表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友達の友達  作者: 長篠金泥
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/41

40 実況生本番中継

 奇襲を成功させるため、なるべく音を立てたくない。

 だから基本的に会話はナシで、意思の疎通そつうは無言で行う。

 近くにいる場合は、肩や背中を軽く叩いたりつついたり。

 トトットトットトッと連続したら『急げ』、二回トントンは『ゆっくり』。

 素早くトントントンは『止まれ』、トンットトットンは『ここを離れる』。


 離れた場所ではライトを使い、点滅させたら『問題なし』。

 グルグル回すのは『逃げろ』、天井に向けて振れば『助けてくれ』。

 他にも色々候補はあったが、ややこしくなるから大半は却下だ。

 そんな感じのサインだけ決めて、晃たち三人は二階へと移動する。


 避難訓練をガチでやったら、多分こんな雰囲気になるんだろうな。

 そんな軽口を言いたくなる晃だが、会話はナシだと気を引き締める。

 クロは油断してるだろうし、見張り役も置いてないだろう。

 だが、万一を警戒してライトは床に向け、受信機の音量も最小だ。

 先頭を歩く晃は、ゆっくりと階段を上がりながら、緊張感を高めていく。


 踊り場に来たところで、後ろを振り向き優希の肩を素早く三回叩いた。

 頷いた優希は、数歩遅れてやってきたダイスケに同じサインを伝える。

 先行する晃はライトを消し、壁にピタリと背中をつけて気配も消す。

 息を殺し、耳を澄まして様子をうかがうのを一分ほど続けたが、暗がりの中で何かが動く気配はなく、聞こえるのは自分の動悸どうきのみ。


「ふぅ、う……」


 落ち着こうと溜息を吐くが、つい声が混ざってしまう。

 ともあれ、一応の安全は保たれていそうだ、と晃は判断。

 踊り場にライトを向けて点滅させ、二人を呼び寄せた。 

 そして、次の行動についての作戦会議を小声で開始する。


「クロの野郎、どこにいると思う?」

「小部屋のどれか、って気はするが……」

「早くしないとマジで、マジもうヤバいかも」


 優希の持った受信機から、佳織のものと思しき声が流れてくる。

 音量を絞っているのに「イヤッ」とか「ヤメテ」と、拒絶の声がハッキリと聞こえてくるのは、必死に叫んでいるからだろう。

 ただ声のトーンは、痛みや苦しみに由来する絶叫とは違うように思える。

 

 しかし、頭のオカシい連中のやることだし、何が起こるかわからない。

 命に別状はなくても、精神や貞操ていそうに重大な危機が発生しているかも。

 取り返しのつかない状況になる前に、一刻も早く救出しなければ。

 佳織の肉声が聞こえないのは、離れた場所にいるせいか、それとも防音性が高い場所にいるのか。

 晃が場所の目星をつけていると、優希が眉根まゆねを寄せて小声で語る。


「ちょっと思ったんだけどさ……目的からして、佳織とクロがいるのは、ベッドのある場所……じゃないかな」

「ああ、そうか。そうなるか」


 優希の言葉はえげつないが、恐らく推測の方向性は正しい。

 あの地下階の部屋で、サクラ――の死体を犯していた時にも、クロは床に毛布のようなものを敷いていた。

 色々なものを踏み越えた、ぶっ壊れた性格なのは間違いない。

 だが、それはそれとして妙に常識をわきまえた行動をとる。

 そういうしょうもなさが、クロという男にはあるはず。


 クロと対峙する際の危険性を、晃は検討する。

 体格的には、自分とダイスケの二人がかりで負ける気はしない。

 拳銃でもあれば話は変わるが、もしそんなモンを持っていたら、嬉々として見せびらかすだろう。

 奇襲で行動不能にさせたとして、そこからどう展開するべきか。

 晃が頭を悩ませていると、ダイスケが訊いてくる。


「ベッドがありそうなの、どこらへんだ?」

「さっき見回った時に、休憩室とか患者用の個室にはあったな。談話室っぽいトコにはソファがあって、それから……処置室にも、あった」

「処置室、って」

「……タケを見つけた場所、だな」


 晃が優希に答えると、ダイスケから歯軋はぎしりの音が鳴った。

 おそらく、友人がなぶり殺される光景を思い浮かべているのだろう。

 さっきの話からして、ダイスケの目の前でタケは殺害されている。

 もしかすると、脅されて殺す手伝いをさせられた可能性もあるな――

 不快な想像で暗澹あんたんたる気分になる晃だが、意識が『あいつらのやりそうなこと』へと向いたからか、クロがいそうな場所がひらめいた。


「いるのは処置室だ、たぶん」

「だけど、あそこには――」


 死体がある。

 きっとまだ、タケの死体が残されている。


「だからこそ、だよ。すぐそばに死体が転がってる、血とか小便とかのニオイがプンプンな場所で、怯え切った女を襲う……あのイカレくさった野郎なら、それ狙うだろ」

「ああ、うん……そうかも」


 晃がボソボソと告げる予想を、優希は嫌々ながら肯定。

 ダイスケはもっと不愉快になったようで、何も言わずに項垂うなだれた。

 受信機からの声が途切れているが、何かしらの音は聞こえる。

 水っぽい音だったり、せたり嘔吐えづいたりの音。

 これはもうマズい状況になっている――そう判断した晃は、ボリュームを少し上げるよう優希に指示し、処置室に向かって走り出す。


『ヴェホッ、エホッ! ――やっ、無理っ! そんなのっ、できないってば! ムリムリムリムるぁうっ!』


 発信源に近付いたからか、スピーカーからの佳織の声がクリアだ。

 ビンタらしき音に続いて、クロのねばついた声も聞こえてくる。


『できないとか無理とかじゃねぇよ。そんなんどうでもいいから、やれ。やれって言ってんだよ、オォウ?』

『いたた、イタッ、痛いって! いやっ、やめっ、やめて下さいっ! ごめんなさい、ホントに、ホントにこれはっ――もうやだぁあ! ごめっ、ごめんなさい! ホント、ホント無理なんですっ!』

『そういうのいいから、やれって。なぁ、日本語わかんねぇのか? それとも聴こえないフリかぁ? はーやーくーしーろーよ、って言ってんだ、るぉっ!』

『ぅふ、あゎうっ!』


 佳織の激しい拒絶とクロの無理強むりじいが、交互に流れてきた。

 スピーカー越しにも、佳織の恐怖と嫌悪が神経を逆撫さかなでする。

 ついでに、クロの愉悦ゆえつと興奮もウンザリするほど伝わってくる。

 それにしても、だいぶ暴力を振るわれ危機的状況にあるだろう佳織の、ヒステリックな拒絶ぶりがに落ちない。

 クロは一体、どんなことを強要しているのか。

 

『ごめんなさい、こんな――こんなの、無理です! あぁあああぁあっ、うぇ、ゆっ――ゆるして、下さい。おベっ、おぉでがいじばずぅううううううぁうぁ』

『泣いても、だー、めっ。いいから、やれって、ホラ』

『でっ、でぼぉおおおっ! ごんな、ごんなん無理ぃいいいっ!』

『うるせぇんだよ、ボケがっ! グダグダ言わねえで、やれや。あんまワガママ言ってるとなぁ……愛しのケータくん、トドメ刺しちゃうよん』


 泣きが入るというか、駄々(だだ)っ子みたく喚いている佳織。

 そんな佳織に対して、クロは浮かれた調子で命令を続けている。

 処置室まで十歩ほどの距離に接近すると、受信機と部屋から同じ音が。

 予想の的中した晃だが、状況が状況だけに嬉しくも何ともない。


『う……ぅうぶっ、くっ――んっ、ヴォオエッ! うぅ……』

『おいおーい、そういう失礼な態度、よくないよぉ。もっとちゃーんとな、真心をこめてナメナメすんだよ、死者の冥福めいふくを祈ってなぁ! グハハハハハハッ!』


 心の底から楽し気な笑いが、ステレオ音声で流れてきた。

 何が起きてるかはおおむね予想できた晃だが、考えても胸糞悪くなるばかり。

 今すぐにでも突撃しかねない、鼻息が荒いダイスケの肩を「トンットトットン」と突いて、処置室から少し離れさせる。

 そしてジャスチャーで、受信機のスイッチを切るよう優希に伝えた。

 

あせるな、焦るな……まだだ」

『ふぐっ、ひっ、ひひっ――オブェッ、ゥゴロロロロロロロロッ』


 自分に言い聞かせるような晃のささやきは、佳織の吐瀉ゲロ音で掻き消される――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ