表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友達の友達  作者: 長篠金泥
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/48

48 パニック・アタック

 近付いてきた足音は、確かに二つだった。

 一つは、重量感たっぷりな軍用ブーツの響き――リョウ。

 別の一つからは、これといった特徴が読み取れない。

 一緒に来たのは慶太か、玲次か、それとも霜山か。

 話し声がしなかったので、晃には判別ができなかった。


 あまり上手くない口笛の音が、徐々に近付いてくる。

 どこかで聞き覚えがあるメロディだな、と思ったがアレだ。

 映画『キル・ビル』でダリル・ハンナが演じていた、口笛を吹きながら病院に乗り込んでくる殺し屋のそれだ、と晃は思い出す。

 こんな状況でもフザケてんのか、とキレかけるがギリギリ耐えた。


 まだ早い、もう少し、あと少し――

 壁に掛けたLEDランタンが、ツルッパゲの頭を照らした瞬間。

 そこで駆け出して、油断してるリョウに奇襲攻撃をキメる。

 てのひらにじんだ汗を短パンの尻で拭き、バットのグリップを固く握り直した。

 次第に荒くなる呼吸音を抑えようと、晃は口だけでゆっくり息をする。

 緊張で舌と喉が痛むが、そんなことを気にしている場合じゃない。


「ぅおおおおおおおおおぁあああぁああっ!」

「……は?」


 唐突に発せられた叫声きょうせいに、気の抜けた疑問符が発せられる。

 完全に「今じゃない」タイミングで、ダイスケは行動を開始した。

 リョウの頭はだ見えてない――打ち合わせと違う、早すぎる。

 愕然がくぜんとする晃を残し、シャウトを棚引たなびかせてダイスケは疾駆しっく

 手にしているバールを闇雲やみくもにブン回しながら、ドタバタと。


「ぅアホかぁっ!」


 予期せぬ展開に、思わず怒声を放ってしまう晃。

 緊張のせいか興奮のせいか、とにかく冷静さを失ってダイスケが暴走。

 まさかそこまで馬鹿じゃないだろう、という予想を軽々と超えてきた。

 計画をブチ壊した、あのクソボケをフルパワーで殴り倒したい。

 それはそうと、ココでアレが返り討ちにされたら、勝ち目はほぼゼロだ。

 だから晃も仕方なく、気合の声と共に階段に向かって全力で走る。

 

「ふっ――ふぉおおおおおおおおっ!」


 完全に予定が狂ったが、まだ高低差をかした地の利はあるはずだ。

 足場の悪い階段で転倒させ、数メートルの高さから墜落させる。

 殴る蹴るの効果は期待できないし、凶器で殴ってもどうにかなる気がしない。

 そんなリョウでも、流石に階段から落ちれば多少はダメージを受けるだろう。

 ついでに混乱に乗じた追加攻撃で、重傷を負わせられる期待もあった。


 まるで時間がない中で、晃が必死に考えて組み立てた段取りだ。

 ダイスケにも丁寧に説明したハズなのに、どうしてこんなことに。

 相手が階段を上ってくる途中で攻撃をかける、という約束事だけはかろうじて憶えていたらしいダイスケは、まったく減速せずに階段を飛び降りた。


「きぁあああああああああああああああああああああっ!」

「ぶおおおおっ!? ――んだぉるぁあああああああああああっ!」


 ダイスケの獣じみた咆哮ほうこうに、困惑混じりの叫びが重なる。

 それから一拍おいて、様々な雑音と怒号と悲鳴が渾然こんぜんとなった、不吉な不協和音が晃に届いた。

 咄嗟とっさに自分も続きそうになる晃だが、寸前で冷静になって足を止める。

 まずは身を隠し、ダイスケが恐らくはリョウを巻き込んで落下したであろう、踊り場の様子をうかがった。


 もつれ合ってるのが二、倒れているのが一で、人影は三人分。

 ランタンの明かりが届いておらず、人相などはわからない。

 シルエットから判断するに、闘っているのはダイスケとリョウ。

 そのかたわらに転がっているのは、たぶん玲次だ。

 晃はランタンを壁から外し、急いで階段手前へと戻る。


「くっそぉああああああああああああっ!」

「ぅぐっ――」


 ランタンが揺れてしまい、上手く踊り場を照らせない。

 興奮の極みにある様子のダイスケが、血を吐くような勢いでわめく。

 リョウと思しき黒い塊に、ダイスケらしき影がバールを振り下ろしていた。

 直後に聞こえたのは、あのバケモノらしからぬ苦痛を表現するうめき声。

 もしかしてこの状況は、奇襲が成功したと言っていいのかも。

 ここは覚悟を決めて、階段を全段飛ばした飛び蹴りを実施するべきか。


「しゃるぁあああああああああああああああっ!」


 晃が助走のため下がろうとすると、ダイスケから奇声と二撃目が放たれる。

 しかし、いい角度のスイングは、途中で太い腕によって弾かれた。

 バールは騒々しい金属音を拡散しながら、一階へと転がり落ちる。

 そしてもう一本の腕が、ダイスケの喉首のどくびを掴んで高々と持ち上げた。

 ランタンは血管の浮いた筋肉質の右腕と、締め上げられ充血したダイスケのマヌケ面を照らす。


「はばっ――ぷぇいっ――」

「やってくれたじゃんか、クソガキ。仲間の敵討かたきうちとは、泣かせるねぇ」


 リョウは片手で空中にかかげた、ダイスケの体を揺すりながら言う。

 余裕ぶっているが、その呼吸はだいぶ荒くなっていた。

 ダイスケは両足をバタつかせ、どうにかのがれようと藻掻もがく。

 気道をふさいだ腕を外そうと引っ掻いているが、効いている感はまるでない。


 顔色は赤紫に染められ、口の端からは赤色の目立つ泡があふれてている。

 どうにかリョウの気をらさないと、ダイスケは数十秒後には窒息死だ。

 ぶっちゃけ、あのボケを見捨てたい気持ちがないと言えば嘘になる。

 だけど、目の前で誰かが無意味に殺されるのを見るのは、もう御免だ。

 自身の感情を再確認した晃は、眼下の乱闘への参加を決意する。


「おい、他の連中はどこだ?」

「ここだよ、ハゲちゃびん」


 リョウの問いに代わりに答え、右手にベコベコになった金属バット、左手にランタンをげた晃が、一歩一歩階段を下りていく。

 本人としては、自信たっぷりの表情を浮かべているつもりだった。

 だが、リョウの小馬鹿にした態度からして、緊張が隠しきれてないらしい。

 晃がランタンを途中の段の端に置くと、リョウはダイスケを階下に放り捨てた。


「なっ――」

「あぐっ、ばっ! はっ!? にぅううぅう……」


 数度の悲鳴がにぶい衝突音と重なり、最後は力のない鳴き声に転じた。

 堂々と姿を見せることで、何らかの切り札を隠していると思わせる。

 晃の狙いはそこにあったが、通じているかどうかはわからない。

 動揺を誘うつもりだったのに、焦燥しょうそう感がふくれ上がって冷汗が湧いてくる。


 身軽になったリョウは、左手で掴んだ右手首をグルグルと回している。

 ダイスケを持ち上げた疲れをいやしつつ、晃の出方を待っているようだ。

 その背後に転がっている玲次は、うつぶせのまま起き上がる気配がない。

 ダイスケの特攻に巻き込まれたのか、元から大ダメージを受けていたのか。

 

「おいぃ、玲次っ!」

 

 晃が大声で名前を呼ぶが、返事はない。

 そして玲次ではなく、いやらしい笑みを浮かべたリョウが応じる。

 

「おらっ、お友達が呼んでる、ぜっ!」

「んぼっ――」


 リョウがコンバットブーツの底でもって、玲次の脇腹を蹴り飛ばす。

 弱々しく悲鳴を上げ、僅かに体をよじった後は再び動かなくなる玲次。

 下手に動けない晃は、奥歯を割り砕きそうな圧力で噛み締めていた。


 あからさまにあおられている。

 リョウが、ブチキレての突撃を待っているのもわかった。

 それでも、晃としては乗るしかない。

 必要以上にひざに力が入るのを感じながら、晃は階段を下っていく。


 踊り場に着くまで、あと三段。

 晃は、右手で持ったバットを大きく振りかぶり、跳んだ。

 それと同時に、素早い足運びで距離を詰めてくるリョウ。

 重たい右アッパーが、晃のガラ空きの腹へと突き刺さった。

2ヶ月くらいポイントに変動がない気がするので、「面白い」「続きが気になる」「アホな味方はサッサと退場させてくれませんか」という方はポイントやブックマークでの応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ