近辺の都市の境界にやって来た。
馬車を預ける必要もありまずはイーストウルブスに入国をする。
都市の境界にある検問所に入ると憲兵により目的等訪ねられる。
「随分早くから来たみたいだが目的は?」
「イーストウルブス近辺の迷宮探査だ」
「馬車には何が?」
「同行者と探査に必要な道具とかが入っている。同行者は高貴な身分故に過度な詮索はよしてくれ。荷物を検閲したいなら自由にしたら良いがあまり時間を取らせるなよ?」
「……身分を照会するものは何か持っているか?」
「ギルドカードがある」
そう言って見せたのはギルドカードという一種の身分証だ。
だがギルバートのギルドカードはステラ所持者にしか許されない紋様が描かれている。
それを目にした瞬間憲兵の顔色が変わった。
「こ、これはステラ!?本物?だとしたら何故馭者なんかを」
カードと顔を交互に何度も往復して見つめる憲兵。
普通に考えたらステラ所持者は馬車に入る側で馭者をするような身分ではない。
「色々ワケアリだ。ユニウルブスからも迷宮探査の許可は貰っているし馬車を預ける所も予約済みだ」
「しょ、承知しました。入国を許可致します」
説明するのも面倒なので詳しいことは話さずその他の情報を伝えることで半ば有耶無耶にして無事入国した。
そして予約しておいた馬車を預ける施設につくとアリスに声をかける。
「お嬢様、着きましたので荷物を下ろして下さい」
「……お疲れ様ギルバート。迷宮はどの辺り?」
「おそらく歩いて10分ほどの距離かと。あとお嬢様が用意したカバンは背負えるはずなのでそのように持ち運びをお願いします。重たいようでしたら俺が持ちますが」
「……流石に大丈夫。大したものは入ってないし」
「ならすぐ俺も着替えるので少々お待ちを」
着替えと言っても上着を変える程度でありすぐに終わる。
格好的にはアリスを初めて襲撃したときの装いである。
装備も整えて準備は完了だ。
「さぁ、行きますよお嬢様」
コクンと頷きギルバートが先導する形で迷宮に向かう。
迷宮のある区画は都市の境界にまたがる形で出現しているようで境界を囲う壁が隣接されている。
その周辺には迷宮に挑む冒険者向けに露店などを出しているものも多いが、パッと見た印象では質は低そうだ。
また近くには野営をしているものもそこそこいる様子。
それらを横目に進み入口前まで辿り着いた。
そこにはギルドから派遣された職員がテントを設営しやや簡易的だが受付を担っていた。
獣人の受付嬢が笑顔で出迎える。
「おはようございます、迷宮に入られますか?」
「はい、ギルドからも許可証を貰っています。確認をお願いします」
書類を提示し確認をして貰う。
「これはこれは……ローレンス様でしたか。わざわざ御足労をありがとうございます。勿論入場を許可致します。そちらの方は同行者ですよね?お気を付けて」
「ありがとうございます。
━━では入りますよ、お嬢様」
入場を承諾して貰い2人は迷宮へと脚を踏み入れるのであった。




