表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友達の友達  作者: 長篠金泥
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/41

41 死体と遊ぶな子供たち

「何してんだよ、おいっ! 早く止めねぇと!」


 取り決めたサインを無視して、ダイスケが言ってきた。

 語気は強いが、声のボリュームを控えめにはしている。

 肩を掴んで揺さぶる手を払い、晃は感情を抑えながら返す。


「わかってる、わかってんだよ……でも、変なタイミングで突っ込んだら、佳織さんが危ない。人質に取られたら、そこで身動き取れなくなる」

「つっても、もう捕まってるじゃねえの」

「ナイフとか突き付けられたら、ってことじゃない?」


 ダイスケからの反論に、優希が補足説明を入れてくる。

 納得できないのか、苛立いらだたしにガリガリ頭をき回す。


「そう、それが問題だ」


 晃の言葉に対しても、ダイスケは微妙な表情だ。

 気持ちはわかる――というか、タイミングとかを考えずに突っ込んでも、90%くらいの確率で奇襲は成功するだろう。

 しかし、佳織の命がかっている状況だ。

 なるべくなら、救出の確率を最大限に高めたい。

 

「だったら、いつ行くんだよ」

「完全に油断しきってる……そう思えた直後に突撃、だな」

「どこで判断すんだ、そんなん」

「生き物が油断するのは、睡眠中、食事中、排泄中……それともう一つ」

「交尾中、だね」


 優希が無感情に呟いて、晃は同意の頷きを返す。

 香ばしい発言をする優希に、ダイスケは若干引いている様子だ。

 クロが本番に及ぶ気配があったら、それがスタートの合図。

 他の二人にそう理解させ、晃は突入からの段取りを決めていく。

 

「最高に面倒なのは、無線で実況してるってことだ。異常が起きたと霜山達に察知されたら、そこからの余裕はあっても五、六分だろう」

「スピード勝負か……でも、結局は何かあったってバレるよね?」

「リョウが、アレが来る前に終わらせる。まずはクロを黙らせて、動きを封じる。それから、こちらの存在を気付かせないように立ち回って、佳織さんを連れて逃げる……可能なら、クロも引っ張ってく」

「速攻でクロを黙らせて、異変がバレないようにしながら、カオリって子を助けて逃げる……無理じゃね?」


 自分で言っておきながら、ダイスケの反応には同感な晃だった。

 それでも、無理でも、無茶でも、やるしかない。

そう宣言しようとするが、その前に優希から小声での提案が。


「ちょっとドタバタするくらいなら、クロの仲間は確認に来ない……と思う。リミットは十秒か、十五秒ぐらいかな。状況を佳織に理解させるのも難しそうだし、とりあえずあの子にも猿轡さるぐつわを」

「お、おぅ……」


 コンビニ袋から、それ用のハンドタオルを取り出す優希。

 手渡されたダイスケは、さっきよりも強めに引いている。

 晃は薄汚れたタオルを渡され、自分がクロの拘束担当だと理解した。

 二本あるのは、口封じ用と手を縛る用だろうか――


「うっ、汗臭いな」

「そっちは使用済みだからなぁ」


 説明してくるダイスケは、何だか緊張感に欠けている。

 コイツに任せるよりは、自分がやる方がマシだろう。

 しかし、体格が同等の相手を行動不能に追い込むのは難しい。

 手にした金属バットの軽さが、やたら頼りなく思えてくる。

 ふくらむ弱気を捻じ伏せ、晃はここからの流れを再確認した。


「まず、ドアを開けたら俺が突っ込んで、クロをぶん殴って行動不能にする。ダイスケは佳織さんの口にタオルを噛ませて、部屋から引きずり出してくれ。優希さんは部屋の外で待機して、佳織さんに状況説明。そっから、俺とダイスケがクロをどうにかする」

「どうにか、って……どうすんだ?」

「高度の柔軟性じゅうなんせいを維持しつつ、臨機応変りんきおうへんに対処してくれ」


 ダイスケはキョトンとするが、優希には伝わったらしく口元がゆるんでいた。

 全部が終わったら、改めて優希と色々な話がしたいな――と考えつつ、晃は処置室のドア前まで忍び足で移動する。

 優希とダイスケも、晃の挙動を真似て静かに、ゆっくり、後に続く。

 妙な熱をび、ねっとり感もマシマシなクロの声が流れてくる。


『クックック……いいぜぇ、超エロみっともなくて最高じゃんよ、今のお前さぁ。彼氏クンにこの絵面、見せてあげられないのが、軽くざーんねーん。ホントよぉ、驚きのインモラルさ? ゲハハハハハハハッ、マジきめぇよ! 信じらんねっ! うはっ、うははははははははっ、マジでありえねぇわ、ソレぇ』

『ぅんぶっ、ぐぅえええぇえぅ……』


 しばらく間を置いて、金属音や「起きろ」「乗れ」といったクロの短い命令が。

 対する佳織は「イヤ」とか「ヤメて」とか、拒否と否定の返事を。

 そうすると苦し気な呻き声や「イタッ」みたいな声が混ざった。

 おそらく佳織は、致命的ではない暴力で動きをコントロールされている。


『ま、録画はしてあるからよ。お前のサイコーにキショい艶姿あですがた、後で彼氏クンにゆっくり見せてやんよ! ネットにも流してぇけど、そういうことすんなって言われてんだよな……とにかくまぁ、俺の相棒もギンギンに死後硬直してきたんで、そろそろ出すモン出させてもらおうか、オイ』

『っや、ぁあああああああ――いいぃっ、いやぁああああっ!』


 クロが本格的に下らない発言を放った直後。

 佳織が本気の拒絶を込めた叫びを響かせる。


 ココだ。


 金属バットを握り直し、晃はダイスケに向けて頷いた。

 頷き返したダイスケは、スライド式ドアの取っ手を掴む。

 そして二拍ほど置いてから、素早く横にすべらせた。

 ドアが開くと同時に、室内からの光で軽く視界が奪われる。

 何かしら光源はあると予想していたが、思った以上に明るい。


 まぶしさに細めた晃の目に、ニヤケたまま固まったクロの顔が映る。

 およそ三メートル、たった数歩の移動で手が届く距離にいた。

 半裸、というかアロハを羽織はおっただけで、たるんだ体がほぼき出し。

 右手にスマホを構え、左手は臨戦態勢の陰茎イチモツを握っている。


「おぁっ――」

「やぁあああああああああああああっ!」


 驚きなのか疑問なのか、何かしらの反応をしようとするクロ。

 その声を、婦人科の手術台のような何かに拘束された佳織が、絶叫で上書きする。

 反射的に佳織を助けたくなる晃だが、予定通りに薄汚い半裸男に駆け寄り、フルスイングすべくバットを引きしぼった。


「ちょっ、おっは」


 何か言おうとするクロの口を狙い、渾身こんしんの一撃を振り抜く。

 骨か歯か、硬いものをシッカリとらえた感触が、グリップを通して晃に伝わる。

 クロの声や打撃音は、たぶん佳織の悲鳴で掻き消されている。

 

「くぁっ、けっぽ……けぉ」

「ひぃあああああああぅがっ!? ――ぅぶぅううっ、ぅうううっ」


 ダメージが浅かったか、よろめきながらも倒れないクロ。

 血涎ちよだれを噴きつつ、意味のない音を発しながら晃を凝視ぎょうしする。

 耳障みみざわりな佳織の叫び声は、途中から呻き声に変化した。

 ダイスケが、タオルで猿轡さるぐつわを噛ませたようだ。

 

 ココでしくじったら、俺たちはまとめておしまい。

 緊張と焦燥しょうそうが震えになって、晃の手足に現れる。

 だが、どうにかそれを捻じ伏せて、晃は二撃目を繰り出す。

 次も大振りだとガードされる――そんな予感が突きを選ばせた。


「てぁっ!」


 黙ってカマすつもりが、気合の声みたいなのが漏れる。

 想定外の動きだったのか、そもそもガードの余裕がなかったのか。

 擦り傷が多数刻まれたヘッドが、クロの下顎したあごぐ吸い込まれた。


「んごっ――」


 ブタみたいな短いわめき声を残し、クロは膝から崩れてうつぶせに倒れる。

 その後ろに、仰向あおむけに転がっているのは、放置されたままのタケ。

 死体の様子と、室内から聞こえた内容とあわせて考えると、どうやら佳織をなぶるための小道具に利用していたようだ。

 やっぱりコイツら、頭がおかしい。

 込み上げてくる吐き気に耐えながら、晃は足元にあるクロの後頭部を全力で踏んで、ちょっと迷ってからもう一発、更に勢いをつけて踏みつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ