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友達の友達  作者: 長篠金泥
第5章

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45 殺るか逃げるか

 晃と優希は顔を見合わせ、それから急いで浴室へと戻った。

 ドアを開ける前から「ボッ」「ドッ」と、にぶい音が繰り返し聞こえる。

 とんでもなく嫌な予感をかかえつつ、スライドドアを一気に開く晃。

 奥からは「ぬぢゅ」「ぐじょ」と、泥濘ぬかるみに足を突っ込んだような――


「おいっ、やめっ……やめとけ、って」


 ダイスケが、弱々しく止めようとしている。

 それに対する応答はなく、「ぶちゅ」「ごびゅ」と水っぽい音だけが響く。

 誰を止める――は佳織だろうが、何を止めようとしているのか。

 最悪の展開を予想してすくむ足を引きずり、晃は浴室の奥へと踏み込む。

 同じような心境なのか、ついてくる優希も呼吸が荒くなっていた。

 

 イヤで仕方ないが、一歩ずつ進んでいく晃と、歩調を合わせる優希。

 血腥ちなまぐささが濃くなり、糞尿の臭いがそこに混ざっていた。

 さっきまでとは、明らかに部屋の空気が違う。

 ぐちょ、べちょ、という感じの音が、数秒に一回ペースで鳴る。

 やがて晃の視界に、バールで顔面をたがやされたクロの姿が入ってきた。


「ぅひぃいぃっ――」


 引き笑いならぬ引き悲鳴は、自分と優希のどちらが発したのか。

 眼前の光景に圧倒されている晃には、にわかに判別がつかない。

 何が起きているのか、視認は出来ていても脳が理解をこばんでいた。

 バールを手にした佳織が、その先端をクロの顔に繰り返し突き立てる。

 無表情で、黙ったまま、決められた作業をこなすような動きで。


 ばちゅっ


 左の眼窩がんかにバールが振り下ろされ、釘抜き部分が深々と埋没まいぼつ

 そして半ば潰れた眼球が、視神経ごとえぐり出され血がしたたる。

 次の一撃は、既にグズグズになった鼻梁びりょうの横に。

 左目は数秒前より数センチ下の、頬骨ほおぼねあたりに強制移植された。

 衝撃でクロの頭部が揺さぶられ、元からあった穴と新規で増えた穴から、血と肉と脳と脳漿のうしょうが混合された半固体がドロッとあふれる。


「なっ、てんっ、かっ――かぁ――」


『何やってんだよ、佳織さん!』

 そう怒鳴ったつもりの晃だが、途切れ途切れにかすれて声がまともに出ない。

 狂った情景が思考と行動の接続を阻害そがいし、舌をもつれさせている。

 自然と全身の力が抜け、いつの間にかバットを落としてしまった。


「うっ、んぅくっ――ふっ、ぶふっ」


 怪音の出所でどころを振り返れば、惨劇から目を逸らせないでいる優希が。

 吐き気をこらえているのか、叫び声を抑えているのか、両手で口をふさいでいた。

 バールの持ち主だったダイスケは、自分の道具を使って行われている、クロの顔面開拓をボケッと眺めている。

 全身にあか飛沫ひまつを浴びながら、窒息ちっそく寸前の金魚のように口を開け閉めして。


「いっ、いいから! もういいっ、もう死んでるって!」


 やっと動けるようになった晃は、振り上げられた右手を背後から掴む。

 汁気でヌメっていたせいか、佳織の手からバールがスッポ抜けた。

 宙を舞った凶器は壁にぶつかり、床に転がって鈍い金属音を鳴らす。

 数テンポ遅れて振り向いた佳織は、不思議なものを見る目をしている。

 予告ナシに手品を披露されたような、気の抜けた顔を晃に向けて言う。

 

「えっ……何が?」

「いや何が、じゃなくて! もうヤメなって、死んでるから!」

「うんうん。わかってる、わかってるんだよ。でもさぁ、でもだよ? でもコレさぁ、そういう問題じゃなくない? ないよね、うん」


 妙にハキハキと、リズミカルに、滑舌かつぜつよく答えてくる佳織。

 これはダメだ――そう悟った瞬間、胃から腹にかけて重い痛みが走る。

 今日だけで何度も遭遇した『たがが外れたヤツ』の列に、佳織も並んでしまった。

 晃は大声で喚き散らしたい気持ちを捻じ伏せ、この状況を作り出した原因である可能性が高い、ダイスケの両肩に手を乗せて問う。

 

「どうなってんだ? 何で佳織さんにバール渡した!?」

「え、あの、渡したっていうか、置いといたら勝手に――」

「アホかお前ぇえええっ! そもそも、どうして止めねぇんだよ!」

「待って、待って待って、ダメだよ晃!」


 ダイスケを揺さぶっていると、優希に背中を何度も叩いて止められた。

 それで少し冷静さを戻した晃は、ダイスケから手を離して振り返る。


「起きちゃったのは、仕方ないから……次だよ、次のこと」

「ていうかさ、さっきから何なんだよコイツは!? 意味わかんねぇミスとか、ワケわかんねぇドジとか、そんなんばっかじゃんよ!」

「声を落として、声を……ミスが多いのは、私らもだって。こんなさ、イカレた状況なんだから……もうさ、普通でいられないでしょ、ね?」


 自分も動揺しているだろうに、どうにか冷静に話を進めようとする優希。

 彼女が伸ばした両手の指先の震えを目にして、晃の興奮はめていく。

 ここで黙っているのは何か違うと察したか、ダイスケが釈明しゃくめいを始める。

 

「そ、それがさ……あの男が、ボソッと何か言ったら急に、急にあの子がバールを……壁にな、こう、立て掛けといたんだけど。こう、普通に。したらそれをパッと拾い上げて、もう、メチャクチャに殴り始めて……とっ、止める間もなかった、から」

「それで、クロは何て言ったんだ」

「や、内容とかまでは、イマイチ聞こえなくて……」


 本人に確かめようか――とも思ったが、これ以上の心理的負担はマズい気がする。

 フラフラと頭を左右に振って、小声で何かを早口で語っている佳織。

 話を理解しているのか怪しいが、優希がウンウンと頷いて聞いていた。


「まったく……最後までクソ面倒な、カス野郎だ」


 転がっているバールを拾い、ぬらめいた先端でクロの顔をつつく晃。

 それはもう人の頭部とは思えない、センスのない現代アーティストが泥酔して作ったオブジェみたいな、何だかわからないボロボロのかたまりになっていた。

 元は口だった穴から、割り折られた歯の欠片かけららしいのが二つ三つこぼれる。

 本当にせよデタラメにせよ、何か衝撃的な情報を持ち出したのだろう。


 その言葉で佳織を混乱させ、場の主導権を握るつもりだったのか。

 匙加減さじかげんを間違えたか、或いは聞かされる方が限界だったのかも。

 単にクロが、自分への憎悪の度合いを理解してなかったセンもある。

 優希の言う通り、起きたことは仕方ないから、次をどうするかだ。

 ふくらみ続けるあせりを無視して、晃は最善の手を探り始めた。

 

「なぁ、どうすんだって、こんな――」

「今、それを考えてんだよ!」


 役立たずの分際で、さかしげに口出ししてくるダイスケを黙らせる。

 しばらく行動を共にしてきたが、コイツに何かを任せるのはあやうい。

 佳織は虚脱状態になっていて、ダイスケ以上にお荷物と化すだろう。

 優希は正気だし体力も大丈夫そうだが、戦闘力は期待できない。

 慶太の安否あんぴについては絶望的で、玲次はどこにいるのやら。


「クッソ、何でもっと……いや、ボケがっ! ったく!」


 イライラがつのり、意味のない悪態あくたいが次々に口をく。

 そして脅威となる霜山とリョウは、どこで何をしているか不明。

 クロを相手の情報収集が、完全な失敗に終わったのが痛い。


「どうするかは二択、だよね」

「は? 二択?」


 優希からの予想外な発言に、晃はつい鸚鵡返おうむがえしをしてしまう。


大雑把おおざっぱに言うと、だけど。私らが選べるのは、慶太さんと玲次くんを助けるか、もう諦めて逃げちゃうか。そのどっちかでしょ?」

「あ……ああ、そうだな。そうなる、のか」


 優希の指摘で、混濁こんだくしていた晃の思考が素早く整頓せいとんされる。

 確かに、自分らの選ぶべき道は元から二つに一つ、なんだ。

 無線の音声が途切れたのと、さっきまでの騒々しさ。

 その合わせ技で、霜山達が異変に気付いた可能性も否めない。

 どちらにせよ、方針を早く決定して動き出さなければ。

 二十秒ほど悩んだ晃は、大きく息を吐いてから答えを出した。

反応の乏しさに苦戦しつつジワジワ更新中です……

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