表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/26

間話「酒場にて」

 夜の酒場《しぶき亭》。

 暖炉がぱちぱちと爆ぜる音と、テーブルを囲む笑い声が混じり合い、木の床の隙間には古い酒の匂いが染みついている。

 外は冷え込みが強いが、ここだけは湯気と人の熱気で温かい。


「聞いてくれよ、今日ついに三層突破した!」


 入口すぐの席で、銀色の輪飾りを付けた若い男が胸を張る。ブロッサムリングに昇格したばかりと見える。


「おお、名実ともにスプ卒業か。早いじゃない」


 向かいの短髪の女がカップを傾ける。彼女の藤色の輪飾りはウィステリアの証だ。


「でさ、次の層って見た感じ、かなりごちゃごちゃして歩きにくそうなんだよ。細い通路だし、魔物の残骸とか、壁崩れてたし」

「平気平気。座学で習ったでしょ、ダンジョンって何でも吸い込むんだって。骨でも壁でも、しばらくすれば無くなるし元に戻るの」

「あー!……あった……かも?なんかの循環?に戻るって話?……べ、便利だなぁ」


 後ろの席でその会話を聞いていた長身の青年が、にやっとして振り返った。金色の短髪、革鎧にこちらも藤色の輪飾りを身につけたミツルだ。


「お前、四層気をつけて進めよ〜?」


そう言いつつ彼も席に加わる。


「まあ、ブロでも深層顔出すやつはいるから、心配なんていらねーかもしれねぇけど」

「逆にウィスでも浅層で怪我して帰る人いるしね。ランクなんてあってないようなもん」


短髪の女が肩をすくめる。ミツルは苦笑して「耳が痛い」と答えた。


「ミツルは今日どうだった?」

「八層。中層は久々だったけど、ホコリっぽくて喉やられそうになったな。普段誰も入らない通路はヤバい」

「分かる、あの匂い。浅層は毎日誰か入ってるけど、中層ってほんと間が空くからね」


 奥のテーブルから声が飛んだ。


「そういやこの前、十層で古い兜の破片見つけたぜ!」

「うわ、それ触るなよ。吸い込まれる前の置き土産じゃないのか?」

「そうそう、運が悪いと呪われるなんて噂もあるしな」


 ドッと笑いが起き、誰も怪訝そうな顔はしない。“自然に消える”は全員の常識だ。

 やがて話題は、遭遇した魔物や宝箱の話に移っていく。


「浅層でヘモサラマンダーとか絶対トレインだろ」

「いや最近はちょこちょこ出るらしいよ」

「迷子になった新人引き上げたら、自分らも出口見失ったことあるわ」

「宝箱開けたら中身が石ころだった、なんてのもあったな」

「ま、そんなもんはぜーんぶダンジョンが飲み込むさ。残してく気配もない」


 言葉に合わせてミツルも笑い、黒麦酒をあおった。この場の誰一人、それを信じて疑っていない。客の何人かが腰を上げ、外の冷たい空気が一瞬入り込む。

 ミツルはマントを羽織って立ち上がり、


「じゃ、俺は遠征の準備がある。お前らも無茶すんなよ」


 と手を挙げて出ていった。

 扉が閉まると再び暖炉の音と笑い声。ジョッキが打ち合わされる音に紛れて、また誰かが、当然のように口にした。


――時間が経ちゃ、ダンジョンが全部吸っちまう


 それはこの街の冒険者たちにとって、疑う余地のない当たり前だった。



冒険者ランク一覧(カタカナ/略称)

1. スプラウト(略称:スプ)初心者

2. ブロッサムリング(略称:ブロ)新人

3. ウィステリア(略称:ウィス)中堅

4. アイリスブレード(略称:アイブ)中堅、騎士

5. ロータスガード(略称:ローガ)熟練

6. カメリアクラウン(略称:カメクラ)熟練、英雄


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ