第二十三話
クリーニングポニーの仮眠室。フィナは深い眠りから目覚め、身体の中にぐるぐるとした異物感を覚えた。
ぼんやりとした意識の中で、その違和感が徐々に強くなり、彼女は思わず立ち上がって近くのトイレに向かう。
用を足し、身体がすっきりと軽くなったことに気づく。
(なんだか、今までと何も変わらないみたい……お腹は減ってるけどね)
驚くほど普段通りの感覚に、フィナは不思議そうに笑った。
「フィナ!身体はなんともないか!?」
「フィナちゃん、どう?まだ辛い??」
「フィナさん、ダンジョンと繋がってる感覚はありますか?」
「えーと、身体はいつも通りで……うーん、ダンジョンと繋がってる感覚?は今はないかなぁ」
フィナの応えに周囲の仲間たちは彼女の回復に安堵しつつも、その様子に戸惑いを隠せなかった。
そんな中、協会長のチズルテが事務所に駆け込んできた。
「お前たちっ!!だ、ダンジョンに異変が起きた!」
曰く、レイチーから飴玉にコアが移り、これまで弱い魔物しかほとんど見られなかったダンジョンだったが、突如として大量のスライム種が発生する事態になったと。
混乱が広がる中、フィナははっと気づき、口を開いた。
「あ!!聞いてください!私、ずーーっと便秘だったんですけど、やっと出たんですよー!」
「おいッ!そんなこといちいち報告するな」
「お前の便意に興味はない」
「フィナちゃん、便秘は辛いわよねぇ、出て良かったわぁ!」
そのときテッサが、一人眉を寄せながら話しかけた。
「フィナさん……便秘はいつからですか?」
「えーとね、ここ2ヶ月ちょっとくらいかなぁ。出ないのにお腹減るからびっくりしたもの!」
「それが、さっき、でたと……」
「そうだよ〜!なんか身体の重さもいつも通りに戻ったんだー!」
テッサの中で確信に変わる。
「皆さん、フィナさんが呑んだダンジョンコアの飴玉ですが……吸収されていません。飴玉は今、下水にあります!」
その言葉が事務所全体にざわめきを引き起こす。
便秘のせいなのか、本人が拒否をしたのかはわからないが、飴玉はフィナに吸収されることなく体外に排泄。その飴がダンジョンの脳として機能するはずだったのに、しなかったという異例の事態に陥った。
◆
調査の結果、ダンジョンのコアは下水のスライム種に置き換わっていた。
幸か不幸か、この最弱生物が新たな脳として機能していることで、ダンジョンには拡張性の限界が生まれ、質は徐々に低下することになる。
これは植物の拡張とスライムの吸収という相反する要因のバランスによるものだが、ダンジョン内の吸収スピードは上がったため劣化は緩やかとなっていた。
一方で世界は、ダンジョン資源に依存しない技術革新へと着実に進んでいた。
時が経つにつれ、クリーニングポニーは日勤のみの稼働へと変化していく。
遠方からの依頼にも対応し、多様な環境で清掃のエキスパートとして派遣され続けている。
国境を越え、掃除の技術と精神は継承され、未来へと繋がっていった。
◆
100年の時が経ち、それでもクリーニングポニーの灯は消えずに輝き続けている。
事務所奥の社長室には、歴代の社長の肖像が飾られている。
初代の色褪せた写実画から、徐々に新しくなっていく。伝説の掃除人レイチー……息子のチズルテ……最新の額縁には、跳ねた寝癖の黒髪に整えた顎髭の男性の写真が。
そして歴代社長が見下ろすデスクの前では、飴玉を口の中で転がしながら微笑む、若い女性が座っているのだった。




