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第三十話:裁定

「ギルドマスター!夜分遅くにすみません、調査員のエリーゼです!

街道での定期調査について緊急事態につき、ご報告に上がりました!」


間髪を容れずに、中から重々しい声が響きます。

「構わん、入れ。」


「失礼します。」

わたくしたちは三人揃って、緊張した面持ちで部屋に入室しました。


それから、エリーゼさんは一から全てをご報告しました。

調査の結果、街道から外れた森で見つけた古代の装置、謎の男とゴーレムとの戦闘。

——そして最後に、謎の男が残した「アルクライドのお嬢様」という言葉と、わたくしの素性について。


「——以上です。」

エリーゼさんは全てを報告し終えると、ふう、と大きく一息つきました。

ギルドマスターは報告の間、一度も口を挟まず、組んだ腕の上で指をトントンと動かしながら、鋭い眼光で話を聞いていました。

すべてを聞き終えた彼は、眉間に深い皺を寄せ、沈黙しました。


「…うむ、ご苦労。」


短く労いの言葉がかけられた、その直後でした。

ニーナさんが、居ても立っても居られないといった様子で身を乗り出しました。


「あ、あのマスター!ルナイズ様の扱いは、その、どうなるのでしょうか…!」

「落ち着け、ニーナ。ワシもすぐには判断できん。」

ギルドマスターは、焦るニーナさんを手で制しました。

「…少し考えさせろ。お前ら、まだ部屋からは出るな。そこの隅で待機していろ。」


わたくしたちが部屋の隅のソファで待っている間、部屋の中には痛いほどの沈黙が訪れました。

書類をめくる音と、ペンの走る音だけが響きます。


『《クク、どうなるかな、ルナイズ。》』

先生は、この状況を楽しんでいるかのように、面白そうにこちらを煽ってきます。

(正直なところ、わたくしとしてはどっちでもいいですわ。旅を続ける障害があろうとなかろうと、旅を諦める理由にはなりませんもの。)

『《…ふん、相変わらず可愛げのないやつよ。》』

(はいはい、残念でしたわね。)


…などと先生と無駄なやりとりをして時間を潰していると、隣から小声でニーナさんが話しかけてきました。

「あ、あの…ルナイズ様。実は…個人的に後でお話ししたいことがあるのですが、どこかで時間をいただけませんか?」

「ニーナさん?構いませんわ、なんの話ですの?」


ニーナさんは少し息を整えてから、真剣な瞳で続けました。

「それも含めて、その時お話しします。私自身の…これからのことです。その時までに、気持ちを整理しておきます。」

ニーナさんは膝の上で拳を握りしめています。その震えを抑え込むような仕草に、彼女の並々ならぬ決意を感じました。


「わかりましたわ。わたくしはこの街にいる間、『銀の小狼亭』の210号室で宿を取っています。明日の朝にでも来ていただけますか?わたくしは早くに起きていますから、いつでも構いません。」

「はい。ありがとうございます。」

ニーナさんは、ほっとしたように頷いて答えました。


それからしばらくすると、ギルドマスターが、執務机をコツコツと指で叩きました。

「待たせたな。もう一回こっちに来い。」


わたくしたちは、緊張しながら応接スペースに戻り、ギルドマスターと対峙しました。

彼は、わたくしを見据え、口を開きました。


「まずは、ルナイズのことだ。」


ゴクリ、とニーナさんが喉を鳴らす音が聞こえました。


「公爵家の三年前の発表は正式なものであり、セレスティナ・フォン・アルクライドは『死亡扱い』になっていることに間違いはない。なんなら、とっくに葬儀まで済まされている始末だ。」

ギルドマスターは、淡々と事実を並べます。


「この状況下で、死んだはずの人間が生きていたなどと騒ぎ立てれば、公爵家の面目は潰れ、王家をも巻き込んだ無用な混乱を招く。…この事実を公にすることの方が、ギルドとしてもリスクが高いと判断する。」


彼はそこで言葉を切ると、ニヤリと笑みを浮かべました。


「立場上、国やギルド本部から正式に問いただされれば答える義務があるが…聞かれない限り、ワシから言うことは無い。」

「だから、お前さんのことは貴族ではなく、ただの新人冒険者ルナイズとして扱う。——それでいいな?」


その言葉に、ニーナさんの顔がぱぁっと明るくなりました。

「よかったですね!ルナイズ様!」

「ええ…。」

わたくしは、安堵と共に、深々と頭を下げました。

「心より感謝いたします、ギルドマスター。」


「礼には及ばん。」

ギルドマスターはそう嘯くと、すぐに表情を曇らせました。


「それよりも…問題は、謎の装置と謎の男の方だ。」

声のトーンが、一段低くなります。

「装置を奪われたのは仕方ない。その状況で、全員が無事に帰還しただけで十分な戦果だ。だが、謎の男の目的がわからんのが痛いところだな。」

「街道の魔力操作、ゴーレムの使役。…少なくとも今回の件は、個人の愉快犯ではなく、組織単位での規模になってくる。」


ギルドマスターの瞳に、鋭い光が宿りました。

「この件に関しては、ギルドの総力を挙げて裏から探りを入れてみようと思う。お前さんたちは、下手に動かず、通常通りの活動を続けてくれ。」

「皆、今日はご苦労だった。ゆっくり休んでくれ。」


「「「はい!」」」


わたくしたちは揃って礼をし、重厚な扉を開けて、部屋を後にしました。

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