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第二十七話:告白

わたくしたちは、足早に街まで戻ってきました。


道中、誰も口を開くことはなく、重苦しい沈黙だけが支配していました。

あの謎の男が残した言葉が、わたくしたち三人の間に見えない壁を作っているようでした。


ギルドに到着すると、エリーゼさんは「すぐに部屋を押さえてきます!」と言い残し、慌ただしく奥へと消えていきました。

残されたわたくしとニーナさんは、一階の隅にある待合スペースのソファに腰を下ろしました。


周りの冒険者たちは、相変わらず酒を飲み、笑い合っています。

けれど、今のわたくしたちには、その喧騒がまるで遠い世界の出来事のように感じられました。


「あの、ルナイズ様…」


膝の上で拳を握りしめていたニーナさんが、意を決したように口を開きました。

「差し支えなければ教えて頂きたいのですが…ルナイズ様の旅の目的は、なんなのでしょうか?」

その瞳は、純粋な好奇心というよりも、どこか切実な光を宿していました。

(…目的、ですか。)

「これといった大層な目的はありませんわ。強いて言うなら、世界を見てまわるというのが主目的ですわね。」

わたくしは、当たり障りのない回答を選びました。

復讐でもなく、逃亡でもなく、ただの好奇心。

それが偽らざる本音ですから。


「そ、そうなんですね…世界を、ですか。」

ニーナさんは視線を落とし、何かを噛み締めるように呟きました。

「ニーナさんは、このアルカディアを拠点に活動されているのですか?」


沈黙が痛くて、今度はわたくしの方から問いかけました。

「…そうですね。依頼で遠出することもありますが、基本はこの街に戻ってきます。」

「旅には出ないのですか?その腕があれば、もっと広い世界へ行けると思いますけれど。」


わたくしがお世辞抜きでそう伝えると、ニーナさんは寂しげに笑って、自身の左腕をさすりました。


「…私は冒険者稼業というよりも護衛、警護が主です。それに、私には…ルナイズ様のような、それほどの力はありませんから。」

「ニーナさん…?」

「あの時、私はなにもできなかった。でもルナイズ様は、迷うことなく前に出られた。…その差は、きっと技術だけではないのだと思います。」


彼女の言葉には、自分自身への不甲斐なさと、わたくしへの強い憧れが滲んでいました。

(…買いかぶりすぎですわ。)


「もしかして、ニーナさんには…なにかやりたいことがあるのですか?」

わたくしが核心を突くと、ニーナさんはハッとして顔を上げました。

「…わ、私は…本当は……」


バンッ!!


ニーナさんが何かを言いかけたその時、勢いよく近くの扉が開きました。

「すみません、お待たせしました!」


肩で息をしたエリーゼさんが、手招きをしています。

「一番奥の応接室が空きました。ルナイズさん、ニーナ、こちらへ。」


「あ…はい。ありがとうございます、エリーゼさん。」

ニーナさんは、言いかけた言葉を飲み込み、少し残念そうに、立ち上がりました。


『《…ルナイズよ。》』

移動を始めたわたくしの脳内に、先生の声が響きました。

『《あの小娘だが…どうやら、なにか夢があるようだな。》』

(…先生も、そう思われますか?)

『《フン。だが今はその話ではない。貴様の過去という爆弾処理が先だ。》』

(ええ。分かっていますわ。)


通された応接室は、飾り気のないシンプルな部屋でした。

二人がけの革張りソファが二つと、中央にローテーブル。

窓はなく、壁と扉は見るからに分厚く、魔術的な防音処理が施されているのが解析を使わずとも分かります。


「ここなら、内密な話も外に漏れません。」

エリーゼさんが鍵を閉めながら言いました。

「ありがとうございます、エリーゼさん。お気遣い、感謝しますわ。」

わたくしはソファに腰掛け、お二人は真向かいに並んで座られました。


張り詰めた空気。

お二人は、わたくしの言葉を待っています。固唾を呑んで。

わたくしは、一度ゆっくりと深呼吸をしてから、静かに切り出しました。

「さて…どこからお話ししましょうか。…そうですわね、お二人は『アルクライド公爵家』について、どれほどご存知でしょうか。」


「アルクライド家、ですか…」

エリーゼさんが、記憶を探るように天井を見上げました。

「一般的な話しか知りませんが…王国の武の象徴とされる、あの大貴族のアルクライド家でよろしいのですよね?」


わたくしは軽く頷いて促します。


「…であるならば、国の護りの要として『剣士』や『魔導師』を輩出している名門中の名門であること。外交や政治面でも突出した発言力を持っていること。それと…」


エリーゼさんはそこで言葉を濁し、言いづらそうに視線を彷徨わせました。

ですが、意を決したように、わたくしの目を見て続けました。

「…三年前、ご嫡子の『セレスティナ様』が、流行病で急逝された…と、記憶しています。」

「……。」


わたくしは、表情を崩さずにその言葉を受け止めました。

「なるほど。…世間では、そういうことになっているのですね。」

(病死、ですか。…フフ、あの両親らしい隠蔽工作ですこと。出来損ないを塔に幽閉した事実を、そうやって塗りつぶしましたのね。)


思いがけず実家の欺瞞工作が確認できたのは収穫でした。死んだことになっているのであれば、裏を返せば、表立って探されることはないということですから。


『《フン、ある程度予想通りではあるな。奴らにとって汚点は存在しなかったことにしたいのだろう。》』

(ですわね。油断はできませんが、家のことに関しては、一旦思考の外に置いてよさそうです。)


わたくしは大きく息を吐くと、背筋を伸ばし、かつての素顔を晒す覚悟を決めました。

お二人の目を見据えます。

「エリーゼさん、ニーナさん。…ある程度、予想がついているかもしれませんが。」


わたくしは、自分の銀色の髪にそっと触れ、静かに告げました。

「その、死んだはずの『セレスティナ』が……わたくしです。」


部屋の空気が、凍りつきました。

二人が息を呑む音が、静寂の中に痛いほど大きく響きました。

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