38 死亡フラグを叩き折っていくスタイル
「反撃っつうと……車で病院に突撃するとか、そういうアレか」
「えっ!? 何だっけ、あの……エンジン直結とか? できるの?」
晃と優希は、少なからぬ期待を込めてダイスケに問う。
しかし、戻ってきたのは苦り切ったシケ面での否定だった。
ダイスケは割れた穴から手を入れ、助手席のロックを外してドアを開ける。
ガラスの破片が地面に落ち、驟雨に似た音が短く響く。
「だったら、何でいきなり窓割ったの?」
「まぁまぁ。ここにはな、あるんだよ」
「……何が?」
「色々とあんだって、色々とよ」
優希に少しフザケた口調で返しつつ、ダイスケは車内に潜り込む。
もしかするとコイツ、素の性格はだいぶチャラいのかもしれない。
単に適当なだけな可能性もあるが――などと晃が考えていると、リアハッチのロックが解除された。
「ん、開けていいのか」
「おう」
車の背部に回った晃は、ノブを掴んでドアを押し上げる。
ミニライトでラゲッジスペースを照らせば、金属製の工具箱やBBQセットなど、雑多な品々が積まれているのが見えた。
そんな中に、かなりの勢いで悪目立ちしているものが。
「おっ、コレは……」
「どうよ? 要るだろ、こういうの」
観光地で売られる安物とは一味違う、重量感のある古い木刀。
長さ一メートルくらいの、黒一色に塗られたバールのようなもの。
バッターボックスで振られたことがなさそうな、銀色の金属バット。
そういった諸々が、プラスチック製のカゴに突っ込まれている。
これらは確実に武器になる――だろうが、どうしてこんなのが。
状態をチェックする晃に、車を降りてきたダイスケが言う。
「廃墟探検で一番危ねぇのは、幽霊じゃなくてヤンキーだろ? だから護身用にこういうの、持ってきてたんだわ」
「車に置きっぱじゃ、意味ねぇだろ」
「翔騎の奴がよぉ……サクラに、ビビッてないアピール、したがって」
「あー……」
気持ちはわかるが、何ともやりきれない。
アホさ加減では自分らも似たり寄ったりだが、死に際に翔騎が感じていた絶望感は、さぞ深かったことだろう。
晃はその心情を想像しつつ、バットを握って言う。
「こいつで反撃、か」
「ああ……終わってねぇよ、まだ」
「ちょっ――何でっ! 何でそういう話になるのっ!? 違うでしょ、ねぇ!? 逃げないとダメじゃん! 逃げようよ!」
晃とダイスケが武器の選定に入ると、優希が慌てた調子で言い募る。
当然の意見だ、とは思う。
妥当な判断だ、とも思う。
だが晃としては、どうしても優希に同意できない。
何故ならば――
「逃げたら……ケイちゃんも、玲次も、佳織さんも、みんな死ぬ」
「そっ、それ――」
『それ位わかってる』
『それでも逃げよう』
『それを私に言うの』
たぶん、この三択のどれかを言いかけたのだろう。
でも優希は、ギリギリで「それ」の先を飲み込んだ。
無理を重ねた優希の精神がパンク寸前なのは、晃にも伝わっていた。
しかし今は、彼女のメンタルケア以上の一大事が優先される。
「優希は、このまま逃げて。でなけりゃ……どっかに隠れるとかで」
「えっ? 逃げて、って言われても……それに隠れるって、どこに……?」
当然の不安を述べる優希だが、説明している余裕がない。
なので晃は強引に状況を進めることにし、カゴや工具箱を漁って殺傷力のありそうな品をチョイスしていく。
晃がメイン武器に選んだのは、軽さと頑丈さを兼ねた金属バット。
その他に大型ドライバーを数本と、重たいモンキーレンチを予備として。
後部座席にあった持ち主不明のボディバッグに、ドライバーやレンチを詰め込んだ。
ダイスケはバールを手に、横殴りスタイルで素振りをしている。
他には工具箱からカッターや五寸釘、BBQ用品からガス缶使用のトーチバーナーなどを抜き出し、迷いのない殺意を漲らせている感じだ。
一通りの支度を終えた晃は、誰かが残した未開封のコーヒーを勝手に飲みながら、小ぶりのリュックに凶器を詰めているダイスケに訊く。
「それで、勝算っていうか成算っていうか……そのへんはどうよ」
「ある。あいつら完全に、こっちゃあバックレたと思ってんだろ? だから、ぜってぇ油断してるって。ココから逆襲されるとか、マジ思ってない」
「……かもしれんけど、もしバリバリ警戒してたら」
「だったらオレら、もっと重傷だって。オレもアンタもアチコチ怪我してっけど、普通に歩けてるし。ナメてんだよ、あいつら」
ダイスケの言葉は、晃にも納得いくものだった。
確かに、コチラの反撃を想定するなら、逃がす前にもっと色々やったハズ。
意味もなく慶太の腕を斬り落とすような、頭のおかしい連中だ。
必要以上の、拷問めいた攻撃を受けていても不思議じゃない。
「やるしかないな」
「ああ。ここで諦めたら、オレは……」
ダイスケが濁した言葉の先は、何だろうかと想像する。
この後に続くのは「自分を許せない」だろうか。
或いは「あいつらを殺せない」かも知れない。
晃がダイスケの立場でも、戻って復讐するのを選ぶだろう。
霜山たちは、いずれ逮捕されて法で裁かれるだろう。
だが、そんな結末で仲間の殺害を許せるワケがない。
晃はまだ仲間を殺されてないが、慶太は回復不能の重傷を負っている。
その落とし前として、連中にもそれ以上の報いを受けてもらわねば。
車内からペットの水や菓子を回収しつつ、逸る気持ちを落ち着かせる晃。
「じゃあ、そろそろ」
「そうだな」
「……あの……やっぱり、私も……行く」
準備を整えた晃とダイスケに、散々に躊躇った様子の優希が、一文節ずつを区切りながら言う。
晃はダイスケと顔を見合わせ、思い止まらせるセリフを用意しようとする。
だが、それが音声化される前に優希は重ねて主張してきた。
「だってさぁ、今の私の状況って……これ、絶対死ぬやつじゃん。一人で別行動とか、一人だけ違う意見とか、完全にそうなるダメなやつじゃん!」
「いやいや、現実とホラー映画あるあるがゴッチャになってる!」
「でもこのシチュエーション、現実よりも映画とかマンガとか、そっちの方が全然近いし! だからこのままだと私、きっと死んじゃうからっ!」
優希の言い分は、非論理的の極みに到達している。
だが、晃には何となく反論しきれないものがあった。
そんな馬鹿なことあるワケない、と頭ではわかっている。
連れていく危険と残していく不安、天秤に掛ければ危険の方が大きい。
でも、優希を単独行動させて、もし何かあったなら――
「わかった……けど、ヤバいと感じたら全力で逃げて」
「あんたが怪我して動けなくなっても、あいつらに捕まって人質に取られても、オレはシカトするかんな」
晃とダイスケの突き放し気味な承認に、優希は硬い表情で頷いた。
そして一行は、日常と地続きな凶器を手に、非日常への道を逆戻りする。
やけに足取りが軽いのは、高揚感が原因なのか恐怖で麻痺してるだけか。
判別できない晃だったが、とりあえず深く考えるのをやめた。
今回で4章は終了となります……次回から主人公たちの反撃開始です。
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