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友達の友達  作者: 長篠金泥
第5章

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49/55

49 トラップカード発動!

「ぶぅおっ!? おっ、おおぉおおっあっ!」


 内臓を二つ三つ、まとめてき潰されたような衝撃。

 文字通りに吹き飛ばされた晃は、踊り場の壁に背中を強打する。

 金属バットは手を離れ、カランとかわいた音を立てて床に落下。

 ある程度のダメージは覚悟していたが、痛みは覚悟を軽々と超える。

 苦悶の声すら漏れず、上手く息が吸えず、ただただ涙があふれた。


「ひっ、ひひっ――ぅひっ、ひぐっ、ふっ――」


 晃は、笑っているような痙攣けいれん気味の呼吸音を漏らす。

 では誰が驚愕混じりに叫んでいるか、といえばリョウだ。


「ぬぅううううっ! ぐぅううううっ!」


 クリティカルな一撃を放った拳を見据え、荒い息を吐いているリョウ。

 流れ続ける涙をぬぐい、相手の状況を観察しようとする晃。

 腹を深々と抉った右拳には、いくつもの穴が穿うがたれていた。

 そこから濃い赤が止まらず、リョウの腕や足元の床の色を変えていく。


「くっそぁあああ……やぁってくれたなぁ、やってくれたじゃねぇか、おいぃ!」

「ふぁ――んろろろろろろっ、ぅぶっ――ぶへっ、ごぁ、ごっ――べへっ」


 聞いたことない音量の歯軋はぎりの後、恨み言を吐き出すリョウ。

 軽口で返そうとする晃だが、不意に食道の奥がふくらむのを感じた。

 次の瞬間には濃いピンクの胃液を吐き戻し、にごったせきを連発。

 呼吸はまだ整っていない――今、追撃を食らえばそこで終わり。

 緊張を誤魔化そうと、無理矢理に笑顔を作って視線を合わせ続ける晃。

 震える指でシャツのすそまくり上げ、手品の種を披露する。


「くふっ、ぅははは――ぼほっ! えぇふっ!」


 高笑いであおろうとした晃は、口内の異物感に負けてまた咳込む。

 リョウの拳を破壊したのは、晃がシャツの下にひそませていた凶器だ。

 放置されたカルテを重ねて厚くし、太い釘を大量に打ち込んだもの。

 ダイスケに作らせたそれをダクトテープで腹に巻きつけた、自爆攻撃めいたブービートラップ。

 効果は抜群だったが、仕掛けた方も無事では済んでいない。


 こめかみに血管を浮かせたリョウは、虫様筋ちゅうようきんに食い込むびた長釘を引き抜いて、背後に放り捨てる。

 晃もボロボロの釘カルテを腹からがし、適当に床に放り投げる。

 そしてバットを拾い上げ、まだ震えの抜けない右手に握り込んだ。


「……クロは、どうした」


 り上げた頭に浮いた汗の玉が、ランタンの光を反射していた。

 ギャグのような絵面だが、晃は気を抜かずにリョウの様子をうかがう。

 少なからぬダメージは与えたにしても、下手をすれば自分の方が重傷だ。

 口の中に居座る血の味と銀杏ぎんなんの臭いに邪魔されながら、晃は次にとるべき行動を考える。


 リョウの右拳を潰したのはいいが、腹の痛みがまるで引かない。

 もしかすると、内臓破裂レベルの損傷が発生した可能性もある。

 一対一だと、ここから勝ちに持っていける道筋がまるで見えない。

 せめてダイスケか玲次が、牽制けんせい役としてでも参戦してくれれば――

 しかし二人が動き出す気配はなく、リョウの発する圧だけが強まる。

 とりあえず時間稼ぎだけでもしようと、晃は質問に応じた。


「あ、あの糞野郎なら、念入りにミンチにしてやった……と、いいたいトコだけどよ。テメェらを釣る大事なえさなんでな……残念ながら、ま、まだ半殺し状態だ。ただ、もう二度と……まともに小便ションベンできないかも、しれんけど」


 晃はクロの居場所を示唆しさするように、左手の親指を上階に向ける。

 訊かれるのは想定していたので、だいぶなめらかにホラ話が出てきた。

 実際には、あのクサレオッサンは既に現世うつしよから退場している。

 ブチキレた佳織に、バールで顔面をド派手に開墾かいこんされて。

 晃からの報告を、信じているのか疑っているのか。

 リョウの心境のかたむき加減は、表情から読み取れない。


「で、釣り上げてどうすんだ? アキラくぅん」

「釣った魚に……わざわざ調理方法、説明すんのか……テメェは」

「おぅおぅ、威勢がいいこったな。てっきり、クロと慶太きゅんのトレードを希望するかと思ったんだが、意外と薄情じゃないの」


 何気ない調子の発言に、晃は目を見開いて訊き返す。


「――っ! 無事、なのかよ」

「両腕をもがれて、両目をえぐられて、鼻と唇を削がれて、歯を全部折られて、両ヒザを砕かれて、全身が骨折でグニョグニョ、刺し傷でズタズタ……そんな肉塊ジャンクを人間と認識できるなら、無事だな」

「なっ、おまっ――」

「ちなーみにぃいっ、もぉう呼吸もしてなーい、よぉっほほーん」


 オペラっぽいフザケた節回しで、朗々と慶太の死を歌い上げるリョウ。

 硬直した晃を見据えて、心の底から楽しげに笑いながら。

 降ってきた腕を見た時点で、ある程度は覚悟はしていた。

 それでも、親友の死をフザケ半分で告げられるのは、想像以上に耐え難い。

 動悸どうきが激しくなり、唇が戦慄わななくのを自覚しながら、晃は問う。


「こっ、殺し、たのか?」

「ま、トドメ刺しちゃったのは、そこの弟クンなんだけどね」

「そっ、てっ! テメェらがっ、やらせたんだろがぁ!」

「おっほ。チョーゴイスー。何でわかっちゃたのかな? ひょっとしてキミってばエスパー? 本名がマミだったりしちゃう? もしくは伊藤? スプーンが勝手に曲がるから、基本カレーは手で食べる本場のインド式(インディアンスタイル)?」


 ひたすら流暢りゅうちょうに、下らないことをベラベラとのたまうリョウ。

 それを聞きながら、晃の血圧は果てしなく上昇していく。

 こちらが激発して、迂闊うかつな行動に出るのを誘っているのか。

 そんな疑念をいだいた晃だが、すぐに違うだろうと心中で否定する。

 無駄な工作などしなくても、正面から来られたら自分の負けは確実。

 なので今のこの時間は、単にリョウが自分をなぶるためだけのものだ。


 ただ、リョウにも前ほど余裕がない気はするのだが。

 ともあれ、負ければ玲次も優希も、佳織もダイスケも死んでしまう。

 そう自分に言い聞かせ、晃は倒れたままの幼馴染に目を向けた。

 すると、床に突っ伏していたはずの玲次と、思いがけず目が合う。

 どうやら意識を回復しているようだが、リョウは気付いていない。


 無傷からは程遠いが、行動不能の重傷を負っている様子もない。

 ランタンの明かりをかすかに反射する、玲次の目はまだ生きていた。

 手を拘束されていても、ダイスケより上手く動いてくれるだろう。

 希望的観測に従っての行動は、なるべく避けるつもりだった。

 だが、ここまで追い込まれたら多少のギャンブルもせざるを得ない。

 晃は痛みで回転のにぶった頭を酷使し、逆転の糸口を探る――

そろそろ終章に入る……はずです。たぶん。

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