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第四十二話:道中

アルカディアを出発して初めての夜。

わたくしたちは、街道から少し外れた開けた場所で野営の準備をしていました。


分担は明確です。大雑把な「加熱」しかできないわたくしが設営と水回りの管理を担当し、料理はニーナにお任せしています。


「ルナイズ、そっちはどうですか?」

「ええ、問題ありませんわ。水も確保できていますし、寝床も完了しました。」


わたくしは新しく覚えた【水創アクアクリエイト】で容器に澄んだ水を満たしながら答えました。

アルカディアで購入した二人用の簡易テントと寝袋は、一人でも簡単に展開できる優れものです。

魔術の【土工シェイプアース】で土のドームを作る手もありましたが、いざという時のために魔力の温存を優先しました。


「これなら、野宿が続いても大丈夫そうですわね。」

「そうですね。とはいえ、なるべく避けたいですが。」


『《ふむ、その通りだ。避けられるのなら避けたほうが良いだろう。野営はイレギュラーが発生しやすいし、長引けば世間の情報にも疎くなる。》』

先生が脳内で同意の声を上げます。


「そうですわね。なるべく野営が発生しないよう心がけましょう。このペースなら遅くとも四日後の夕方には目的の街へ着けるはずですから。」


それから、ニーナが作ってくれた干し肉と豆の温かいスープをいただきながら、今後の道程について会話を交わしました。


「そういえば、夜間の見張りはどうしましょうか? 前半は私が起きていますから、ルナイズは先に…」

「ああ、それなら必要ありませんわ。」

「え?」

ニーナが目を丸くします。


「詳しくは省きますが…周囲の警戒はわたくしのスキルでカバーできますの。何らかの脅威が接近すれば、眠っていても必ずわたくしが感知して目覚めますから、今夜は二人とも一緒に寝てしまいましょう。」

(お願いしますわ、先生。)

『《…フン。》』


「見張りなしで、ですか…?」

護衛稼業が長かったニーナにとって、それは常識外れの提案だったのでしょう。

ですが、彼女は少しだけ戸惑った後、ふわりと微笑みました。


「…にわかには信じ難いですが、ルナイズがそう言うのなら…信じます。」


その後、焚き火の火を落とし、わたくしたちはテントに入って寝袋に潜り込みました。

薄暗いテントの中、すぐ隣からはニーナの規則正しい寝息が聞こえてきます。


(…温かいですわね。)


わたくしは、心地よい疲労感と安心感に包まれながら、静かに目を閉じました。


***


翌日。支度を済ませて街道を進んでいると、昼過ぎに差し掛かった頃、少し離れた草原にオークが数匹群れているのを発見しました。


「ルナイズ、どうします? 距離もありますし、別に無視して進んでもいいと思いますが。」

「いえ、余力もありますし、倒していきましょう。ちょうど、新しい魔術の試し撃ちもしたかったところですの。」


わたくしは腰のコピシュの柄に手を当てながら言いました。

「ニーナは、周囲の警戒をお願いできますか?」

「了解しました。無理はしないでくださいね。」


わたくしは荷物をニーナに預け、オークの群れへと単独で距離を詰めます。

こちらの気配に気づいたオークたちが、醜悪な雄叫びを上げて一斉に向かってきました。


(術式起動—【白氷ノ矢(ホワイトアイシクル)】!)


指先から解き放たれた複数の白く輝く矢が、空気を凍らせながら飛翔し、先頭を走っていたオークの足元へ正確に着弾します。

『パキキキッ!』 という音と共に氷が弾け、数匹のオークの足を地面ごと強固に凍りつかせました。


「グオオ!?」

足止めを食らい、動きが鈍ったオークたち。


(術式起動—【身体強化ブースト】、【軽身フェザー】!)


瞬時に体重を消し、強化した脚力で地を蹴ります。

一息で懐に潜り込み、コピシュを振り抜いて、オークの分厚い皮膚と肉を容易く両断しました。


数匹を速攻で仕留めると、氷の矢を逃れた残りの個体が、怒り狂って棍棒を振り回してきました。


『《遅い。【魔導盾マジカルシールド】を使うまでもないな。》』

(ええ、術式起動—【空踏スカイステップ】!)


わたくしは空中の何もない空間に風の足場を生成し、それを蹴って跳躍しました。

オークの棍棒が虚しく空を切り、わたくしは空中から勢いを乗せたまま、群れの中心へと突っ込みます。

予測による完全な回避と、重い一撃。

踊るように敵の死角を突き、最後の一体を仕留めました。


「ふう、こんなものですわね。」

コピシュの血を振り払い、鞘に納めてニーナの元へ戻ります。


「さすがです、ルナイズ! 新しい魔術も、すでに使いこなしていますね。」

「ありがとうございます。まだ少々連携の課題は残りますが、とてもいい手札になりそうですわ。」


***


それからの数日間は、危なげなく街道を進むことができました。

やがて、吹き抜ける風に、ほんのりと潮の匂いが混じり始めます。


丘を越え、視界が一気に開けた瞬間。わたくしたちの眼下には、太陽の光を反射してきらめく青い海と、無数の船が行き交う活気あふれる街の光景が広がっていました。


「ここがセルリアですね。とてもいい街です。」

わたくしにとって、海を見るのは初めてのことでした。未知の景色に、自然と胸が高鳴ります。


「ええ、オーレリア王国唯一の港町ですからね。」

ニーナは依頼で何回か来たことがあるようで、余裕が感じられます。

「まずは宿を見繕いましょう。今日はゆっくり休むことにしますわ。」


わたくしたちは、軽い足取りで歩みを進めました。

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