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魔剣の噂

ユニウルブスには様々な地域から多種多様な武具やアクセサリーなどが売買されている。

それと言うのも人間意外も多く住んでいるという事情もあり各地からの貿易が盛んなのだ。

ギルバートはアリスの命を受けてとあるアイテムを調達するためユニウルブスの中央市場に赴いている。

中央市場には各地から輸入したその土地特有のアクセサリーや食材など多く取り揃えられており、他国に行ったお土産を忘れても中央市場に行けば大抵揃っていると言われるほどだ。

活きの良い呼び掛ける声が随所から木霊する中ギルバートはアリスから貰ったメモを参考に目的の店まで突っ切る。

メモを見ながら進んでいくと市場から外れて少し古びたレンガ造りの3階建てほどの建物にたどり着く。

「ここ……か?て言うかユニウルブスにこんな場所があるのを知らなかったな」

メモには自分以外は特別な合図が必要でそれをするようにと記載している。

「えーっと、玄関を5回ノックして右手の窓を1回叩いて壁伝いに裏口に回ってもう一回その扉をノック?結構めんどくさいな」

メモのまま合図をこなしていく。

裏口のノックをしてしばらくしてゆっくりと扉が開く。

「失礼します」

一応挨拶をして中に入る。

完全に建物内に身体が入ると扉がひとりでに閉まる。

灯りもないため真っ暗な空間に閉じ込められる。

少し警戒していると暗闇の奥から足音が響く。

「一見さん、かな?どうやって合図を知ったの?」

炎の塊を4つほど浮遊させて美しい女性が現れた。

紫のロングヘアーを靡かせながらこちらに視線を向ける。

「館の魔女アリスお嬢様からここに来るように命じられてきました。現在使用人をしておりますギルバートともうします」

「……ギルバート?もしかしてステラ冒険者の?」

「はい、そのギルバートです」

「なるほど、そしてアリスの使用人と。なら君は純粋な買い物客と言うことだね。だったらいらっしゃいませ、だ。アタシはカナリア、魔法使い兼この店の店主だ」

そう言うと指をピンと鳴らす。

すると部屋が一気に明るくなりその場所の全貌が明らかになる。

そこにあったのは見たこと無い果実や爬虫類の乾物や動物の骨、魔導書などいかにも魔法使い御用達と言った雰囲気である。

ちょっと想像と違い思わず驚いた表情を浮かべてしまう。

そんな様子を見てカナリアはフフッと笑みをこぼす。

「驚いたかい?まぁ魔法使い以外はあんまりうちに来ることはないからね、新鮮な反応で助かるよ」

「あの、ここって?」

「まぁ簡単に言えば魔法使いが儀式や修行とかするのに必要な物を取り揃えている魔法使い版の何でも屋って所かな?」

「だから魔導書まで」

「それで?今日はアリスは何を求めているんだい?」

「これなんですが、俺じゃ良く分からないんで見てもらって良いですか?」

そう言ってカナリアにアリスから貰った調達リストを手渡す。

受けとると一通り目を通す。

「……なる、ほどね~。うん、多分あるから少し待ってておくれ。そこのカウンターのところの椅子に座っていて良いよ」

メモをギルバートに返すといそいそと物品の準備に取りかかる。

言われた通りカウンターに設置された椅子に腰掛ける。

「あの、差し支えなければカナリアさんとお嬢様の関係って?」

「ん~?まぁ簡単に言えば先祖の代からの腐れ縁だね。使用人をしているならアリスが不老不死なのは知っているだろう?と言うか大方キミをもってしてアリスを殺すことが出来なかった。そうだろう?」

「えぇ、悔しいですが」

「素直だね。まぁアリスは長年生き続けていることで特に魔力の成長が止まらない。幸か不幸かアリスの肉体の年齢は魔法使いが一番伸び盛りと言われている十代後半。生半可な魔法じゃ傷一つつけられやしないからね。肉体的にはキミの方が遥かに強いだろうけど成長の止まらない魔力によってアリスの五感はかなり鋭くなっているからね。何か身に覚え無い?」

「……そう言えば初めてお嬢様を襲撃した時、俺の身体強化の魔法をかけた動きを見切って魔法で吹き飛ばされました。あの時はそこまで考え付かなかったですが、確かにその通りであれば納得は出来ます」

「そう、だからアリスを殺すと言うミッションは時間が経過するほど殺す側が圧倒的に不利になる。ハッキリ言ってクソゲーもクソゲーで良いところよ。まぁ幸いアリスは世界をどうこうとか全く考えてないから良いんだけど、その気になれば世界を支配することも出来るよ。うちの家系は500年くらい前からアリスと交流があるみたいでね。なんでも当時の当主がアリスに命を救って貰ったとか。それ以降うちでは困った時にアリスを匿ったり、彼女が求める品を用意していた。そんな感じの関係ね」

「なるほど。お嬢様はよくカナリアさんの所に来るんですか?」

「大体月一くらいでね。……よし、これで全部かな?」

「ありがとうございます。あのお嬢様が欲しがったものって」

「あ~簡単に言えば猛毒の果実とかそう言う類いだね」

「え?まさか……食べる気なんですかね?」

「いや、昔は食べたことあるみたいだけど美味しくないし気持ち悪いからもう食べないって言ってたよ」

「じゃあ何のために?」

「アリスは趣味で解毒の魔法やポーション作製をしているんだ。今回用意したのはわりと最近ユニウルブスに持ち込まれた毒性の高い果実だ。と言っても死ぬようなものじゃない。一般人なら精々丸1日昏倒する程度さ」

「いや十分危ないですよ。て言うか一般に流通したら危なすぎませんか?」

「そう。当然良からぬ事に使おうとする輩もいるからアリスが解毒の開発をすると買って出てくれた」

「凄いですねお嬢様は」

「時間を持て余して暇なんだよ。あ、そう言えば面白い噂を聞き付けたからアリスに伝えてくれないか?」

「噂ですか?一体どんな?」

「詳細はこの紙に記してるんだけど、この果実の分布地の近くの迷宮に魔剣の噂があってね。なんでもアンデッドすら殺す魔剣らしいよ」

「アンデッドを?浄化とかではなく?」

「あぁ、殺すんだと。アリスはそう言う自分を殺す可能性のある話に目がなくてね。だからキミに殺しを依頼したんだろう」

「あのそう言えばで疑問なんですが、お嬢様は死にたいと言うわりにちゃんと反撃をしてくるのは何でなんですかね?」

「う~ん、言われてみればそうだね。と言うか別に聞いたら教えてくれるんじゃないか?」

「まぁそれもそうですかね。ありがとうございます。それとお嬢様からお代を預かってます。確認を」

巾着に入った金貨を渡す。

「フムフム、確かに。あ、ギルバート左手をこっちに出しておくれ」

言われるまま左手を出すとどこからか取り出したスタンプを手の甲に押し付ける。

「これは?」

「次から正面入口からウチに入れるように刻印をさせて貰った。何か困り事があればウチに来な。アリスの使用人ならいつでも歓迎するさ」

「ありがとうございます。何かあれば頼らせて貰います。それではまた」

カナリアの店を出て館に戻る。

その道中偶然にもギルドの受付嬢であるミカが来ていたようでギルバートに気付き声をかけた。

「あ、ギルバートさん!お久しぶりです」

「ん?あ、ミカさん。ギルドの買い出しですか?」

「ええ、ギルドマスターからのお使いです。それよりギルドマスターからのミッションを受けてから姿を見せないので心配してました。……その格好は?」

少し冷静になってギルバートの燕尾服に目が向いたようだ。

「あ~実はミッションの兼ね合いでとある館の主人の使用人をしているんですよ」

「ギルバートさんが使用人なんて豪華ですね。と言うことはギルバートさんも買い出しってことですかね?」

「ええ、用事が済んだので帰ろうかと思った所です」

「じゃあお邪魔してはいけませんね。また何時でもギルドにいらしてください。喫茶のマスターも姿を見せないから心配しているので」

「本当ですか?じゃあ近々ギルドに寄らせて貰いますね。では俺はこれで」

「はい、お待ちしてますね」

笑顔のミカと別れ少しだけ市場に寄り道をする。

「!……これは」


━━━1時間後。

書斎に向かうとアリスは読書をしていた。

ギルバートの帰宅に気付くと本を閉じて視線を向ける。

「……お帰りギルバート。カナリアには、会えた?」

「ええ、こちらが注文の品です。それとカナリアさんから伝言が。詳細は袋に入ってる紙にあるようですが何でもアンデッドを殺す魔剣があるとか」

「……!アンデッドを、殺す?……面白い話」

明らかに食い付いたのが分かった。

袋を受けとるとカナリアに依頼していた商品より先に魔剣の事が書かれた紙に目を通す。

「あのお嬢様、一つ質問が」

「……なぁに?」

「お嬢様は自分を殺す人や物を探しているんですよね?」

「……その通り、だよ?」

「では何故こっちの攻撃に対して反撃してくるんですか?」

「……痛いのとか苦しいのは、嫌だから。あとは……」

「あとは?」

「……これだけ生きたんだから、しょうもない理由とかで死ぬのは……なんか恥ずかしいから」

「な、なるほど……?」

「……だから、期待してるよ?ギルバート」

「えぇ、いずれ必ず」

「……それより、魔剣の噂を。ギルバートも、この紙読んで?」

アリスに促されカナリアから貰った紙を確認する。

概ねは店でざっくり聞いた話通り。詳細な場所としてユニウルブスから最も近い東側の都市イーストウルブスとの境界にある迷宮の一つに例の魔剣が隠されていると。

「結構近いな。お嬢様も知らない話ですか?」

「……これは初耳。でもギルバートが居てくれて良かった」

「ひょっとして行く気ですか?」

「……安心して?私も行くから、ギルバートが死ぬことはない、よ?」

「いやそんなことは心配してないんですが……まぁいいか。迷宮に入ったら俺の言う通りに動いて貰いますが構わないですか?」

「……任せるよ。迷宮探索は、ギルバートの方が専門だから」

「ありがとうございます。それよりそろそろ昼食の時間ですが何が食べたいですか?」

「……じゃあ、お魚」

「かしこまりました」



アリスの要望に答えて魚料理を作った。

「お待たせしました。こちら魚の煮付けです」

「……これって、極東の伝統料理?」

「流石よくご存知で。以前極東の方の迷宮探索をしていた際近くの集落で食べたんですがとても美味しかったので作り方を聞いたんです。そしたら今日行った市場で味の肝となるショーユと言う極東発祥の調味料を見つけたので買ってきたんです」

「……いただきます」

ホロッと崩れる身を頬張るとアリスの目が一瞬見開く。

「……美味しい」

「本場はこのレベルじゃないですからね。また機会があれば行きましょう」

「……フフ、その魔剣で死ぬかもしれないのに?」

「そうなりゃ墓に供えますからご安心を」

今や定番となった不死身トークをしながら昼食を終える。

そこからは基本的には自由時間である。

館は広いもののアリスは几帳面であり掃除は欠かさないし詳細は分からないがその気になればアリスの魔法で館全体の清潔は保つことが出来る。

ギルバートが午前中など仕事で不在にしたり忙しいときはアリスがその魔法を使用することもしばしばある。

この日もカナリアの元へのお使いを頼んだのでその変わりとしてアリスが館の清掃は終わらせている。

アリスは早速例の果実の解毒方法を調査する。

邪魔はできないのでギルバートは館周辺の警備兼森で夕食の食材調達をする。

警備に関しては魔女の噂があるため人為的なものはほぼほぼ警戒は必要ないがアリス曰く年に一回くらい度胸試しに館に忍び寄る輩がいるとのこと。

それと長い年月をかけて収集している宝石や武具の類いなども気まぐれでコレクションしていることもありそれを目当てに来るものもいるとか。

曲がりなりにも使用人である以上館を守る責務はある。

ざっと見回った感じ今日も異常はなさそうだ。

そのついでに森に紛れ込んだそこそこデカイ鹿などを数匹狩り、裏庭で解体する。

幾つかは薫製などもし日持ちできるように対応した。

そんなことをしていると夕食を準備しないといけない時間となりささっとこなしていく。

そうして日が暮れ、夕食時になりアリスに声をかける。

これがこの館での日常的な光景だ。

ちなみにアリスからはいつでも襲撃をして良いとは言われているがギルバートの中で1日1回までと勝手に縛りを付けて挑戦している。

それも毎日行うのではなく質の高い殺しを目指しており、ある種のプライドから来る行動とも言える。



そうして数日後、アリスからは突然宣言がなされる。

「……ギルバート薬が完成したから例の迷宮、行くよ?」

「え、迷宮って……魔剣の?」

「……うん。カナリアに薬を卸しに行くついでに、ギルドに迷宮立ち入りの通達しに行くよ?」

「かしこまりました。ではまずカナリアさんのところに行きましょうか」

ギルバート単身であれば多少荷物があっても自力で走って向かえば良いのだが今回は大荷物かつアリスもいると言うこともあり馬車を使ってカナリアの店に向かうことにした。

「そう言えばお嬢様は街の人に顔とか見られても大丈夫なんですか?」

「……基本はね。たまに察しのいい人がいると絡まれることもあるけど今回はギルバートがおとr……じゃなくて対応してくれるだろうから大丈夫」

「今ほぼ囮って言いかけたでしょう?まぁ何でも良いんですけど。じゃあローブとか被るのはどうですか?面倒事はなるべく避けたいんで」

「……うん、いいね」

そう言ってピンッと指を鳴らすとクローゼットにかかっていたローブがひとりでに浮遊しアリスのもとに来る。

「……。毎度思うんですがお嬢様のその魔法は何なんですか?他の魔法使いがそんな魔法使っているの見たこと無いんですが」

「……ナイショ。でも、そのうちギルバートには教えてあげる」

イタズラっぽく微笑むとローブを羽織り準備を整える。

「……ギルバート、馬車を表に付けて?薬品は私が持って降りるから」

「かしこまりました。少々お待ちを」

言われるまま馬車を玄関に着けると荷台に薬を搬入する。

薬の入った箱の隣にアリスが座る。

「お嬢様は薬と同じ空間に座るのは良いんですか?」

「……問題ない。というか、何かあったときのため誰か見てないと危ないから。ギルバートは安全運転でよろしくね?」

「そのつもりです。では向かいます」

合図をすると馬はやや勢いよく動き出すがすぐに勢いをいなして進行する。

館から中央市場までは馬車で1時間程。

特段アリスからの苦情もなくスムーズに市場へと道を進める。

まっすぐ迷いなくカナリアの店に馬車を進めたどり着いた。

「お嬢様、カナリアさんの店に着きました」

声をかけるとひょっこりとアリスが顔を覗かせる。

「……お疲れ様ギルバート。じゃあ、正面の扉開けて?刻印された方の手でドアノブ回せば繋がるから」

言われるまま左手でドアノブを手にしてゆっくり回す。

扉を押すと見覚えのあるカウンターが目に入る。

「いらっしゃい……っとギルバート、だったね?今日もアリスのお使い?」

カウンターの下から何か作業をしていたカナリアが顔を出す。

「いえ、今日はお嬢様が納品をしたいとのことで伺いました」

「……カナリア、例の果実の薬。出来たよ?」

ギルバートの後ろから箱を浮遊させたアリスが入ってくる。

アリスの顔を見るとカナリアは少し驚いた顔を見せる。

「アリス、久しぶりね。と言うか仕事が速いのね」

「……これくらいなら、すぐ出来るよ?あと、この間ギルバートに教えてもらった魔剣の話、教えて?」

「なるほどね。じゃあまずは薬を見させて貰うよ。アリスもギルバートも席に着いておくれ。飲み物は何か要るかな?時間がかかると思うけど」

「……紅茶、ある?」

「あるよ。悪いけどギルバート、淹れてくれるかい?カウンターの中に入っていいから」

「では……失礼します」

食器などの位置を聞いて慣れた手付きで紅茶を淹れる。

アリスと共に一服していると薬の鑑定を終えたカナリアが戻ってくる。

「いやーお待たせ。流石アリス、良い出来だよ」

「……フフ、当然。それよりも、魔剣の話を教えて?」

「まぁ、アリス的にはそっちがメインよね?概要はギルバートに託した手紙通り。アリスに薬を依頼したあの果実はここから西にある迷宮区付近に多く分布していてね。調達をしているなかで聞いた話だからどこまで本当かは分からない。所謂神話とか地域に伝説みたいな話だからあんまり期待はしすぎない事だよ」

「……面白そうだから、行ってみたい。ギルバートと一緒なら、大丈夫かな?」

チラッとギルバートの顔色を伺うアリス。

「西の方は俺も行ったことはないですが大抵の迷宮ならソロで帰還できます。お嬢様の実力もあるならほぼ問題なく行けるかと」

「……じゃあ、決定だね。ギルバート、ギルドに行って迷宮探索の許可取りしてきて」

「かしこまりました」

ギルバートが出ていったのを確認するとカナリアはアリスに気になっていた事を尋ねる。

「ところでアリス。使用人を雇うなんてどういった風の吹きまわしだい?」

「……別に、今までも何人かいたよ?」

妙にはぐらかされたので少し角度を変える。

「じゃあ質問を変えよう。何でギルバートなんだい?聞くところによるとわざわざ彼を指名したミッションもギルドに依頼してアリスにしては随分と用意周到な気がしてね」

そう言われると一瞬アリスはピクッと固まる。

少し悩んだ様子を見せたがすぐに口を開いた。

「……ギルバートは覚えてないと思うけど、彼とは以前出会ったことがある」

「それはユニウルブスでかい?」

「……ちょっと違う、一人で迷宮に入ったときに迷子になったところを助けてくれたの。ただの迷子だと思ってくれたから道中も私を守りながら強さを見せてくれた。そのとき思ったの。

━━……あぁ、この人になら殺されてもいいなって」

「……???」

「……帰ってから彼について昔の伝も使って調べたの。そしたら、超一級の冒険者であり、その最中で丁度良いヒミツも知れたから彼が来るように仕向けたんだ」

「な、なるほど?」

疑問符がたくさん浮かぶが千年単位で生きている魔女の考える事はただの魔法使いには理解できないと諦めた。

アリスはそのまま少し笑みを浮かべて続ける。

「……それに私を殺すために全力を出して私の事だけを考えてくれるのが、何より嬉しいの」

「な、何と言うか……変わった独占欲だね」

「……カナリアにも、あげないよ?」

「いや、アタシには旦那がいるから。まぁ……何と言うか、お幸せに?」

「……フフフ」

ことのほかアリスからギルバートへの矢印が大きいことが発覚したが、ギルバートがそれを知るのは先の話。

その後は他愛ない談笑を続けること数十分。

ギルバートが店に戻ってくる。

「ただいま戻りました。いつでも迷宮への立ち入りは可能です」

「……お疲れ様。じゃあ、迷宮に潜る準備して明後日向かうよ?」

「かしこまりました。ではカナリアさん、また伺います」

「気を付けるんだよ。それとアリス、報酬はまた館に送っておくから迷宮から帰ってから確認しておくれ」

「……うん、よろしくね?カナリア、また来るね」

店を出ると前に停めておいた馬車にアリスは乗り込む。

「お嬢様買い物はこのままして帰ってもよろしいでしょうか?」

「……良いよ、内容は任せるし薬の箱空いてるから好きに揃えて?お金はいくらでも、あるから」

「ちなみに確認ですがお嬢様は回復系の魔法は使用できますよね?」

「……勿論。だから、ポーションとかはギルバートの分だけでいいし、武器とか必要なら買ってあげるよ?必要経費だから」

「ではポーションだけ用意させて下さい。武器に関してはかかりつけみたいな所があるので今は大丈夫です」

「……じゃあ、行こっか」



ギルバートが必要と考えたポーションのみさくっと購入して館に戻る。

明後日という期日が設定されたためギルバートは急いで武器の選択を行う。

行ったことがない迷宮であり特徴は一応ギルドで確認したが特段変わったギミックなどはなさそうであった。

ただ何があるか分からないのが迷宮ということで、得物のリーチは複数用意しておく。

剣と短剣をベースに投擲系も幾つか忍ばせる。

通常の迷宮探索に必要十分なポーションも入れギルドで受け取った現状までのマッピングも確認して頭に叩き込む。



夕食が終わりアリスに確認をする。

「時にお嬢様、迷宮に入った経験は?」

「……あるよ?でも、ちゃんと迷子になった」

「であれば俺から離れないで下さい。或いは互いの位置が分かるようにしたいのですが」

「……!なら、指定したもの同士の魔力を強く関知できる魔法があるけど、いい?」

「それに伴うデメリットは?」

「……原則解除できないし、眠っている時以外は強制的にお互いの位置が関知される」

「それは……ちょっと困りますね」

「……なんで?もしかして浮気、するつもり?」

少しハイライトオフの瞳でじっと見つめるアリス。

そんな視線には気付かず説明する。

「浮気って何がですか?そうじゃなくて俺はお嬢様を殺すために使用人をしているので常に俺の位置を把握されると襲撃しにくいので。それが続くならこちら側からすると大変だなと」

「……仕方ない。なら、この子を授ける」

そう言うと右手の人差し指をクルクルっと回すと急激に光が収束される。

直後光が霧散すると2体の精霊が顕れる。

手のひらほどのサイズで片方は短い赤髪に赤いドレスを纏っており、もう片方は長髪の蒼髪に蒼いドレスを纏っている。

赤い精霊はアリスの周りを浮遊し、蒼い精霊はギルバートの周りを浮遊している。

「これは……精霊?」

「……そう、何かあればサポートも出来るし簡単になら治癒とか解毒とかも出来るよ?」

「めちゃめちゃ便利じゃないですか」

精霊をまじまじ見ていると蒼い精霊がギルバートの方を向く。

『貴方が新しい主様ですか?』

「!?しゃ、喋った!?」

「……この子達は、上位精霊だから意志疎通できるよ?」

『はじめまして、私は精霊のレーンです』

「レーンか。よろしくな」

人差し指でレーンの頭を撫でてあげると気持ち良さそうに目を瞑る。

「……気に入ったならよかった。契約するなら右手をその子に翳して?契約の術式を使うから」

言われるまま手を翳すとアリスが二人に向かって契約の術式を展開させる。

「……終わったよ。これでいつでもギルバートのタイミングで顕現と潜在が出来るようになったよ。遠くにいてもこの子達を通じて距離があってもやり取りはできるから迷宮でも安心、だね?」

『主様、改めましてよろしくお願い致します。いつ何時でも主様がお呼びになれば馳せ参じます』

「ありがとうレーン。ちなみにお嬢様の精霊は?」

「……この子はサラ。レーンとは種族が違うけど、姉妹みたいな関係、だね?サラも挨拶、して?」

『よろしくねレーンの主。私はサラよ』

「よろしくサラ。頼りにしているよ」

「……ギルバートあんまりレーンにうつつを抜かしたらダメ、だよ?」

「?……分かりました」

意味はイマイチ分からないが取り敢えず頷いておく。

「……明日は、中庭でレーンと連携とかしてみていいよ?結界も張ってあげるし掃除は私の魔法で終わらすから。ご飯は、作ってね?」

「ありがとうございます。では明日はそのようにさせていただきます」

「……うん、じゃあ私はもう寝るからおやすみ」

「おやすみなさいお嬢様」

自室に戻るのを見届け片付けを終えてギルバートも自室に戻る。

「レーン、出てこれるか?」

呼び掛けをすると目の前が光りレーンが顕現する。

『何でございましょうか主様』

「一応レーンが使える魔法とか確認したくて。明日の訓練までにイメージを掴みたいんだ」

『左様でございますか。流石は主様、勉強熱心ですね。私は主に回復系の術を得意としていますが、水を介した術を使用します』

「水か。結構便利だな」

『水を顕現させることも可能でございます。勿論人体に害のない水から毒性のある水まで変幻自在です』

「なるほどね?了解だ」

『参考になったのであれば幸いです』

とびっきりの笑顔を見せて飛び回るレーン。

そういえばとアリスの言っていたことが少し気になり質問をしてみる。

「そう言えばレーン。先程お嬢様がレーンとサラは上位精霊って話をしていたんだが、何故あっさりと俺に主従契約を変更したんだ?」

『そうですね……アリス様を襲撃された際の姿勢などが真剣そのものであり私も力添えをしたいと思っていたのです』

「でも元々お嬢様との契約をしていたんじゃないのか?俺の力になるということはお嬢様を失うことになるかもしれないのはいいのか?」

『我らの一族は長い間アリス様に使役をしておりアリス様の悲願を存じております。故にアリス様の願いは我らの願いであり、成就が可能のであれば全力でお手伝いをするつもりでございます』

「そう言うことなら遠慮なく頼りにさせて貰うよ。ありがとうレーン。じゃあそろそろ俺は休ませて貰うしおやすみ」

『はい、おやすみなさい主様』

挨拶を交わすとレーンは姿を眩ます。

そのままベッドに潜り明日に備えて就寝した。

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