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友達の友達  作者: 長篠金泥
第5章

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44 ついカッとなってやった

「さて、と……」


 しばらくタメを作った後で、カンッとバットで軽く床を叩く。

 晃の立てた音に反応し、胡坐あぐらをかいたクロの肩がビクンと大きく跳ねた。

 自分らが散々に駆使してきたから、暴力の気配に鋭敏えいびんなんだな。

 晃は不健全な優越感を刺激されつつ、佳織に確認する。


「この馬鹿に色々と訊きつつ、佳織さんにも質問したいんだけど、大丈夫かな」

「……質問、って?」

「あの部屋から俺らが出てった後、何があったかとか」

「あぅ……うん、わかった」


 明らかに大丈夫ではない、強張こわばった表情で頷く佳織。

 だが時間の余裕もないので、晃は察しが悪いフリで話を進める。


「ぶじゅるじゅるるる……ぷじゅるるるぺぁぷ……」


 クロの呼吸が荒くなってきて、水っぽい呼吸音がうるさい。

 己の危機的状況が本格化したと悟って、落ち着きがなくなっている。

 耳障みみざわりな音を撒き散らし、すがるような視線を彷徨さまよわせるクロ。

 しかし、この場にいる誰にもコイツを助ける理由はない。


「じゃあ、佳織さん。あの後のこと、聞かせて」

「あの……後に、は……」


 晃にうながされると、佳織は言葉を詰まらせ、顔色を悪くする。

 思い出したくもないのに、無理に思い出そうとしたせいだろう。

 優希はそんな友人に寄り添い、物憂げな表情を向けていた。

 どんなことが起きたか、大体の想像はつくから言いよどむのもわかる。

 しかし、ここでモタモタしているヒマはない。


「ぁぶっ、ぷぐっ――」


 佳織の意識を内から外に向けようと、クロの左腿ひだりももをバットで殴る晃。

 気を抜くと脳天を殴りそうになるが、それだと情報を引き出せないので我慢する。

 黙っているダイスケを見れば、幼児が見たらギャン泣き確定の凶相きょうそうだ。

 自分も似たような状態になってそうだな、と思いつつ顔の下半分をで回していると、佳織が大きく息を吸って話し始めた。


「ケイタとレイジくんが……どうやったのかわかんないけど、二人でタイミング合わせてさ、シモヤマに飛び掛ろうとしたのね。けど……あのキモいハゲマッチョ」

「リョウ、だね」

「そう、そのリョウってのが、凄いスピードでパッとシモヤマの前に出てきたの。それで、膝から突っ込んでたケイタを空中でキャッチしたら、そのままポイッて。あいつ、プロレスみたいに床に転がされて……」


 佳織のジェスチャーに、思わず溜息を漏らす晃。

 普通なら信じられない滅茶苦茶な動作だが、残念ながら事実だろう。

 リョウの身体能力なら、それくらい平然とカマすに違いない。

 

「そん時に、玲次はどうしてた?」

「レイジくんは、えーっと……ああ、走ってドアの前まで行って、勢いよく開けたんだ。でもシモヤマに、あのビリビリするやつ背中から撃たれちゃって……」


 どんな計画だったのか、晃は想像してみる。

 あの地下室の状況で、綿密めんみつ意思疎通いしそつうは難しい、というか無理だ。

 だからシンプルに、一言二言のやりとりで互いの行動を決めたのだろう。

 目的はたぶん、混乱に乗じて佳織だけでも逃がそうとした、辺りか。

 霜山を捻じ伏せるのに成功すれば、それで逆転できたかもだが……


「そうか……ここまで、合ってるか」


 晃に問われたクロは、即座にコクコクと肯定する。

 話の中に自分が出てこないから、取りつくろう必要もないってことか。

 セコい計算高さが、何とも言えずかんに障る――


「ぷぁぶっ!」


 クロの右のくるぶしあたりを狙い、加減ナシに踏み潰した。

 それで若干の気晴らしをしてから、晃は話を元に戻す。


「で、それからどうなったんだ、佳織さん」

「それから……シモヤマがまたペナルティがどうとか言いだして、それで……それで、こっ、こいつがぁっ!」

「びぎゅぁ――」


 落ち着いていた様子の佳織が急速沸騰し、体重を乗せた前蹴りを放つ。

 左肩を蹴られて転がったクロを、佳織が何度も踏みつけていく。

 クロがもがいて、ガチャガチャと手錠の鎖が鳴った。

 晃は佳織の腕を掴んでクロから引き離し、真顔で制止する。


「落ち着いて、佳織さん! 話が進まなくなる!」

「でっ、でもぉっ!」

「ケイちゃんと玲次の命、かってる……だから冷静に、冷静にいこう」

「あぅ、んんっ……そう、だね……ごめん」

「それで、こいつがどうした?」

「このキモゴミが、あたしの首に腕をギュッて巻きつけて……フッて気が遠くなったと思ったら、いつの間にかさっきの部屋に」


 頚動脈けいどうみゃくを圧迫して気絶させた、ってことだろうか。

 この感じだと、佳織からこれ以上の情報は引き出せそうにない。

 そう判断した晃は、ぶじゅぶじゅと汚い音と血涎ちよだれを垂れ流し、上半身を朱に染めつつあるクロを見下ろす。

 コイツも限界に近いが、とりあえず慶太と玲次の状況を把握しないと――


「おい、お仲間は? 霜山とリョウは、まだ地下にいんのか?」

「……べぅ」


 短くうめいたクロは、首を縦にも横にも振らずに浅くかしげる。

 俺にはわからない、という意味か。

 問い詰めてもらちがあかない気がして、晃は質問を変える。


「じゃあ、慶太と玲次の二人、どうしてる。今もあの部屋か」


 今度は黙ったまま、さっきと同じジェスチャーを返すクロ。

 こいつ、ちゃんと質問に答える気があるのか。

 のらくら適当に応じて、この場をやり過ごすつもりじゃないのか。

 そんな予感にカッとなった晃は、バットを振り下ろし右の肩口を殴りつける。

 グリップに伝わる感触で、自分の一撃が鎖骨を折り砕いたとわかった。

 

「ぼぅ――びじゅるるるぶじゅぶぶぶぅっ!」

「イエスかノーで答えろ、つったろ! で、一緒なのか? ああ!?」

「ずぉぷっ、じゅぱっ――ぶぷっ」


 顔面が赤紫になったクロは、ヘドバンめいた動きで何度も頷く。

 このまま放置すると、何気なく窒息死するかも。

 そう判断した晃は、クロに噛ませたタオルを掴んで雑に引き下ろす。

 手についた生温なまぬるい汁気を払っていると、不意にダイスケが口を挟んでくる。


「つうかよ、その慶太ってヤツ、まだ生きてるのか? 腕を斬られて、そのままだったら普通は――」

「何言ってんだ、ボケェ!」

「んぉふっ」


 失言をカマしたダイスケの腹を、バットで突いて黙らせる。

 何なんだ、さっきから無能ムーブがすぎやしないか、コイツは。

 愕然とする晃が見据えている、派手にせてうずくまるダイスケの先には、「どういうことなの」と無言の圧をかけてくる佳織が。


 どうにか触れずに話を進めようとしてたのに、余計な真似を。

 腹立ち紛れに、蹴りの二、三発もダイスケにぶち込みたくなる。

 衝動を我慢しながら、なるべく深刻にならないように。

 晃は嘘や誤魔化しを混ぜながら、言葉を選んで説明を始めた。


「あー、アレだ。さっき俺らが一回外に出て、病院の玄関前に来た時……コイツが、このボケがな。脅すつもりなのか何なのか、いきなり屋上かどっかから、人の腕を投げてきたんだよ……で、降ってきた腕はまぁ、本物っぽかったんだけど。それがケイちゃんのかどうか、わかんないっていうか……ダイスケの仲間のって可能性ある。あと、あんまよく確かめてないから、もしかするとリアルなオモチャ、だったかも」


 早口な上に言い訳が多いせいか、佳織はいぶかしげな態度を崩さない。

 とにかく、ここで慶太の件は終わらせて、尋問を続けるべきだ。

 そう考えて晃が向き直ると、クロはにごった液体を二度三度と吐き出し、薄ら笑いを浮かべて言う。


「ぷはっひゃ――げっ、ゲイタならもう、じっ、じんでぅ、ぜぇっ」

「あぁ!?」

「じんどぅあ、じんだぁ、レージもなぁ、ばひひっひんぐぁっ――」


 慶太と玲次がもう死んでる、と言ったのか。

 そんな言葉を笑いながら発する相手を黙らせるため、晃は勢いのあるスイングを横っ面に叩き込む。

 クロは白目をいて沈黙したが、起きた波紋はどうにもならない。


「しっ、死んでる? ねぇ今こいつ、ケイタが死んでるって、ちょっとアキラくん、どういうこと!? レイジくんもっ?」

「いやいやいや! 俺にもわかんないから、わかんないって!」


 佳織に詰め寄られた晃は、困惑気味に突き放すしかない。

 助けを求めるように優希とダイスケを見るが、どちらも呆然としている。

 どうしたらいい――二人はもう死んだ、と判断して逃げる?

 それとも、その情報が嘘という前提で探索に向かうべきか?

 でなければ、クロからもっと詳しい話を引き出して決める?


「ちょっと、考える時間が欲しいな……優希、一旦ココ出よう」

「ん……わかった」

「ダイスケ、佳織さんを頼む」

「んぉ、おう」


 どうでもいいから状況をリセットして、考えをまとめたい。

 そう考えた晃は、優希を誘って浴室を出て、少し離れた場所まで歩く。

 廊下に人の気配はない――が、そうそうゆっくりもしていられない。

 頭を冷やすのも兼ねて、しばらく無言で闇の先を見詰め続けた。

 かたわらにいてくれる優希からは、静かな息遣いきづかいだけが聞こえてくる。

 気持ちが少し落ち着いたところで、晃は自信なさげに問う。


「どうする……べき、だと思う?」

「わかんない、けど……クロの話がホントか、確かめた方がいいかも」

「それは、俺も考えてた。あのカス叩き起こして、内容の真偽を――」


『うぉおおおおぃおいおいおいおいっ!』


 二人の小会議は、ダイスケの絶叫ツッコミで吹き飛ばされた。

だいぶ反応が乏しいので「面白い」「気分悪い(いい意味で)」「胸糞悪い(胸糞悪い意味で)」などと思ってくれた方は、評価やブックマークなどをよろしくお願いします……

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