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友達の友達  作者: 長篠金泥
第5章

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46/48

46 ラジー賞ノミネート級の熱演

「……罠を、仕掛けよう」


 優希とダイスケから「どういう意味だ」と問う目線が返ってきた。

 佳織は少し離れた場所で、明後日あさっての方を向いている。

 鼻歌らしきものを鼻ずさんでいるが、まるでメロディになってない。

 こんな有様の佳織を連れて逃げるのも、難易度が高いしな――

 そう言いたいのを飲み込んで、晃は二人に自分の考えを述べる。


希望的観測だったらいいなで動いて、それがハズれてたら目も当てられない」

「それはそう、かも」


 優希が同意の返事を述べる。


「だから、こっからは最悪のケースを想定して動く」

「最悪、ってどんなんだよ」


 相変わらず、にぶさを丸出しにした態度にイラッとさせられる晃。

 だが感情をなるべく表に出さず、ダイスケにわかるよう説明する。


「俺らがクロを捕まえたのと、佳織さんを解放したのがバレてて……このフロアにいるってのもバレてる。それを把握はあくしてる霜山たちは、ケイちゃんと玲次を人質にして俺らを脅して、また拘束しようとする……そんなとこだ」


 質問に答えると、ダイスケが不快そうに顔をしかめた。

 気持ちはわかるが、このくらいの想像力は働かせて貰いたい。

 危機的状況にいる自覚のなさに、どうしても晃の態度は冷淡になる。

 慶太はもう殺されているだろう――そう確信しつつも、佳織を刺激しないよう触れずにいる欺瞞ぎまんも、晃の神経をササクレ立たせているのに一役ひとやく買っていた。


「慶太さんと玲次くんを連れたあいつらが、ここまで来る?」

「放っといても多分そうなる、けど……確率を上げるために罠の用意だ」

「意図的におびき寄せる……となると無線機を使うの?」

「ああ、その通り」


 間の抜けたダイスケと違い、優希は話が早くて助かる。

 無線の存在に気付かないフリで、重要な会話をタレ流す。

 そのキモとなるのは、霜山とリョウに復讐するために火を放つ計画だ。

 それを手早く語ると、腕組みをした優希が納得度7割くらいで言う。


「……火をつけられる、となったら焦りそうだね。地下にいるなら」

「したら、コッチの放火を阻止しようと動くだろ、って予想なんだけど」


 ガソリンを車から抜いてきた、とか話せば信憑性しんぴょうせいも上がるだろう。

 そんな説明をしつつ、待ち伏せしての奇襲攻撃の方法を語ろうとするが、ダイスケはシラケ面で疑問をていする。


「でもよぉ、そんなに上手く――」

「うるせぇな、行かせんだよ! 他にアイデアないなら黙ってろ!」


 文句ばかりのダイスケにウンザリした晃は、ついキレ気味に吐き捨る。

 不安なのは皆が同じなのに、何でお前のケアまでしなきゃならんのだ。

 そんな感じに高まった不満と不快は、もう隠しようがない域に達していた。

 しかし、絶望的に空気の読めないダイスケは、一方的になじられたのがムカつくとでも言いたげに、舌打ちをして不貞腐ふてくされる。

 ぱたきたいのを我慢し、どうにか平常心を保って晃は指示を出す。


「いいか、まず俺と優希が、処置室に戻って霜山とリョウに聞かせるための会話をしてくる。本気っぽくするために、最後は無線をブッ壊す感じで派手にやらかす。その間、ダイスケと佳織さんは――」


 迎撃げいげきのための準備を一通り説明すると、LEDランタンを手にした晃は優希と共に処置室へ。

 とりあえず、新たに何者かが周辺に出現している気配はない。


「ねぇ晃。あいつらがここまで、もう来てたら……どうする?」

「そりゃあ、困るな」

「いや、困るのは当然なんだけど。マジな話、どうするの」

「正直に言うと、どうしょうもない」

「えぇ……」


 実はそれが、本当に最悪なパターンだ。

 言っても仕方ないので伏せておいたが、優希は気づいてしまった。

 開き直るしかない晃は、苦味たっぷりの苦笑でもって応じる。

 奇襲をするハズが逆に奇襲されるんじゃ、話にならない。

 だけど、実際問題そうなってしまう可能性は決して低くない。


「連中の感覚としては、完全に雑魚を甚振いたぶって遊んでるつもりだ……なのに反撃されたとなると、警戒するよりも先に、ナメた真似をされたことへの意趣返いしゅがえしって意識が来る、と思うんだよ……だからこそ、そこにすきができる。その隙を狙って、全力の一撃を叩き込む」

「うん……そうだね」


 晃の断言に、優希も同意してくる。

 やや都合の良すぎる作戦だとは理解しているが、何かしらの隙を作れる前提にしておかないと、あいつら――特にリョウに勝てるヴィジョンが浮かばない。

 そのまま何事もなく、二人は処置室の前へと辿り着く。

 晃が部屋の扉をスライドさせると、ぎ慣れたニオイに出迎えられた。


「うぁ、これは……」

「この先は、俺に合わせて」


 魚屋の店先の空気を煮詰につめたような、濃厚な生臭さに改めて優希がたじろぐ。

 それを小声で制した晃は、ランタンをかかげて室内を照らす。

 さっき部屋を出た時と違っている、あからさまな変化は特に見当たらない。

 床に死体が転がっていて、アチコチに血や尿の水溜まりがあって、手術用具やバイブが散乱している――ただそれだけだ。


 晃は部屋の隅に転がった、電源が入ったままの無線機を拾い上げる。

 ランタンと並べて手術台の上に置き、音を拾いやすいようセッティング。

 それからジェスチャーで「連中に聞かせる芝居しばいを始めるぞ」と伝える。

 すぐに意図を理解して優希は頷き、罠のための下準備が始まった。


「クソァ! あの野郎、佳織さんまで殺っ、殺してっ……ぅああああああああああああああああっ!」

「んぉ、落ち着っ……落ち着いてっ、晃くんっ!」


 晃の大袈裟おおげさな演技に、優希もテンションを合わせて応じてくる。

 佳織が殺された設定を入れたのは、連中に死んでいると認識させることで、完全にポンコツ化した彼女を安全圏あんぜんけんに置こうという考えだ。

 この無線を聞いてなければ、空回りにも限度がある無駄骨なのだが。

 そして、重要な情報ばかり連続すると怪しまれそうなので、無駄口も混ぜ込みながら最重要ポイントの「放火」に向けて話を運んでいく。


「とにかく、とにかく、だ。クロの野郎をブッ殺せば、それでコッチは二人、向こうも二人だ……あのデブとマッチョ、俺らが逃げたと思ってんだろ」

「でも、あの、クロが帰ってこなかったら、探しに来るんじゃ……」

「だから、その前にやる……やってやんだよ! あいつら、あの地下室にいんだろ。上が燃えたら、そのまま窒息ちっそくだぜ」

「……ガ、ガソリンは用意してる、けど……燃やすってヤバくない?」

「ヤバいとかヤバくねぇとか、もうそんな場合じゃねぇだろ!」


 胡乱うろんな話の中で、こちらがガソリンを用意していて、放火を計画している状況なのを伝えた。

 上手く演技できた自信はない晃だが、追い込まれて言動がおかしくなっている様子に関しては、もう素の精神状態に近い。

 この感じなら、本気で火をつけると信じてくれるんじゃなかろうか。

 とはいえ、疑われて慎重に攻めてこられたら、その時点で全ては終わる。


「だから、アレだよ。逃げ道をふさぐために、階段に油を撒いてさ――」


 コチラの本気を信じ込ませるべく、基本は具体的だが重要な部分は曖昧あいまいな、ニセの放火計画を滔々(とうとう)と語る晃。

 優希はすぐ意図に気付いたようで、上手いリアクションで助演女優っぷりを発揮してくれた。

 そろそろ頃合と見た晃は、無線機を指差して「壊すぞ」と視線で合図する。


「クロから訊くだけ訊いたら、その次は――」

「待って……待ってよ晃くん! ちょっと見て、これって!?」

「うぅ? えっ、何だぁ? ……ああっ、マジかよっ、クソッ!」


 テンパッたフリをして、晃は無線機を壁に向かって放り投げる。

 そして、ね返ってきたそれを何度も何度も、入念に踏み潰す。

 完全に壊れたのを確認してから、優希と顔を見合わせて言う。


「準備完了、だ」

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