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友達の友達  作者: 長篠金泥
第4章

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38/41

38 死亡フラグを叩き折っていくスタイル

「反撃っつうと……車で病院に突撃するとか、そういうアレか」

「えっ!? 何だっけ、あの……エンジン直結とか? できるの?」


 晃と優希は、少なからぬ期待を込めてダイスケに問う。

 しかし、戻ってきたのはにがり切ったシケ面での否定だった。

 ダイスケは割れた穴から手を入れ、助手席のロックを外してドアを開ける。

 ガラスの破片が地面に落ち、驟雨にわかあめに似た音が短く響く。


「だったら、何でいきなり窓割ったの?」

「まぁまぁ。ここにはな、あるんだよ」

「……何が?」

「色々とあんだって、色々とよ」


 優希に少しフザケた口調で返しつつ、ダイスケは車内にもぐり込む。

 もしかするとコイツ、素の性格はだいぶチャラいのかもしれない。

 単に適当なだけな可能性もあるが――などと晃が考えていると、リアハッチのロックが解除された。


「ん、開けていいのか」

「おう」


 車の背部に回った晃は、ノブを掴んでドアを押し上げる。

 ミニライトでラゲッジスペースを照らせば、金属製の工具箱やBBQセットなど、雑多な品々が積まれているのが見えた。

 そんな中に、かなりの勢いで悪目立ちしているものが。


「おっ、コレは……」

「どうよ? るだろ、こういうの」


 観光地で売られる安物とは一味違う、重量感のある古い木刀。

 長さ一メートルくらいの、黒一色に塗られたバールのようなもの。

 バッターボックスで振られたことがなさそうな、銀色の金属バット。

 そういった諸々が、プラスチック製のカゴに突っ込まれている。

 これらは確実に武器になる――だろうが、どうしてこんなのが。

 状態をチェックする晃に、車を降りてきたダイスケが言う。


「廃墟探検で一番危ねぇのは、幽霊じゃなくてヤンキーだろ? だから護身用にこういうの、持ってきてたんだわ」

「車に置きっぱじゃ、意味ねぇだろ」

「翔騎の奴がよぉ……サクラに、ビビッてないアピール、したがって」

「あー……」


 気持ちはわかるが、何ともやりきれない。

 アホさ加減では自分らも似たり寄ったりだが、死に際に翔騎が感じていた絶望感は、さぞ深かったことだろう。

 晃はその心情を想像しつつ、バットを握って言う。


「こいつで反撃、か」

「ああ……終わってねぇよ、まだ」

「ちょっ――何でっ! 何でそういう話になるのっ!? 違うでしょ、ねぇ!? 逃げないとダメじゃん! 逃げようよ!」


 晃とダイスケが武器の選定に入ると、優希があわてた調子で言いつのる。

 当然の意見だ、とは思う。

 妥当だとうな判断だ、とも思う。

 だが晃としては、どうしても優希に同意できない。

 何故ならば――


「逃げたら……ケイちゃんも、玲次も、佳織さんも、みんな死ぬ」

「そっ、それ――」


『それ位わかってる』

『それでも逃げよう』

『それを私に言うの』


 たぶん、この三択のどれかを言いかけたのだろう。

 でも優希は、ギリギリで「それ」の先を飲み込んだ。

 無理を重ねた優希の精神がパンク寸前なのは、晃にも伝わっていた。

 しかし今は、彼女のメンタルケア以上の一大事が優先される。


「優希は、このまま逃げて。でなけりゃ……どっかに隠れるとかで」

「えっ? 逃げて、って言われても……それに隠れるって、どこに……?」


 当然の不安を述べる優希だが、説明している余裕がない。

 なので晃は強引に状況を進めることにし、カゴや工具箱を漁って殺傷力のありそうな品をチョイスしていく。

 晃がメイン武器に選んだのは、軽さと頑丈さを兼ねた金属バット。

 その他に大型ドライバーを数本と、重たいモンキーレンチを予備として。

 後部座席にあった持ち主不明のボディバッグに、ドライバーやレンチを詰め込んだ。

 

 ダイスケはバールを手に、横殴りスタイルで素振りをしている。

 他には工具箱からカッターや五寸釘、BBQ用品からガス缶使用のトーチバーナーなどを抜き出し、迷いのない殺意をみなぎらせている感じだ。

 一通りの支度を終えた晃は、誰かが残した未開封のコーヒーを勝手に飲みながら、小ぶりのリュックに凶器を詰めているダイスケに訊く。


「それで、勝算っていうか成算っていうか……そのへんはどうよ」

「ある。あいつら完全に、こっちゃあバックレたと思ってんだろ? だから、ぜってぇ油断してるって。ココから逆襲されるとか、マジ思ってない」

「……かもしれんけど、もしバリバリ警戒してたら」

「だったらオレら、もっと重傷だって。オレもアンタもアチコチ怪我してっけど、普通に歩けてるし。ナメてんだよ、あいつら」


 ダイスケの言葉は、晃にも納得いくものだった。

 確かに、コチラの反撃を想定するなら、逃がす前にもっと色々やったハズ。

 意味もなく慶太の腕を斬り落とすような、頭のおかしい連中だ。

 必要以上の、拷問めいた攻撃を受けていても不思議じゃない。


「やるしかないな」

「ああ。ここで諦めたら、オレは……」


 ダイスケがにごした言葉の先は、何だろうかと想像する。

 この後に続くのは「自分を許せない」だろうか。

 或いは「あいつらを殺せない」かも知れない。

 晃がダイスケの立場でも、戻って復讐するのを選ぶだろう。


 霜山たちは、いずれ逮捕されて法で裁かれるだろう。

 だが、そんな結末で仲間の殺害を許せるワケがない。

 晃はまだ仲間を殺されてないが、慶太は回復不能の重傷を負っている。

 その落とし前として、連中にもそれ以上のむくいを受けてもらわねば。

 車内からペットの水や菓子を回収しつつ、はやる気持ちを落ち着かせる晃。


「じゃあ、そろそろ」

「そうだな」

「……あの……やっぱり、私も……行く」


 準備を整えた晃とダイスケに、散々に躊躇ためらった様子の優希が、一文節ずつを区切りながら言う。

 晃はダイスケと顔を見合わせ、思い止まらせるセリフを用意しようとする。

 だが、それが音声化される前に優希は重ねて主張してきた。


「だってさぁ、今の私の状況って……これ、絶対死ぬやつじゃん。一人で別行動とか、一人だけ違う意見とか、完全にそうなるダメなやつじゃん!」

「いやいや、現実とホラー映画あるあるがゴッチャになってる!」

「でもこのシチュエーション、現実よりも映画とかマンガとか、そっちの方が全然近いし! だからこのままだと私、きっと死んじゃうからっ!」


 優希の言い分は、非論理的のきわみに到達している。

 だが、晃には何となく反論しきれないものがあった。

 そんな馬鹿なことあるワケない、と頭ではわかっている。

 連れていく危険と残していく不安、天秤てんびんに掛ければ危険の方が大きい。

 でも、優希を単独行動させて、もし何かあったなら――


「わかった……けど、ヤバいと感じたら全力で逃げて」

「あんたが怪我して動けなくなっても、あいつらに捕まって人質に取られても、オレはシカトするかんな」


 晃とダイスケの突き放し気味な承認に、優希は硬い表情で頷いた。

 そして一行は、日常と地続きな凶器を手に、非日常への道を逆戻りする。

 やけに足取りが軽いのは、高揚感が原因なのか恐怖で麻痺まひしてるだけか。

 判別できない晃だったが、とりあえず深く考えるのをやめた。

今回で4章は終了となります……次回から主人公たちの反撃開始です。

キリのいいところで、評価やブックマークをよろしくお願いします……

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